最終更新日:2024.02.08
再開発の立ち退き対象になったら?相談のベストタイミング5つと注意点
「駅前の商店街の再開発が決まり、うちの店も対象になってしまった」
「お宅は再開発エリアですと言われた。自宅を明け渡さないといけないのか?」
と困っている皆様へ。
再開発で立ち退き対象となってしまったら、通常の立ち退きとは違い居座ることは不可能。明け渡し期日まで退去しないと不利な条件で強制的に追い出されてしまいます。
不利益をこうむらないよう交渉を進め、十分な立退料を手にするには、やはり弁護士に相談するのがおすすめですが、実はそのタイミングも重要です。
早すぎたり遅すぎたりすると無駄な労力を費やしたり、不利な条件で出ていかざるを得なくなってしまったりします。
そこで、再開発手続きで立ち退き側がおさえておくべき主なターニングポイントや弁護士に相談すべきタイミングと、あわせて知っておきたい注意点をご紹介します。
目次
知っておきたい再開発手続のターニングポイント
まずは、以下に都市再開発法に基づく「第一種市街地再開発事業再開発」の流れからみた、立ち退きを迫られる側が知っておきたいターニングポイントを5つ示します。各段階で取るべき行動をそれぞれ確認してみて下さい。
(関連)第一種市街地再開発事業とは何か
ターニングポイント①:組合設立の認可時
再開発にあたっては、通常は関係者による「再開発組合」が設立されます。
はじめは「準備組合」として活動をすすめ、対象区域内の権利者の3分の2以上の同意等が集まれば都道府県知事へ再開発組合設立の認可申請を行い、認可を受ければ正式に組合設立となります。
準備組合の段階では再開発が確定していないため、気が焦るとは思いますが、まだ交渉のタイミングではありません。
まずは「自分の対象となっているエリアの組合は正式に再開発組合として認可に至っているか」を確認する必要があるでしょう。
ターニングポイント②:組合認可からの30日間
いよいよ組合が設立されれば、その日から30日以内に、エリア内で不動産の権利を持つ人たちは次のいずれかを決定しなくてはなりません。
- 再開発で新しくできる建物の権利の取得を希望する
- 転出を希望する
このような重要な決断をたった30日で…というのはあまりに短いと思われるのではないでしょうか。
しかし、もしこの期間中に判断がつかなくても対応する方法はあります。
組合の担当者が強く意思決定を促してくることが多いのもこの期間ですが、上記は極めて重要な判断ですので、勢いに気圧されて流されることなく冷静に判断したいところです。
この段階で判断ができない場合には、すぐ私たちのような弁護士にご相談下さい。転出のメリットデメリット、判断のポイントなど丁寧にご説明します。
建物の権利の取得を希望するか、それとも転出するかについては、弁護士と一緒に決めた方が今後の交渉もしやすく、十分な立退料を得られる可能性が高まります。
また組合と対象者との交渉状況により縦覧手続きが遅れたりする場合も多いのですが、その場合も新たに転出の申出ができるようにお手伝いします。
以上のように、「組合設立の認可から30日間」というのは、弁護士に相談すべき一番のベストタイミングといえるでしょう。
ターニングポイント③:権利変換計画の縦覧
つづいて組合は権利変換計画の原案を作成し、縦覧に供します。組合の作成した計画に不満があれば、この縦覧期間中に意見書を提出することができます。
ここは再開発の手続きの中でも非常に重要なポイントです。
意見の内容は主に「自分の資産の評価が不当である」とか「新しいビルにおいて自分が割り当てられた場所が不当である」といった内容を述べていくことになり、どれだけ説得力のある意見書を作成できるかが今後を大きく左右します。
意見書を採用するか否かは弁護士等の専門家から構成される審査委員が判断しますので、組合の進め方が不当であると感じたならば、大いに意見すべきです。
注意しなければならないのは、意見書を提出できる期間はわずか2週間に限られているという点で、1日でも過ぎれば受け付けてもらえません。
対象者の方のなかには、縦覧期間が残り1日となった頃に当事務所へ相談に来られる方もおられますが、あまりに期間が短いと、やはり説得的な意見書の作成は困難です。少なくとも縦覧開始期間が決まった段階で一度ご相談いただきたいと思います。
意見書が採用されるポイントは「感情的でなく、根拠が明確なこと」です。
審査委員も対象者のお気持ちは理解するものの、感情に任せた意見書では決して採用されません。冷静に、自分の権利が「なぜ」「どのような形で」「どの程度」侵害されているのかを具体的に記載すべきです。
過去に同様の事例を数多く手がけている弁護士に依頼するか否かで大きく採否の確率が変わりますので、意見書作成時も、ぜひ弁護士に相談していただきたいタイミングとなります。
ターニングポイント④:権利変換計画の認可
意見書の対応が終わったのち、組合は権利変換計画の認可を受けることになります。
もしここで意見書が採択されなかった場合、組合側はあなたに「採択されなかったからあきらめるように」と言ってくるかもしれません。
しかし実はまだ方法はあります。弁護士は、意見書が採択されない場合でも、このまま認可を出すことのないよう行政等に働きかけていきます。
ここでも自分たちだけで判断せず、ぜひ弁護士の力を活用してほしいと思います。
ターニングポイント⑤:明け渡し期日
立ち退き対象者の中にはよく「立ち退きは居座った者勝ちだ」とおっしゃる方がおられますが、こと法定再開発においては、それは間違いです。
組合から明け渡し期日の通知がくる段階まで進むと、居座っていようとしても、不利な条件で強制的に追い出されることになります。
明け渡しに際しては、通常のオーナーや大家さんとの賃貸借契約とは異なり、原状回復免除などの配慮がなされるケースがありますので、この点も組合と交渉して費用負担を可能な限りおさえることが必要となってきます。
なお、明け渡し期日が過ぎても明け渡さない対象者がどうなるかというと、組合によっては「明け渡し断行の仮処分」という裁判手続を利用する場合があります。
仮処分は通常の裁判と異なり迅速に結果を出せるため、組合にとっては非常に使い勝手のよい制度です。
対象者が明け渡し期日に建物を明け渡さない場合に通常の裁判を提起していては数ヶ月は平気で経過してしまいます。そこから徹底的に争い控訴・上告となれば1年以上かかる可能性すらあります。
他方、仮処分であれば1ヶ月程度で明け渡しまで完了させることが可能なため、組合にとって明け渡し断行の仮処分は大きな武器となってきます。
こう考えると、適切なタイミングで最大限の補償を受けて明け渡しを行うことが経済的な観点からは一番良いといえます。
ただ長年営んできた商売や、長年住んできた家を一方的に奪われるのが再開発の制度であるということもまた事実です。
そのような方々の中には、経済的な観点は度外視して、心情的に明け渡しに応じたくないとおっしゃる方もおられます。その判断もまた決して間違いとはいえないでしょう。ご相談いただければ、最後までおつきあいさせていただきます。
再開発の立ち退き交渉にあたっての注意点
ここからは、交渉を進めるにあたって気をつけておきたいことをいくつか紹介します。
注意点①:組合を安易に信ずるべからず
立ち退き対象者のもとに訪ねてくる組合の担当者は、とても親切で物腰も柔らかい人が多いです。
再開発の手続きを親身に説明してくれたり、場合によっては移転先のことまで心配してくれて、うまく信頼関係ができるケースもあります。
しかし決して全員が信頼できる担当者ばかりではないというのも残念ながら事実です。
なかでも要注意なのは、やたらと期限を区切ってくるケースです。
「○月○日までにこの書類を提出してもらう必要がある」とか、「○月○日までに方針を決めてください」と急かされると、冷静な判断ができなくなります。
そのような担当者に出会った場合には、本当にその期限がマストなのか、必ず弁護士にご相談ください。
よくよく考えてみれば、組合の担当者は、その多くが普段は再開発に関わる企業(デベロッパー)で働き、デベロッパーから派遣されている方々です。
いくら態度が親切でも、純粋に対象者の利益を追求してくれる立場にはなく、あくまでもデベロッパーの利益を優先してビジネスとして再開発の交渉を担当しているのです。
このことを念頭に置きながら、冷静に組合の担当者と交渉するのがよいと思います。
注意点②:再開発の新しい街や建物のイメージをもっておこう
再開発の交渉はどうしても金銭面の補償に目が行きがちですが、本来は、まず再開発後の街のイメージや自分が入る予定の新しいビルのイメージを正しく持つことから始めるべきです。このことは、私は非常に重要なことだと考えています。
たとえば地区外に転出するか、新しいビルやマンションに権利を取得するかを判断するのにも、新しいビルやマンションがどのようなものか分からなければ判断できないはずです。
漠然と「賃料が上がるかもしれないから、転出したほうがよいかな」とか「何階の部屋の権利を取得すればよいのか分からないな」と悩む前に、組合の担当者に詳しい資料を求めましょう。
たとえば「○階の○号室の間取りと窓からの景色のイメージ図を作成してほしい」と求めることは、何らおかしい要求ではありません。
窓からの景色も見ないで、自分が生活するマンションを購入することはあまりないでしょう。再開発の権利変換(転出して完成後に戻ること)でも同じはずです。自分が取得することになる権利がどのようなものなのか、それを具体的にイメージしてこそ、正しい判断ができるのです。
もっとも組合担当者は「まだ図面等はない」「イメージ図はない」と拒絶してくるケースもあるかと思います。
そのような場合も弁護士にご依頼いただければ、資料の作成や提供を組合にしっかりと確実に求めていきます。
注意点③:情報に踊らされるべからず~平等に扱われるとは限らない
当事務所へご相談に来られる方には「となりの店は●●円もらったので出て行った」「どうやら●●さんの家は組合に知り合いがいて、破格の条件が提示されているようだ」といった情報を聞き、自分も同じだけ受け取れるのか不安になっている方もおられます。
しかし、現在の再開発においては「権利者がみな平等に扱われる」というのは幻想といってよく、むしろどのようにうまく立ち回るかによって獲得できる利益に大きな差が生じる……というのが現在の再開発の実態であると私は考えています。
もちろん組合によっては、極力権利者間の平等を意識し、特定の権利者だけを優遇するような対応はしないと明言する組合もあります。しかし、そのような態度を貫く組合の交渉は、多くの場合難航・長期化し、最終的には当初の理念を修正して特定の権利者を説得するために大きな利益を与えざるを得ないケースも少なくないと思います。
都市再開発法74条2項で「権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払って定めなければならない」と規定しています。この規定を死文化することなく、公平な再開発手続が実現されるべきであることはいうまでもありませんが、実際には法の範囲内でじょうずに立ち回ることで大きな差が生じてきます。
このような事情から、再開発の対象になった方は、ぜひ一度実績のある弁護士にご相談ください。
注意点④仮払い制度を活用すべし
権利床を取得する場合(転出して戻る)対象者へ組合から支払われる補償金は、本来は権利変換計画の認可後に支払われるものです。
しかし実際には、認可後に補償金を受領したのでは遅いケースが多々あります。
たとえば、良い移転先が見つかり早期に移転をしたい場合、認可を待って補償金を受け取るのでは移転費用を一度自分で負担しなければならなくなり、あまりに不当です。
そこで、多くの組合では、「仮払制度」を設けています。これは、補償金の8割程度を本来より早い時期に受け取れる制度です。利用することで多額の移転費用を立て替えずにすみますが、組合側は積極的には教えてくれないことがほとんどなので、意外と知らない方も多いのではないでしょうか。
この仮払い制度を使用する場合には、補償契約書や目的等を記載した申請書を提出する必要があります。仮払い制度の利用にデメリットはほとんどありませんが、書類作成が面倒なのが唯一のデメリットかと思いますので、是非こちらも弁護士にご相談ください。