解決事例 CASE

不正開示罪

営業秘密である製法を無断で他社に伝える行為について、不正競争防止法における不正開示罪の刑事告訴が受理された案件

事件の概要
サプリメント等の製造販売などを行っているB社の代表であるAは、B社より委託を受け、B社の販売代理業務を行っていたCに対し、Aが考案した未発売新商品の製法を伝えた。

数日後、A考案の製法を用いた商品を、同業者であるD社が販売している事実が発覚した。
Aが新商品の製法を伝えたのは、Cを除けば、秘密保持契約を締結しているE社だけだった。E社が秘密保持契約に違反することは考えにくかったこともあり、同製法をD社へ伝えたのは、C以外には考えられない状況だった。

そこで、Aは、Cに対してなんとか法的責任を追及できないかと考え、当職に相談するに至った。
解決結果
Cが、営業秘密であるA考案の製法を無断でD社に伝える行為が、不正競争防止法における不正開示罪に該当し得るとして、同罪による告訴が受理された。
ポイント
Aが相談に来た時点では、Cの行為がいかなる犯罪に該当するのか不明な状態であった。そのため、Aから詳細な事実関係をヒアリングしたうえで、本件が不正競争防止法における不正開示罪に該当し得るものであると考え、同罪で告訴することを決めた。

以下、事実関係の詳細である。

・Aは、Cに対して全幅の信頼を寄せており、取引先とトラブルが発生した際には、真っ先にCに相談していた。
・B社とCの関係は、雇用契約ではなく業務委託契約に準ずるものであったが、契約書は作成しておらず、また、秘密保持契約も締結していなかった。
・Aは、Cに対して口頭で製法を説明しており、製法を記載した書面や同製法にかかるデータが保存された記録媒体は存在しない。
・Cは、D社から、同社の製造・販売する商品を取り扱う権限を与えられている証拠は存在したが、CがD社に対して製法を伝えたという直接的な証拠はなかった。

本件では、A考案の製法が記載・保存された書面や記録媒体が存在しなかったため、同製法が不正競争防止法における「営業秘密」に該当するかどうかが問題となった。
この点については、裁判例や経済産業省の逐条解説等を参照することによって、同製法が「営業秘密」に該当することを主張できた。

また、CはB社の役員や従業者(従業員)ではないため、不正開示罪における「役員に準ずる者」として、同罪の主体になり得るのかも問題となった。
この点についても、CのB社における立場を詳細に説明することで、本罪の主体となることを証明した。

さらに、CがD社に対して同製法を開示した直接的な証拠がなかった点については、CとD社の繋がりを立証することによって、不正開示の事実も証明することができた。


【当事務所において検討した事項「本件において何罪が成立するのか」】

1.窃盗罪・横領罪の成否
まず、同製法が記載・保存された書面や、同製法にかかるデータが保存された記録媒体は存在しないことから、有体物が客体となる窃盗罪や横領罪は成立しないと考えた。

2.背任罪の成否
次に、Cは、単にAから同製法について聞かされていたに過ぎず、同製法を用いた商品の製造などを委託されていたわけではないから、背任罪の主体である「他人の事務を処理する者」には該当しない可能性があり、背任罪も成立しないと考えた。

3.不正競争防止法の成否
(1)A考案の製法が、不正競争防止法における「営業秘密」に該当するか
・「営業秘密」といえるためには、その情報が客観的に秘密のものとして管理されている「秘密管理性」があることが必要となる。
・本件では、A考案の製法を記載した書面や同製法にかかるデータを保存した記録媒体が存在しないため、
「秘密管理性」の要件を満たすか問題となった。
・裁判例や経済産業省が掲載している逐条解説によると、情報にアクセスした者が、当該情報が営業秘密であることを認識できるようなものであれば、「秘密管理性」の要件を満たすとのことだった。
・本件における、A考案の製法は、新製品を製造するための基礎となる極めて重要な情報である。Aの販売代理業務を日常的に行っていたCは、同製法が、B社にとって秘匿性の高い秘密情報であると容易に認識することができたといえる。つまり、本件におけるA考案の製法は、「秘密管理性」の要件を満たす「営業秘密」に該当するものであるといえる。

(2)不正競争防止法における不正領得罪に該当するか
・Cは、Aより同製法を口頭で聞かされており、同製法を「不正に領得」したものではないため、不正競争防止法における不正領得罪には該当しないと考えた。

(3)不正競争防止法における不正開示罪に該当するか
(ア)Cは不正開示罪の主体となるか
・本件のように、「営業秘密の保有者より開示された営業秘密を第三者に不正に開示した」「営業秘密が記載・保存された書面や記録媒体が存在しない」事案において、不正開示罪の主体となり得るのは、「営業秘密を営業秘密保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者)又は従業者」である。
・CとB社の関係は、雇用契約ではなく業務委託契約に準ずるものであったが、契約書は作成しておらず、また、秘密保持契約も締結していなかったことから、不正開示罪の主体となり得る「役員」もしくは「従業者」には該当しないと考えられる。
・この点、経済産業省が掲載している逐条解説によると、不正開示罪の主体となり得る「役員に準ずる者」とは、「事業者の業務執行権限を持つ者に対して影響をもたらし得る、当該事業者の顧問や相談役などの地位にある者」を指す。
・本件において、CはB社の役員や従業員ではないものの、B社の取引先との間でトラブルが発生した際には、Aより直接相談を受け、その解決策を提案するなどしていたことから、「B社の業務執行権限を持つAに対して影響をもたらし得る役員に準ずる者」と考えられる。
・したがって、不正開示罪の主体となり得る「役員に準ずる者」といえる。
(イ)CがD社に同製法を不正に開示したといえるか
・本件においては、CがD社に対してA考案の製法を不正に開示したことを証明する客観的な証拠は存在しなかった。
・しかし、D社がCに対して、同社の製造・販売する商品を取り扱う権限を与える旨を記載した書面は存在した。
・上記書面の存在から、D社とCの繋がりが証明できるうえ、D社が偶然同じ製法を用いた製品を製造販売しているとは極めて考え難いことから、CがD社に同製法を不正に開示した可能性が極めて高いと推測できる。

4.結論
以上の事実を説得的に警察に対して主張することで、Cの行為が不正競争防止法における不正開示罪に該当し得るとして、同罪による告訴が受理された。

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