最終更新日:2024.02.14
都市再開発法に基づく立ち退きと、任意の立ち退きの違いとは
住んでいる家や店舗・オフィスなどを明け渡して出ていくことを求められる「立ち退き」。
実は、立ち退きには「都市再開発法」に基づくものとそれ以外(任意)のものがあり、立ち退き条件や保証される権利は両者で大きく異なります。
もしも自分の家や店舗が立ち退きの対象になったときに、この違いを理解していないと金銭的にも思わぬ不利な状況を招いてしまう可能性があります。
そこで今回は、都市再開発法に基づく立ち退きと、任意の立ち退きの違いについて、7つのポイントに分けて解説します。
目次
「都市再開発法に基づく立ち退き」とは
全国の都市部では、過去に建てられた古い建物や区画を取り壊し、新しいビルなどに建て直して空間の有効活用を図る「再開発」が随時行われています。
再開発には企業や民間団体が単独で行う小規模なものから、「都市再開発法」という法律に基づき、地方公共団体や再開発事業者などで構成される再開発組合が主体となって行う大規模なものまであります。
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都市再開発法に基づく再開発は、さらに次の2つに分類されます。
- 第一種市街地再開発事業
- 第二種市街地再開発事業
現在行われている市街地再開発事業の多くは「第一種市街地再開発事業」に該当し、その手法として「権利変換方式」が取られるのが特徴です。
権利変換方式とは、再開発の対象エリアに住んでいる人やお店を持っている人たちがいったん立ち退き、新しい建物が完成した後にふたたびそこへ入居する権利を得るという仕組みです。
「新しいビルに入居するつもりはない」という場合には、権利変換をしないで地区外に転出することもでき、そのための費用として「立退料」を受け取るのが一般的です。
「任意の立ち退き」とは
いっぽう、市街地再開発事業とは関係のない任意の立ち退きもあります。
「任意(にんい)」とは「本人の意志のとおりに」「好きなように」といった意味で、「任意接種」や「任意同行」など強制ではない行為に使われます。
つまり「任意の立ち退き」とは、土地の所有者や不動産の賃借人(入居者)の希望や意思により、立ち退くか立ち退かないかを自由に選べる状況をいいます。
任意の立ち退きの例としては次のような状況が考えられます。
- マンション・アパート・一戸建てなどの所有者(大家)が、賃借人(入居者)に対し、「取り壊して駐車場にしたいから出て行ってほしい」「息子夫婦が住むから明け渡してくれ」などと要求する
- 店舗の土地建物の所有者が、賃借人(店長など)に対し、「老朽化したビルを建て直すから退去してほしい」などと要求する
この場合、立ち退くかどうかは賃借人の意思が優先され、強制的に出て行かされることはありません。
(ただし、賃借人側に長期の家賃滞納や無断転貸などの契約違反があった場合は正当な立退請求の事由として認められ、いくら「立ち退きたくない」という希望や意思があっても基本的には認められません。)
再開発による立ち退きと任意の立ち退き、7つの違い
都市再開発法に基づく立ち退き請求をされた場合と、任意の立ち退き請求の場合では、具体的にどのような違いがあるのかを7つの項目ごとに解説します。
1:立退料の支払基準の有無
立ち退き後、地区外への移転や引っ越しを選んだ場合には、その内容に応じた立退料が支払われます。
しかし都市再開発法に基づく立ち退きでは、「公共用地の取得に伴う損失補償基準(通称:用対連基準)」が定められており、これに沿って算定すると立退料は低額になることがほとんどです。
一方、任意の立ち退きの場合は、過去の判例でいくつかの補償項目について目安が示されてはいるものの絶対的な基準はなく、実情に応じて十分な金額が受け取れることが多いでしょう。
つまり市街地再開発の立ち退きでは、上記の基準があることを理解した上で増額要素を組み立てていく必要がありますが、これは専門知識がないとなかなか難しいため、弁護士に相談することで大きく金額が変わってくる(増える)可能性があります。
立退料の支払い基準は? 再開発の立ち退き あり ↓ 専門知識がないと低額になりやすい 任意の立ち退き なし ↓ 高額になることも多い |
2:最終的に必ず立ち退かなければならないのかどうか
任意の立ち退きでは、住宅や店舗の賃借人は法律で手厚く保護されており、物件の持ち主がいくら立ち退いてほしくても、正当な事由なしに簡単に追い出されるといったことはありません。
しかし都市再開発法に基づく立ち退きの対象者には上記が通用せず、定められた明け渡し期限になると強制的に立ち退くことになります。自分がどちらに該当するのか分かっていないと、大きな損害を被る可能性があるので注意が必要です。
必ず立ち退かなければいけない? 市街地再開発の立ち退き ↓ 必ず立ち退く義務がある 任意の立ち退き ↓ 立ち退かなくてもよい |
3:新しい建物に戻る権利の有無
古い区画や建物を取り壊した後には、通常は新しいビルが建てられます。このビルに入居できるかどうかについて、再開発の場合と任意の立ち退きでは条件が異なります。
任意の立ち退きでは、特別に契約等しない限り以前の場所に戻る権利はありません。
一方、市街地再開発による立ち退きでは「権利変換」という方式で、希望者には新しいビルに入居する権利が付与されます。
新しい建物が完成後、そこへ戻れるのか? 再開発の立ち退き ↓ 戻る権利がある 任意の立ち退き ↓ 戻る権利はない |
4:より弱い立場に立たされるのは?
任意の立ち退きと、都市再開発法に基づく立ち退きでは、当事者になったときの立場も大きく異なります。
任意の立ち退きでは交渉もシンプルで「立ち退くつもりはない」という主張が通ることも多いですが、市街地再開発の場合はそれが通用せず、得られる情報も少ないため、個人で対応するのはかなり難しくなります。ぜひ弁護士など専門家の力を借りてほしいところです。
より弱い立場はどっち? 再開発の立ち退き ↓ 個人では対応が難しく弱い立場に 任意の立ち退き ↓ 個人で対応可能なケースも多い |
5:立ち退きの交渉相手は?
任意の立ち退きと都市再開発法に基づく立ち退きでは、交渉する相手も異なります。
任意の立ち退きの場合は、賃貸人(物件の所有会社やオーナー個人)と交渉することになりますが、市街地再開発では、地権者やディベロッパー(事業者)などから構成される「再開発組合」あるいはその前の段階の「再開発準備組合」と交渉することになります。
ディベロッパーの担当者は過去に多くの立ち退き事例の経験を持ち、事業者側に有利な条件で進めようとしてくることも少なくありません。
立ち退きの交渉相手 再開発の立ち退き ↓ 再開発組合 任意の立ち退き ↓ 物件の所有者 |
6:交渉期間はどのくらいかかる?
「立ち退いてほしい」と要求された場合、任意の立ち退きでは特に期間の定めはないため、時期や立退料などについて納得がいくまで交渉を続けることが可能です。
しかし都市再開発法に基づく立ち退きでは、法律で「明渡し請求日から30日」のように立ち退きの期限が定められており、この時期を過ぎると強制的に立ち退かされることになるため、判断や交渉も期限を見据えて行わなければなりません。
通常の生活や仕事と同時進行でこのような重大な判断や交渉を行うのは大変です。迷ったときはぜひ弁護士等の専門家に相談してほしいと思います。
立ち退きの交渉期間 再開発の立ち退き ↓ 法律でいつまでと定められている 任意の立ち退き ↓ 特に定めはない |
7:立退料の支払いタイミング
立ち退きが決まったら、引っ越しや店舗の移転費用、さまざまな損失を埋めるためのお金として「立退料」を受け取ります。
このタイミングも、都市再開発法に基づく立ち退きの場合では明渡し期限まで(ただし仮払い制度あり)、任意の立ち退きでは合意時に一部+明け渡し時に残金と、両者で異なっています。
立退料の支払いタイミング 再開発の立ち退き ↓ 明渡し期限まで(仮払い制度あり) 任意の立ち退き ↓ 合意時に一部+明け渡し時に残金 |
都市再開発法に基づく立ち退きの対象になったら弁護士へ相談を
住んでいる家や経営する店舗が都市再開発法に基づく立ち退きの対象となったら、一般的な(任意の)立ち退きとは異なる点が多々あります。
違いを理解していないと思わぬ損失をこうむってしまう可能性もあるため、本記事も参考にしっかりと対策をとる必要があります。
しかし市街地再開発にはさまざまな法律が関係し、期限も限られているため、なかなか個人で最適な対処が難しいのも事実です。
そんな時は、ぜひ法律の専門家である弁護士にご相談ください。
リード法律事務所では、都市再開発法に基づく立ち退き事例に精通し、専門知識と実績や経験の豊富な弁護士が初回無料で相談を受け付けています。
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