横領被害にあったら

最終更新日:2024.03.22

業務上横領が社内で起きた際の証拠の集め方・注意点を弁護士が解説

社内で業務上横領が発生した際には、加害者にどんな措置をとるかにかかわらず、まずは証拠を集めなければなりません。客観的な証拠を集めたうえで情報を整理し、加害者に事情聴取をする流れです。証拠を隠滅されないために、早めに動く必要があります。

この記事では、業務上横領が社内で起きた際の証拠の集め方や注意点などについて解説しています。社内で横領が発生してお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。

社内で従業員・役員による横領行為が発覚したら

従業員や役員による横領が発覚した際には、まずは証拠を集めてください。

この時、加害者に気づかれないように、十分注意してください。

横領の加害者に対しては、懲戒処分、民事上の返還請求、刑事告訴などの対応が考えられます。いずれの方法を採るにせよ、証拠は不可欠です。証拠がないと、懲戒解雇が無効とされる、被害額を返してもらえない、刑事告訴が受理されないといった問題が生じます。

「本人に確認すべきではないか」とお考えになる方もいるかもしれません。しかし、最初から加害者に事情聴取をすると、否定されたときに追及できる手段が限られてしまいます。加害者が証拠隠滅を行い、責任を問えなくなるリスクも高いです。

あらかじめ証拠を集めて情報を持って事情聴取に臨めば、最初は否定しても観念して認める可能性があります。否定を続けて裁判での争いになった場合でも、十分な証拠を示せば会社に有利な判断がくだされるはずです。

確実に加害者に責任をとらせるために、必ず始めに証拠を収集しましょう。

横領が社内で行われた際の証拠収集方法

社内での横領には、様々なバリエーションがあります。

  • 経理担当者が、会社の口座から自己名義の口座に振り込みをする
  • 集金担当者が、取引先から回収した金銭を持ち逃げする
  • 店舗責任者が、レジにある現金を着服する

社内で横領があった際には証拠収集が不可欠ですが、集めるべき証拠の内容や収集方法はケースバイケースです。

いずれにしても、事情聴取の前に客観的な証拠を揃え、事実を整理しておく必要があります。確認できた情報を元に、加害者本人への事情聴取を行いましょう。

以下で、横領の証拠収集方法について解説します。

客観的証拠を収集する(防犯カメラ・架空の契約書など)

横領の客観的な証拠として考えられるものは様々であり、事案に応じて適切な収集方法を考えなければなりません。

たとえば、レジから現金を着服した疑いがある場合には、店舗の防犯カメラ映像を確認してください。現金を持ち出す場面をとらえていれば、直接の証拠になります。映像が不鮮明な場合もあるので、顔や手元がはっきりと見えるかに注意しましょう。常習性が疑われる際には、可能な範囲で複数回の映像があるとベストです。防犯カメラ映像は時間が経つと消えてしまうので、早めに確保してください。

防犯カメラ映像以外にも、現金の記録やレジの操作履歴などが証拠になり得るので、合わせて確認しましょう。多くの証拠があればあるほど、互いが補強しあって確実になります。

有力な証拠は事案によって様々であり、たとえば架空取引をでっち上げていたケースでは契約書などの原本を見る必要があります。会社の製品や備品を持ち出してネット上で転売している場合には、ネットオークションやフリマアプリの出品状況がわかる画面の保存・印刷が有効です。

いずれにしても、疑いのある行為から証拠になりそうな物を考え、収集しなければなりません。何を集めればいいかわからないときには、弁護士に相談しましょう。

横領に関する情報を整理する

単に証拠を集めるだけでなく、得た証拠から情報を整理しておく必要があります。

いくら証拠があっても、ただ突きつけるだけでは、言い逃れされてしまうかもしれません。犯行の事実について整理したうえで詳細に理解しておかないと、事情聴取でうまく発言を引き出せないおそれがあります。

事情聴取をする前に確認しておくべき事項としては、たとえば以下が挙げられます。

  • 犯行の日時や被害金額
  • 書類等から推測できる行為態様
  • 犯行当日の加害者の行動
  • 署名や捺印が誰のものか
  • 証拠に穴がないか

以下で詳しく解説します。

日時と金額

横領行為の日時や被害金額は必ず確認してください。返還を求めるにせよ、刑事告訴をするにせよ、犯行の事実を示すためには必要な情報です。明確になっていないと、損害賠償請求や刑事告訴が難しくなってしまいます。

日時については、客観的な記録がある場合にはわかりやすいでしょう。防犯カメラ映像、操作記録、ネット上の出品状況などから明らかになるはずです。

金額についても、入出金記録など客観的な記録から特定するようにしてください。

場合によっては、すべての行為について証拠が揃わないケースもあるかもしれません。刑事責任を追及する場合には、日時や金額が特定できている行為に限って刑事告訴する方法もあります。できる範囲で明確にしておきましょう。

横領のために使用された書類

デジタル記録だけでなく、犯行のために使用された書類についてもよく確認し、判明した情報を整理しておく必要があります。

犯行に関係する書類としては、架空の契約書、請求書、発注書、領収書などが挙げられます。

たとえば、架空の取引をでっち上げている場合には、偽造された書面を確認します。集金担当者が取引先から回収したお金を着服しているときには、取引先から領収書を提出してもらい、チェックしましょう。

横領に使用された書類からは、犯行の日付や金額などが明らかになる可能性があります。上述した通り、日時や金額は不可欠な情報であるため、必ず確認しておきましょう。

送金伝票(銀行を経由している場合)

銀行を経由して横領がなされる場合もあります。たとえば、経理担当者が会社の預金から自己名義の口座に振り込みをしているケースです。

銀行を経由しているときには、預金通帳と銀行印を持参して、銀行で振込依頼書や払込伝票などの写しを入手しましょう。手書きの書類からは筆跡がわかり、重要な証拠になります。

口座の入出金に関するその他の記録も、送金された日時や金額を特定するために有効です。取引明細を取得して、確認するようにしてください。

筆跡・捺印の確認

集めた書類の筆跡や捺印を調べて、誰のものかを確認しておきましょう。

確実に加害者が書いたといえる他の書面と比べてみて筆跡が似ていれば、加害者が作成したものと推測できます。「私が作成したものではない」と弁解されても、反論が可能です。

捺印も手掛かりになり得ます。印鑑を偽造する、無断で持ち出すなど、横領を実行するために不正行為に出ている可能性があります。印鑑の保管状況も合わせて確認しておいてください。

犯行日時の行動調査

加害者から「その日は他のことをしていた」と反論されるおそれがあります。アリバイを主張された際に反論できるように、横領した社員・役員が犯行日時に何をしていたかの裏付けをとっておくのがよいです。

加害者の行動は、業務日報、メール記録などで確認します。

同僚の証言も有力な証拠になり得ます。ただし、裏で加害者とつながっているおそれもゼロではありません。調査の事実が犯人に伝えられ、証拠隠滅を図られるおそれがあります。信頼できる従業員かを吟味し、調査の事実が広まらないように注意してください。

行動を調査しても決定的な証拠にはならないかもしれません。とはいえ、少なくとも犯行が可能であったことは証明できます。アリバイの主張を封じるために、事前に確認しておきましょう。

情報の整合性がとれているか確認する

情報を集めたら、全体として整合性がとれているかを確認してください。

横領の疑いが生じると、どうしても犯行があったと思い込んでしまいがちです。万が一冤罪であれば、反対に会社が名誉毀損などで損害賠償請求を受ける可能性も否めません。証拠同士に矛盾がないかをチェックすれば、冤罪のリスクを下げられます。

また、証拠に穴がないかを確認すれば、不足している情報が明らかになるケースもあります。欠けている証拠を補充できれば、より説得力が増すはずです。

集めた証拠を精査して犯行の全体像を明確にできれば、より確実に加害者への責任追及ができます。偏った見方をせずに、冷静に証拠を分析するようにしてください。

事情聴取を行う

証拠が出揃って情報を整理できたら、いよいよ加害者本人への事情聴取です。認めるにせよ否定するにせよ、特に重要な局面ですので慎重に進めましょう。

もっとも、事情聴取は、自白として裁判でも重要な証拠として扱われます。自白でしゃべらせる内容は、単に、私が100万円横領しました、という一般の方が考える内容では有効な証拠とならない場合が多いです。法的に有効な自白とは、検察官が起訴する内容(=公訴事実)つまり、犯行の時間、場所、方法(その他、動機、経済的利益の帰属の方法、共犯者がいる場合の利益の分配の方法)など、かなり詳細・具体的でなければならず、そのため法的知識が不可欠です。自白をさせる場合には、その時点までに集めた客観証拠をご提示のうえ、刑事告訴を専門とする弁護士に任せてしまうのが確実です。

以下では、弁護士に依頼せずにご自身で自白を取る場合の注意点となりますが、ご自身での事情聴取はお勧めできない、という前提でお読みください。

まず、聴き取りをすること自体は、事前に伝えないようにしてください。あらかじめ知っていると、証拠隠滅を図ったり、言い訳を考えたりする時間を与えてしまいます。最悪の場合、逃げられてしまうかもしれません。いきなり呼び出して、そのまま開始するのがよいでしょう。

事情聴取の際には、録音による記録を必ずとってください。加害者の証言は重要な証拠です。

会社としては、聴き取りはひとりでは行わないようにしましょう。ひとりで聴取をすると、話に気をとられて十分にメモがとれないおそれがあります。複数人で臨み、間違いなく記録できるようにするとよいです。

また、犯人と決めつけず、じっくり話に耳を傾けるのも重要です。犯人だとの思い込みが強すぎると、冤罪を生じさせるおそれがあります。

仮に犯行をしたのが事実であったとしても、言い分をしっかりと聞いていないと、心を開いてくれず自白を得られないかもしれません。主張の問題点も的確に指摘できないでしょう。

事前に得た資料と本人の回答に矛盾がないかを確認しつつ、よく話を聴きながら進めるようにしてください。

自白した場合は支払い誓約書を書かせる

本人が自白したときには、支払い誓約書を書かせるとよいです。聴き取りの場では認めていたとしても、後から否定されるケースもあります。書面で事実を認めて支払いを約束させれば、強力な証拠になります。「言った言わない」の水掛け論になるのを防ぐために、必ず誓約書を書かせてください。

書面には、横領の日時、場所、金額、などを記載してもらいます。本文は会社の方で用意して署名だけ要求する方法もありますが、本文も直筆で書いてもらうのも選択肢のひとつです。全文を書かせれば、あとから否定される確率を下げられます。

認めない場合は弁明書を書かせ、議事録と共に残す

本人が認めない場合は、弁明書を書かせます。たとえ否定していても、言い分を記載させる意味は大きいです。

弁明書に矛盾点があれば、会社は反論のための証拠を確認できます。加害者としても、書いているうちに自分の主張の問題点に気がつき、ウソをつき通すのを諦めるかもしれません。

議事録として会社側で記録を残すのはもちろんですが、合わせて加害者に弁明書を書かせるようにしてください。

なお、絶対にしてはいけないのが自白の強要です。脅すなどして無理やり認めさせると、担当者に犯罪が成立するおそれがあります。会社側が損害賠償請求を受ける可能性もあるでしょう。自白を強要すれば、たとえ記録を残したとしても証拠としての価値が薄れてしまいます。

社内で横領が行われたら?証拠収集の際の注意点

社内で横領があったとしても、ほとんどの会社で経験がなく、証拠収集のノウハウがないかと思います。自分たちで証拠収集を進める際には、以下の点に注意してください。

冤罪に注意

絶対に避けなければならないのが冤罪です。

事実無根なのに横領の疑いをかけられた従業員は、強く反発すると考えられます。会社の方が、名誉毀損などによる損害賠償請求を受けるおそれがあります。そこまで至らなくとも、会社への強い不信感を抱くはずです。

冤罪を防ぐためには、思い込みで進めないようにしてください。事実があったと思い込んでいると、裏付ける証拠しか見なかったり、無理やり自分たちで作ったストーリーにあてはめたりするおそれがあります。偏った見方で証拠を集めるのはやめましょう。

証拠隠滅されないように素早い対応を

疑いが生じた際には、すぐに証拠収集を始めてください。

会社の対応が遅れると、加害者が証拠隠滅を図るおそれがあります。記録の消去、書類の処分などにより証拠がなくなると、たとえ横領の事実があったとしても責任を追及できなくなってしまいます。

また、加害者が動いていなくても、防犯カメラ映像のように時間とともに消えていく証拠は多いです。同僚や取引先の証言を得たいときにも、時が経てば記憶が薄れてしまうでしょう。

実際にどのような措置をとるかは別にして、とにかく早めに証拠収集に着手してください。

業務上横領被害に逢ったら弁護士に相談!

ここまで、業務上横領が社内で発生した場合の証拠収集方法や注意点などについて解説してきました。

横領の疑いがある際には、まずは早めに証拠を集める必要があります。事案に応じて必要な証拠を集めて整理したうえで、本人への事情聴取に臨みましょう。

社内で業務上横領が発生した際には、リード法律事務所にご相談ください。

横領とひとくちに言っても、集めるべき証拠はケースバイケースです。何をどのように集めればいいかわからない方も多いでしょう。弁護士は事案に応じて、必要な証拠や収集方法についてアドバイスができます。「業務上横領の被害を受けた疑いがあるが証拠がない」「どう集めればいいかわからない」といった方でも、まずはお気軽にお問い合わせください。

メニュー

お問い合わせ・相談

記事カテゴリー

03-6807-5708 受付時間 平日 9:00~21:00 LINE相談 相談フォーム