最終更新日:2023.07.18
刑事事件の流れを弁護士が解説【被害者向け】
ある日突然、犯罪の被害者になってしまったら……。
多くの人は戸惑い、自分が何をすればいいのかの知識もなく混乱してしまうかと思います。
本記事では、刑事事件が起きた時の捜査や手続きの流れと、被害者の立場でそれぞれの段階において何ができるのかを解説します。
犯罪被害で困っている方は、ぜひ自分がいまどの段階にいるのか/何をすればいいのかの目安として役立ててください。
目次
【1】一番はじめにやることは、警察への連絡
犯罪被害に遭ったとき、もしも身の安全の確保や病院での受診が必要な場合はそれを最優先で行ってください。
身体的な被害がない、あるいは軽微だった場合、最初にやることは警察への連絡・届出です。
手続きは図の左から右へ進みますので、もっとも左側にある「告訴・告発」または「警察等捜査機関からの送致等」が最初のアクションです。
刑事事件では、前者の「告訴・告発・投書等」つまり警察(捜査機関)へ被害届や告訴状で犯罪が起きたことを知らせるのがすべてのスタートとなります。現行犯逮捕など、警察がすでに事件に介入している場合は後者の「警察等捜査機関からの送致等」が行われます。
警察への届出方法1:「被害届」とは
被害届とは捜査機関に対して犯罪の被害にあったことを申告する届出書類で、通常は管轄の警察署に提出します。
被害届には2つ注意点があります。
1つは被害届を提出しても必ずしも警察に捜査の義務は生じないこと。
もう1つは名誉棄損罪などの「親告罪」に当たる場合、被害届だけでは最終的に検察官が被疑者を起訴することができないという点です。
加害者に対して確実な刑事処罰を求めるなら、被害届ではなく後述する「告訴」をする必要がありますので注意しましょう。
▼被害届と告訴の違いについて、さらに詳しくは以下の記事でも解説しています
警察への届出方法2:「刑事告訴」とは
刑事告訴とは、犯罪の被害者など一定の者が、検察官や警察官といった捜査機関に対し犯罪が起こったことを申告し、犯人の処罰を求めることです(刑訴法230条)。
告訴状が受理されれば、被害届とは違い捜査機関には捜査義務が発生します。
また名誉棄損罪などの親告罪では、検察官が被疑者を起訴するには「告訴があったこと」が必要条件となります。
親告罪においては告訴できる期間が決まっています(犯人を知った日から6ヶ月)ので、期間にも留意する必要があります。
▼親告罪の告訴可能期間について詳しくはこちらの記事もご覧下さい
告訴は被害届と比べて捜査の強制力を持つため、受理されにくいというのが現状です。
受理されない理由として書式の不備や証拠不十分などを言われることも少なくないですが、本来は受理すべきものと決まっています。なかなか告訴が受理されないような場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。
【2】警察が捜査をして被疑者を特定する
警察に被害届や告訴で犯罪が起こったことを知らせた後は、まずは、主に警察を主体とした捜査が行われます。
捜査で犯人らしき人物を「被疑者」として特定しますが、犯罪時の状況は被害者が一番良く知っていることが多いため、被害者がしばしば捜査への協力を求められます。
事件を思い出すことは精神的にも辛いことでしょう。しかし、正確な事件の状況を検察官へ伝えて事件の起訴・不起訴の処分を早期に決定するため、できるだけ捜査には協力したいところです。
精神的なダメージが大きい場合、警察や検察にその旨を伝えれば、日時の調整や付添人同伴など配慮してもらえることもありますので遠慮せず申し出て下さい。
捜査で被害者が行うこと1:事情聴取
捜査の段階で、被害者は警察や検察まで出向いて事情聴取に応じます。これは1回だけでなく複数回に及ぶことも少なくありません。
事情聴取では警察官や検察官の質問に答え、その内容が供述調書にまとめられます。調書の内容に間違いがなければ末尾に署名・押印をしますが、その際には自分の話したことが漏れなく、正しく記載されているかをよく確認してから署名・押印をしましょう。
また「犯人に対して厳しい処罰を求めている」など、処罰感情の程度や有無もこの段階で伝えて記載してもらいます。
▼事情聴取ついて詳しくはこちらの記事もご覧下さい
捜査で被害者が行うこと2:証拠品の提出
被疑者の犯行を裏付ける証拠品(犯罪に遭った時に身につけていた衣服や物品、犯人の遺留物など)を持っていれば、捜査機関へ提出を求められます。
これらは、物的証拠として後の刑事裁判で有力な証拠となる可能性もあるため、できる限り協力するようにしましょう。
なお、提出した証拠品は、捜査機関側で保管する必要がなくなれば還付してもらえます。また捜査機関側で引き続き保管する必要がある場合でも、仮還付請求をすればいったん返却してもらえることもあります。
なお「事件を思い出すから」などでもう返却してほしくない場合には、所有権を放棄する手続きをすれば、捜査機関側で保管の必要がなくなった後に厳重に廃棄・処分してもらうこともできます。
捜査で被害者が行うこと3:実況見分の立会い
実況見分(じっきょうけんぶん)とは、捜査機関が被害者などの関係者の立会いのもと、事件現場を検証して事実確認などをすることです。
実況見分の結果は実況見分調書としてまとめられ、検察官による起訴・不起訴の判断材料や後の裁判で証拠として利用されます。
犯罪に遭った現場に行ったり当時を思い出したりするのは辛いことだと思いますが、捜査機関にとって非常に重要な手がかりとなりますので、できるかぎり立ち会って状況を説明し、実況見分調書の内容も間違いないかしっかりと確認しましょう。
捜査段階で被疑者と示談交渉をすることも可能
事件の民事上の賠償責任を、話し合いによって解決する「示談」。
刑事事件では、起訴・不起訴の処分が決まるまでは示談手続はできないと思われがちですが、実は捜査段階であっても被害者から示談交渉を持ちかけることができます。
通常、被害者が被疑者と話し合って示談書を取り交わし、被疑者から示談金を支払ってもらう代わりに、被害者が被害届や告訴を取り下げます。
捜査中に、被疑者の反省や謝罪の意が顕著であるなど「被害届や告訴状を取り下げても良い」と思えた場合は、示談交渉を検討する選択肢もあります。
被疑者と直接話し合うのは不安がある、示談書の書き方がわからない、解決金の相場がわからないなどの悩みがあるのなら、示談交渉のプロである弁護士に依頼すると良いでしょう。
▼示談ついて詳しくはこちらの記事もご覧下さい
【被害者向け】示談を持ちかけられた時の判断ポイントと注意点とは
【3】犯人の逮捕・勾留
捜査により犯人(被疑者)が特定された後、裁判までは被害者が直接関わる場面はほとんどありませんが、以下に大まかな流れを解説します。
逮捕令状の発付と被疑者の逮捕
警察が、被疑者に「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項)、つまり、被疑者が犯罪をしたという嫌疑が一定以上ある場合には、被疑者を逮捕します。
刑事手続上、逮捕までの流れは以下のようになります。
- 警察が裁判官へ逮捕令状の発付を請求する
- 裁判官が逮捕の必要性の有無を判断し、逮捕が必要と考えれば逮捕令状を発付する
- 逮捕令状に基づいて、警察が被疑者を逮捕
ただし、被疑者に逃亡や罪証隠滅のおそれがないと思われる場合は逮捕の必要性がないとされ、在宅のまま捜査が進みます。
▼逮捕されるかどうかについて詳しくはこちらの記事もご覧下さい
事件の送検と被疑者の勾留
警察は、被疑者を逮捕した時点から48時間以内に事件を検察官に送致(送検)するかどうか決定しなければいけません。
送検と決まれば、次に検察官が被疑者の勾留(被疑者の身体を拘束したまま捜査すること)を請求するかどうかを判断します。
勾留の請求が必要だと判断した場合、検察官は裁判官に対して勾留請求を行い、裁判官は次のいずれかに該当する場合には勾留請求を認めます(刑事訴訟法207条1項、60条1項)。
- 被疑者が定まった住居を有しないとき
- 被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 被疑者が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
【4】検察官による処分の決定
勾留請求が認められると、被疑者は最大で20日間、留置所などで身柄を拘束され、検察官はその間に事件の処分を決定しなければなりません。
検察官が選択する処分には次の4種類があります。
検察官の判断1:起訴(公判請求)
1つめは「事件を起訴する」という処分です。
事件が起訴されると、被疑者は刑事裁判(公判)にかけられます。被疑者が勾留されている場合、起訴後は保釈されない限り、基本的にそのまま勾留が続きます。
検察官の判断2:略式命令請求(略式起訴)
正式な刑事裁判を行わず、簡易裁判所へ被疑者の刑罰を請求する処分です。
略式命令請求ができるのは以下の条件を満たした場合に限られます。
- 簡易裁判所が管轄に該当する軽微な犯罪
- 刑罰は100万円以下の罰金または科料相当
- 被疑者が同意している
- 簡易裁判所が認めたもの
被疑者が勾留されている場合には、略式起訴が決まれば身柄が釈放されます。
検察官の判断3:不起訴
事件を起訴せずに、刑事事件の終了を決定する処分です。
被疑者が勾留されている場合には釈放され、前科がつくこともありません。
不起訴には「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」の3種類があり、証拠が不十分であるときは「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」、証拠があっても、犯罪の重大性や被疑者の反省・被害者との示談などの状況から検察官が不起訴と判断した場合には「起訴猶予」とされます。
検察官の判断4:処分保留
勾留満期までに、検察官が起訴か不起訴かを判断できなかった場合、いったん被疑者の身柄を釈放して、追って処分を決めます。
処分保留になった場合、被害者も再度事情聴取などの協力を求められることがあります。
加害者の不起訴に納得できないときの2つの方法
上記で検察官が不起訴と判断すれば、通常は刑事事件としてはその時点で終了となりますが、被害者の立場として「あんな目に遭ったのに納得できない!」という場合に取れる対策を2つ紹介します。
1:検察審査会への申立て
被疑者の刑罰を強く望むのであれば、地方裁判所内に置かれている検察審査会へ審査の申立てができます。
審査申立書や意見書、資料などを提出すると、検察審査会が審査を行い、起訴相当/不起訴不当/不起訴相当の議決をします。起訴相当または不起訴不当になれば、検察は事件を再捜査しなくてはなりません。
検察官が再捜査の結果、やはり不起訴処分と判断すれば、検察審査会が再審査を行います。そこでふたたび起訴が議決されれば、裁判所が指定した弁護士が事件を起訴するという流れになっています。
2:不起訴記録の閲覧・謄写
事件が不起訴になり刑事裁判が行われない場合でも、せめて被疑者(加害者)に対して治療費や慰謝料などの損害賠償請求をしたい……というときには、民事的請求や民事訴訟をすることになります。
民事的請求や民事訴訟の証拠として、刑事事件の記録を閲覧・謄写(コピー)することができます。
不起訴の場合、原則として事件の記録は開示されませんが、例外的に被害者や被害者の代理人弁護士は検察庁への申請により記録の一部を閲覧・謄写できることがあります。
閲覧・謄写の対象となる記録は、他に代わりになるものがなく、その証拠がないと立証が難しいという事情が認められる客観的な証拠(実況見分調書・写真撮影報告書・鑑定書など)に限られます。
また、関係者のプライバシーや名誉などを侵害する、事件の捜査や刑事裁判に支障が出るといったおそれがある場合、閲覧が認められなかったり一部マスキングされて開示されたりする可能性があります。
【5】刑事裁判
被疑者(起訴後には「被告人」)が起訴されれば、いよいよ裁判所で刑事裁判が行われます。
刑事裁判では、証拠書類や証人尋問から被告人が犯罪を行ったことを証明し、被告人のしかるべき刑罰を裁判官へ求めます。
以前は刑事裁判の場で被害者ができることはほとんどなく、一般の人と同じように傍聴席で裁判を見るくらいでしたが、近年の法改正でより積極的に関与できる場面が増えてきました。
▼刑事事件の被害者支援について、詳しくはこちらの記事もご覧下さい
刑事事件の「被害者支援制度」とは
被害者が刑事裁判でできること1:証人尋問
被害者は証人として、犯罪の状況や被告人に対する処罰感情などにつき、法廷で証言を求められることがあります。
すでに警察や検察の事情聴取に協力して上記が供述調書に記載されていても、被告人の同意がなければ証拠として裁判所に提出することができないため、改めて法廷で証言しなければいけないのです。
被害者の中には、被告人や多くの人の前で証言することに恐怖や緊張を覚える人もいます。
そのようなときには、裁判所の判断により、以下に解説する「証人への付添い」「証人の遮へい」「ビデオリンク方式」等の配慮がなされることもあります。
1:証人の付き添い
性犯罪や被害者が小さい子供の場合などは、証言尋問によって事件を思い出し恐怖を感じる可能性がありますが、少しでもその恐怖感を和らげるため、証言のあいだ付添人が証人に付き添うことが認められています。
付添人になれる人は、証人の家族やカウンセラー・弁護士などです。最近では、犬が「付添犬」として認められたケースもあります。
2:証人の遮へい
証人が被告人や傍聴人と向き合って法廷で証言することで、恐怖を感じたり自分を責めてしまったりする可能性があります。
心理的な負担を少しでも減らし、正直な思いを十分に話せるよう、証人と被告人・傍聴人の間についたてを設置し、被告人・傍聴人から見られないようにすることがあります。
3:ビデオリンク方式
遮へいと同様、別室の証人と法廷とをビデオ通話でつなぎ、モニターを通じて証言してもらうという方法(ビデオリンク方式)もあります。
大勢の人の前で自分の受けた被害や詳細な状況を証言しなくても済み、心理的な負担も軽くなるでしょう。
被害者が刑事裁判でできること2:被害者参加制度
被害者参加制度とは、一定の事件の被害者やその遺族などが希望すれば刑事裁判に参加できる制度です。
被害者参加制度の対象となる犯罪は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(殺人罪、傷害罪など)、強制わいせつおよび強制性交の罪、業務上過失致死傷等および自動車運転過失致死傷等などに限られています。
被害者参加制度を利用したい場合には以下のような流れで申請します。
- 被害者や被害者の遺族が事件を担当する検察官へ申し出る
- 検察官が裁判所へ、被害者が刑事裁判に参加することに対する意見を付して通知する
- 裁判所が可否を判断し、許可すれば、被害者参加人として刑事裁判に参加できる
被害者参加制度によって被害者(やその遺族)は公判中の証人尋問:被告人質問・意見陳述が認められ、刑事裁判により主体的に参加することが可能になります。
被害者が刑事裁判でできること3:損害賠償命令制度
損害賠償命令制度とは、一定の犯罪の被害者が、その犯罪を原因とする損害賠償請求を裁判所に申し立てできる制度です。
申立てを受けた刑事裁判所は、有罪判決の言渡しがあった後直ちに第1回審理期日を開き、刑事裁判の訴訟記録を取調べて審理を行います。審理は原則として4回以内に終結し、最終的に裁判所が損害賠償命令の決定をします。
決定に不服がある場合には、被告人と被害者いずれも異議を申し立てできます(2週間以内)。
異議申立てがあればその後は民事裁判へと移りますが、損害賠償命令制度では刑事裁判の訴訟記録をコピーして民事裁判所に提出するといった必要がなく、通常の民事訴訟よりもスピーディに損害賠償請求を進めることができます。
【6】裁判の終了と刑の執行
全ての証拠の取り調べ、被告人質問、検察官の論告・求刑や弁護人の弁論などが終わると、裁判所が被告人に対して判決を言い渡します。
検察官によって被告人の犯罪が立証されたと裁判所が判断すれば有罪判決となり被告人の刑罰が言い渡されます。
反対に検察官によって被告人の犯罪が立証されたとまではいえないと裁判所が判断した場合、無罪判決となります。
被告人は判決に不服があるときは控訴や上告ができますが、控訴や上告をしなければ判決が確定し、刑事事件としては終了となります。
刑事裁判後に被害者にできること1:確定記録の閲覧・謄写
刑事裁判の終了後、訴訟記録や裁判書は検察庁に保管されます。被害者は、検察庁で訴訟記録や裁判書を閲覧・謄写(コピー)することができます。
ただし裁判書以外の記録が閲覧できるのは原則として3年間なので期間には注意しましょう。
刑事裁判後に被害者にできること2:民事裁判
刑事裁判で被告人に刑罰が科せられたものの、治療費や慰謝料など経済的な被害が大きく、損害賠償を請求したいと考える場合、さらに民事裁判を起こすことになります。
民事裁判は捜査段階でも可能ですが、刑事裁判終了後であれば損害賠償命令制度によって確定記録を民事裁判の証拠とし、加害者の不法行為や損害内容を立証しやすくなります。
ただし民事裁判で勝訴しても、加害者の資力が十分ではなければ損害賠償金を回収できない可能性もありますので、事前に弁護士に相談し、得られるメリットを確認しておくことをおすすめします。
刑事事件で被害を受けたら弁護士のサポートを
刑事事件の流れは、おおまかにいうと捜査(警察)→処分(検察官)→刑事裁判(裁判所)となりますが、一般的に被害者がイメージするような「加害者の逮捕・拘留・有罪判決」といったパターンだけでなく、被疑者が身体拘束されないまま捜査されたり、起訴されずに事件終了となったりといろいろなパターンがあります。
そのため、被害者の方は自分がどの段階にいるのかを把握しづらく、現時点で何ができるのか、次に何寿司亡くてはいけないのかわからない……と戸惑ってしまうかもしれません。
また、「加害者に厳罰を科してほしい」「刑罰は科さなくてもいいから治療費や慰謝料だけは払ってほしい」など、被害者のニーズは人それぞれ異なっています。
希望に合った解決方法はどれなのか、そのために何をすればいいのかがわからない時は、刑事事件に詳しい弁護士に相談することがおすすめです。
刑事事件の流れや各手続きはもちろんのこと、もし加害者との示談交渉や民事裁判が必要になった場合でも専門知識に基づき適切な対応が可能です。
リード法律事務所では、犯罪被害に遭われた方のため、刑事事件に精通した経験豊富な弁護士が相談を受け付けています。お気軽に以下までご連絡ください。