最終更新日:2024.01.24
再開発組合と立退料の合意をしてしまったら、もう増額はできないのか
駅前などの都市部で、大規模な区画整理やビルの建設によって効率的な土地の活用を図る「市街地再開発」。
再開発によって今の住居やお店を退去する人に対しては、再開発プロジェクトを進める「再開発組合」から「立退料(たちのきりょう)」が提示されます。
最初に提示された金額を見て「そんなものか……」とサインしてしまったものの、実際に移転先を探してみるとそのお金では買えない・借りられないことが分かり「増額してほしい!」と思う方もいるかもしれません。
しかし、いったん合意してしまった立退料を増額するということは果たして可能なのでしょうか?
今回は、再開発の立退料増額が可能かどうかをケースごとに検証し、納得のいく立退料を受け取るための方法を解説します。
目次
都市再開発における「立退料」とは
再開発対象となった住宅や店舗などの持ち主は、再開発後のビルなどに入居する「権利変換」または他の場所へ引っ越したり移転したりする「地区外転出」のいずれかを選ぶ必要があります。
ここで後者の「地区外転出」を選んだ場合、引っ越しや移転にかかる費用、営業停止中の売上減、常連客を失うことによる収益減の可能性など、予想される損失に対して金銭の補償を受けることができます。
このお金を、一般的に「立退料(たちのきりょう)」と呼びます。
立退料には決まった金額があるわけではなく、状況に合わせて妥当と思われる額を再開発組合側が提示したり、権利者(住民や店舗オーナーなど)が要求したりして、交渉により最終決定します。
算定にあたって考慮する要素は数多く、以下のようなものが挙げられます。
- 所有権や賃借権の対価としての補償(対価補償金)
- 営んでいる事業の明け渡しによって減少した収益の補償
- 営んでいる事業が明け渡しにより休廃業することの補償
- 明け渡しや移転の際に生じる移転費用
- 仮住居や仮営業所のための費用
- 移転先と移転前の賃料の差額
- 借地権や借家権の価格
しかし実際に最初に再開発組合側が提示してくる金額は、必ずしも上記をきちんと反映しているとはいえず、本来受け取るべき金額よりもはるかに低額なケースも多々あります。
よくわからず合意してしまった!あとから増額は可能?
「自宅やお店が再開発対象エリアになる」というのは、多くの人にとっては人生で一度あるかないかの経験といえます。
対して再開発組合側の交渉担当者は、多くの場合、これまでに大規模な再開発事業を多数手がけてきた事業者(ディベロッパー)の社員です。
数多い住民や店舗オーナーと立退料の金額を交渉するにあたり、少しでも組合側や自社に利益が残るよう、巧みに少ない金額でおさめようとしてきますので、こちら側に知識や経験がない状態で対応すると、「そんなものかな」とよくわからないまま合意し、サインしてしまうかもしれません。
しかしここで契約書にサインをしてしまうと、あとから立退料の増額を求めるのは残念ながらきわめて難しいものになります。
ただし、このようなケースなら増額が見込める!
いったん合意してサインした立退料の金額をくつがえすことはほぼ不可能ですが、以下のような場合は交渉により増額は十分見込めますので、あきらめる必要はありません。
口約束だけで立退料の金額に合意した
立退料の金額を不服として再開発組合に申し出た場合、組合側が増額を拒否すれば裁判で争うことになります。
しかし合意が書面として残っていれば裁判において非常に有力な証拠として扱われるため、ほぼ勝ち目はないと考えたほうが良いでしょう。
逆に、書面が残っておらず、口約束であった場合、裁判で再開発組合が合意の事実を証明することは難しくなります。
口頭で約束をしてしまったとはいえ、書面にサインしていなければ、交渉次第で増額できる可能性は十分にあります。
「30日で決めないといけない」と合意を迫られている
再開発にともなう立ち退きでは、たしかに都市再開発法118条に基づき、事業計画の決定の広告から30日以内に、権利変換か地区外転出を選ばなくてはなりません。
しかし、ここで決めないといけないのは、権利変換か地区外転出のどちらを選ぶかということだけです。
立退料の金額は、この決定の後に地区外転出を選んだ人たちと再開発組合の間で交渉が始まり、その交渉期間は長ければ10年近くにも及ぶことがありますので、急いで金額に合意する必要はありません。
▼再開発の交渉にかかる時間については、こちらでも詳しく解説しています
再開発の立ち退き交渉にはどのくらいの期間がかかるのか
「再開発なので増額は無理」と言われている
提示された立退料の額が少なすぎると感じ、組合や自治体の担当者にそれを伝えたものの「再開発は公共の目的のために行われますので、勝手に金額を増やすことはできません」と言われた人もいるかもしれません。
しかし、本来そのようなことはなく、立ち退きに伴う損失に見合うだけの額はきちんと受け取れるというのが正しいのです。
一般的な建て替え工事による立ち退き(任意の立ち退き)では、今にも倒壊のおそれがあるといった事情をのぞき、賃借人(住人や店舗オーナー)を強制的に追い出すことはできません。
対して都市再開発法に基づく立ち退きでは、その土地の高度利用によって地域に利益をもたらすという目的がありますので、賃借人は立ち退きを拒否することはできません。
ただ、それは「必ず立ち退かなくてはいけない」というだけで、立退料の額が少ない理由にはならないので、しっかりと根拠を伝えて交渉していけば増額は十分に可能です。
▼居座りができない理由について、詳しくはこちらの記事もご覧下さい
再開発組合からの立退き請求に応じないとどうなるか
再開発の対象になったら、ぜひ弁護士に相談を
立退料は、残念ながらひとたび書面にサインしてしまうと後からの増額は非常に難しくなります。
しかしその前であれば、どの段階でも大幅に立退料の金額をアップさせる可能性が残されています。
とはいえ、都市再開発の事業スキームは複雑で、立退料の交渉にはさまざまな法律や過去の判例などの知識を駆使することが求められます。
毎日の仕事や、引っ越し・移転先探しなどで忙しい中、それらの法律について調べ交渉を有利に進めていくのは非常にハードルの高い作業かもしれません。
そのような場合は、ぜひ法律の専門家である弁護士にご相談下さい。
どんな要素を考慮して立退料の適正額を求めればいいのか、いつまでに何をしなければならないのかといったアドバイスに加え、民間のコンサルタント等には不可能な再開発組合との直接交渉も、弁護士であれば可能です。
再開発については弁護士業務の中でも特に専門性が高く、取り扱った経験のある弁護士は限られている分野のため、再開発について注力している弁護士にご相談されることをお勧めします。
リード法律事務所では、再開発についてのさまざまな疑問について、経験豊富な弁護士が無料で相談を受け付けています。お気軽にご連絡ください。