最終更新日:2023.12.15
私文書偽造罪とは?刑事告訴した際の量刑と公文書との違い、事例を紹介
私文書偽造罪は、公文書以外の文書を、権限がない人が作成する犯罪です。契約書、領収書、試験の答案、離婚届などを勝手に作成したときに成立します。刑事告訴をすれば、犯人に懲役刑が科される可能性もある重大な犯罪です。
この記事では、私文書偽造罪の要件や量刑、公文書との違いなどについて、事例も紹介して解説しています。被害を受けた方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
私文書偽造罪とは?
私文書偽造罪は、公文書以外の文書を、作成権限がない人が勝手に作る犯罪です。
文書の偽造が犯罪として取り締まられているのは、文書が有している社会的な信用を守るためです。
契約書、借用書などの文書は、名義人である個人や企業が自らの意思に基づいて作成したものとみなされるため、社会的に信用されています。権限のない人が勝手に作った文書が世の中にあふれてしまうと、人々は目の前の文書が本物であるか疑心暗鬼に陥り、安心して取引などができません。結果として、社会経済活動は滞ってしまうでしょう。
そこで文書偽造を処罰対象にして未然に防ぎ、世に出回る文書の信用性を高めることで、社会経済活動の安定が図られています。
文書偽造に関する罪は、対象となった文書や犯行態様によって罪名や刑罰が異なります。私文書偽造罪は、公務員でない私人が作成する文書の偽造に関する犯罪です。
私文書偽造罪の構成要件・量刑
私文書偽造罪の構成要件は、以下の4つです。
①「行使の目的」がある
偽造された文書を示して、本物だと信じさせようとする目的が必要です。実際に相手に示していなくても、行使しようとする目的を持って作成した段階で犯罪になります。実際に行使した場合には別途「偽造私文書等行使罪」が成立します。
②「他人の印章や署名を使用」する
他人のハンコや名前を使うことです。手書きの署名だけでなく、ゴム印やパソコン入力による印字も含まれます。
③対象が「権利・義務・事実証明に関する文書」である
契約書や借用書などが「権利・義務に関する文書」です。「事実証明に関する文書」は、社会生活において何らかの事実を証明する文書をいいます。入試答案や履歴書が例です。
④「偽造」する
作成権限がないのに、他人名義で文書を作成することです。
①から④までの要件を満たすと、有印私文書偽造罪が成立します。刑罰は「3月以上5年以下の懲役」です(刑法159条1項)。罰金刑は規定されていません。刑事告訴をした結果、最終的に裁判で有罪判決が出れば、犯人には必ず懲役刑が科されます。
4つの要件のうち②だけを満たさない場合には、無印私文書偽造罪が成立します。刑罰は「1年以上の懲役または10万円以下の罰金」です。有印と無印の違いについて詳しくは後述します。
私文書と公文書の違い
私文書と公文書は、誰が文書の作成主体であるかによって分類されます。
公文書は、公務員や役所が、権限に基づいて作成するべき文書です。
例としては以下が挙げられます。
- 戸籍謄本、住民票、印鑑登録証明書
- 運転免許証、保険証、旅券(パスポート)
- 公正証書遺言、公正証書にした契約書
- 裁判の判決書、和解調書、調停調書
私文書は、公文書以外の文書です。公務員でない一般人が作成する文書になります。
例としては以下が挙げられます。
- 契約書、領収書、借用書
- 自筆証書遺言
- 私立大学の卒業証明書、成績証明書
- 入学試験の答案
- 履歴書
公文書は公的機関が作成するため、社会的信用がより高いです。そのため、有印公文書偽造罪の法定刑は「1年以上10年以下の懲役」と、私文書を偽造した場合よりも重くなっています。
有印私文書とは
私文書は「有印私文書」と「無印私文書」に分けられます。
「有印私文書」とは、押印または署名がある私文書です。押印も署名もないものが「無印私文書」になります。
「署名」には、手書きの署名だけでなく、ゴム印やパソコン入力によって記載されたものも含みます。名義人の名前が示されていればよいため、現実には偽造が問題になる文書の多くが有印です。文字面から「ハンコの有無により区別される」と勘違いしないようにしてください。
押印や署名があると文書の信用性が高まるため、有印文書を偽造した方が罪が重くなります。
私文書偽造罪の事例
他人の名義を勝手に利用して文書を作成すれば、私文書偽造罪になります。ほとんどのケースが有印です。
有印私文書偽造罪が成立する事例をご紹介します。
領収書の偽造
領収書を勝手に作成すると、有印私文書偽造罪が成立します。
たとえば、従業員が架空の領収書を作成して会社に経費として請求したケースです。作成する行為が私文書偽造に該当するのはもちろん、実際に会社に示しているため偽造私文書等行使罪も成立します。会社からお金を騙し取っていれば、詐欺罪にも該当するでしょう。
これらの犯罪がすべて認められるときには、「牽連犯」という扱いになり、最も重い犯罪の刑罰が適用されます(刑法54条1項後段)。
被害に遭った会社は、懲戒処分や民事上の損害賠償請求だけでなく、刑事告訴をして処罰を求めることも可能です。
他に、受け取った領収書の金額を書き換えて、経費請求するケースもあるでしょう。領収書を一から作成したわけではなく、名義はそのままに金額だけ変更している場合には、偽造ではなく「変造」に該当すると考えられます。有印私文書変造罪の刑罰は、偽造と同様です(刑法159条2項)。
発注書の偽造
発注書を勝手に作成した場合も偽造です。
たとえば、自分の実績を上げるために、取引先名義で自社への発注書を作成するケースが考えられます。もちろん、取引先からの発注書を作成する権限はありません。勝手に取引先名義の文書を作成している以上、有印私文書偽造罪が成立します。
領収書のケースと同様に、発注書を会社に示して自分の実績だとアピールしていれば、有印私文書行使罪にも問われます。
替え玉受験
替え玉受験でも有印私文書偽造罪・行使罪が成立します。
入学試験の答案は、合格できる学力があるかを証明する書面なので「事実証明に関する文書」にあたります。
氏名欄に別人の名前を書いて、その人が作成した答案であるかのように偽っているため、偽造に該当します。入試の答案は志願者本人の学力を判断するために存在する以上、名前を書かれた志願者自身が名前の使用を承諾していたとしても関係ありません。
他にも、替え玉受験には偽計業務妨害罪や建造物侵入罪が成立する可能性があります。被害に遭った学校は刑事告訴も可能です。
また、近年はWebテストでの替え玉受験も横行しています。Webテストの回答はネット上で送信されるため文書にはあたらず、私文書偽造罪にはなりません。もっとも、電磁的記録不正作出罪・同供用罪が成立し得ます。
遺言書の偽造
遺言書の偽造も犯罪です。
遺言する人が自ら作成するはずの「自筆証書遺言」を、他の親族などが偽造するケースがあります。自筆証書遺言は権利・義務について記載されており、一般人が作成するため私文書です。本人以外が勝手に作成したときには、有印私文書偽造罪が成立します。
偽造された遺言は、民事上当然無効です。遺言はなかったものとして遺産分割協議を行います。また、勝手に遺言書を作成した相続人は、相続する権利を失います。
なお、公証人が作成する「公正証書遺言」は公文書です。あまり想定されませんが、偽造がされた場合には有印公文書偽造罪が成立し、罪がより重くなります。
離婚届の偽造
離婚したいのに配偶者が承諾してくれない場合に、離婚届を勝手に作成して提出してしまうケースもあります。
離婚届は役所に提出する文書ですが、作成するのは一般人であるため私文書です。配偶者が記入すべき欄に署名・押印をして勝手に作成した際には、有印私文書偽造罪が成立します。役所の窓口に提出する行為は偽造有印私文書行使罪に該当します。
加えて、公務員にウソの申立てをして戸籍に事実と異なる記録をさせた点について、電磁的公正証書原本不実記録罪が成立します。
同姓同名の他人の肩書きを利用して文書作成をした場合
少し特殊な事例として、同姓同名の他人の肩書きを利用して文書を作成するケースがあります。
たとえば、同姓同名の弁護士が実在することを利用して「弁護士○○」との名義で弁護士報酬金請求書を作成したケースです。
たしかに氏名が同じではありますが、弁護士資格を有しない犯人と「弁護士○○」は別人です。作成権限がないのに勝手に他人名義の文書を作成している以上、氏名が一緒であっても偽造に該当します。
まとめ
ここまで、私文書偽造罪に関して、構成要件や刑罰、事例などについて解説してきました。
一般人が作成する文書について、権限がないのに勝手に作れば私文書偽造罪です。有印の場合には罰金刑がなく、重大な犯罪といえます。被害にあった際には刑事告訴も検討しましょう。
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