最終更新日:2023.05.31
加害者の「微罪処分」に納得がいかないときに取るべき方法
犯罪や迷惑行為で被害をこうむった場合、通報や被害届によって警察の捜査が行われ、加害者は逮捕されたり裁判にかけられて刑罰を受けることになります。
しかし、時に「微罪処分」として捜査が打ち切られ、逮捕や裁判まで至らずに加害者が無罪放免とされるケースがあります。
理由はいくつかありますが、おもに「犯罪が軽微である」「初犯である」「十分に反省している」「加害者が年少である」などの条件に当てはまる場合に微罪処分と判断されることが多いです。
上記に加えて、「十分に反省し今後二度としないのであれば刑事処罰まではしなくてもよい」と被害者の許しがあることも条件の1つですが、ときに、被害者が納得していないのに微罪処分となってしまうこともあり得ます。
今回は、そのような場合にはどう対処すればよいのか、微罪処分の基礎知識とともに解説します。
微罪処分とは
「微罪処分」は刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)246条に基づく制度で、犯罪の程度が軽いと判断された場合に適用される刑事処分のことで、一定の条件に当てはまる場合にそれ以降の捜査を終了、加害者は釈放となります。
警察庁によると、令和4年の微罪処分の件数は約5万人で、検挙人員全体の28.5%となっています(令和4年版 犯罪白書 第2編/第2章/第1節)。
微罪処分と決まれば加害者は送検(刑事訴訟)されることはなく、裁判にかけられることもないため、いわゆる「前科」(有罪判決の記録)は残りません。
もし就職や結婚などに際して興信所などを使って身元調査をされても、過去の微罪処分については通常は誰にも知られずにすみます。
微罪処分の目的
なぜ罪を犯したのに裁判や刑罰が免除されるのでしょうか?
その理由には以下のようなものがあります。
- 検察官や裁判官が処理できる件数には限りがあり、重大な事件に確実に対応できるよう、軽微な罪は簡易的な対応を行いたいため
- 軽微な罪を犯した加害者(被疑者)が更生・社会復帰しやすい環境を整えるため
微罪処分の条件
微罪処分を決定するのは検察官ですが、すべての事件を検察官に送致した上で1件ずつ判断するのではなく、あらかじめ検察官が差し戻す条件を警察と共有し、それに該当すれば警察の取り調べの段階で微罪処分として扱われることになります。
おもな微罪処分の条件には以下のようなものがあります。
- 軽微な犯罪であること
- 犯罪の動機が軽微であること
- 前科前歴がないこと
- 身元引受人がいること
- 被害者の許しがあること
- 被害弁済が適切に行われていること
「軽微な犯罪」の範囲は公開されておらず、都道府県ごとに多少異なりますが、過去の事例では、窃盗(万引き)・器物損壊・暴行罪などで、初犯かつ被害の程度が比較的少ない場合に微罪処分が適用されています。
被害者の処罰感情も重要で、たとえば同じ万引きでも、店舗側が「学生だし反省しているようだから…」と考えるか「営業被害が大きいから厳しい処罰を」と考えるかで結果は変わってきます。
被害者にとって「微罪処分」が納得できない場合
微罪処分は軽微な罪を犯してしまった人のスムーズな社会復帰を目的としているとはいえ、被害者にとっては自分(たち)に被害を与えた相手です。
事件の直後で混乱しているときに、周囲から「大事になるとあなたも困るから」「相手にも将来があるのが分かるだろう」「ここはひとつ穏便に…」などと説得され、本当は納得していないのに、しかたなく同意してしまうこともあるでしょう。
その結果、加害者は刑罰を受けずに済み、しかも反省の色も見られない、民事上の損害賠償等もする意思がない…といった場合「やはり許せない」と感じることもあるかと思います。
実は、そのような場合でも方法はあります。
微罪処分が決まった後でも「刑事告訴」が法的に可能だからです。
微罪処分というのはあくまでも「加害者をどう扱うか」についての決定であり、加害者の立場については依然「被疑者」であり続けます。
以下は東京地裁の令和2年2月6日の判決文です。
刑事訴訟法246条本文は,司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,同法に特別の定めがある場合を除き,速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない旨(全件送致主義)を定めているが,同条ただし書は,検察官が指定した事件については,この限りでないとして,全件送致主義の例外を定めている。そして,この規定を受けて,犯罪捜査規範198条(微罪処分ができる場合)は,「捜査した事件について,犯罪事実が極めて軽微であり,かつ,検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては,送致しないことができる」と定め,この定めにより送致しない事件については,一月ごとに一括して処分内容を検察官に報告することで足りることとしている(犯罪捜査規範199条)。もっとも,刑事訴訟法及びその他の法律上,刑事訴訟法246条ただし書により検察官に送致されなかった事件について,検察官において特に立件し,当該事件の被疑者を起訴することができないとする旨の規定は定められていない。 そうすると,微罪処分は,特定の極めて軽微な事件について,検察官に送致しない手続を執るものであるが,法律上,これにより公訴提起をしないことが確定し,被疑者の地位を消滅させるという効果が発生するものということはできないことなどからすれば,被疑者の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているということはできない。 |
ここには、
「これ(微罪処分)により公訴提起をしないことが確定し、被疑者の地位を消滅させるという効果が発生するものということはできない」
という記述があります。
つまり、法律上、微罪処分が決まったからといって「もう被疑者ではない」とか「裁判にかけられない」とは保証できない…という意味のことが書かれています。
もし告訴や告発によって捜査の必要が認められればいつでも捜査は再開され、逮捕や裁判に至る可能性も残っているのです。
▼刑事告訴・告発についてさらに詳しい解説はこちらにもあります
微罪処分からの刑事告訴は受理される?
被害者が微罪処分に納得がいかず刑事告訴を行った場合、法律上、捜査機関にはそれを受け入れる義務があります。
とはいえ、通常の刑事告訴でも受理してもらえないことがしばしば起こる中、いったん微罪処分になった加害者を告訴・告発するのはやはりハードルが高いのが実情です。
もし警察に告訴状を出しても、窓口担当者が知識不足であれば「もう微罪処分になっているのに、告訴なんてできないですよ」と追い返される可能性すらあります。
微罪処分が決定した事件で、告訴状が受理されないときに警察の言う理由には以下のようなものがあります。
- 軽微な犯罪である
- 証拠が不十分
- 書類の不備 など
微罪処分になっている時点で「軽微である」ことの裏付けとなってしまっており、たしかに不利な状況ではあります。
これを乗りこえて告訴を実現させるには、本来は罪の程度にかかわらず捜査機関には告訴を受理する義務があることをしっかりと伝え、そのほかの理由も1つずつクリアしていくことがポイントです。
上記をクリアすることは1人では難しいかもしれません。
しかし「加害者にはきちんと罰を受け、罪をつぐなってほしい」という強い思いがあるのなら、あきらめずに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士はそれぞれ得意分野や専門分野が異なりますので、刑事告訴に精通・注力している弁護士を選ぶことが成功のポイントです。
リード法律事務所では、刑事告訴・告発についてのご相談に経験豊富な弁護士がアドバイスと支援を行います。
微罪処分で納得がいかず悩んでいる被害者の方は、ぜひ、お気軽にご連絡ください。