最終更新日:2024.04.23
不同意性交等罪の問題点は?対処法を被害者向けに解説
強制性交等罪は、成立範囲が限られる、性交同意年齢が低すぎる、公訴時効期間が短いなど、被害者側から数々の問題点が指摘されていました。
問題点を解消するために、2023年7月の法改正により成立要件の明確化などが実現し、名称も「不同意性交等罪」に変更されています。もっとも、現在もいくつかの問題点は残されたままです。
この記事では、不同意性交等罪の改正前後の問題点や対処法などについて被害者向けに解説しています。不同意性交等罪の改正内容や問題点を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
不同意性交等罪とは?
不同意性交等罪とは、同意がないのに性交等を強要する犯罪です。従来の「強制性交等罪(旧:強姦罪)」と「準強制性交等罪(旧:準強姦罪)」が統合され、2023年7月の法改正とともに名称が変更されています。
法改正により成立要件が明確化され、従来は罪に問いづらかった類型も対象になりました。性交同意年齢の引き上げや公訴時効期間の延長なども実現し、被害者にとって望ましい方向の改正といえます。改正内容について詳しくは後述します。
不同意性交等罪の問題点~改正以前に指摘されていたもの
従来の強制性交等罪においては、被害者側から以下の問題点が指摘されていました。
成立要件が厳しく加害者を処罰できない
改正前の強制性交等罪は成立するハードルが高く、加害者を処罰できないケースがありました。
強制性交等罪が成立するには、加害者による「暴行または脅迫」が必要です。しかも、単なる暴行・脅迫ではなく、「反抗するのが著しく困難な程度」の暴行・脅迫が判例上要求されていました。
現実には、強い暴行や脅迫がなくても、驚きや恐怖のあまり動けなくなってしまったり、上下関係があるために意思を示せなかったりするケースがあります。意思に反して性行為を強いられているにもかかわらず、暴行・脅迫が必須の要件となっている以上、強制性交等罪には問えません。
実際に、同意なく性交を強いられていても加害者が不起訴処分や無罪判決となり、処罰されないケースがありました。また、似たような事例でも裁判官によって結論がわかれており、判断にバラつきがみられました。
陰茎以外を挿入する行為が処罰対象外
処罰対象となる「性交等」の範囲にも問題がありました。
従来の「性交等」は、性交、肛門性交、口腔性交に限定されていました。陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為は、改正前の強制性交等罪の処罰対象ではありません。
膣や肛門に何かを入れられること自体に性的な意味があり、陰茎以外であっても大きな精神的ショックを負います。にもかかわらず、膣や肛門に陰茎以外を挿入する行為は改正前の強制わいせつ罪で処罰されるに過ぎず、罪が軽いという問題がありました。
性交同意年齢が低すぎる
性交等がなされても、本心から同意しているのであれば処罰の対象外です。
とはいえ、性行為の意味や結果を十分に理解できない年齢であれば、表面上同意があったとしても性的な自由が守られているとはいえません。そこで、被害者の同意の有無にかかわらず一律に犯罪とされる年齢が定められており、性交同意年齢と呼ばれています。
従来の性交同意年齢は13歳でした。それゆえ、被害者が中学生であっても、同意ありとして罪に問われない可能性がありました。
しかし、義務教育すら終えていない中学生では、性行為の意味を十分に理解できなかったり、相手との関係によって適切な判断ができなかったりするリスクが大きいです。そのため、性交同意年齢が13歳と低すぎる点が問題とされていました。
公訴時効期間が短く被害を訴えられない
犯罪行為があっても、公訴時効期間が経過すると罪に問えません。公訴時効期間のうちに被害を訴える決心がつかず、時効が完成してしまうケースもありました。
性犯罪においては、以下の理由で被害をなかなか申告しづらいです。
- 恥ずかしい
- 自分が悪いとの思いがある
- 周囲に気がつかれない
- 子どもは被害に遭ったことすらわからない
強制性交等罪の公訴時効期間は10年、ケガをしたときに成立する強制性交等致傷罪でも15年でした。被害を訴えるのが難しいために、公訴時効期間が経過してしまい、加害者を罪に問えない点が問題とされてきました。
不同意性交等罪の問題点を解消するために改正されたポイント
ここまで解説してきた問題点を解消するために、強制性交等罪は改正されました。ポイントは以下の通りです。
名称変更
従来、性交等を処罰する犯罪としては「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」がありました。改正により両罪が統合され、名称が「不同意性交等罪」となっています。
次に述べるように改正に伴って成立要件が明確化されていますが、罪名においても、同意のない性交等を処罰する犯罪であるとわかりやすくなりました。
成立要件の明確化
強制性交等罪では「暴行または脅迫」が必須の要件です。準強制性交等罪でも「心神喪失」や「抗拒不能」の場合に限定されており、いずれの罪にも問えないケースがあるという問題が存在しました。
改正後の不同意性交等罪では、「同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態」の相手に性交等をすることが要件とされています。
「同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態」になる原因が条文に明記された点もポイントです。具体的には、以下の原因が挙げられています。
- 暴行・脅迫
- 心身の障害
- アルコール・薬物
- 睡眠など意識不明瞭
- 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない
- 予想と異なる事態に直面し恐怖・驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的・社会的関係の利用
要件の明確化によって、フリーズ状態になったケースや上下関係を利用されたケースなどでも成立する点が明らかになりました。罪に問える範囲が広がると期待されています。
「性交等」に含まれる範囲の拡大
前述の通り、従来は「性交等」に含まれる行為は性交、肛門性交、口腔性交のみでした。改正により、膣・肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為も処罰の対象とされています。
これらの行為には、改正前の強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪が適用されていました。今後は、より重い不同意性交等罪で処罰されます。
性交同意年齢の引き上げ
従来13歳であった性交同意年齢が、16歳に引き上げられました。改正によって、被害者が16歳未満のときには、同意の有無に関係なく処罰対象となっています。被害者が中学生の場合には、同意の有無にかかわらず犯罪になるということです。
もっとも、同世代での性行為が一律に違法になるのは望ましくないと考えられます。改正後も、同意のうえ性交等をした者が13歳以上16歳未満のときには、5歳差以上の場合に限り罪になるとされました。
たとえば、18歳と15歳のカップルが同意のうえ性交等に及んだときには、罪になりません。もちろん、同意がなければ年齢が近くても処罰対象になります。
まとめると以下の通りです。
被害者の年齢 | 改正前 | 改正後 |
13歳未満 | 同意の有無にかかわらず成立 | 同意の有無にかかわらず成立 |
13歳以上16歳未満 | 同意がないとき成立 | 同意の有無にかかわらず成立(※同意があるときは5歳差以上に限り成立) |
16歳以上 | 同意がないとき成立 | 同意がないとき成立 |
夫婦間でも成立する点を明記
たとえ夫婦間であっても、同意なく無理やり性行為に及ぶ事態はあってはなりません。従来の一般的な解釈でも、婚姻関係があっても罪に問えると考えられていました。しかし、夫婦間での成立に条件を加えるべきとする学説も存在しました。
改正によって「婚姻関係の有無にかかわらず」との文言が追加され、夫婦間でも同意のない性交等が犯罪になる点が明確化されています。
公訴時効期間の延長
性犯罪の被害を訴えるのが難しい点に配慮して、改正により公訴時効期間が5年延長されました。不同意性交等罪は15年、不同意性交等致傷罪は20年となっています。
また、子どもが被害を申告するのはより難しいです。そこで「18歳未満で被害を受けた際には、被害者が18歳になるまでの期間が加算される」とのルールも追加されました。簡単に言うと、18歳から15年あるいは20年のカウントがスタートします。
公訴時効期間の延長は、2023年6月23日に施行されました。施行時点で時効が完成していないケースでは、期間の延長が適用されます。
不同意性交等罪の問題点~改正後に残ったもの
不同意性交等罪に関する法改正は、被害者にとって望ましい内容です。もっとも、問題点はいまだ残っています。
成立要件が不明確な部分がある
要件がある程度明確になったとはいえ、まだ事例が少ないため、どういったケースで罪に問えるかは不透明な部分があります。検察官が起訴してくれない可能性がありますし、裁判所の運用次第では、被害を認めてもらえない事例も出てくるかもしれません。
本当に被害者にとって有利な方向で実務対応が進むかを見極めるには、実際の事例が蓄積するのを待つ必要があります。
犯行の証拠がなく被害を訴えられない
いくら成立範囲が広がっても、犯行の証拠がなければ被害の事実を証明できません。
同意のない性行為は、ホテル、住居、カラオケボックスといった密室で行われるケースが多いです。密室で犯行がなされれば、カメラ映像や目撃者の証言などの証拠が得づらいといえます。
証拠がないと、被害を訴えようとしても警察は取り合ってくれません。結果として、被害者が泣き寝入りを強いられてしまいます。
法改正により犯罪になる範囲が広がっても、被害を証明できないケースがある点は問題として残っています。
被害者が16歳未満でも処罰されないケースがある
性交同意年齢は引き上げられましたが、被害者が16歳未満でも処罰されないケースはあります。13歳以上16歳未満については、加害者との年齢差が5歳に満たない場合には、同意があったとされれば罪になりません。
いくら年齢が近いといっても、たとえば18歳と14歳とでは精神面で大きな差があります。相手に言われるがままに性行為に応じてしまうケースもあるはずです。本来は行為に及ぶべきでないにもかかわらず、未熟なために同意してしまえば、年齢が近い加害者を罪に問えないおそれがあります。
被害者が16歳未満であっても罪にならないケースがある点は、改正後も残された問題といえます。
時効期間は撤廃されていない
公訴時効期間が5年延長されたとはいえ、撤廃はされていません。
精神的なショックが大きければ、15年や20年では被害を申告できない方もいらっしゃるでしょう。多大なトラウマを与えた加害者の責任は重大であるにもかかわらず、刑罰を免れる結果となってしまいます。
公訴時効期間があるために期間内の被害申告を迫られる点も、依然として残る問題です。
不同意性交等罪の問題点にはどう対処すればよい?
不同意性交等罪に残された大きな問題は、加害者に罪を問えないケースがある点です。加害者の法的責任を追及するには、できるだけ証拠を残し、弁護士に刑事告訴を依頼するのがベストといえます。
できるだけ証拠を残しておく
加害者の責任を追及するには、早めの証拠確保が重要です。
客観的な被害内容や同意がなかった事実の証拠になるものとしては、以下が挙げられます。
- 被害を受けた際の衣服、下着、持ち物
- 加害者とのメール・LINE
- 家族や友人に相談した際のメール・LINE
- 被害直後に書いたメモ、日記
- 防犯カメラ映像
- 病院のカルテ
- 破れた衣服やケガの写真
被害者の身体や衣服に残された痕跡は、時間が経つと失われてしまいます。もちろん証言も重要な証拠になりますが、記憶が薄れていると信用されにくいです。被害を受けた直後はショックが大きいかと思いますが、できるだけ証拠を残すようにしましょう。
弁護士に刑事告訴を依頼する
不同意性交等罪は密室で行われる場合が多く、被害者が申告しないと警察・検察には伝わりません。加害者に刑事責任を負わせるためには、告訴状の提出により、捜査機関に被害の事実を伝える必要があります。
もっとも、警察は「証拠が足りない」「同意していたとみなされる」といった理由で、なかなか受理してくれません。
弁護士に刑事告訴を依頼すれば、受理される可能性を高められます。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまで任せられるため、被害者の負担が軽減されます。
不同意性交等罪の被害を受けた際には、特に刑事告訴をするメリットが大きいです。以下で刑事告訴のメリットを解説します。
捜査機関に証拠収集してもらえる
告訴状を受理した際には、警察や検察は捜査を進めなければなりません。告訴すれば捜査機関を動かせるのです。
捜査機関は、国家権力を利用して様々な証拠を収集できます。加害者や第三者が有している証拠の収集も可能です。
被害者の手元にある証拠だけでは完全な証明が難しくても、告訴によって捜査を進めてもらえば、加害者の法的責任を追及しやすくなります。
有罪なら原則実刑判決になる
不同意性交等罪の法定刑は「5年以上の懲役」です。執行猶予は3年以下の懲役の場合にしかつけられないため、不同意性交等罪で有罪となれば基本的に実刑判決となり、犯人が刑務所に収監されます。
告訴をきっかけとして起訴されて刑事裁判になれば、加害者に重い刑罰を科せるのです。
示談金が高額になりやすい
加害者との示談を受け入れる場合には、示談金が高額になりやすいです。
不同意性交等罪で有罪判決がくだされると、基本的に実刑になり刑務所に収監されます。
加えて、近年性犯罪者への視線が厳しくなっているため、加害者は社会的・経済的にも大きな不利益を受けます。たとえば、職場を解雇される、配偶者に離婚されるといった事態が生じ得るでしょう。
刑務所での服役や社会的・経済的な不利益を避けるために、加害者は「どうしても示談したい」と考えやすいです。高額な示談金を支払ってもらいやすい環境といえます。
告訴の本来の目的は刑事処分を求める点にありますが、副次的な効果として、高額な示談金を受け取りやすいというメリットが存在します。
参考記事:【被害者弁護】不同意性交被害に遭った際に弁護士に相談する意味・メリットとは
不同意性交等罪の被害に遭われた際には弁護士にご相談ください
ここまで、不同意性交等罪について、改正前の問題点、改正のポイント、改正後に残った問題点や対処法などについて解説してきました。
法改正によって、成立要件の明確化、性交同意年齢の引き上げ、公訴時効期間の延長などが実現しています。もっとも、加害者に法的責任を追及するのは依然として容易ではありません。早めに証拠収集や弁護士への相談を行い、刑事告訴を含めた対応を検討しましょう。
不同意性交の被害を受けた方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所は被害者の方々からご依頼を受け、不同意性交罪を含む多くの性犯罪について、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。証拠収集、告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉などをすべてお任せいただけます。
解決事例:レイプ被害について、強制性交致傷罪で刑事告訴が受理された案件
泣き寝入りする必要はありません。不同意性交の被害を受けた際には、まずはお問い合わせください。