最終更新日:2023.12.13
遺産相続で相続人の横領・使い込みに気づいたら刑事告訴できる?
「他の相続人が遺産を使い込んでいた」と気がついた場合には、どうすればよいのでしょうか?
遺産を使い込んでいた相続人に対して、不当利得返還請求など民事上の請求をすれば、一定範囲で取り返すことが可能です。加えて、遺産の使い込みが横領罪や窃盗罪に該当し、刑事告訴できるケースもあります。
この記事では、相続人による遺産の横領・使い込みに成立する犯罪や、刑事告訴するメリット・注意点について解説しています。「他の相続人が遺産を使い込んでいるのではないか」と疑いをお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
相続人による遺産の横領(使い込み・着服)とは
高齢などの理由で判断能力が低下した人の財産管理を、親族が任されている場合があります。
相続人による遺産の横領とは、相続人である親族が、管理を任された財産を勝手に使ってしまうことです。横領は法律用語ですので、一般的には使い込み・着服と言った方がわかりやすいかもしれません。
たとえば、高齢の父の預金口座の管理を同居する長女が任されていたところ、長女が勝手に預金を引き出し、自分のために使ったケースです。父が「生活や介護にかかる費用だけを引き出してほしい」と依頼していたにもかかわらず、長女が自分用のブランド品を購入するために勝手に引き出していれば、横領に該当します。
遺産の横領(使い込み・着服)は、高齢で認知症になっていたなど、被相続人(亡くなった人)の判断能力が低下していたケースで発生しやすいです。被相続人の目が届かないのをいいことに、同居しているなど身近にいた相続人が遺産の使い込みをしてしまいます。
遺産の横領は、被相続人が亡くなって相続財産を確認している際に、他の相続人が不自然な引き出しに気がつき、発覚する場合が多いです。遺産の使い込みが疑われるケースでは、相続人同士で大きな争いになりやすいといえます。
遺産相続の横領被害は刑事告訴できる?
遺産の使い込みには、横領罪や窃盗罪が成立する可能性があります。被相続人から財産管理の委託があった場合には横領罪(刑法252条)、委託もないのに勝手に使った場合には窃盗罪(刑法235条)です。
一般的に刑事事件の被害者は、加害者に対して刑事告訴ができます(刑事訴訟法230条)。被害者が亡くなっているときでも、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹による告訴が可能です(刑事訴訟法231条2項本文)。
しかし、親族間での横領・窃盗の場合には刑が免除され、罪に問えず告訴もできないケースがあります。以下で、遺産の使い込みに対して刑事告訴ができるケース・できないケースを解説します。
直系血族・同居親族の場合不可
窃盗罪や横領罪には「親族間の犯罪に関する特例」が定められています(刑法244条、255条)。
特例の定めによると、「配偶者」「直系血族」「同居の親族」との間で窃盗や横領をした場合には、刑が免除されます(刑法244条1項)。
配偶者は夫や妻であり、直系血族は親・子・祖父母・孫などです。被相続人の配偶者や子が遺産を使い込んだとしても刑が免除され、罪には問われません。
配偶者や直系血族でなくても、同居している親族については同様です。同居している兄弟姉妹が遺産を着服していたときにも、刑罰は科されません。
相続人は配偶者や子(直系血族)であるケースが多いです。兄弟姉妹や甥姪が相続人となるケースはありますが、遺産を使い込んでいる際には同居している場合も多いでしょう。
したがって、ほとんどのケースで窃盗や横領の刑は免除されてしまい、刑事告訴して刑罰を求めることはできません。なお、内縁の配偶者については特例が適用されず、罪に問えるとされています。
相続人の配偶者による横領は告訴できる
遺産を使い込んだ人が「配偶者」「直系血族」「同居の親族」のいずれにも該当しなければ、刑事告訴は可能です。
窃盗や横領の「親族間の犯罪に関する特例」によると、上記のいずれにも該当しない親族の場合には、親告罪となります(刑法244条2項)。親告罪とは、告訴がないと起訴して刑事裁判にできない犯罪です。反対にいえば、告訴さえすれば刑罰を科せる可能性があります。
告訴できるのは、遺産を使い込んだのが「兄弟姉妹」や「相続人の配偶者」であったケースなどです。いずれも、同居していないことが条件になります。
預金名義人の「子」が使い込んだ場合には「直系血族」として刑が免除されますが、「子の配偶者」が使い込んだ場合には、同居していない限り罪に問えます。「子の配偶者」も親族には該当するため親告罪となり、刑罰を科すには刑事告訴が不可欠です。
したがって、遺産を使い込んだ人が同居していない「兄弟姉妹」や「子の配偶者」など、関係がやや遠い親族であれば、窃盗や横領で刑事告訴ができます。
後見人の着服は、告訴可能
「配偶者」「直系血族」「同居の親族」のいずれかに該当しても、後見人であった場合には「親族間の犯罪に関する特例」は適用されず、告訴ができます。
そもそも「親族間の犯罪に関する特例」が定められているのは、「法は家庭に入らず」という考えによります。親族間の財産犯罪については、国家が介入して刑罰権を行使するよりも、親族での解決に任せた方がよいとの考えです。
家庭裁判所に選任された後見人は、裁判所の監督のもと、本人の財産を管理する義務を負っています。後見人の職務は公的な性格を帯びており、親族であっても義務の内容は軽くなりません。「法は家庭に入らず」の考えはあてはまらないといえるでしょう。
後見人が親族の場合にだけ横領行為を許すわけにはいかず、「親族間の犯罪に関する特例」の適用はないとされています。
したがって、後見人に就任している親族が財産を着服したときには、刑事告訴をして刑罰を求められます。後見人は職務として財産を管理しているため、成立するのは業務上横領罪です。通常の横領罪に比べて刑罰が重くなります。
遺産相続で横領・使い込みされた場合の刑事罰とは?
遺産を使い込まれた場合には、横領罪、業務上横領罪、窃盗罪が成立する可能性があります。
成立する犯罪を簡単にまとめると次の通りです。
- 被相続人から管理を任されていた →横領罪
- 後見人として管理していた →業務上横領罪
- そもそも委託されていない →窃盗罪
以下で、各犯罪の成立要件や刑事罰を解説します。
横領罪
被相続人から財産管理を任されていた親族が権限を超えて使い込んだ場合には、横領罪(単純横領罪)が成立します。
横領罪とは、他人から管理を任された財産を自分の物にする犯罪です。管理を委託されて手元にあった財産を、自分の物にしたときに成立します。
たとえば「生活費や介護費のために預金を引き出して欲しい」と親が子に依頼して、通帳、印鑑、キャッシュカードを預けたケースを考えましょう。
依頼された通りに、渡された通帳等を利用して子が親のために預金を引き出しただけでは、犯罪にはなりません。ところが、手元に通帳等があるのを利用して、子が自分の欲しい物を買うためにお金を引き出した場合には横領罪が成立します。
横領罪の刑罰は「5年以下の懲役」です(刑法252条1項)。罰金刑がなく懲役刑のみであり、重大な犯罪といえます。
ただし前述の通り、横領罪には「親族間の犯罪に関する特例」が存在します。
「配偶者」「直系血族」「同居の親族」のいずれかが横領行為をしても、刑が免除され刑罰は科されません。刑事告訴して罪に問えるのは、加害者が同居していない兄弟姉妹などであるケースに限られます。
業務上横領罪
後見人に就任して職務上財産の管理をしていた親族が使い込みをした場合には、業務上横領罪が成立します。
業務上横領罪は、業務上占有していた他人の財産を自分の物にする犯罪です。経理担当者が会社の財産を着服する事例が典型です。
「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて、反復・継続して行っている事務をいいます。契約は存在しなくてもよく、報酬を受け取っている必要もありません。後見人になった親族が本人の財産を使い込んだ場合にも、業務上横領罪となります。
業務上横領罪の刑罰は「10年以下の懲役」です(刑法253条)。職務として管理を行っている者による横領は信頼を大きく裏切る行為であり、通常の横領罪よりも刑が重くなっています。
後見人が横領行為をした場合には、親族であったとしても「親族間の犯罪に関する特例」は適用されません。刑事告訴をして刑罰を求められます。
窃盗罪
そもそも財産管理を委託されていなかったのに勝手に使い込んだ場合には、窃盗罪が成立します。
窃盗罪は、他人が占有している財産を自分の物にする犯罪です。横領とは異なり、加害者に財産を占有する権限がない場合に成立します。
管理を任されていない親族が財産を勝手に使い込んだ場合には、窃盗罪となります。たとえば、親が通帳等を管理しているのに、子が無断で持ち出して預金を引き出したケースです。
窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。被害額などによって、実際に科される刑罰には幅があります。
ただし、窃盗罪にも「親族間の犯罪に関する特例」が適用されます。「配偶者」「直系血族」「同居の親族」のいずれかが窃盗をしても、刑が免除され刑罰は科されません。現実には、親族が遺産を使い込んでいても窃盗罪で刑事告訴ができないケースが多いです。
遺産相続の横領被害で刑事告訴するメリット
遺産の使い込みに対して、横領罪や窃盗罪で刑事告訴ができるケースは限られています。とはいえ、加害者が後見人や同居していない兄弟姉妹などであれば、告訴が可能です。
遺産相続に関係して横領被害に遭ったときに刑事告訴をすると、以下のメリットがあります。
返還してもらえる可能性が高くなる
刑事告訴をすると、使い込まれたお金を返還してもらえる可能性が高まります。
告訴は、刑事処分を求めるために行うものです。しかし、刑事処分が科されたとしても、お金を返すように命じられるわけではありません。お金を取り戻すには、不当利得返還請求など、民事上の請求を別途する必要があります。
もっとも、告訴をすると、刑罰を避けるために加害者がお金を返してくれるケースがあります。告訴をきっかけとして返還に応じてくれれば、訴訟等を起こす手間がかかりません。
告訴には、刑事処分を求めるだけでなく、金銭的な解決につながるメリットがあるのです。
弁護士をはさむことで、冷静に対処できる
刑事告訴はメリットが大きいですが、受理してもらえないケースも多いです。特に遺産の使い込みの場合には、警察が介入したがらないと考えられます。
警察が取り合ってくれないときには、弁護士に証拠収集や説得を依頼すれば告訴が受理される可能性を高められます。
弁護士が入れば、加害者との話し合いも進めやすいです。相続をめぐるトラブルは感情的な対立が激しく、冷静に話し合うのが難しいでしょう。刑事告訴したうえで弁護士に相手との交渉も任せれば、法律に沿った解決が可能になります。
遺産を着服した親族に対してお怒りになるのは当然です。とはいえ、怒りに任せて交渉すると、解決が遠のいてしまいます。弁護士を間に挟んで、冷静に話し合いを進めてもらいましょう。
遺産相続の横領被害で刑事告訴する際の注意点
遺産相続に関して横領の被害を受け、刑が免除されずに告訴が可能なケースでも、スムーズに手続きが進むとは限りません。時間的制約がある、警察が取り合ってくれないなどの問題が想定されます。
具体的には、以下の点に注意してください。
公訴時効に注意
遺産の使い込みに関する犯罪には、公訴時効期間が定められています。期間が経過すると起訴できなくなり、刑罰は科せません。
公訴時効期間は、単純横領罪では5年、業務上横領罪と窃盗罪では7年です(刑事訴訟法250条2項4号、5号)。刑罰を求めるのであれば、期間内に告訴する必要があります。
民事上の請求にも、時効期間が定められています。不当利得返還請求の時効期間は、使い込みを知ってから5年、あるいは使い込みがあったときから10年です。不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、知ってから3年、あるいは使い込みがあったときから20年になります。いずれにしても、期間を過ぎると請求が認められません。
時効期間に関わらず、証拠は時間の経過とともに失われてしまいます。使い込みがわかったら、すぐに動くようにしてください。
警察が介入してくれないこともある
遺産の使い込みに関しては、刑事告訴が法律上可能であっても、警察が介入したがらないケースが多いです。大抵は「家族の争いは自分たちで解決してくれ」「証拠が足りない」などと言われてしまいます。警察が法律を勘違いしている場合もあります。
警察が取り合ってくれないときには、弁護士にご相談ください。弁護士が法的知識に基づいて証拠収集や告訴状の作成、警察との交渉を行えば、告訴が受理されやすくなります。
告訴が受理されれば、刑事処分や金銭の返還が期待できます。警察に相手にしてもらえずお困りの方は、刑事告訴に強い弁護士に相談しましょう。
事例)遺産分割未了の共有財産の使い込みに対して刑事告訴を行なった案件
当事務所では、遺産分割未了で共有状態の財産が使い込まれたケースにおいて、刑事告訴を受理させた実績がございます。
当該事例では、被相続人X名義の預金口座に数千万円の預金が存在していました。相続人はAとBの2人です。
Xが亡くなり、被害者Aが口座を確認したところ、Xの死亡後に全額が引き落とされていたことが発覚します。通帳と印鑑を保管していたBに問いただしても納得のいく説明がなかったため、Aは警察に告訴しようとしますが、断られてしまいました。困ったAが、当事務所に相談した事例です。
Aの相談を受けた当事務所が、証拠を集めて警察への説得を行ったところ、告訴が受理されました。最終的にBが引き落とした遺産を返還すると表明し、争いが解決しました。
警察にいったん断られていても、弁護士に依頼すれば告訴が受理される可能性があります。諦める前に、まずはご相談ください。
まとめ
ここまで、親族が遺産を使い込んだ場合において、刑事告訴ができるか否かや、告訴のメリット・注意点などについて解説してきました。
遺産の使い込みには、横領罪や窃盗罪が成立します。もっとも、親族間では刑が免除されるケースも多いです。刑が免除されずに告訴できる場合には、お金を返してもらうためにも早めに動くようにしましょう。
遺産の使い込みの被害に遭った方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所では、被害者の方々から依頼を受け、横領罪を含む数多くの告訴を受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉まで徹底的にサポートいたします。
遺産の使い込みで告訴できるかわからない、警察に取り合ってもらえず困っているといった方は、まずはお気軽にお問い合わせください。