最終更新日:2023.09.22
不同意性交等罪とは?刑事告訴の流れを弁護士が解説
目次
同意していない性行為を強要されたときには、加害者に不同意性交等罪が成立します。2023年の法改正により成立要件が明確化され、従来は罪に問えなかったケースでも刑罰を科せる可能性が高まりました。
この記事では、不同意性交等罪の成立要件や法改正のポイント、刑事告訴の流れなどについて解説しています。望まない性行為を強要された被害者の方は、ぜひ最後までお読みください。
不同意性交等罪とは
同意なく性行為を強要する行為について、従来は「強制性交等罪(旧:強姦罪)」と「準強制性交等罪(旧:準強姦罪)」で処罰されていました。法改正により両罪が統合され、2023年(令和5年)7月13日より「不同意性交等罪」との名称に変更されています。
改正により、処罰される行為が明確化され、上下関係を利用した性行為の強要など、従来は見過ごされやすかった類型についても罪に問えるようになりました。
同意しない意思を形成・表明・全うできないケースとは?
不同意性交等罪は「同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態」の相手に性交等をしたときに成立します。
この状態になる原因として、具体的に以下の8つの事由が挙げられています(刑法177条1項、176条1項)。
1号 | 暴行・脅迫 | 暴力や脅しにより性行為を強要する |
2号 | 心身の障害 | 障害ある状態にさせて、または元から障害のある人に性行為をする |
3号 | アルコール・薬物 | 酒や薬物を摂取させて、または酩酊状態にあることを利用する |
4号 | 睡眠その他意識不明瞭 | 睡眠など意識が不明瞭な状態にさせて、またはその状態を利用する |
5号 | 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない | 不意打ちで性行為をし、拒否する時間を与えない |
6号 | 予想と異なる事態に直面し恐怖・驚愕 | 予想外の事態に直面して意思表示ができない(フリーズ)状態を利用する |
7号 | 虐待に起因する心理的反応 | 虐待により生じる恐怖心、抵抗を無駄と考える状態などを利用する |
8号 | 経済的・社会的関係の利用 | 上司と部下、教師と生徒などの関係を利用する |
他には、行為がわいせつでないと誤解させて、あるいは行為をする人が別人だと勘違いさせて性交等に及んだ場合にも成立します(刑法177条2項)。
不同意性交等罪と強制性交等罪・準強制性交等罪の違い
現在の不同意性交等罪は、以下の通り2017年と2023年に大幅に改正され、罪名・構成要件・刑罰などが変化してきました。
~2017年7月12日 | 「強姦罪・準強姦罪」・親告罪・被害者:女性、加害者:男性に限定・「姦淫」(性交のみ)を処罰・法定刑は「3年以上の有期懲役」 |
2017年7月13日~2023年7月12日 | 「強制性交等罪・準強制性交等罪」・非親告罪に変更・性別問わず被害者・加害者になる・処罰される行為を「性交等」に拡大・法定刑を「5年以上の有期懲役」に引き上げ |
2023年7月13日~ | 「不同意性交等罪」・成立要件の拡大(前述の通り)・時効期間を10年から15年に延長・性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げ・夫婦間で成立することを明確化 |
2度にわたる法改正のポイントを、以下で詳しく解説します。
被害者・加害者の性別
かつての強姦罪では、被害者は女性、加害者は男性に限定されていました。2017年の改正以降は、性別に関係なく被害者・加害者になり得るように変更されています。
また、強姦罪では実行行為が「姦淫」とされ、男性性器を女性性器に挿入することだけが処罰対象でした。2017年の改正により「性交等」となり、肛門性交や口腔性交も処罰対象になりました。さらに2023年の改正では、膣・肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為も含まれるようになっています。
非親告罪に変更
かつての強姦罪は「親告罪」という類型の犯罪でした。親告罪とは、加害者を起訴して裁判にかけるために、被害者による告訴を必要とする犯罪です。裁判で性行為の事実が明らかになるとプライバシーが侵害されるため、被害者の意思を尊重すべきと考えられ、親告罪とされていました。
もっとも、告訴するかどうかの選択を委ねられた被害者の負担が重く、結果的に加害者が処罰されない事態を招く点が問題として指摘されていました。そこで2017年の改正により非親告罪とされ、被害者の告訴がなくても起訴できるようになっています。
法定刑の引き上げ・時効の延長
かつての強姦罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」でした。懲役3年の場合には、執行猶予がつく可能性があります。非常に悪質な犯罪であるのに刑務所に収監されないケースがあり、刑が軽すぎるとの批判がありました。そこで、2017年の改正により「5年以上の有期懲役」に変更され、基本的には実刑判決がくだされるようになっています。
また、従来は公訴時効期間が10年であり、犯行から10年を経過すると起訴できなくなっていました。短すぎると批判があり、2023年の改正により15年に延長されています。被害者が18歳未満のときは、18歳になるまでの期間がプラスされるとのルールも設けられました。
性交同意年齢の引き上げ
性交同意年齢も引き上げられました。性交同意年齢に達していない子どもと性交等をしたときには、同意があったとしても犯罪になります。
従来は、性交同意年齢が13歳とされていました。しかし、中学生程度の子どもは、性交により生じる結果を十分理解しているとは限りません。そこで、2023年の改正により16歳に引き上げられました。16歳未満の子どもと性交等をした場合には、同意の有無に関わらず不同意性交等罪が成立します。
ただし、同世代の交際の場合にも犯罪となるのを防ぐため、13歳以上16歳未満の者が同意したときには、5歳差以内であれば処罰されません。たとえば、18歳と15歳の男女であれば、確実な同意がある限り罪にはなりません。
夫婦間でも適用される
夫婦の間であっても、意思に反して性交等を強いられるケースはあり、犯罪になり得ます。もっとも、従来は条文上明らかではありませんでした。
2023年の改正により「婚姻関係の有無にかかわらず」という文言が追加されました。夫婦間であっても適用されることが明確になっています。
性被害に遭った時は
性被害に遭ったときは、まずは身の安全を確保してください。
その後、被害についてひとりで悩まずに、すぐに関係機関へ相談しましょう。相談機関としては、ワンストップ支援センター(#8891)や警察の性被害専用電話(#8103)などがあります。ワンストップ支援センターでは、医療面・法律面など様々なサポートを受けられます。
医療機関に行けば、ケガの手当や、望まない妊娠を防ぐためのアフターピルの服用が可能です。できるだけ早めに受診しましょう。病院では性感染症の検査もできます。
加害者を追及するためには、証拠保全も重要です。性被害に遭っても、証拠がないばかりに泣き寝入りするケースも珍しくありません。
身体、衣服、持ち物などに、加害者の毛髪・体液といった痕跡が残っている可能性があります。できればシャワーを浴びずに関係機関に行くようにしてください。LINEなどのメッセージも証拠になるため、消去しないようにしましょう。
不同意性交等罪で刑事告訴する流れ
不同意性交等罪の被害に遭ったときには、刑事告訴も非常に有効な選択肢のひとつです。刑事告訴をして処罰を希望する意思を示せば、犯人に刑罰が科される可能性が高くなります。
たしかに、現在の不同意性交等罪は非親告罪であり、加害者の処罰のために被害者の告訴は不可欠ではありません。とはいえ、起訴して裁判にするかを検察官が判断するにあたって、被害者の意思は極めて重要な要素です。被害者が告訴により処罰を求める意思を示せば、起訴されやすくなります。
刑事告訴は、以下の流れで行いましょう。
可能な限り証拠を残す
刑事告訴をする場合には、できる限り証拠を残すようにしてください。証拠が多い方が、警察に告訴を受理してもらいやすいです。反対に証拠が足りないと、警察が告訴を受理してくれない可能性が高まります。
証拠になり得るものとしては、以下が挙げられます。
- 被害時の衣服、下着、持ち物
- 加害者とのメール・LINEのやりとり
- 家族や友人に相談した際のメール・LINEのやりとり
- 被害直後のメモ、日記
- 防犯カメラの映像
- 病院のカルテ
- 破れた衣服やケガの写真
加害者が「被害者は同意していた」と主張するケースは多いです。そこで、性交等がなされた事実の証拠の他に、同意がなかったことの証拠も必要になります。
法改正により犯罪成立が認められやすくなったとはいえ、証拠は不可欠です。可能な限り残しておく必要があります。
告訴状を作成する
告訴する際には、告訴状を作成して警察に提出しなければなりません。法律上は口頭でも告訴できるとされていますが、実際には告訴状を提出する必要があります。
告訴状に決まった様式はありませんが、書くべき事項は漏らさないようにしてください。告訴する犯罪事実や関係する事情を記し、処罰の意思を示さなければなりません。法的に犯罪が成立することがわかるように記載する必要があります。
証拠を用意したうえで告訴状を作成して提出すれば、刑事告訴ができます。
性被害に遭ったときの証拠や刑事告訴については、以下の記事も参考にしてください。
参考記事:レイプ被害に遭ったときの対処方法は「被害届を出す」だけではない
被害届・告訴状を受理してもらえなかったら
性被害について被害届や告訴状を提出したにもかかわらず、警察に受理してもらえないケースも非常に多いです。理由としては、証拠が足りずに犯人や犯行態様を特定できないことなどが挙げられます。
参考記事:警察が告訴を断る理由と告訴を受理してもらうための5つのポイントを弁護士が解説
たしかに、被害から長い年月が経過していて物的証拠がまったくなければ、加害者を処罰するのは困難です。しかし、十分な証拠があるにもかかわらず、警察が告訴を受理しないケースもあります。性被害に遭ったうえに警察にも頼れず、心身ともに大変な思いをされている被害者の方もいらっしゃるでしょう。
警察が対応してくれないときには、弁護士に相談するのが有効です。
刑事告訴について豊富な経験を持つ弁護士は法的知識をもとに警察を説得し、告訴が受理させることが可能です。また、証拠収集、告訴状の作成、警察とのやりとりをすべて任せられるため、被害者の負担が大幅に削減されます。
被害により大変な思いをされている中で、警察とのやりとりはストレスにつながりかねません。弁護士に告訴を依頼すれば、少しでも負担を軽減したうえで、受理される可能性を高められます。
以下は、性被害について、いったん断られた刑事告訴を受理させたケースです。
解決事例:レイプ被害について、強制性交致傷罪で刑事告訴が受理された案件
法改正で時効が5年延長
「被害から時間が経っていて、今さら処罰を求めるのは無理だ」と諦めていませんか?
公訴時効期間を経過していると、告訴ができなくなってしまいます。しかし、2023年の法改正により、不同意性交等罪の時効期間が、従来の10年から15年に延長されています。ケガをした不同意性交等致傷罪の場合には、時効期間は20年です。被害時に18歳未満であったときには、18歳になるまでの期間が追加されます。
以前の犯行であっても、改正法が施行された2023年7月13日の時点で時効が完成していない行為については、時効期間延長の効果が及びます。10年以上前に受けた被害についても告訴できる可能性はあるので、諦めずに弁護士に相談してみましょう。
まとめ
ここまで、不同意性交等罪について、法改正のポイントや刑事告訴の流れなどについて解説してきました。2023年の法改正により、成立範囲が広がったほか、時効期間や性交同意年齢が変更されています。被害に遭われた方は、刑事告訴するのもひとつの選択肢です。
性被害に遭われて刑事告訴を検討している方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所は被害者の方からご依頼を受け、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまでお任せいただけます。泣き寝入りする前に、まずはお問い合わせください。