性犯罪にあったら

最終更新日:2023.05.31

【被害者向けに解説】強制性交等罪とは?構成要件や法定刑、被害後にできること

強制性交等罪とは、暴行や脅迫を用いて、性交等を強いる犯罪です。

被害者の心身に大きな傷を与え、性犯罪の中でも特に悪質な類型です。多くのケースで加害者には実刑判決が下され、刑務所に収監されます。

強制性交等の被害を受けた際には、各種窓口への相談や刑事告訴など、被害回復のためにできることがあります。

この記事では、強制性交等罪の構成要件・法定刑や、被害後にできることをまとめました。被害に遭われた方は、ぜひ参考にしてください。

強制性交等罪とは?

強制性交等罪とは、暴行や脅迫を用いて、性交等を強いる犯罪です(刑法177条)。被害者が13歳未満のときには、暴行・脅迫がなくても、同意があっても成立します。

以前は「強姦罪」と呼ばれていましたが、2017年に法改正があり、名称も変更されました。以下で、改正点も含めて、強制性交等罪がどういった犯罪かを解説します。

構成要件 

強制性交等罪は、刑法177条に規定されています。

刑法177条十三歳以上の者に対し暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

強制性交等罪の構成要件は、被害者が「13歳以上」か「13歳未満」かで大きく異なります。

被害者が13歳以上の場合「暴行または脅迫を用いて」「性交等をした」ことが要件です。

強制性交等罪における「暴行または脅迫」は、被害者が反抗するのが著しく困難なほどのものをいいます。全く抵抗ができない状態である必要まではありません。

「暴行または脅迫」の具体例としては、

  • 強く体を押し付ける
  • 体を縄で縛る
  • 凶器を突きつける

などが挙げられます。

「性交等」とは、

  • 性交
  • 肛門性交(アナルセックス)
  • 口腔性交(オーラルセックス)

のいずれかをいいます。

2017年の法改正によって、肛門性交や口腔性交も処罰対象に加えられました。

被害者が13歳未満の場合には「暴行または脅迫」は要件となっていません。また、被害者の同意の有無は無関係です。

したがって、被害者が13歳未満のときには、暴行や脅迫がなくても、同意があったとしても、性交等をすれば強制性交等罪が成立しえます。

加害者・被害者の性別は問わない 

強制性交等罪については「加害者:男性、被害者:女性」とのイメージをお持ちかもしれません。

たしかに、2017年改正前の旧強姦罪においては、条文上、被害者は女性とされていました。また、処罰される行為(「姦淫」)は「男性生殖器を女性生殖器に挿入すること」であり、共犯関係にあるなどの例外的なケースを除いて、加害者は男性に限定されていました。

しかし現実には、男性が意に反して性行為を強いられるケースもあります。

そこで2017年の法改正により、被害者の性別に限定がなくなりました。処罰対象も男性を加害者とする「姦淫」から、性別に関係ない「性交等」に拡大されています。

現行法においては、男性が被害者になったり、同性間で強制性交等罪が成立したりするケースも想定されているのです。

強制性交等罪の法定刑・時効 

強制性交等罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」です。

有期懲役の上限は20年であるため、基本的には「5年以上20年以下の懲役」が科されます。裁判で言い渡される刑が3年以下のときしか、執行猶予はつきません。したがって通常は実刑判決となり、加害者が刑務所に収監されるケースが多いです。

2017年の法改正前は「3年以上の有期懲役」であり、改正により厳罰化されました。

なお、強制性交等罪の被害者がケガを負ったあるいは亡くなった場合には「強制性交等致死傷罪」が成立し、「無期または6年以上の懲役」というより重い罪になります(刑法181条2項)。

また、強制性交等罪の公訴時効期間は10年です。被害から10年を過ぎても起訴されなければ、加害者に刑罰を科せなくなってしまいます。

強制性交等罪は非親告罪です

2017年の法改正前の旧強姦罪は、親告罪でした。親告罪とは、加害者を起訴して裁判にかけるために、被害者による刑事告訴が不可欠となる犯罪をいいます。

強姦罪が親告罪とされていたのは、被害者の意思に反して、被害状況が裁判で明らかになってプライバシーが侵害されたり、当時のことを思い出してしまったりする事態を避けるためです。

しかし、告訴するかの選択が心理的負担になる、告訴により加害者の恨みを買うおそれがあるといった問題がありました。

そこで2017年の法改正後の強制性交等罪は非親告罪となり、告訴がなくても刑事裁判にかけられるように変更されています。

未遂の場合は強制性交等未遂罪が適用される

性交等を目的にした暴行・脅迫が行われていれば、実際に性交等に至らなかった場合でも、強制性交等未遂罪が成立します(刑法180条)。たとえば、性交のために体を押さえつけたものの、被害者の抵抗により性行為にまで至らなかったケースです。

直接性行為に結びついていない暴行・脅迫であっても、強制性交等未遂罪が成立する可能性もあります。車内で性行為をしようとして自動車に引きずり込んだケースでは、引きずり込んだ時点で強制性交等未遂罪が成立します。

強制性交等罪(既遂)と強制性交等未遂罪の分かれ目は、「性交等」が始まったか否かです。すなわち、性器・肛門・口腔の中に性器の一部が挿入された時点で、既遂となります。

強制性交等未遂罪の法定刑は、既遂のときと同様です。ただし、裁判官の判断によって刑が減軽されるケースもあります(刑法43条本文)。加害者の意思で性交等に至る前にやめたときには、必ず刑が減軽あるいは免除されます(刑法43条ただし書)。

準強制性交等罪・強制わいせつ罪との違いとは 

強制性交等罪に似た犯罪が「準強制性交等罪」や「強制わいせつ罪」です。

被害者が13歳以上の場合について、簡単に違いをまとめると以下のようになります。

行為
性交等「性交等」以外のわいせつ行為
暴行脅迫あり強制性交等罪強制わいせつ罪
なし準強制性交等罪準強制わいせつ罪

ご自身の受けた被害が強制性交等罪ではなく「準強制性交等罪」や「強制わいせつ罪」に該当するケースもあります。違いを知っておきましょう。

準強制性交等罪の構成要件・法定刑 

準強制性交等罪とは、被害者を「心神喪失」や「抗拒不能」にさせて、あるいはその状態にあることを利用して、性交等をする犯罪です(刑法178条2項)。暴行や脅迫がなくても、「心神喪失」や「抗拒不能」の状態にある被害者に性交等をすると、準強制性交等罪が成立します。

「心神喪失」とは、意識の喪失や精神障害により、被害者が性行為について正常な判断をできなくなっている状態です。

例としては、

  • 眠っている
  • 泥酔している
  • 知的障害を抱えている

などの状態が挙げられます。責任能力を判断するための「心神喪失」(刑法39条1項)とは異なる概念です。

「抗拒不能」とは、心神喪失以外の理由で、物理的・心理的に抵抗できなくなっている状態です。

たとえば、

  • 加害者のことを夫であると勘違いしていた
  • 性交等であると気がついていなかった
  • 治療であると思い込まされていた

といったケースがあります。

準強制性交等罪の法定刑は、強制性交等罪と同じ「5年以上の有期懲役」です。したがって、基本的には執行猶予がつきません。

アルコールを飲ませて泥酔させて性交に及ぶなど、暴行・脅迫がなく強制性交等罪が成立しないケースであっても、準強制性交等罪が成立する可能性があります。

強制わいせつ罪との違い 

強制わいせつ罪とは、暴行または脅迫を用いて「わいせつな行為」をする犯罪です(刑法176条)。被害者が13歳未満のときは、暴行・脅迫がなくても成立します。

「わいせつな行為」とは、「性交等」以外の、性的に嫌悪感を抱かせる行為です。

例としては、

  • 無理やりキスをする
  • 下着の中に手を入れる
  • 胸を触る

などが挙げられます。

強制性交等罪と強制わいせつ罪の違いは「性交等」を目的としているか否かです。暴行または脅迫を用いて「性交等」以外のわいせつ行為をすれば、強制わいせつ罪となります。

強制わいせつ罪の法定刑は「6月以上10年以下の懲役」です。性交等を目的としていない分、強制性交等罪よりは刑が軽くなっています。

監護者性交等罪/監護者わいせつ罪とは?

2017年の法改正により「監護者性交等罪」と「監護者わいせつ罪」が新設されました(刑法179条)。

監護者性交等罪とは、18歳未満の被害者に対して、監護者としての影響力を利用して性交等をする犯罪です。典型的なのは、親の立場を利用して子に性交等をしたケースです。暴行・脅迫がなくても、同意があっても成立します。

監護者性交等罪の法定刑は、強制性交等罪と同じ「5年以上の有期懲役」です。

監護者わいせつ罪は、18歳未満の被害者に対して、監護者としての影響力を利用してわいせつな行為をする犯罪です。親の立場を利用して子の胸を触る行為などが該当します。監護者性交等罪と同様に、暴行・脅迫がなくても、同意があっても成立します。

監護者わいせつ罪の法定刑は、強制わいせつ罪と同じ「6月以上10年以下の懲役」です。

刑法改正により強制性交等罪から不同意性交等罪に 

現在の強制性交等罪では、

  • 不意打ちで拒否する間もなかった
  • ショックで動くことすらできなかった
  • 長年性的虐待を受け、拒絶する発想がなかった
  • 人事権を持つ上司の誘いを断れなかった

などの場合に「暴行・脅迫がない」として無罪となるケースがあります。問題解消のため、現在さらなる法改正の議論が進んでいます。

強制性交等罪は、法改正により成立範囲が拡大され、名称も「不同意性交等罪」に変更される見通しとなっています。

不同意性交等罪は、強制性交等罪と準強制性交等罪を一本化した犯罪です。

以下の8つのいずれかの理由により、性交等に同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にして性交等をしたときに成立します。

  • 暴行または脅迫
  • 心身の障害
  • アルコールまたは薬物の摂取
  • 睡眠など意識不明瞭の状態
  • 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない(例:不意打ち)
  • 予想と異なる事態に直面して恐怖・驚愕している(例:ショックで体が動かない)
  • 虐待に起因する心理的反応(例:長年性的虐待を受けた)
  • 経済的・社会的関係上の地位を利用される(例:上司と部下、教師と生徒)

現行の強制性交等罪や準強制性交等罪の要件を引き継いでいますが、ショックで体が動かなかった場合など、現行法でカバーできない状況も要件に追加されています。

他にも、以下の点の改正が検討されています。

  • 同意可能年齢を13歳以上から16歳以上へ引き上げる
  • 公訴時効を10年から15年に延長する

改正案は2023年の通常国会に提出され、現在審議中です。成立すれば、性犯罪の被害者にとって望ましい方向の改正となります。

性犯罪被害に遭ったときは

性犯罪の被害に遭ったときには、関係機関への相談や、医療機関の受診などをしましょう。

相談機関としては、まずはワンストップ支援センター(#8891)や警察の専用電話(#8103)などが考えられます。被害後できるだけ早めに連絡してください。

ケガがあるときには、医療機関の受診が必要です。また、72時間以内に緊急避妊薬を服用すれば、望まない妊娠を防げます。

犯行との関係で、被害時の衣服や下着などは証拠になります。証拠保全のため、できればシャワーやお風呂で体を洗わずに、警察や病院に向かってください。

警察の捜査や犯人の処罰に関して心配な点がある場合には、弁護士にご相談ください。

現在の法律では強制性交等罪は親告罪ではなく、告訴がなくても処罰が可能です。もっとも現実的には、被害者の方の意思は尊重されます。犯人の処罰のためには、警察に被害を適切に申告しなければなりません。

ただし性犯罪においては、証拠が足りないなどの理由で、警察が犯人処罰のために十分な対応をしてくれないケースもあります。

弁護士にご依頼いただければ、必要な証拠収集や告訴などの手続きをサポートいたします。被害に遭われた状況下でストレスになりやすい警察とのやりとりも、弁護士にお任せください。

リード法律事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、性犯罪について刑事告訴を数多く受理させてまいりました。性犯罪の被害に遭われた方は、まずはお問い合わせください。

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