刑事告訴の基礎知識

最終更新日:2023.07.18

刑事事件と民事事件の違いとは?民事訴訟を起こすベストなタイミングを解説

刑事事件の被害に遭ってしまったとき、犯人の逮捕や処罰といった刑事上の手続きもさることながら、経済的な被害に対する金銭の補償など民事訴訟が必要なケースも数多くあります。

しかし、そのための制度や手続きについてよく分からず困っている方もいるのではないでしょうか。

本記事では刑事事件と民事事件の違い、また民事訴訟の方法やベストなタイミングについて解説します。

民事事件と刑事事件、それぞれの定義

一般的に「事件」と聞くと、殺人事件や強盗事件などの犯罪を思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし法的にいうと、事件には「民事事件」と「刑事事件」の2種類があります。

民事事件とは

民事事件とは、私人の間で起こったトラブルを協議(話し合い)や裁判で解決することをいいます。

ここでいう「私人」とは原則として個人や会社・団体などですが、一部で国や地方公共団体も民事事件の当事者となります。

具体的には以下のような例が民事事件に当てはまります。

  • 交通事故の損害賠償請求
  • 貸したお金の返還請求
  • 売買代金の支払い請求
  • 不貞行為の慰謝料請求
  • 自己破産や個人再生などの債務整理
  • 相続に伴う遺産分割
民事事件について説明する画像

上記のように、民事事件は、金銭を請求したり自分の権利を主張したりするもので、刑事事件のように有罪/無罪を決めたり刑罰を科したりするものではありません。

民事事件の解決には、裁判所を通さずに当事者間で交渉するパターンと裁判所を通すパターンの二通りあります。裁判所を通す場合の方法として主に使われているのが「民事訴訟」を提起することです。

ただし民事訴訟を提起しても全てのケースで裁判や判決まで進むわけではなく、途中で和解をすることもあり得ます。

刑事事件とは

刑事事件とは、被告人が本当に犯罪をしたのかどうか、犯罪をしていた場合、どの程度の刑罰が適切か……等を裁判官が判断する手続きです。

日本の法律では犯罪の被害者自身が犯人を処罰することは許されていないため、国家権力が被害者に代わって犯人に刑罰を科すことになります。また刑罰を科すには原則として刑事訴訟を提起(起訴)しなければならず、刑事訴訟を提起できる人は検察官に限られています

具体的な刑事事件の例は以下のようなものです。

  • 殺人
  • 強盗
  • 横領、詐欺、窃盗
  • 覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反
  • 迷惑防止条例違反(痴漢、盗撮など)
  • 道路交通法違反(酒気帯び運転、無免許運転など)
刑事事件について説明する画像

刑事事件では、あくまでも「被告人が犯罪をしたかどうか」を判断し、犯罪をしたのであれば刑罰を言い渡すもので、被害者と加害者間の金銭的な賠償等については論じられません。

民事事件と刑事事件の目的の違いを説明する画像

民事訴訟と刑事訴訟、6つの違い

「訴訟(そしょう)」は、交通事故や離婚の慰謝料など民事事件関連でよく耳にする言葉ですが、民事事件・刑事事件ともに訴訟は存在します。

ただし、民事と刑事では訴訟の意味合いや手続の流れなどが大きく異なるため、両者の違いを整理しておきましょう。

1:当事者が異なる

民事訴訟の当事者は原則として個人や企業・団体で、例外的に国や地方公共団体も当事者になることもあります。

また民事訴訟では、訴訟を提起した側を「原告」、提起された側を「被告」と呼びます。

一方、刑事訴訟では犯人(と思われる人)を「被告人」と呼び、起訴するのは私人の被害者ではなく検察官で、裁判官が被告人の犯罪の有無や刑罰を判断します。

民事事件と刑事事件の当事者の違いを説明する画像

2:推定無罪と立証責任

刑事と民事では立証の責任を負う人も、立証のハードルの高さも異なります。

刑事訴訟では、有罪判決が確定するまでは被告人を「罪を犯していないものとして扱う」というルールがあります(推定無罪)。推定無罪を覆すため、検察官は供述や証拠・証言に基づき被告人の有罪を立証しなければいけません。

一方民事事訴訟では、原則として原告・被告それぞれが自分の主張が事実であるということを立証します。(立証責任)。

そのため、刑事で有罪であっても民事では勝訴したり、逆に刑事で無罪であっても民事で敗訴したりすることも起こります。

民事事件と刑事事件の立証の違いを説明する画像

3:目的が異なる

民事訴訟の目的は私人の間で起こったトラブルを解決することであり、最も一般的な手段は「金銭の請求」です。(ほかに建物などの撤去、特定の権利や義務などの確認、離婚など権利の変動の宣言などを求めるケースもあります。)

一方、刑事訴訟の目的は、被告人が本当に犯罪をしたのか、犯罪をしていたとしたらどのような刑罰を科すのかを判断することです。刑事訴訟で罰金刑が下された場合、その罰金は被害者に向けたものではなく、国家に刑罰として支払うものになります。

刑事事件の被害者が加害者に対して金銭的な請求をしたいと思っても、刑事訴訟の中では原則として金銭的な請求をすることはできません。

民事事件と刑事事件の目的の違いを説明する画像

4:和解の有無

私人間のトラブルを解決する民事訴訟では、必ずしも裁判官から判決が言い渡されるわけではなく、原告と被告がお互い納得して合意できれば、民事訴訟の途中で和解し訴訟が終了します。

しかし被告人の犯罪の有無と刑罰の確定が目的の刑事訴訟では、途中で和解によって裁判が終わるといったことはなく、判決が必ず言い渡されます

ただし刑事裁判では、刑事裁判外で民事上の請求について和解した場合に、その内容を刑事裁判の公判調書に記載してもらうことができます(刑事和解)。

民事事件と刑事事件の和解の違いを説明する画像

5:利用できる制度が異なる

民事訴訟で利用できる制度のひとつが「反訴」です。訴訟を提起された被告は、一定の要件を満たせば原告を訴え返すことができます。反訴の内容はもとの訴訟と同じ手続きの中で審理が可能です。

刑事訴訟で利用できる制度には「裁判員裁判」や「被害者参加制度」、「損害賠償命令制度」などがあります。

  • 裁判員裁判…国民の中から選ばれる裁判員が刑事裁判に参加する制度で、殺人などの一定の重大犯罪で行われます。
  • 被害者参加制度…一定の犯罪において被害者や被害者遺族が公判期日に出席し、証人尋問や被告人質問・意見陳述ができる制度です。
  • 損害賠償命令制度…一定の犯罪の被害者などが、その犯罪を原因とする損害賠償請求を裁判所に申し立てることができる制度です。
民事事件と刑事事件の制度の違いを説明する画像

6:判決が異なる

民事裁判では、私人の間の権利義務について裁判所が判断した結果が判決として言い渡されます。

請求が認容されたときの判決文は「被告は、原告に対して、金○○円を支払え」などであり、請求が棄却された場合には「原告の請求をいずれも棄却する」といった内容になります。

刑事裁判では、被告人が有罪か無罪か・有罪の場合はどのような刑罰が科されるのかが判決として言い渡されます。判決文は「被告人を懲役○○年に処する」「被告人は無罪」といった文面になります。

民事事件と刑事事件の判決の違いを説明する画像
民事事件と刑事事件の6つの違いを説明する画像

民事訴訟と刑事訴訟は両方起こすことが可能

刑事事件が起きると、通常は刑事訴訟(裁判)が行われ、被告人の有罪/無罪および刑罰についての判決が下されます。

しかし、刑事事件の判決には被害者が受けた金銭的な損害を加害者が賠償するといった内容は含まれていないため、賠償を受けるには別途なんらかのアクションを起こさなければなりません

具体的には「示談交渉」「損害賠償命令制度」などが挙げられますが、示談交渉がまとまらない、損害賠償命令制度が使えない……といった場合は、被害者は「民事訴訟」を提起して、加害者に損害賠償請求することになります。

「刑事事件だから民事訴訟はできない」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、民事訴訟は刑事訴訟(裁判)と並行して提起することが可能です。

刑事事件で民事訴訟を起こすベストなタイミング

刑事訴訟が行われている間に民事訴訟を起こすのは可能とはいえ、実際は刑事訴訟が終了してからというケースが大半です。

その理由としては次のようなものがあります。

  • 刑事訴訟の判決を、民事訴訟の証拠としても利用でき、加害者の民事的な責任を立証しやすくなる
  • 刑事訴訟終了後に刑事記録の閲覧・謄写が可能になり、民事訴訟の証拠としても利用できる
  • 民事訴訟の判決により加害者が賠償をすると、刑事事件の方では加害者の刑罰が軽減される可能性

上記を考えると、刑事訴訟が終了した後に民事訴訟を起こすのがベストなタイミングといえるでしょう。

民事訴訟のベストタイミングについて説明する画像

刑事訴訟には「刑事告訴」が必要なケースもある

犯罪の中には、名誉毀損や詐欺・横領など、被害者からの「刑事告訴」がないと検察官が起訴できず、仮に犯罪の事実がわかっていても刑事訴訟を起こせないものがあり、それらを「親告罪」といいます。

親告罪では、賠償金の額などを争う民事訴訟は他の事件同様に提起できますが、加害者の処罰を望む場合には「刑事告訴」が必要となります。

▼「親告罪」について詳しくはこちらの記事でも紹介しています

親告罪とは?告訴の仕方や裁判までの流れを解説

民事訴訟と刑事訴訟、両方の訴訟が存在する事件とは

事件の中には、基本的に民事訴訟しかできないものと、民事・刑事両方の訴訟が起こりうるものがあります。

被害者が存在する犯罪では、刑事的な判決や刑罰だけでなく被害者の治療費や慰謝料といった民事上の損害賠償請求が発生するため、民事訴訟と刑事訴訟の両方が起こり得ます。

反対に、覚醒剤の自己使用といった明らかな被害者が存在しない犯罪では民事訴訟が起こることは考えにくいでしょう。

以下、よくある事件や事故について民事訴訟と刑事訴訟の起こるパターンを解説します。

交通事故

交通事故では、被害者は加害者に対し治療費や慰謝料・休業損害などの民事上の損害賠償請求をすることができます。

通常は加害者の任意保険会社と示談交渉をしますが、お互いが相手の過失を主張するなど交渉がまとまらない場合には民事訴訟になることもあります。

また、ひき逃げ・飲酒運転・過度なスピード違反や死亡事故といった重大な交通事故では、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪などの犯罪で起訴され刑事訴訟になります。

名誉棄損

故意または過失による名誉毀損行為によって、権利又は法律上保護される利益を侵害され損害が生じた場合、被害者は加害者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます(民法709条)。また、加害者に対し名誉を回復するのに適当な処分を命じることもできます(民法723条)。

他方、公然と事実を摘示し、故意に他人の名誉を毀損した場合には、刑法上の名誉毀損罪(刑法230条1項)が成立し、刑事訴訟となります。

横領・詐欺・窃盗事件

横領・詐欺・窃盗事件についても、被害にあった金額について、被害者は加害者に対して民法上の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)や不当利得返還請求(民法703条)をすることができます。

被害者の告訴によって刑事訴訟となった場合、横領・詐欺・窃盗罪では、加害者から被害者に対し民事上の被害金額の弁償がされているかどうかで加害者の起訴・不起訴や刑罰の軽重が変わってくるため、加害者の中には被害金額を弁償することでなんとか告訴や逮捕を免れたいと考える人もいます。

刑事事件で訴訟について迷ったら弁護士に相談を

もしも犯罪に遭ってしまったら、精神的なショックも大きいなか、警察での事情聴取や被害の後処理・通院・各種手続きなどで、相手に損害賠償請求したくても、まず何をすればいいのか分からずに戸惑ってしまうことも少なくありません。

迷った時は、刑事事件・民事事件ともに精通した弁護士に相談することがおすすめです。

加害者への処罰感情や、求める損害賠償の内容などにより最適な対処方法は異なりますが、弁護士であればそれぞれの法律の知識を横断的に生かして「何をすればいいのか」「いつ行うのがいいのか」を適切にアドバイスできます。

途中で告訴状の提出が必要になったときや加害者と交渉しなくてはならない場合、裁判への参加を希望する場合など、弁護士であればあらゆる場面で切れ目のないサポートが可能です。

リード法律事務所では、刑事事件の被害者支援に豊富な経験と実績を持つ弁護士が相談を受け付けています。お気軽に以下までご連絡ください。

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