刑事告訴の基礎知識

最終更新日:2023.05.31

【被害者向け】刑事告訴について分かりやすく解説

刑事告訴とは、犯罪の被害者などが、捜査機関に対して、犯罪が起こったことを申告して、犯人の処罰を要求することです。

日本では、被害者からの訴えがなくても、検察官や警察官といった捜査機関は、いつでも捜査を開始することができます。

また、犯人を起訴して裁判所に処罰を求めるかどうかも、被害者ではなく検察官が決めることです。

しかし、被害者は告訴することで、捜査や起訴に、犯人を処罰してほしいという意思を反映させることができます。

この記事では、刑事告訴のメリットや、告発や被被害届との違い、告訴の要件について解説します。

刑事告訴とは

刑事告訴とは、犯罪の被害者やその他一定の者(被害者の親権者や相続人など)が、検察官や警察官といった捜査機関に対して、犯罪が起こったことを申告して、犯人の処罰を求めることです(刑訴法230条)。

刑事告訴の流れ

刑事告訴の流れは、

①告訴状を警察に提出して受理される

②捜査が開始される

③必要に応じて加害者が逮捕・勾留される

④検察官によって起訴か不起訴かが決定される

⑤加害者が起訴されると、無罪でない限り加害者は刑事処罰を受ける

となっています。

刑事告訴のメリット

捜査機関が動いてくれる

告訴が受理されると、捜査機関に一定の捜査義務が発生します。

告訴を受理した警察は、速やかに、告訴に関する書類や証拠物を検察官に送付する義務があります。

そのため、事件を警察で長期間滞留させたり、微罪処分として検察官に送らないまま事件を終わらせることはできません。

警察や検察といった捜査機関は、日頃から数多くの事件を捜査しているため、単に被害届を出しただけではなかなか捜査をしてくれず、後回しにされてしまうこともあります。

告訴すれば、いつまでたっても捜査が進まないという事態を避けることができて、早く捜査が進むというメリットがあります。

加害者が刑事処罰を受ける可能性が高くなる

検察官は、警察から送られてきた告訴状や証拠書類などを確認し、起訴するか不起訴にするかの処分を決定します。

検察官は、この処分の結果を、告訴した人に通知しなければなりません。

もし不起訴だったとしても、告訴した人は、不服があれば、検察審査会に審査を求めることができます。

また、名誉毀損罪などの一部の犯罪は「親告罪」といい、告訴がないと起訴することができません。起訴されれば、加害者は、無罪でない限り、何らかの刑事処罰を受けることになります。

加害者が起訴されないことには刑事処罰を与えることもできないため、親告罪で、加害者に刑事処罰を与えたいなら、必ず告訴しなければいけません。

被害者の中には、加害者を許すことができず、刑事処罰を受けることで犯した罪を償ってほしいと考える人もいるでしょう。

被害者が告訴すれば、加害者が起訴されて刑事処罰を受ける可能性が高くなるというメリットがあります。

示談交渉を有利に進められる

加害者は、起訴されて有罪となると、刑事処罰を受けて前科がつきます。

前科がつくと、就職が難しくなったり、周囲から偏見を持たれたりするなどの不利益が生じることが想定されます。

加害者が、起訴されるのを避けるために、何とか被害者と示談をして告訴を取り消してもらいたいと考えるのは当然です。

一方、被害者の中には、加害者から十分な示談金さえもらえれば、刑事処罰まで与えなくても加害者を許してあげようと考える人もいます。

このような場合、告訴を取り消してほしい加害者と、示談金さえもらえれば許そうという被害者との間で、示談の交渉をすることがあります。

通常、示談の交渉がまとまって、示談が成立すれば、示談金の支払いと引き換えに、被害者は刑事告訴を取り消します。

被害者があらかじめ告訴しておくことで、示談交渉の際、被害者から加害者に対して、告訴を取り消す代わりに示談金を支払ってほしいと提案することができます。

このように、告訴をしておけば、加害者との示談交渉を、被害者にとって有利に進められるでしょう。

告発や被害届との違い

告訴とよく似ているものとして、告発や被害届があります。

しかし、告訴と告発・被害届は、できる人や効果に違いがあるので注意が必要です。

告訴と告発、告訴と被害届の違いを解説します。

告発との違い

告発とは、告訴できる人または犯人以外の第三者が、検察官や警察官などに対して、犯罪があったことを申告して、犯人の処罰を求めることです。

告発は、告訴できる人が決まっている告訴とは異なり、告訴できる人以外の誰でも行うことができます。

注意しなければいけないのが、名誉毀損罪などの親告罪では、たとえ告発されていても、告訴されていなければ、起訴できないという点です。

親告罪で、加害者の刑事処罰を希望するのであれば、告発ではなく告訴をしなければいけません。

被害届との違い

被害届とは、捜査機関に対して、犯罪の被害にあったと申告する届出です。

被害届を捜査機関に提出しても、告訴とは異なり、捜査機関に捜査の義務は生じません。

捜査の義務が生じない分、一般的には、告訴よりも被害届の方が受理されやすいです。

また、告発と同様に、名誉毀損罪などの親告罪では、たとえ被害届を提出されていても、告訴がされていなければ起訴できないという点に注意しましょう。

親告罪で、加害者の刑事処罰を希望するのであれば、被害届を出すだけではなく、告訴をしなければいけません。

告訴の要件

刑事告訴が受理されるためには、刑事告訴の要件を満たす必要があります。

告訴の相手

告訴の相手は、捜査機関の中でも、司法警察員または検察官に限られています(刑訴法241条)。

司法警察員とは、警察官のうち、通常は巡査部長以上の階級の人のことをいいます。

一般的に、刑事告訴は、管轄の警察署に直接行って、担当部署の警察官に、告訴状を提出して受理してもらうことが多いです。

事前の連絡をせずに警察署に行っても、担当者が不在のこともあるので、必ず事前に連絡を入れてから行きましょう。

告訴の様式

刑事告訴は、書面か口頭でしなければいけません(刑訴法241条)。

実際は、口頭で告訴をしようとしても受け付けてもらえないことが多く、口頭で告訴することはほとんどありません。

一般的に、刑事告訴は「告訴状」という書面を提出して行いますが、告訴状の書式や様式は特に決まっていません。

ただし、犯罪にあたる具体的な事実や、処罰の意思を明確に告訴状に記載していなければ、受理してもらえないことが多いです。

また、犯罪が起こったことがわかるような証拠書類を添付しておくと良いでしょう。

告訴の期間制限

親告罪では、刑事告訴できる期間は、犯人を知った日から6ヶ月と決まっています(刑訴法235条1項本文)。

この期間を過ぎてしまうと、告訴が無効になってしまいます。

「犯人を知った」とは、犯人の氏名や住所まで特定する必要はありませんが、少なくとも犯人を他の人と区別できる程度に認識したことが必要と言われています。

他方で、親告罪以外の場合、告訴期間の制限はないので、その犯罪の公訴時効期間(刑訴法250条)が過ぎていない限り、いつでも告訴できます。

刑事告訴が多い犯罪

刑事告訴が多い傾向の犯罪について、具体例を紹介します。

毀棄及び隠匿の罪

毀棄及び隠匿の罪(刑法258条から263条まで)は刑事告訴されやすい犯罪です。

特に、私用文書等毀棄罪(刑法259条)、器物損壊罪(刑法261条)、信書隠匿罪(刑法263条)は、親告罪となっており、告訴がないと起訴されない犯罪なので、告訴されやすい傾向にあります。

たとえば、自分の持ち物などを、第三者に故意に破損された場合は、器物損壊罪として告訴ができます。過失により破損された場合には、器物損壊罪は成立しないので、器物損壊罪として告訴することはできません。

名誉棄損罪・侮辱罪

名誉毀損罪は、不特定または多数の人が認識できる状態で、具体的な事実を示して人の名誉を毀損するという犯罪です。

たとえば、「AさんはBさんと不倫している」と公衆の面前で大声で話すなど、人の社会的評価に関係する具体的な事実を言いふらすといったことも、名誉棄損罪になります。

侮辱罪は、不特定または多数の人が認識できる状態で、具体的な事実を示さずに、人を侮辱するという犯罪です。名誉棄損罪と違って、具体的な事実を示していなくても、あてはまることがあります。

たとえば、「Aさんは馬鹿だ」とSNS上で投稿するなど、人の社会的評価に関係する価値判断を言いふらすといった行為も、侮辱罪になります。

名誉棄損罪も侮辱罪も、親告罪となっており、刑事告訴がないと起訴されない犯罪なので、告訴されやすい傾向にあります。

詐欺罪

詐欺罪は、人を騙して財物や利益を奪ったり、他人に財物や利益を得させたりする犯罪です。

詐欺罪の手口には、さまざまな種類があります。たとえば「オレオレ詐欺」のような振り込め詐欺や、架空請求詐欺、ワンクリック詐欺、フィッシング詐欺などです。このように、電話やメール、SNSなどを利用して対面することなく不特定多数の人に対して行う詐欺を「特殊詐欺」といいます。

また、特殊詐欺以外にも、少額の現金を借りて返済しない寸借詐欺や、支払い意思がなく飲食をして代金を支払わない無銭飲食なども、詐欺罪になります。

詐欺罪は親告罪ではないですが、被害者が警察などに相談しないと発覚しにくい犯罪です。また、被害者では犯人を特定できない場合が多く、警察などに捜査してもらうためにも、被害者が告訴する傾向にあります。

刑事告訴は弁護士に相談しましょう

刑事告訴は、捜査機関に一定の捜査の義務を生じさせることから、捜査機関が動いてくれるというメリットがあります。

また、最終的に加害者が起訴されれば、無罪でない限り刑事処罰を与えることができたり、加害者との示談交渉を有利に進めることができたりするというメリットもあります。

特に、親告罪の場合、加害者を起訴して刑事処罰を与えるには、告発や被害届では足りず、告訴をする必要があります。

告訴が多い犯罪として、毀棄及び隠匿の罪、名誉毀損罪・侮辱罪、詐欺罪などがありますが、告訴できる犯罪はこれらに限られるものではありません。

自分が告訴のメリットを受けられそうか、告訴の要件を満たしているのかなど、告訴するかどうか迷ったときは、まず弁護士に相談してみましょう。

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