最終更新日:2023.06.13
刑事事件の「被害者支援制度」について弁護士が解説
さまざまな犯罪の被害に遭ってしまったとき、被害者は、警察への届け出から各所への連絡・通院や保険などの手続き、そして時には加害者との交渉や裁判などに動いていかなくてはなりません。また場合によってはマスコミやインターネットなどで事件が報道されて注目されることもあります。
身体・精神・経済的なダメージを受けた状態でそれらを行うのは辛いものです。そこで、当事者以外の人や機関が関わってサポートすることで、少しでも被害者の尊厳の尊重と権利の回復を行うべく、欧米を中心に、世界的に犯罪被害者支援制度の拡充が進められてきました。
日本では欧米と比べると被害者の保護や支援が遅れていましたが、近年では法改正を積極的に行うなど、被害者支援への意識が年々アップデートされています。
今回は、現在の刑事事件における被害者支援の制度にはどのようなものがあるのか、公的な支援制度から個人で受けられるサポートまで、目的や種類を解説します。
目次
刑事事件における「被害」とは?
犯罪の被害者が受ける被害は広範囲にわたり、生活や人生にさまざまな影響を与えます。
身体的な被害
殺人・暴行・傷害、飲酒運転による交通事故(酩酊運転致死傷)、ネグレクト(保護責任者遺棄)など、被害者の身体にダメージを与える犯罪は数多く、なかには治療に長い時間がかかったり、身体障害や後遺症が残ってしまうケースもあります。
精神的な被害
犯罪による身体の傷だけではなく、被害者は心にも大きな傷を負うことが少なくありません。
「周囲に心配をかけないように」との思いから、見た目には分からないこともありますが、事件を連想させるような映像・場所・名称などを見聞きするだけで具合が悪くなってしまうPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人もいます。
経済的被害
強盗・窃盗・詐欺などの犯罪により直接的に金銭や物品を奪われるだけでなく、他の犯罪でも、働き手が死亡したり身体・精神に障害が残ったりすることで収入が途絶えてしまうという二次的な経済被害も起こりえます。
またケガの治療費や、虚偽の名誉毀損などによる収益減など、犯罪による経済的被害は多岐に渡ります。
性的被害
強制性交や強制わいせつといった性的な被害は、他の犯罪と比べて、誰にも相談できず1人で苦しんでいる人が多いと考えられます。
また「被害者にも落ち度があったのでは?」といった心ない声による二次被害が多いのも性的犯罪の特徴です。
近年増えている新しいタイプの被害
近年、IIT技術やインターネットの発達により、新しい形の犯罪も増加しています。
匿名のSNSや掲示板を利用した誹謗中傷やいじめ・詐欺・プライバシーの侵害・企業へのサイバー犯罪など、次々に新しい犯罪手法が生まれるため、適切に対応するためには、正しい知識と最新情報を知っておく必要があります。
被害者支援関連の法改正
上記のような犯罪被害に対し、被害者が1人で苦しむことのないよう、近年、法や制度の改正が進んでいます。
近年では平成17年に、犯罪被害者やその家族に対し、生活の安定・安全保障・損害賠償・刑事手続への適切な関与の機会拡大など総合的な支援体制の確立を目的とする「犯罪被害者等基本法」が施行されました。
続いて平成20年には、被害者や家族が刑事裁判に直接参加できる「被害者参加制度」、裁判で有罪判決を行った裁判所が引き続き損害賠償請求についても審理を行い加害者に賠償を命じる「損害賠償命令制度」がスタートしています。
他にも、被害者の保護や回復支援の目的で行われた改正には以下のようなものがあります。
- 刑法改正…強制性交等罪の新設、性犯罪の非親告罪化など
- 犯罪被害給付金制度の改正…親族間犯罪の不支給見直しなど
- 総合法律支援法改正(ストーカー・DV・児童虐待法律相談料の一部国費化)
国や自治体等の被害者支援
国や自治体などの公的機関から犯罪被害者が受けられる支援としては以下のようなものがあります。
経済的な支援
- 損害賠償命令制度…一定の条件に当てはまる場合、裁判所に対して被告人に損害賠償を命じる旨の申し立てをすることができます。
- 被害回復給付金支給制度…詐欺罪などで奪われた財産を犯人から取り戻した場合には金銭化して被害者に支給されます。
- 犯罪被害給付制度…殺人や重傷等重大な被害を受けた犯罪被害者や家族に一時金が給付されます。
- 公費負担制度…被害による診療・検査・治療・カウンセリング等の費用、搬送費や宿泊費などを公費で負担します。
- 見舞金給付や生活資金の貸付制度…一部の地方公共団体で実施されています。
「知る権利」の支援
- 被害者参加制度…一定の犯罪において、被害者(または遺族)が裁判に参加し、意見を述べたり被告人質問などを行うことができます。
- 被害者連絡制度/被害者通知制度…被害者は捜査機関から、事件の処理結果、公判期日、刑事裁判の結果等について通知を受けとることができます。
精神面の支援
- カウンセリング費用の公費負担制度…警察の専門職員や、被害者自身の希望する精神科医・臨床心理士によるカウンセリングが公費で受けられます。
- 無料相談…性被害に遭い家族や友人などにも相談できない場合、「#8103(性犯罪被害相談電話)」「#8891(ワンストップ支援センター一覧)」などの相談窓口につながる短縮電話番号が用意されています。
弁護士による犯罪被害者支援
公的な支援に当てはまらない、または不十分であるといった場合には、弁護士の支援を受ける方法もあります。
弁護士は法律の専門家であるため、個々の法律や制度に関する知識を横断的に駆使して被害者の困りごとや希望を実現するために動きます。
また刑事事件の裁判では、犯人(加害者)の処罰といった刑事的内容と、被害者の受けた損害をどう回復するかといった民事的内容がともに争点となりますが、弁護士は刑事・民事どちらにも通じているため総合的な支援を受けることができます。
なかでも、以下のような場面では弁護士ならではの強みを発揮して被害者のサポートに尽力することができます。
情報収集入手の支援
事件被害に遭って混乱している時に、必要な情報を閲覧したり加害者の処罰を求めて書類を準備することは大きな精神的負担を伴います。
また犯人(加害者)が少年にあたる場合は、保護的観点から被害者やその家族に入る情報が限られていますし、ストーカーやDV等の被害では、相手側との接触を避けつつ手続きを進めなければなりません。
弁護士は、そのような被害者に代わって、正しい情報がすみやかに手に入るよう支援を行います。
刑事告訴等の支援
犯罪が起きたときの最初の窓口である警察では、本来、被害者に対してしっかりと支援や保護を行うべきですが、現実には「これは事件とは言えないですね」「証拠がないとなんとも…」など、被害届や刑事告訴を受け付けない例がひんぱんに起きています。
犯人をこのまま許しておくわけにいかないという思いがあるなら、弁護士に相談することで適切なアドバイスや支援を受けて刑事告訴が実現する可能性が高まります。
裁判での支援
前述の被害者参加制度により、過去には傍聴席で一般の人とともに聞くことしかできなかった刑事裁判に、被害者も参加して意見を述べたり質問したりできるようになりました。
刑事裁判では原告は被害者ではなく検察ですので、通常は被告人(加害者)側にしか弁護人をつけることができませんが、被害者参加制度では「被害者参加弁護士」としてバーの中まで入り、以下のような被害者のサポートが許可されます。
- 公判期日への出席
- 検察官に対する意見陳述
- 証人尋問
- 被告人質問
- 事実・法律適用についての意見陳述
各機関への対応・連携支援
警察や検察庁といった捜査機関との連絡・医療機関や民間の支援団体との連携・行政等の手続き支援・マスコミ等への対応など、各関係機関と被害者との橋渡しを行ったり、代理人として交渉を行ったりします。
リード法律事務所では、犯罪被害者支援に精通し、刑事事件・民事事件とも専門知識と実績や経験の豊富な弁護士が被害者や家族の皆様から相談を受け付けています。お気軽に以下までご連絡ください。