横領被害にあったら

最終更新日:2024.01.29

業務上横領罪とは?量刑と構成要件、背任罪との違いについて被害者向けに解説

業務上横領罪とは、業務として管理を任された他人の財産を自分のものにする犯罪です。

法定刑は「10年以下の懲役」であり、通常の横領罪よりも重くなっています。被害金額が大きい場合には実刑判決がくだされ、犯人が刑務所に収監されるケースも多いです。背任罪と似ていて、場合によっては区別が難しい犯罪でもあります。

この記事では、業務上横領罪の量刑や構成要件、背任罪との違いなどについて解説しています。被害に遭われた方は、ぜひ最後までお読みください。

業務上横領罪とは

業務上横領罪とは、業務として管理を任されている他人の財産を、勝手に自分のものにする犯罪です。着服するケースが典型例ですが、他に売却、贈与、質入れなども該当します。

業務として預かっている財産は多額にのぼる場合もあり、被害が大きくなりやすいです。そのため、通常の横領罪よりも重い刑罰が定められています。

まずは、構成要件、量刑、時効といった、業務上横領罪の基礎知識を解説します。

業務上横領罪の構成要件

業務上横領罪の構成要件は大きく分けて以下の4つです。①から④の要件をすべて満たすと成立します。

①業務性

②委託信任関係に基づく占有

③他人の物

④横領

①「業務」は、委託を受けて物を管理・保管する事務です。運送業者・倉庫業者などの業務のほか、一般的な会社において金品を管理する仕事も含まれます。

②他人(顧客や会社など)の委託に基づいて、対象となる財産を占有していることが必要です。管理権限を有していない従業員が会社の財産を自分の物にしたときは、横領ではなく窃盗になります。また、経費の水増し請求など、会社を騙してお金を受け取った場合に成立し得るのは詐欺罪です。

③被害品が犯人以外が所有している物である必要があります。

④「横領」とは「所有者でなければできないような処分をする意思」が現れた行為です。着服・使い込みの他に、売却、贈与、質入れといった行為も含まれます。

業務上横領罪の量刑

業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。通常の横領罪が「5年以下の懲役」であるのと比べると、大幅に刑が重くなっています。

刑が重くなっているのは、想定される被害が大きいためです。業務として預かっている財産はプライベートよりも金額が膨らみやすく、着服・使い込み・売却などによる被害が甚大になり得ます。加えて、組織での横領は信頼を大きく裏切る行為であり、社会的信用を害する点も問題です。

実際の裁判においては、主に以下の要素を総合的に考慮して量刑が決定されます。

  • 被害額
  • 示談・被害弁償の有無
  • 手口、回数、期間
  • 動機
  • 前科の有無

特に影響が大きいのが被害額です。

被害額と量刑の関係性

被害額の大きさは、裁判で決定される量刑に大きな影響を与えます。

被害が100万円未満であれば、執行猶予つき判決になる可能性が高いです。執行猶予がつけば、執行猶予期間中に重ねて犯罪をしない限り、加害者は刑務所に収監されません。

たとえば「懲役2年、執行猶予4年」であれば、猶予期間の4年を何事もなく経過すれば、懲役刑は執行されません。新たに犯罪をして有罪判決が出れば、基本的に執行猶予は取り消され、元々の刑期と合算して刑に服します。

被害額が100万円を超えてくると、執行猶予がつかない実刑判決になり、刑務所に収監される確率が高まります。刑期は金額が大きいほど長くなりやすいです。1000万円程度までであれば、懲役2〜3年程度の実刑判決になります。

被害額が数千万円にのぼれば、3年を超える実刑判決もあり得るでしょう。億単位になれば、より長期になります。最高で10年です。

もっとも、被害額だけで量刑が決まるわけではありません。被害弁償や示談があれば、一定程度刑は軽くなります。反対に、被害額が少なくても、手口が悪質、似た種類の前科があるなどの事情があれば、刑は重くなりやすいです。

ご自身の受けた被害でどの程度の量刑が想定されるか知りたい方は、刑事事件に詳しい弁護士にご相談ください。

業務上横領罪の時効

業務上横領罪の公訴時効期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。犯行から7年が経過すると、刑事裁判で刑罰を科せなくなってしまいます。被害の事実に気がついていなかったとしても、公訴時効期間のカウントは止まりません。

刑事上の時効期間が過ぎても、民事上の請求はできる可能性があります。

民事上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、

  • 損害と加害者を知った時から3年
  • 行為の時から20年

のいずれか早い方です(民法724条)。被害に気がつかずに時が過ぎていたとしても、20年経っていなければ返還請求ができます。

刑事・民事いずれについても、加害者の責任追及のためには証拠が必要です。時効期間が迫っていないとしても、被害の疑いがあれば証拠が消えないうちに早めに動きましょう。

業務上横領罪の事例

業務上横領罪は、主に仕事として管理を任されていた財産を着服していた場合に成立します。典型例は、会社の経理担当者が管理を任された金銭を着服するケースです。

プライベートで管理を任された財産を着服・使い込み・売却などした際には単純横領罪が成立します。両者の違いは、業務として財産管理を任されていたかどうかです。

有償で引き受ける場合だけでなく、PTAやサークルといった非営利の活動であっても業務に該当します。単に友人から預かっていたにすぎないときは、単純横領罪の対象です。

以下で、業務上横領罪に該当する事例を紹介します。

従業員による横領

典型的なのは、会社の従業員による横領です。

まずは、客から物を預かる商売において横領が考えられます。たとえば、クリーニング店で客から預かった洋服を売却するケースです。

また、会社で金品の管理を任される立場にある従業員が、財産を自分の物にしたときにも業務上横領になります。例としては以下が挙げられます。

  • 経理担当者が、会社の預金から自己名義の口座に振り込みをした
  • 集金担当者が、取引先から回収したお金を持ち逃げした
  • 店舗責任者が、売上額を少なめに申告し、差額を着服した

従業員による着服・使い込み等が発覚した際には、証拠を集めて事実確認を行います。解雇を含む懲戒処分の他に、刑事告訴も可能です。告訴をすれば捜査の進展が期待できるとともに、刑罰を科されるのをおそれた加害者が被害弁償に積極的になるメリットがあります。

従業員が横領行為をした場合の刑事告訴に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。

参考記事:従業員による業務上横領は刑事告訴すべき?メリット・デメリットを解説

成年後見人による横領

会社の従業員による犯行の他にも、委託されて他人の財産を預かる立場にある人が着服・使い込み等をすれば、業務上横領になり得ます。

典型的な事例は、成年後見人による横領です。成年後見人は、認知症などで判断能力が低下した人の財産を管理する役割を担います。管理を任されているとはいえ、本人の利益になるように財産を活用しなければならず、勝手な使い込みや売却は許されません。

成年後見人による以下の行為は、業務上横領に該当します。

  • 本人の預金を引き出して自分の趣味に使う
  • 不動産を勝手に売却して代金の一部を懐に入れる
  • 本人の定期預金を解約して自分の借金返済に充てる

成年後見人には、弁護士・司法書士などの専門家が就任するケースが多いです。「専門家が着服するわけない」と思われるかもしれませんが、残念ながら専門家の成年後見人による横領も発生しています。言語道断の行為であり、重い刑が科されるケースがあります。

成年後見人は多額の財産を扱う場合も多く、被害が大きくなりやすいです。刑事告訴も選択肢に含めて対応する必要があります。

親族による横領も業務上横領罪になる場合がある

親族が成年後見人に就任するケースも多いです。成年後見人となった親族が本人の財産を使い込むと、業務上横領罪になります。

業務上横領罪では、通常は「親族間の犯罪に関する特例」が適用されます。「配偶者」「直系血族」「同居の親族」の間で横領行為をしても、刑が免除されて罪には問われません。いずれにも該当しない親族については親告罪となるため、告訴をすれば罪に問うことも可能です。

また、「配偶者」「直系血族」「同居の親族」であっても、成年後見人であれば「親族間の犯罪に関する特例」は適用されません。

そもそも親族間の犯罪に関する特例があるのは、親族での財産犯罪には国家が介入せずに家庭での解決に任せるべきとする「法は家庭に入らず」の考えによります。もっとも、成年後見人は裁判所により選任され、職務には公的な性質があります。「法は家庭に入らず」との考えは当てはまりません。

したがって、親族が成年後見人になって本人の財産を使い込んだ場合には親族間の犯罪に関する特例は適用されず、業務上横領罪に問われます。

親族による横領については、以下の記事を参考にしてください。

参考記事:遺産相続で相続人の横領・使い込みに気づいたら刑事告訴できる?

業務上横領罪と背任罪の違い

業務上横領と似た犯罪として、背任罪があります。背任罪は、他人から職務を任された人が、任務に背く行為をして職務を任せた人に損害を与える犯罪です。

いずれも「他人から委託を受けた人が信頼を裏切る」との性質を有します。

両罪の主な違いをまとめると、以下の表の通りです。

業務上横領罪背任罪
対象財物のみ財物+財産上の利益
経済的効果加害者に帰属本人に帰属
法定刑10年以下の懲役5年以下の懲役または50万円以下の罰金

横領は金銭や物が失われていないと成立しません。対して、背任は財物だけでなく財産上の利益を失った場合にも成立します。たとえば、銀行が融資先に対して有する返還請求権を行使できなくなったケースです。

両罪の区別については様々な見解がありますが、判例では、経済的効果が加害者に帰属する場合には横領、本人(会社)のみに帰属する場合には背任と考えられています。

たとえば、着服をすれば利益を加害者が享受するため横領です。対して、背任の典型例である不正融資の場合には、本人(会社)に損害という経済的効果が帰属する一方で、加害者自身の財産には影響がありません。

いずれの罪にあたるか微妙な事例においては、まず横領の成否を検討し、横領が成立すれば背任は成立しません。横領にならないケースでは、背任になるかを判断します。

両罪は法定刑も異なります。業務上横領罪は「10年以下の懲役」と比較的重いです。対して背任は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」であり、軽くなっています。

もっとも、会社役員などが背任行為をした場合には、特別背任罪が成立します。刑罰は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかであり、通常の背任罪より重いです。

業務上横領罪に関するよくある質問

業務上横領罪に関するよくある質問をまとめました。

業務上横領罪は親告罪なのか?

親告罪とは、起訴して刑事裁判にかけるために、被害者による告訴が必須とされる類型の犯罪です。名誉毀損罪や器物損壊罪などが親告罪に該当します。

業務上横領罪は親告罪ではありません。刑事告訴をしなくても、検察官が必要であると判断すれば加害者は起訴され、刑罰が科される可能性があります。

もっとも、親告罪でない犯罪においても、刑事告訴には意味があります。被害者から告訴がなされた際には、警察は検察に事件を送らなければなりません。したがって、確実に捜査を進めてもらえ、加害者に刑罰を科せる可能性が高まります。

加えて、告訴をすると、加害者が刑罰を恐れて被害弁償に積極的になる効果があります。特に被害額が多く実刑判決が見込まれるケースでは、加害者は刑務所行きを免れるためにはお金を返還して示談するほかありません。告訴により、加害者は刑務所に収監されるか、被害弁償をするかの二択を迫られるのです。

業務上横領罪は親告罪ではありませんが、告訴は有効な手段といえます。

業務上横領罪の疑いがあるときはどうすれば良い?

従業員が横領をした疑いがあるときには、まずはは事実調査をして証拠を集めましょう。この時、加害者本人に気づかれないように、くれぐれも注意してください。証拠隠滅を防ぐためです。

冤罪があってはならないのはもちろんですが、そもそも証拠がなければ、刑事上も民事上も責任を追及できません。被害弁償を求めるにせよ、刑事告訴をするにせよ、証拠は不可欠です。時間の経過によって消滅していく場合もありますので、適切な方法で、早めに証拠を保全してください。

証拠が揃ったら、本人から事情聴取をします。認めるか否かにかかわらず記録をとりましょう。

事実が確認できた後にとるべき方針は、ケースバイケースです。被害弁償を前提とする示談によって刑事責任を追及しない選択肢もありますし、刑事告訴する選択肢もあります。加えて、解雇を含む懲戒処分も検討しましょう。再発防止策の策定や社内外への説明も欠かせません。

いずれにしても、どの時期にどのような方法で証拠を集めるか、集まった証拠により業務上横領罪の立証が可能なのかという事項は、法的な知識が不可欠ですので、その判断は極めて難しいです。社内だけで判断せず、証拠収集の段階から弁護士に相談して方針を決定するのがよいでしょう。場合によっては、こちらの動きを悟られないようにして泳がせ、証拠を収集したり、起訴が確実な金額となるまで被害金額を拡大させる(被害金額が数百万円を超えた方が起訴の確率が高まり、結果的に被害金の回収可能性が大きく高まるというケースもございます。)、といった判断も必要となってきます。

弁護士に依頼すれば、証拠収集や告訴手続きも任せられます。

リード法律事務所では、これまで数多くの業務上横領事件について、刑事告訴により刑事事件化し、事件を解決してきましたが、その多くが、犯行発覚初期にご相談を頂き、リード法律事務所の指示のもと、適切な証拠を抑えられたケースです。まずは、お気軽にご相談ください。

横領被害でお悩みの時は弁護士に相談を

ここまで、業務上横領罪の量刑、構成要件、事例、背任罪との違いなどについて解説してきました。

業務上横領罪は、業務として管理を任された財産を勝手に自分のものにする犯罪です。通常の横領罪よりも刑が重くなっており、被害額が多いと実刑判決がくだされます。被害に遭った際には、刑事告訴も含めて対応を検討しましょう。

業務上横領の被害を受けて対応にお悩みの方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所では、被害者の方々から依頼を受け、業務上横領罪についても、数多くの刑事告訴を受理させてまいりました。方針の決定から証拠収集、警察とのやりとり、告訴状の作成、加害者との示談交渉まで、徹底的にサポートいたします。

業務上横領の被害にお悩みの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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