最終更新日:2023.12.15
業務上横領が起きたらどうすればいい?会社の対応について弁護士が解説
業務上横領をした従業員に対して、就業規則に基づいて解雇ができるほか、損害賠償請求や刑事告訴といった対応が可能です。
この記事では、横領と着服の違いや、従業員が横領していた場合の対応の流れなどについて解説しています。従業員の横領・着服が判明した企業の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
横領と着服の違い
「横領と着服はどう違うのか」と疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
横領と着服は、似た意味で用いられます。大きな違いは、横領は法律用語であるのに対して、着服は一般的な用語である点です。「横領罪」は存在しますが「着服罪」は存在しません。
以下で、横領と着服のそれぞれの意味や違いについて解説します。
横領とは
横領とは、他人から管理を任された財産を自分の物にすることです。自分の懐に入れる場合だけでなく、売却など、所有者でなければできないはずの行為全般が横領に該当します。
横領の具体例としては、以下の行為が挙げられます。
- 友人から預かった本を勝手に売却する
- 経理担当者が、会社の口座から自己名義の口座に振込をする
- 会社の集金担当者が、取引先から受け取った金銭を自分の懐に入れる
横領は、次に紹介する着服とは異なり、法律上の用語です。
他人から管理を任された財産を自分の物にすると、刑法上の「横領罪(単純横領罪)」が成立します。単純横領罪の法定刑は「5年以下の懲役」です(刑法252条)。
業務上占有している財産を横領したときには「業務上横領罪」が成立し、刑罰は「10年以下の懲役」と重くなります(刑法253条)。
従業員が会社の財産について横領をしたときに通常成立するのは、業務上横領罪です。業務上横領罪では、被害額が大きいと犯人に実刑判決がくだされ、刑務所に収監されるケースもあります。
着服とは
着服とは、他人の財産を自分の物にすることです。意味としては横領と似ています。
横領との違いは、着服は一般的に用いられる用語であり、法律用語ではない点です。「着服罪」という犯罪は存在しません。着服行為をした場合には、一般的に横領罪や業務上横領罪に該当すると考えられます。
法律用語ではないため厳密な定義はありませんが、着服は主に金銭を自分の懐に入れる行為に用いられるケースが多いです。
たとえば「会社のお金を着服して逮捕された」といった用法はよく耳にするでしょう。不動産についても横領罪は成立しますが、「不動産の着服」とはあまり言いません。着服と呼ばれるのは、横領のうち一部の行為です。
多少の違いがあるとはいえ、両者は似た意味で用いられます。横領は法律用語(罪の名称)、着服は一般的な用語だと考えておけば十分でしょう。
▼横領と着服の違いに関してはこちらをご覧ください
従業員が業務上横領していたら?
従業員の業務上横領が判明し、対応に悩まれている方は多いのではないでしょうか。
横領行為があったときには、会社の就業規則に基づいて、解雇を含む懲戒処分ができます。通常の解雇とは異なり、解雇予告手当を支払わないことも可能です。
社内で厳しい処分をすれば、他の従業員に対して業務上横領を許さない姿勢を示せる効果もあります。ただし、就業規則に横領行為を罰する旨の規定がなければ、処分はできません。規定を確認したうえで、手続きを進める必要があります。
以下で、業務上横領に及んだ従業員に対する社内処分について詳しく解説します。
就業規則に基づいた処分ができる
業務上横領をした従業員に対しては、就業規則に基づいて処分ができます。
処分をするには、就業規則に根拠規定が存在しなければなりません。懲戒事由に「横領」や「着服」とまで明記されていなくても、犯罪行為に関する規定など、該当する規定があれば処分が可能です。
ただし、処分をする前に必ず事実関係の確認をしてください。
証拠が不十分なのに処分をくだしてしまうと、後から処分の有効性を争われてしまうリスクがあります。客観的な証拠の収集や、周囲からの事情聴取などを行ってください。証拠が集まった後で、本人への事情聴取も必要です。
加害者本人に対して厳しい処分を科せば、他の従業員に対しても「不正行為はしてはならない」という意識を植えつけられるメリットがあります。本人への制裁の意味合いだけでなく、再発防止のためにも、入念に準備をしたうえで処分を進めましょう。
懲戒処分・解雇も可能
懲戒事由の存在が認められるときには、就業規則に定められている処分のうち、どの処分を選択するかが問題になります。
懲戒処分は、行為に相当する内容とする必要があり、重すぎる処分をしてはなりません。とりわけ懲戒解雇は、労働契約を一方的に終了させるとともに、退職金が不支給となるケースもあるなど、最も重い処分です。
一般的に、懲戒解雇をする際には慎重な検討が求められます。「懲戒解雇は重すぎる」と裁判所に判断されると、復職を認めざるを得なくなったり、多額の解決金の支払いを強いられたりするリスクがあります。
もっとも、横領は会社からの信頼を大きく裏切るとともに、重大犯罪にも該当する悪質な行為です。少額であったとしても、横領した事実の証拠さえ揃っていれば、懲戒解雇が妥当なケースが多いといえます。
解雇予告手当も不要にできる
業務上横領を理由として懲戒解雇をする場合には、解雇予告手当を支払わないこともできます。
従業員を解雇する際には、30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条)。即座に解雇するために支払われる金銭を、解雇予告手当と呼びます。
懲戒解雇であっても、即座に解雇するには基本的に解雇予告手当を支払わなければなりません。ただし、労働基準監督署の「除外認定」を受ければ、解雇予告手当が不要になります。
横領などの犯罪行為は除外認定の対象になりますが、証拠が不十分で本人が否定しているときには、認定がおりない可能性があります。除外認定がおりない場合は、横領で懲戒解雇できるケースでも、解雇予告手当を支払わなければなりません。
すでに退職している社員を懲戒解雇できる?
横領した従業員がすでに退職している場合は、事後的に懲戒解雇にすることはできません。懲戒解雇は労働契約が現に存在していることを前提としており、退職により雇用関係がなくなった以上、後からの処分は認められないとされます。
もっとも、懲戒解雇に相当する行為があった場合には、退職後でも退職金を不支給、あるいは減額できる可能性があります。退職金規定等に事後的な不支給や返還について定めがあるかを確認してみましょう。加えて、横領行為による金銭的被害について、民事上の不法行為を理由とした損害賠償請求ができます。
なお、退職届が提出されていても、効力が生じる前で労働契約がいまだ有効であれば、懲戒解雇は可能です。
業務上横領の時効は?従業員が辞めてからでも告訴できる?
従業員が会社を辞めた後であっても、民事上の損害賠償請求や刑事告訴は可能です。
もっとも、横領・着服には、民事・刑事いずれについても時効期間の定めがあります。期間が経過してしまうと、損害賠償請求や告訴ができなくなってしまいます。行為を追及するためには、早めに行動を起こさなければなりません。
以下で、民事・刑事それぞれについて、横領の時効を詳しく解説します。
民事訴訟の場合
横領・着服は、民事上の不法行為に該当します。不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間は、損害と加害者の両方を知った時から3年です(民法724条1号)。被害の事実や犯人を知った時から3年を経過すると、損害賠償請求ができません。
3年以内に損害賠償請求をすれば、横領されたお金が返ってくる場合があります。既に従業員が会社を辞めていても、請求は可能です。
もっとも、請求のための証拠は、時間が経てば経つほど入手しづらくなります。また、遅くなるとお金を使い切られてしまい、請求をしても返還を受けられなくなってしまうことも多く、奪われた金銭の回収の可能性でいうと、後述の刑事告訴がおすすめです。
刑事告訴の場合
業務上横領罪の刑事上の時効期間は犯行から7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。民事上の時効とは異なり、会社が被害の事実に気がついていないケースや、犯人がわからないケースでも、犯行から7年を経過すると時効になってしまいます。時効期間が経過すると刑事裁判にかけられないため、告訴もできません。
従業員がすでに辞めていても、時効期間を過ぎておらず、証拠が残っていれば刑事告訴が可能です。民事上の損害賠償請求と同様に、被害に気がついたら早めに動いて証拠を集め、刑事告訴の手続きをしてください。
横領罪で刑事告訴を行った場合、被害金額が一定の金額を超えると、執行猶予がつかなくなり、犯人は初犯であっても実刑となる(刑務所に服役する)可能性が高いです。犯人が実刑を逃れる方法は、唯一示談(被害者に金銭的賠償を行い宥恕してもらう)ほかありません。したがって、横領罪で刑事告訴を行った場合、犯人に対して、刑務所に行くか、お金を返還するか、という究極の二択を迫れることになり、民事訴訟による場合と比べ物にならないプレッシャーを与えることができます。
▼業務上横領の刑事告訴に関してはこちらをご覧ください
従業員による業務上横領は刑事告訴すべき?メリット・デメリットを解説
従業員が横領(着服)していた際の流れとは?
従業員が横領・着服していたときには、すぐに証拠を集めて事実関係を確認したうえで、処分をする必要があります。状況に応じて、損害賠償請求や刑事告訴も検討してください。
具体的には、以下の流れで進めましょう。
社内・社外含め証拠を集める
まずは、業務上横領の証拠を集めてください。証拠が不十分なのに解雇等の処分をすると、無効を主張されてトラブルが大きくなるおそれがあります。また、確証がない状態で本人に事情聴取をすると、証拠を隠滅される可能性が高いです。
客観的な証拠を揃えるのが特に重要です。証拠はケースによって様々ですが、口座の入出金記録、加害者が使用しているPCに残っている履歴などが考えられます。集金したお金を着服した際には取引先に領収書の存在を確認するなど、必要に応じて社外からも証拠を収集しましょう。
客観的証拠以外にも、他の従業員や取引先への聞き取りを進めてください。
証拠が集まったら、本人への事情聴取を行います。横領を認めたときには、認めた事実を書面化し、本人にサインさせましょう。認めないときにも、弁明内容を記録に残しておいてください。
損害賠償請求・刑事告訴を行う
横領の事実が証拠から明らかになり、法的責任を追及したいのであれば、民事上の損害賠償請求や刑事告訴を行います。
損害賠償請求をしたとしても、すでにお金を使い果たしており、返ってこないケースも多いです。
民事上の請求だけでうまくいかないときには、刑事告訴が有効な手段になります。刑事告訴によって、刑罰をおそれた加害者がお金を支払って示談しようとするケースも多いです。手元にお金がなくても、親族に借りるなど何とか金銭を集めて示談に持ち込もうとする場合もあります。
刑事告訴は、刑罰を求めるために行うものです。付随的な効果として、お金が返ってきて民事上の問題が解決する可能性があります。うまく活用して、被害の回復を図りましょう。
懲戒解雇する
社内での処分も進める必要があります。懲戒処分をすれば、本人に制裁を加えるとともに、他の従業員による業務上横領の防止にもつながります。
業務上横領の場合には、懲戒解雇が妥当なケースが多いでしょう。もっとも、就業規則の規定を確認したうえで、本人の言い分を聞くなど、適正な手続きを踏まなければなりません。
証拠が不十分なのに処分を進める、本人の言い分を聞かないなど、問題のある状態で懲戒解雇としてしまうと、不当解雇になるリスクが高いです。後から無効と判断されてしまうと、会社が多額の支払いを強いられてしまいます。懲戒解雇するにしても、慎重に進めるようにしてください。
弁護士に相談するメリットとは
従業員による業務上横領の疑いがあるときには、まずは弁護士に相談するのがオススメです。弁護士に相談すると以下のメリットがあります。
証拠の集め方がわかる
横領とひとくちにいっても、内容はケースバイケースです。弁護士は事案に応じて、証拠が足りているか、どんな証拠が必要か、どう集めればいいかといったアドバイスができます。
客観的証拠の集め方だけでなく、同僚や本人への聞き取りの方法もわかります。本人の自白があれば責任追及がしやすくなるため、弁護士のサポートが有効です。
責任追及の方法がわかる
横領の事実が明らかになったときには、責任追及の方法を検討しなければなりません。
弁護士は、民事上の損害賠償請求や刑事告訴ができるか、どちらが有効かをアドバイスします。もちろん、実際の手続きについてもサポートが可能です。
また、刑事で実刑にしたい場合には、横領金額がある程度のラインに達するまで泳がせる方が得策であるケースもあります。経験豊富な弁護士に相談すれば、状況に応じて適切な対処法がわかります。
まとめ
ここまで、従業員が業務上横領した場合の対応の流れなどについて解説してきました。
横領・着服行為は刑法上の業務上横領罪に該当し、刑事告訴が可能です。民事上の損害賠償請求をすれば、被害を金銭的に回復できる可能性もあります。刑事告訴によって示談交渉が進み、結果的に金銭の回収が実現するケースもあります。
従業員の業務上横領行為にお悩みの方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所は、被害者の方々から依頼を受け、数多くの告訴を受理させてまいりました。証拠収集、警察とのやりとり、民事上の請求などを徹底的にサポートいたします。
従業員の業務上横領にどう対処すべきかわからない方は、まずはお気軽にお問い合わせください。