暴行・傷害被害にあったら

最終更新日:2023.05.31

暴行罪の事例や量刑について解説、暴行被害に遭ったらどうすればいい?

暴行罪は、殴る、蹴るといった暴行を加えたときに成立する犯罪です。胸ぐらを掴む・髪を引っ張るなどの行為も暴行に該当し、成立する範囲は思いのほか広いです。

さらに、暴行によりケガをしたときには傷害罪が成立し、加害者にはより重い刑罰が科されます。

この記事では、暴行罪の事例や量刑、傷害罪との違いなどについて解説しています。暴行の被害に遭った方は、ぜひ参考にしてください。

暴行罪とは

暴行罪は、他人に暴行を加えたときに成立する犯罪です(刑法208条)。

条文上は以下の通り規定されています。

刑法208条暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

暴行の結果ケガをしたときには、より重い傷害罪になります(刑法204条)。

まずは、暴行罪の構成要件や量刑、傷害罪との違いなど、暴行罪の概要を解説します。

暴行罪の構成要件・量刑

暴行罪の構成要件は、他人に「暴行」を加えることです。

暴行罪における「暴行」とは、他人の身体に対して物理力を行使することをいいます。

判例は「暴行」の概念を非常に広く解しており、「物理力」には、暴力はもちろん、音、光、熱、電気、冷気などの作用も含まれます。たとえば判例では、部屋を閉め切ったうえで太鼓などを被害者の近くで連打する行為も暴行と認定されました。

暴行と判断されるために、必ずしも被害者の身体に直接接触する必要はありません。後述しますが、相手に向かって石を投げる行為は、たとえ命中していなくとも暴行になります。

暴行罪の刑罰は「二年以下の懲役」「三十万円以下の罰金」「拘留」「科料」のいずれかです。

このうち拘留とは、1日以上30日未満の間、刑事施設に収容される刑罰をいいます(刑法16条)。科料は罰金に似た刑罰で、金額が1000円以上1万円未満のものです(刑法17条)。

拘留や科料は聞き慣れない刑罰かと思いますが、実際の裁判で言い渡されるケースもほぼありません。

傷害罪との違い

暴行により「傷害」の結果が発生したときには、暴行罪ではなく傷害罪が成立します。

「傷害」とは、他人の生理機能を害することです。すなわち、何らかの形で被害者の健康状態が悪化していれば、傷害に該当します。

典型例はケガをしたケースですが、以下の事例でも傷害罪にあたるとされました。

  • 性病に感染した
  • 長時間失神状態になった
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)が生じた

傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」であり、暴行罪と比べて大幅に重いです。傷害の程度が重いほど、加害者に懲役刑が科される可能性が高まります。

暴行罪と傷害罪の違いは、簡単にいえばケガの有無にあります。被害者にケガを負わせる傷害罪はより悪質であり、罪は重いです。刑罰の違いが大きいため、いずれに該当するかが犯人の処分を大幅に左右します。

なお、ケガにとどまらず被害者が亡くなってしまった場合には、傷害致死罪が成立します。傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」です(刑法205条)。有期懲役は最長で20年であり(刑法12条1項)、より重い刑罰が予定されています。

暴行罪の事例

暴行とひとくちに言っても、その範囲は一般的に想像されているよりも広いです。危険性が低い行為や身体接触を伴わない行為についても、暴行罪が成立し得ます。

ここでは、どんな行為に暴行罪が成立するかについて、事例を交えながらご紹介します。ご自身の受けた被害と照らし合わせながらお読みください。

殴る・蹴る・押すなど

殴る・蹴るなどの典型的な暴力は、もちろん暴行罪に該当します。

たとえば、

  • 平手打ちにする
  • 馬乗りになって殴る・蹴る
  • 突き飛ばす

といった行為は暴行です。

これらは一般的にイメージされる暴行といえるでしょう。ケガをさせる危険性も高く、実際に被害者がケガすれば傷害罪となり、法定刑が重くなります。

服を引っ張る・胸ぐらを掴む・髪を引っ張るなど

暴行に該当するのは、殴る・蹴るなどの典型的な暴力には限りません。被害者の身体に対して力が加えられていれば、暴行罪が成立します。

たとえば以下の行為です。

  • 服を引っ張る
  • 胸ぐらを掴む
  • 髪の毛を引っ張る

これらの行為を受けても、ほとんどケガにまでは至らないと考えられます。しかし、ケガが生じる可能性が高いことは、暴行罪の成立要件にはなっていません。ケガをする危険性がない、あるいは低い行為であっても、被害者の身体に力が加えられていれば暴行罪に該当します。

脅し目的で物を投げる・振り回すなど

被害者に向けられていれば、直接身体に触れていなくても暴行とするのが判例上の考え方です。

以下の行為も暴行に該当すると判断されました。

  • 狭い室内で脅しのために日本刀を振り回す
  • 驚かす目的で人の数歩手前を狙って投石する

これらは、直接身体に触れていなくても、ケガをさせる危険性が高い行為といえます。一般的な暴行のイメージからは離れるかもしれませんが、身体接触を伴わない暴行もあることは頭に入れておくとよいでしょう。

その他

他には、以下の行為も暴行に該当します。

  • 唾を吐きかける
  • 塩を振りかける
  • 被害者の近くで太鼓などをたたく
  • 髪の毛を切る

これらの例を見ると、暴行の範囲は思いのほか広いとお感じになるでしょう。

まとめると、典型的な暴力の他に、以下の行為が暴行になり得ます。

  • ケガをする危険性がない、あるいは低い行為
  • 身体接触を伴わない行為
  • 音など暴力以外の作用を与える行為

加害者に犯罪が成立する可能性があるので、ご自身が受けた行為がいずれかに該当しないかチェックしてみてください。

傷害罪・傷害致死罪が適用されるケース

加害者が「暴行をしただけ」のつもりであっても、傷害罪や傷害致死罪が成立するケースがあります。

加害者が「相手をケガさせよう」と考えていなくても、暴行の結果として被害者がケガを負ったときに成立するのが傷害罪です。さらに被害者が亡くなってしまった場合には、傷害致死罪となります。

たとえば、加害者が被害者を殴ったケースを考えましょう。

まず、被害者にケガがなければ暴行罪です。ケガがあったときには、加害者にケガをさせる意図がなかったとしても、傷害罪となります。さらに、打ち所が悪かったために死亡した場合には、傷害致死罪が成立します。

たとえ加害者が「殴っただけだ。ケガをさせる気はなかった」と主張したとしても、結果が生じている以上、法律上成立するのは傷害罪や傷害致死罪です。加害者の内心は、量刑に影響を与え得るに過ぎません。

ちなみに、加害者が内心では「ケガをさせよう」と考えていたのに結果としてケガをしなかった場合には、暴行罪が成立します。

暴行罪に関する法律

暴行には、傷害罪に該当する場合の他にも、単なる暴行罪よりも重い処罰が与えられるケースがあります。反対に、暴行があっても犯罪が成立せず、加害者が処罰されない可能性もあります。

暴行罪に関係する法律の規定について解説しますので、ご自身の被害が該当しないかを確認しましょう。

暴力行為等処罰法

暴行罪に関係する法律として「暴力行為等の処罰に関する法律」(暴力行為等処罰法)が存在します。暴力行為等処罰法では、暴行罪のうち一定の類型について、特別に刑法よりも処罰が重くされています。

該当するのは以下の類型です。

  • 集団的暴行(暴力行為等処罰法1条)
  • 常習的暴行(暴力行為等処罰法1条の3)

集団的暴行については、かつては労働運動や学生運動が取り締まりの対象になっていました。現在では、暴力団や集団的ないじめに適用されるケースがあります。法定刑は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。

常習的暴行は、暴行を繰り返す加害者に適用される可能性があります。前科の有無は判断材料になりますが、前科があるからといって、必ず常習的暴行になるわけではありません。刑罰は「3月以上5年以下の懲役」です。傷害の場合には「1年以上15年以下の懲役」となります。

いずれの場合についても、通常の暴行罪と比べると刑罰が重くなっています。

心神喪失者による暴行について

たびたびニュースで「心神喪失により無罪となった」と報道しているのを耳にすることもあるのではないでしょうか。

暴行の加害者が心神喪失者であった場合には、犯罪が成立しません(刑法39条1項)。

心神喪失とは、精神の障害により、物事の善悪を判断する能力がない、または自分の行動をコントロールする能力がない状態です。

心神喪失は、加害者が統合失調症に罹患している場合などで問題になります。

もっとも、実際に裁判で心神喪失と認められて無罪になるケースは少ないです。加害者が「酒を飲んでいて記憶がない」と主張する場合もありますが、飲酒により心神喪失とされる可能性は基本的にありません。

もし心神喪失を理由に暴行罪が成立しなくても、監督義務者に対して民事上の損害賠償請求ができる可能性があります(民法714条)。

なお、心神喪失に似た概念として、心神耗弱があります。心神耗弱とは、物事の善悪を判断する能力または自分の行動をコントロールする能力が多少はあるものの、著しく低い状態です。心神耗弱者については、犯罪は成立しますが刑が減軽されます(刑法39条2項)。

正当防衛・過剰防衛について

相手が「殴られたから殴り返した。正当防衛だ」と主張してくる可能性も考えられます。相手のした暴行が正当防衛に該当する場合には、暴行罪は成立しません(刑法36条1項)。

正当防衛とは、攻撃に対して、自分を守るために必要な反撃をすることです。

正当防衛が成立するには、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 最初に攻撃した人の行為が違法であり、現在進行中であった
  • 自分や第三者の権利(生命、身体、財産など)を守る意思があった
  • 反撃行為が必要最小限のものだった

正当防衛は、実際にはなかなか認められづらいです。

要件の中でも特に問題になりやすいのが「反撃行為が必要最小限であったか」です。少し押しただけなのに、羽交い締めにして長時間にわたって殴る蹴るの暴行をされた場合には、最小限の反撃とはいえません。

反撃が過剰であった場合(「過剰防衛」といいます。)には、暴行罪が成立します。もっとも、刑が減軽されたり、免除されたりする可能性があります(刑法36条2項)。

暴行をしてきた相手から正当防衛の主張をされたときには、まずは本当に正当防衛が成立するかを検討してください。

加害者が13歳以下の場合

子ども同士のケンカなど、暴行の加害者が未成年のケースもあるでしょう。

加害者が13歳以下(14歳未満)の場合には「刑事未成年」となり、暴行罪は成立しません(刑法41条)。年齢で一律に判断されるため、身体が大人と遜色ない大きさであったとしても、暴行罪での処罰を求めるのは不可能です。

また、14歳以上であっても、未成年については凶悪事件でない限り基本的に刑罰は科されません。少年院に送られる、保護観察になる、そもそも処分されないといった可能性があります。

刑事処分を求められないとしても、本人や親権者に民事上の損害賠償請求をすることは可能です。

暴行被害に遭ったら弁護士に相談を

ここまで、暴行罪について、成立するケースや量刑、傷害罪との違いなどについて解説してきました。

特に、暴行罪と傷害罪のいずれになるかは、加害者の処分を変える可能性があるため重要です。たとえケガをしていたとしても、暴行によるものと証明できなければ傷害罪での処罰ができません。診断書などの証拠を残しておくようにしましょう。

暴行の被害を受けた方は、お早めに弁護士にご相談ください。暴行を受けても、警察が取り合ってくれないケースもあります。ひどいケガをしていた場合には、ご自身ですべて対応するのは難しいでしょう。弁護士にご依頼いただければ、証拠の確保や警察への対応など、被害者の皆様を徹底的にサポートいたします。

リード法律事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、暴行罪・傷害罪の刑事告訴を数多く受理させてまいりました。暴行の被害に遭われた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

▼リード法律事務所の暴行・傷害の解決事例はこちらをご覧ください

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