最終更新日:2023.12.13
横領と着服の違いとは?弁護士が事例でわかりやすく解説
会社の経理業務、お店のレジ、自治会の集金など、立場上他人のお金(またはモノ)を預かる機会は誰にでもあります。
もちろん多くの人は預かったお金を責任を持って管理しますが、まれに立場を利用して金品を自分のものにしてしまう人がおり、これは「横領」という犯罪にあたります。
横領と同様の状況で使われる言葉に「着服」もありますが、両者は何が違うのかよく分からない方も多いのではないでしょうか。
今回はこの「横領」と「着服」について、具体的なシチュエーションや事例にもとづき弁護士が違いを解説します。
目次
「横領」は刑法上の罪名、「着服」は一般語
辞書を見てみると、横領と着服について以下のように定義されています。
横領(おうりょう) | 他人または公共のものを不法に奪うこと。(大辞林4.0)不法に他人の物を横取りすること。(広辞苑第7版) |
着服(ちゃくふく) | 他人の物をこっそりと自分の物にしてしまうこと。(大辞林4.0)ごまかしてひそかにわが物とすること。(広辞苑 第7版) |
いずれも、他人の物(おもに金品)を自分のものにしてしまうという行為は同じですが、横領については「不法に」という説明が加えられていることからも分かるように、横領は法律上の用語であり「不法領得の意思を実現する一切の行為」とされています。
「不法領得の意思」とは耳慣れない言葉ですが、過去の判例を見ると「(お金やモノに対し)権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」と定義されています。(最判昭和27年10月17日)。
つまり、お金であれば自分のお金として個人の財布にしまったり、モノであれば自分の所有物のように使ったり売り払ったりすることが当てはまります。
これに対し、着服は一般語であり、他人の金品を自分のものにしてしまう行動全般を示します。どのような着服もなんらかの犯罪に該当しますが「着服罪」という罪名はありません。
具体的な着服の例としては次のようなものが挙げられます。
着服の例1)
アルバイトで店番をしているAに、お客さんが気付かずお札を1枚多く渡し、そのまま帰ってしまった。Aは店長に報告せず、その金を自分のものにしてしまった。
着服の例2)
知人の結婚祝いの品物を買うために自分を含む仲間5人から3,000円ずつ集金したBは、15,000円の品物を買うべきところ、10,000円の品物で済ませ、差額を自分のものにしてしまった。
着服の例3)
企業の経理部で現金の出納を担当しているDは、物品購入の領収書を書き換えて実際より高い金額に見せかけ、差額分の現金を自分のものにしていた。
1)や2)は俗に「ネコババ」とも言われ、3)はいわゆる「置き引き」ですが、ネコババや置き引きも一般語であり、法的には「横領」または「窃盗」「詐欺」などの犯罪に該当します。
横領と「窃盗」「詐欺」とはどう違う?
「窃盗」や「詐欺」も、横領と同じく他人の金品を無断で自分のものにしてしまう行為ですが、意味合いや法律上の成立要件は少しずつ異なります。
横領と「窃盗」の違い
横領は「立場上預かった金品」を着服してしまう行為であるのに対し、金庫にしまわれている現金やよその家の敷地内にある自転車など、自分に預けられていない金品を自分のものにすることを窃盗といいます。
横領と「詐欺」の違い
詐欺とは、人を欺いて財物を交付させた場合に成立する犯罪をいいます。
会社内で起きる横領と詐欺はよく似ていますが、以下のような行為は横領ではなく詐欺にあたります。
- 本来とは異なる経路を申請する通勤交通費の不正受給
- 請求書の改ざんによる経費の水増し
- 架空の出張で費用を申請する「カラ出張」 など
3種類の「横領罪」を事例で解説
刑法上の「横領罪」には以下の3種類があります。
- 単純横領罪(刑法第252条)
- 業務上横領罪(刑法第253条)
- 遺失物横領罪(刑法第254条)
単純横領罪の要件と事例
単純横領罪は、個人的に預かったり管理を任されたりしていた金品を横領した時に成立する犯罪です。
- 図書館で借りた本を返さず自宅に置きっぱなしにする
- 友人に借りたCDやゲームを勝手に売り払ってしまう
- 旅館の浴衣やバスタオルなどの備品を家に持って帰ってしまう
などが単純横領罪に該当します。
遺失物横領罪の要件と事例
遺失物横領罪は「占有離脱物横領罪」と呼ばれることもあり、忘れ物や落とし物を届け出ずに着服してしまう行為が典型的です。
例えば、電車で隣の人の膝の上にあるバッグから財布を盗むのは「窃盗」ですが、電車の座席に置き忘れた財布を警察や駅に届けず持ち去ると「遺失物横領罪」となります。
「あとで届けよう」と思って持ち帰るのは犯罪にはならないので大丈夫ですが、そのまま長期間自宅などに保管しておくと、場合によっては遺失物横領になってしまう可能性があるため、すみやかに届けましょう。
業務上横領罪の要件と事例
業務上横領罪とは、業務上の信頼に基づいて預かっている金品を着服する犯罪です。
具体的には次のような例が業務上横領に該当します。
- 経理部の担当者が出納帳簿を改ざんし、現金を自分のものにしてしまう
- 現金販売担当者が、売上の一部を会社や管理者へ渡さず自分のものにしてしまう
- 運送業者が配送中に高価だと思われる物品を抜き取り自分のものにしたり、売り払ってしまう
- 自治会やサークルの会計責任者が管理している会費などを使い込んでしまう
近年はさまざまな業務の電子化でお金やモノの動きの追跡が容易になりましたが、現金や手作業が主流の職場や団体では横領はまだまだ起こりうる犯罪です。
業務上横領罪が成立するタイミングは「預かった金品を自分のものにする意思が行動に現れた時点」であり、いったん成立すれば、罪を認めて返金したり「あとで返すつもりだった」と弁明したりしても、法的に犯罪をなかったことにはできません。
横領罪の量刑や罰金
単純横領罪・遺失物横領罪・業務上横領罪では、それぞれ量刑や罰金・科料が異なります。
単純横領罪 | 5年以下の懲役(刑法第252条) |
遺失物横領罪 | 1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料(刑法第254条) |
業務上横領罪 | 10年以下の懲役(刑法第253条) |
遺失物横領罪はもっとも量刑が軽く、初犯かつ金額が少ない(数万円以下など)場合には、起訴や懲役に至ることは少なく、罰金や科料または微罪処分となることもよくあります。
単純横領罪は5年、そして業務上横領罪は「立場を悪用し信頼を裏切った」という意味で単純横領罪よりも悪質な犯罪として扱われ、10年以下の懲役刑が定められています。
上記の刑法上の刑罰に加え、横領の被害者は、民事訴訟で金銭的な損害賠償を求めることもできます。
横領について判断に迷ったら、弁護士に相談を
職場や日常生活のさまざまな場面で、特定の人物が着服や横領をしているのではないか?と疑わしい時は、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。
- そもそも犯罪になるのかどうか分からない
- どの犯罪行為に該当するのか判断に迷う
- 相手に対してどのような対処を取ればいいのか分からない
- 損害賠償はどうやって行うのか、金額はいくらが適切なのか分からない
- 警察に相談したが被害届を受け取ってもらえなかった
といった場合は、専門家に相談することで最適なルートですみやかな解決へとつながります。
リード法律事務所では、業務上横領事件に精通した経験豊富な弁護士が相談を受け付けています。お気軽に以下までご連絡ください。