最終更新日:2024.04.16
不同意性交等罪の「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」を弁護士が解説
2023年7月の法改正により、強制性交等罪と準強制性交等罪が統合されて名称が変更され、不同意性交等罪となりました。
改正に伴って「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」との要件が加わっています。いきなり性行為をされ、抵抗する時間がなかったケースも処罰対象となりました。
この記事では、不同意性交等罪の成立要件について、「同意しない意思を形成・表明・全う」の点を中心に解説しています。ご自身の受けた被害について加害者に罪を問えるか知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
不同意性交等罪が創設された背景
不同意性交等罪は、強制性交等罪と準強制性交等罪を統合して創設された犯罪です。
従来の強制性交等罪では「暴行または脅迫」が必須の要件となっていました。しかも判例上「反抗を著しく困難にさせる程度」の暴行や脅迫が求められ、罪に問えないケースがありました。
しかし、強い暴行や脅迫がなくても、急に行為に及ばれた場合には、抵抗する余地がないケースも存在します。被害者の意思に反して性交等がなされたにもかかわらず、暴行や脅迫がないことを理由に処罰できないのは問題です。
問題点を解消するために法改正がなされ、条文上の成立要件が変更されました。
不同意性交等罪の成立要件のポイント
改正後の不同意性交等罪においては、被害者が「同意しない意思を形成・表明・全う」できない状態にあるかどうかがポイントとされています。「同意しない意思を形成・表明・全う」できない状態に陥る原因として8つの類型が条文上示され、従来は罪に問いづらかった事例でも成立する点が明確になりました。
まずは、改正後の成立要件のポイントを解説します。
「同意しない意思を形成・表明・全う」できるか
メインとなる要件は、被害者が「同意しない意思を形成・表明・全う」するのが困難な状態であった点です。
性犯罪が処罰対象になっている主な理由は、性的な事柄について被害者に自由な意思決定をできなくさせた点にあります。自由な意思決定ができる状態であったかを判断するために、「同意しない意思を形成・表明・全う」という要件が規定されました。
では「形成」「表明」「全う」とは、具体的にどんな意味なのでしょうか?
「形成」するのが困難な状態とは?
同意しない意思を「形成」するのが困難な状態とは、被害者にとって性交等をするかどうかを判断するきっかけや能力がない状態です。そもそも性交等をするかどうかの判断すらできない状態で行為に及ばれた場合には、被害者の同意があったとはいえません。
例としては以下が挙げられます。
- 知的障害により判断能力がない
- 飲酒のため酩酊状態であった
- 眠っていて意識がはっきりしない
- いきなり行為をされ判断する余地がない
- 思わぬ事態に直面してフリーズ状態に陥った
- 虐待が原因で拒否する発想自体がない
判断すらできない状態で性交等がなされるケースは、拒否の意思を示したり抵抗したりしていないため、従来は処罰対象になりづらかったといえます。改正によって、同意しない意思を「形成」するのが困難な状態も保護の対象になりました。
「表明」するのが困難な状態とは?
同意しない意思を「表明」するのが困難な状態とは、被害者が性交等をしたくないと判断できたものの、実際に意思を示すのが難しかった状態です。たとえ内心で拒否していたとしても、加害者に意思を示せない状況はあります。
たとえば以下のケースです。
- 加害者が直属の上司であり、仕事上の重大な不利益が想定され拒否する意思を示せなかった
- 相手がスポーツのコーチで、行為に応じないと試合に出させてもらえず今後プロになる道が絶たれる状況であった
- 教師と生徒の関係で、断れば進級させてもらえないと考えた
不利益が生じると想定されるために、被害者が意思を示せないケースはよくあります。従来は保護されづらかったパターンですが、改正により明確に処罰対象とされました。
「全う」するのが困難な状態とは?
同意しない意思を「全う」するのが困難な状態とは、性交等をしたくないと判断でき実際に意思を示したものの、意思通りにするのが難しかった状態です。拒否しようにも、相手が強引に進めて止められない状況を想定した規定です。
具体的には以下の事例が考えられます。
- 身体を強く押さえつけられて動けなかった
- 凶器を突きつけられ従うほかなかった
- いったん拒否したが無視されて何もできなかった
加害者が無理やり行為に及んだとわかりやすい場合が多く、従来も比較的罪に問いやすかった類型といえるでしょう。
「同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態」に陥る原因
ここまで説明した「同意しない意思を形成・表明・全う」するのが困難な状態になる原因として、条文上、以下の8つの類型が挙げられています(刑法177条1項、176条1項各号)。
1号 | 暴行・脅迫 | 暴力や脅しにより性交等を強要する |
2号 | 心身の障害 | 障害ある状態にさせて、または元から障害のある人に性交等をする |
3号 | アルコール・薬物 | 酒や薬物を摂取させて、または酩酊状態にあることを利用する |
4号 | 睡眠その他意識不明瞭 | 睡眠など意識が不明瞭な状態にさせて、またはその状態を利用する |
5号 | 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない | 不意打ちで性交等に及び、拒否する時間を与えない |
6号 | 予想と異なる事態に直面し恐怖・驚愕 | 予想外の事態に直面して意思表示ができない(フリーズ)状態を利用する |
7号 | 虐待に起因する心理的反応 | 虐待により生じる恐怖心、抵抗を無駄と考える状態などを利用する |
8号 | 経済的・社会的関係の利用 | 上司と部下、教師と生徒などの関係を利用する |
以上の類型に直接あてはまらなくても、類似する理由があれば構いません。
また、行為がわいせつでないと勘違いさせたり、人違いをさせたりして性交等に及んだケースも処罰対象です(刑法177条2項)。具体的には、医療的に必要な行為だと誤解させた場合や、恋人だと勘違いさせて別人が性行為をした場合が該当します。
より具体的に類型が示されたため、成立するかが判断しやすくなりました。従来罪に問いづらかった類型も含まれており、被害者にとっては望ましい内容といえます。
「性交等」の定義
被害者が同意しない意思を形成・表明・全うできない状態であることを前提に、「性交等」がなされたことが要件になります。
「性交等」に含まれるのは以下の行為です。
- 性交
- 肛門性交(アナルセックス)
- 口腔性交(オーラルセックス)
- 膣や肛門に身体の一部(陰茎以外)や物を挿入する行為
上3つは元から含まれていましたが、1番下の行為は改正前の強制わいせつ罪が適用されるに過ぎませんでした。2023年の法改正により追加され、より重い不同意性交等罪の処罰対象になっています。
「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」とは?
条文上定められた類型のひとつに「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」があります(刑法177条1項、176条1項5号)。
「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」とは、性交等がなされようとしていると気がついてから性交等がなされるまでに、自由な意思決定をする時間がないという意味です。
被害に遭いそうな事実に気がついてからすぐに行為が実行されれば、被害者が受け入れるかどうかを判断する時間的余裕がありません。時間がない状態であれば、同意しないとの意思を抱いたり、示したり、実現したりするのは通常は困難です。
該当し得る事例としては、以下が挙げられます。
- いきなり路上で捕まり、すぐに性交等をされた
- 相手の自宅のソファーに座っていたところ、前触れもなく行為に及ばれた
- 車の中でくつろいでいたところ、突然倒されて被害を受けた
仮に多少の時間的余裕があり「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」とまではいえなくても、他の類型に該当すれば加害者を罪に問えます。暴行・脅迫があったり、フリーズ状態に陥ったりしていれば、被害を訴えることが可能です。
同意があれば不同意性交等罪にならない?
不同意性交等罪との罪名からは、被害者の同意があれば成立しないようにも思えます。同意してしまえば罪に問えないのでしょうか?
拒否できない状況であれば罪に問える
たとえ表面上同意していても、拒否できない状態で仕方なく同意したに過ぎないときには、罪に問える可能性があります。
たとえば、暴行や脅迫を受けて強い恐怖を感じれば、抵抗せずに同意するほかないかもしれません。相手との上下関係から、表向きは受け入れるケースもあります。
表面上同意していても、泣き寝入りする必要はありません。自分を責めずに、加害者の法的責任を追及できないか弁護士にご相談ください。
16歳未満であれば同意があっても罪になる
被害者が16歳未満であれば、同意があっても不同意性交等罪が成立します(刑法177条3項)。16歳未満だと性行為の意味や結果を理解できず、同意する能力がないと考えられるためです。
性交に同意できる年齢はかつて13歳とされていましたが、16歳に引き上げられました。被害者が16歳未満であれば、同意の有無にかかわらず罪に問えます。
ただし、同世代の性行為を一律に違法にするのは望ましくありません。被害者が13歳以上16歳未満で同意をしたケースでは、加害者が5歳差以上の場合に限り成立します。
たとえば、17歳と13歳のカップルについては、4歳差なので本心からの同意があれば罪になりません。加害者19歳、被害者13歳のときは6歳差であるため、同意の有無にかかわらず、性交等があれば成立します。
不同意性交等罪の被害に遭ったときにすべきこと
性交等を強要された際には、ワンストップ支援センターや警察の性被害専用電話を利用するほかに、以下の対処法をとりましょう。
証拠を確保する
早めに証拠を確保しましょう。加害者の責任を追及するには証拠が不可欠であるためです。
証拠になり得るものとしては、以下があります。
- 被害を受けた際の衣服、下着、持ち物
- 加害者とのメール・LINE
- 家族や友人に相談した際のメール・LINE
- 被害直後に書いたメモ、日記
- 防犯カメラ映像
- 病院のカルテ
- 破れた衣服やケガの写真
時間が経過すると、証拠としての価値が下がるおそれがあります。被害直後はショックが大きいかと思いますが、加害者の法的責任を問うためには早めに動くのが望ましいです。
弁護士に相談する
被害を受けた際には弁護士にご相談ください。弁護士に相談・依頼すると以下のメリットがあります。
不同意性交等罪に該当するか判断してもらえる
加害者にいかなる形で責任を追及するにせよ、犯罪に該当するかは重要なポイントです。
不同意性交等罪の成立要件がある程度明確になったとはいえ、まだ実際の事例は少ないです。ご自身の受けた被害が罪に該当するかを判断するのは難しいでしょう。
弁護士に相談すれば、見通しがわかります。「罪に問えるのかわからない」という方もお気軽にご相談ください。
刑事告訴ができる
犯罪にあたるときには、刑事告訴を弁護士に任せられます。刑事告訴とは、捜査機関に犯罪事実と処罰の意思を伝えることです。
被害者自身でも告訴は可能ですが、「証拠が足りない」「犯罪が成立しない」などと言われてしまい、簡単には受理してもらえません。加えて、被害を受けショックを受けた状態で警察とやりとりをするのは大変なストレスです。
弁護士に依頼すれば、証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまですべて任せられます。受理される可能性を高めるとともに、精神的なストレスも軽減できます。
加害者の法的責任を追及するには、弁護士に依頼して刑事告訴してもらうのがオススメです。
加害者との示談交渉も進められる
弁護士には、加害者との示談交渉も任せられます。
不同意性交等罪の法定刑は重く、刑事裁判になれば原則として実刑判決がくだされます。刑務所に収監されるだけでなく、職場を解雇される、配偶者に離婚されるといった事態も生じやすいです。
加害者が予想される不利益を避けるためには、被害者と示談して不起訴処分になるほかありません。高額な示談金を支払ってでも、被害者と示談しようと考えやすいです。
被害者自身が示談交渉をすると、相手の弁護士に言いくるめられて不利な条件になるほか、やりとりがストレスになるリスクがあります。もちろん示談に応じるかは自由ですが、被害者も弁護士をつけて交渉するのが得策です。
不同意性交等罪の要件に該当するかわからなくても弁護士にご相談ください
ここまで、不同意性交等罪の要件について解説してきました。
法改正によって、「同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない」ケースなども処罰対象になると明確化されています。加害者の法的責任を追及するために、弁護士に依頼して刑事告訴をすることも検討しましょう。
不同意性交の被害を受けてお悩みの方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所は被害者の方々からご依頼を受け、不同意性交罪、その他多くの性犯罪について、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉まですべてお任せいただけます。
罪になるかどうかわからなくても構いません。被害を受けた際には、まずはお問い合わせください。