最終更新日:2024.01.24
再開発の権利変換で知っておきたい、91条と97条の補償金制度
「市街地再開発事業」とは、駅前などの一帯で、古い建物を取り壊して新しく高層ビルや複合施設に建て替え、土地の高度利用を図るものです。
再開発が行われるエリアには、それぞれ権利者(土地や物件のオーナー、賃借人など)がいます。
権利者は「権利変換」という手法により、新しく完成した施設建築物(ビルなど)で施工前と同じ価値と見なされる区分(権利床)を取得するか、補償金(立退料)を受け取って地区外に転出し新しく生活や商売を始めるか、2つに1つを選ばなくてはなりません。
再開発では、上記の選択によって、受けられる補償の内容や受け取る金額が異なります。
今回は、市街地再開発で立ち退き対象となったときに関係してくる2つの補償「91条補償」と「97条補償」の違いについて解説します。
目次
都市再開発事業の「権利変換」のしくみは
都市再開発事業には、「第一種」と「第二種」がありますが、対象エリアの土地の権利をどうするかについては手法が異なります。
第一種では、土地の所有者など権利を持つ人や会社に対し個別に交渉を進めますが、第二種ではいったん全ての土地を買い取りまたは収用してしまう「全面買収方式」を取ります。
ただし、第二種(全面買収方式)は災害時の安全確保など著しく緊急性の高い事業に限られ、多くの再開発では第一種再開発事業として進められます。
▼第一種・第二種、それぞれの再開発事業についてさらに詳しい解説はこちらから
第一種再開発事業では、全面買収方式ではなく「権利変換」という手法が取られ、権利者(住民や店舗オーナーなど)は、再開発後の新しいビルに入居する(権利床を受け取る)ことができます。
しかし、なかには権利変換(新しいビルへの入居)を希望せず、別の地域に引っ越したい・店舗を移転させたいと考える権利者もいます。
このような場合は、その旨を再開発組合に伝えて期限までに地区外へ転出します。またそのために必要な補償金(立退料)を受け取ります。
都市再開発法による2つの補償~91条補償と97条補償
再開発対象エリアの権利者にどのような補償をするのかは、事業ごとに再開発組合や個人・法人などの施行者が「評価・補償基準」を策定します。
第一種市街地再開発事業では、補償の内容を決めるとき、次の2つの条文に基づいて評価基準を決定していきます。
- 91条補償…権利補償(土地などの財産権に対する補償)
- 97条補償…通損補償(それ以外の通常生ずる損失に対する補償)
次にそれぞれの内容をもう少し詳しく見ていきます。
第一種再開発事業の「91条補償」の内容は?
再開発による補償金の基準策定時に、土地や建物の所有権などに関する補償については、都市再開発法91条で定められています。
施行者は、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものに対し、その補償として、権利変換期日までに、第八十条第一項の規定により算定した相当の価額に同項に規定する三十日の期間を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額に、当該権利変換計画の認可の公告の日から補償金を支払う日までの期間につき法定利率による利息相当額を付してこれを支払わなければならない。この場合において、その修正率は、政令で定める方法によつて算定するものとする。(都市再開発法第91条:条文より一部抜粋) |
91条の補償については通称「権利保障」あるいは「対価補償」と呼ばれています。
再開発エリアの権利者は、以前から暮らしていた土地に居住し続けたり、お店や会社を続ける権利を持ちますので、以前の土地やスペースのかわりに新しいビルの借地権という形で補償を受けられます。
また、上記の「借家権を与えられないもの」つまり地区外に転出する場合には、相当額の補償金(立退料)を受け取ることができます。
第一種再開発事業の「97条補償」の内容は?
そしてもう1つ、補償金に関係するのが都市再開発法97条です。
施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。(都市再開発法第97条:条文より一部抜粋) |
「通常受ける損失」について97条では具体的な例は挙げられていませんが、一般的には次のようなものが含まれると考えられます。
- 店舗の閉業による損失
- 店舗移転にともなう休業による損失
- 伐採される立木などの損失
- 住居を買うための費用
- 仮住まいや仮営業にかかる費用
- 移転や引っ越しにかかる費用
再開発組合などの施行者は、上記のさまざまな損失を金銭に置き換えて補償金額を算定し、権利者に提示します。
提示された立退料や権利床の条件が希望に合わないのはなぜか
都市再開発法では、権利変換後の権利床(マンションの部屋や店舗スペース)や立退料の決め方につき91条・97条で定めています。
しかし実際の再開発エリアでは、住宅1軒ごと・店舗や会社1社ごとに条件は千差万別であるため、一律の計算式や相場までは91条や97条に示すことができず、それぞれの状況に即した金額を算定することになります。
▼「再開発の立退料には相場がない?」理由について、くわしくはこちらの記事もご覧下さい
(「再開発 立退料 相場」の記事公開後に内部リンクを設置して下さい)
「前の家に対して、割り当てられた新しい部屋は狭すぎる」
「こんなに少ない立退料では移転してお店を続けていけない」
といった不満は、「動産移転料補償」「仮住居補償」「家賃減収補償」「移転雑費補償」といった内訳の見積もりが不適切であること、お店の年間の来店者数など細かい検討材料が見積り額に反映されていないことなどが理由として考えられます。
これに対し抗議しても「規則で決まっていますから」と言われることもあるかと思います。
しかし、もし金額や内容に疑問や不満がある時は、提示された資料(補償額算定書)で、損失が実態と合っていない点や、算定のしかたが不合理ではないかと思われる点がないかよく確認してみましょう。
「見てもよく分からない」という場合は、弁護士の無料相談などを利用するのも大変有効な方法です。
再開発の補償について心配なら、まず弁護士に相談を
第一種再開発事業では、土地や建物の権利者(住民や店舗オーナーなど)に対し、協議のうえ相当の補償をしなければならないと法で定められています。
この詳細が述べられているのが、都市再開発法91条と97条です。
また新しいビルに入る(権利変換)場合はどのくらいの広さの部屋や店舗スペースが割り当てられるのか、地区外に転出する場合は立退料をいくら受け取れるのか、またいつまでに各手続きを行わないといけないのかといった決まりも記載されています。
自宅やお店が再開発の対象になった場合、
- 再開発組合から提示された新しいビルのスペース(権利床)の条件に納得がいかない
- 立退料の金額が少なすぎるのではないか
- 手続きを迫られているが、このまま折り合わなければどうなってしまうのか
……といった疑問や不満が出てくるかもしれません。
しかし一般の方が、今回解説した91条や97条をはじめとする都市再開発法を読み込んで理解し、再開発組合に見直しを求めることはかなりハードルが高く感じられるかもしれません。
これらは、法律の専門知識と再開発に関する豊富な経験・実績を持つ弁護士であればベストな対応を取ることができます。
特に再開発は専門性が高く、取り扱った経験のある弁護士は限られている分野のため、再開発について注力している弁護士にご相談されることをお勧めします。
リード法律事務所では、再開発についてのさまざまな疑問について経験豊富な弁護士が無料で相談を受け付けています。お気軽にご連絡ください。