最終更新日:2023.05.31
警察が告訴を断る理由と告訴を受理してもらうための5つのポイントを弁護士が解説
刑事告訴をしても、必ず受理してもらえるとは限りません。特に弁護士に依頼せずにご本人がお1人で告訴状を作成すると、受理されないケースが多々あります。
この記事では、なぜ告訴状が受理されないのか、受理してもらうにはどのようにすればよいのか、ポイントを弁護士が解説します。
犯罪被害に遭って刑事告訴をしたいと考えている方は是非参考にしてみてください。
目次
警告には告訴を受理しなければならない義務がある
告訴とは、犯罪被害に遭った人が加害者を処罰してほしいとする意思表示です。
告訴がきっかけで犯罪事実が明るみに出るケースも多いですし、告訴によって加害者に重罰を与えてもらいやすくなる効果もあります。
法律ではありませんが犯罪捜査規範63条により、警察などの捜査機関は、告訴があると受理しなければならないと定められています。よって、本来なら警察などの捜査機関は告訴があれば受理しなければならない義務があるといえます。
ところが現実には、告訴が行われても受理されないケースが少なくありません。
警察が告訴を断る理由
なぜ犯罪捜査規範で義務化されているにもかかわらず、告訴が行われても警察署で受理してもらえないのでしょうか?以下でよくある理由をみてみましょう。
警察が告訴を不受理にする理由は、概ね以下のとおりです。
- ①証拠が足りないと判断した
- ②犯罪に該当しないと判断した
- ③民事的手段により解決を図れるのだから警察は介入しない(民事不介入)
- ④犯罪事実が判然としないと判断した
- ⑤被害が軽微
- ⑥犯人の特定が困難
- ⑦業務が多忙
警察の言い分は本当に正しいのでしょうか?結論からいうと、①~⑦のすべてについて、受理しない理由にはなりません。
証拠が足りないと判断した
まずは証拠が足りないので告訴状が受理されないケースが多々あります。
しかし証拠が不足しているからといって、警察が告訴を受理しない理由にはなりません。証拠によって犯罪事実を立証できるかどうかは、最終的に裁判所が判断すべき事項だからです。捜査の端緒を担うだけの警察が証拠不足云々を判断できるわけではありません。
犯罪に該当しないと判断した
警察が「犯罪に該当しない」と判断して告訴を受理しないケースも少なくありません。しかし犯罪に該当するかどうかについても、最終的に裁判所が判断すべき事項です。警察が決めるべき内容ではありません。
そもそも警察官は証拠不足や犯罪に該当するかといった判断を独自で行えるほど、十分な法的知識や理解を有していないのが通常です。そのような傾向はとりわけ刑事告訴の現場に出てくるような現場の警察官において顕著ともいえます。知識や理解の不足する警察官が「証拠不足」や「犯罪に該当しない」などと判断することはできないはずです。
警察はあくまで法律を執行する機関たる「行政」に過ぎず、①②に述べた法的な判断を行う機関ではありません。②の理由も根拠の無いものといえるでしょう。
民事的手段により解決を図れるのだから警察は介入しない(民事不介入)
次に③の「民事不介入」について考えてみましょう。
民事不介入とは、「警察は、犯罪性のない個人間の紛争には介入しない、とする原則です。民事不介入について、実は明確な法的根拠があるわけではありません。
民事不介入とはいっても、民法の定める契約自由の原則が及ぶ範囲、すなわち「犯罪性のない」個人間の紛争については警察は介入すべきではないということを意味するにとどまります。したがって、個人間の紛争であっても、犯罪性があれば民事不介入の原則は妥当しないといえます。
民事不介入の例と該当しない例
例えば、詐欺によりお金を騙し取られてしまった場合、個人間の紛争ですが、詐欺罪に該当する犯罪があり、もはや民事的な問題の範疇に留まらなくなるので刑事事件として警察が介入します。
一方、お金の貸し借りがあり、単に借主からお金が返還されないという場合、犯罪性はないので警察が介入することはありません。
誤解としてよくあるのが「民事的手段をとれる以上、刑事的手段はとれない、とるべきでない」というものです(警察の方でもそのように誤解している方が多数います)。そのせいで民事不介入を口実に刑事告訴が受け付けられにくくなっています。
しかし、これは明らかな誤りです。
例えば、投資詐欺に巻き込まれてしまった場合を例に考えてみると、詐欺の被害にあった被害者は、民事的手段をとれる場合にも刑事的手段をとれます。
このように、犯罪性はあるものの、背後に個人間の金銭的なやり取りがあるケースで、警察は「民事的手段で解決できるのだから警察は介入しない」などと言い民事不介入を盾に刑事事件化することを拒むことが非常に多いです。
しかし、先ほどの民事不介入の原則を思い出してください。同原則は、あくまで、「犯罪性のない」紛争について警察が介入しないことを意味するに過ぎず、犯罪性のある紛争についてはそもそも民事不介入原則が妥当する領域ではありません。
したがってこの場合、紛争に犯罪性があるので、「犯罪性のない個人間の紛争」とはいえず、民事不介入の原則は妥当しないのです。
警察は少なくとも被害者が望んでいる以上、事件を受理する義務があります。
以上のとおり、③の言い分も誤りであるとわかるでしょう。
犯罪事実が判然としない
犯罪事実が判然としないために告訴が受け付けられないケースもあります。
確かに裁判例上、刑事告訴の際には犯罪事実の特定が必要とされているので、被害者としても最低限、犯罪の時間、場所、方法などについては明らかにしなければなりません。
一方、犯罪事実の特定がされていれば、警察には告訴受理義務があります。それ以上に詳しい事実関係については、警察が捜査すべきです。
以上より「犯罪事実」さえ特定されていれば、仔細な事実関係が不明であることを持って告訴を受理しない理由になりません。
被害が軽微
被害が軽微なために告訴が受け付けられないケースもよくあります。
しかし軽微であっても犯罪は犯罪です。適法な告訴があった以上、受け付けなければなりません。この理由も不受理とする根拠として的を射ていないといえるでしょう。
犯人の特定が困難
犯人の特定が困難な場合にも告訴状が受理されないケースがあります。
しかし犯人を特定するのは警察の仕事であって、被害者の義務ではありません。犯罪が行われた以上、警察は捜査に着手して犯人の割り出しにあたるべきです。
「犯人の特定が困難」という理由での不受理は理不尽なものといえるでしょう。
業務が多忙
警察の業務が多忙なために告訴状が受理されないケースも少なくありません。
しかし告訴は国民の権利です。犯罪捜査規範でも告訴は受理すべきとされています。多忙を理由に断れるものではありません。この理由が通らないことは明らかです。
警察が告訴を受理したがらない信じられない理由
警察は固定の給料をもらっている公務員です。一般的な会社員が見返りもなく自分の仕事を引き受けることが難しいのと同様に、警察も給料が変わらないのであれば、仕事を増やす理由はなく、「扱うべき事件数は少ない方が良い」と考える人が少なくありません。信じられない話ですが、そのようなあってはならない考えにより、被害者が完璧に告訴状を書いても、良い証拠を揃えて持参しても、結局警察が刑事告訴を受理してくれないケースがあります。
警察で告訴を受理してもらうための工夫
それでは、どうすれば警察に刑事告訴を受理させることができるのでしょうか。
可能な限り証拠を集めておく
まずはできるだけ多くの証拠を集めましょう。証拠が揃っていれば警察も「証拠がない」「犯罪事実が判然としない」などといって告訴を断れなくなります。
事件を立証する証拠をすべて集める必要はありませんが、犯人の特定につながる証拠や、捜査の足がかりとなる証拠は特に重要です。
たとえばインターネットを使った詐欺事件のように犯人特定が難しいケースでは、犯人特定につながる証拠がなければ告訴状が受理されにくい傾向もみられます。
警察、検察に事前相談する
警察や検察に事前相談しておくと、要件の不備などがなくなって告訴状を受理してもらいやすくなります。都道府県の警察本部、警察署では「告訴・告発センター」がある場合もみられます。
検察庁にも告訴や告発を受け付ける専門の係があるので、告訴状を書くときには、事前に警察や検察に相談してみてください。
示談の予定をはっきり伝えない
一般的に、示談が成立すると告訴は取り下げられます。
告訴する段階において、すでに「示談の意向がある」と伝えると、警察官は「後で告訴を取り消すだろう」と考えて告訴を受理しなくなってしまう可能性があります。
告訴を受理してもらいたければ、示談の意向についてはあいまいに濁しておくのが無難といえるでしょう。
警察官とのやり取りを録音する
警察が理由なく告訴を受理してくれない場合、後日に苦情を申し立てることも可能です。
苦情申し立てに備えて、告訴を行った際の警察官との話の内容をICレコーダーなどで録音しましょう。
苦情を申し立てると捜査官にプレッシャーを与えることができて、告訴の受理に向けた一定の効果を見込めます。
弁護士に相談する
5つ目の方法として、告訴を弁護士に依頼するようおすすめします。
ここで重要なポイントは、警察は「行政機関」であるという点です。行政機関である警察は、法律にのっとって適切・適法に業務を行わねばなりません。違法な方法で業務を行ってはならないことは当然です。
こういった警察の行政機関としての性質を踏まえたとき、刑事告訴を受理しないために「違法」な状態になると、警察としては適法な状態(=告訴受理)にしなければなりません。そこで警察が嫌がる「違法な状態」を強調し、それが違法であると警察に説明して理解させることが重要となります。
刑事告訴の手続きに精通している弁護士であれば、告訴が受理されないときにそれが違法であることを説明し、警察を説得したり動かしたりする技術に長けています。また、警察の上位組織への働きかけもできますし(警察法79条)、警察を飛ばして検察ルートで刑事告訴を行ったり(直告)、警察に対して損害賠償請求を求める裁判を起こしたり(国家賠償法)する強行策もとれます。
いずれにせよ必要なのは警察を従わせる法的な力です。国家権力を背後にした強力な組織である警察を相手に、個人が戦うことは現実的ではないでしょう。
弁護士の強みの1つに組織を相手取って個人が戦える点があります。警察に怯まず、強行的にでも従わせられる「強い弁護士」のサポートがあれば刑事告訴を有利に進められる可能性が高いといえるでしょう。当法律事務所でも刑事告訴に力を入れて取り組んでいますので、告訴が受理されなくて困ったときは、お気軽に弁護士までご相談ください。