刑事告訴の基礎知識

最終更新日:2023.05.31

親告罪とは?告訴の仕方や裁判までの流れを解説

親告罪とはどのような犯罪のことを指すのか。また、親告罪とされている犯罪について、告訴の有無によって刑事手続きにはどのような影響があるか。この記事では、親告罪に関する正確な意味や、告訴の仕方、告訴状の提出から刑事裁判までの具体的な流れについてわかりやすく解説していきます。

親告罪とは

「親告罪」とは、検察官が公訴を提起(起訴)するときに、被害者の告訴があることを必要とする種類の犯罪のことです。

親告罪は、「絶対的親告罪」と「相対的親告罪」の2つの種類に分けることができます。

絶対的親告罪とは

「絶対的親告罪」とは、被害者からの告訴があることが公訴を提起するための条件となっている親告罪のことを指します。絶対的親告罪として規定されているものは以下のような犯罪です。

  • 信書開封罪(刑法第133条)
  • 秘密漏示罪(刑法第134条)
  • 過失傷害罪(刑法第209条)
  • 未成年者略取誘拐罪(刑法第224条)
  • 名誉棄損罪(刑法第230条)
  • 侮辱罪(刑法第231条)
  • 私用文書等毀棄罪(刑法第259条)
  • 器物損壊等罪(刑法第263条)
  • 信書隠匿罪(刑法第263条) など

相対的親告罪とは

「相対的親告罪」とは、通常は親告罪とされていないものが、犯人と被害者の間に一定の身分関係がある場合にのみ、親告罪とされる犯罪のことを指します。

「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で」一定の財産犯を犯した者については、その刑を免除するという規定が存在しています(刑法第244条1項)。

このような規定を、「親族相盗例」と呼びます。

このような例外規定がある理由は、親族間の一定の犯罪については国家が刑罰権の行使を差し控えて、親族間の自律的な解決に委ねた方が望ましいと考えられているからです。

そして、配偶者・直系血族・同居の親族「以外の親族」との間で同様の犯罪を犯した場合については、「告訴がなければ公訴を提起することができない」と規定されています(同244条2項)。

したがって、「親族相盗例の適用がない親族」との間で一定の犯罪があった場合についても、被害者の意思を無視してまで公訴を提起する必要はないと考えられています。

以上より、犯人と被害者との間に一定の身分関係があることで親告罪となる犯罪を、相対的親告罪といいます。

相対的親告罪といわれているものは以下に挙げるような犯罪です。

  • 窃盗罪(刑法第235条)
  • 不動産侵奪罪(刑法第235条の2)
  • 詐欺罪(刑法第246条)
  • 背任罪(刑法第247条)
  • 電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)
  • 準詐欺罪(刑法第248条)
  • 恐喝罪(刑法第249条)
  • 横領罪(刑法第252条)  
  • 業務上横領罪(刑法第253条)
  • 遺失物等横領罪(刑法第254条) など

親告罪から非親告罪に改正されたもの

2017年(平成29年)7月13日から施行されている現行刑法では、性犯罪は親告罪から非親告罪に変更されました。

かつて性犯罪については、公訴提起によって被害者の名誉やプライバシーを侵害するおそれがあるとして、公訴提起について被害者の意思を尊重するために親告罪と規定されていました。

しかし近年では、性犯罪の被害によって肉体的・精神的に多大な被害を受けた被害者に対して、告訴するか否かの選択を一定期間に迫ることが、逆に被害者に負担を負わせることになっているのではないかと考えられるようになりました。

このような考え方の変化により、親告罪とされていた一定の性犯罪については非親告罪へと改められることとなりました。

具体的にこの法改正で非親告罪に変更された性犯罪は以下のようなものです。

  • 強制わいせつ罪(刑法第176条)
  • 強制性交等罪(刑法第177条)
  • 準強制わいせつ罪(刑法第178条)
  • 準強制性交等罪(刑法第178条)

以上の犯罪については告訴が不要になったため、被害者に訴追・処罰意思がない場合であっても、被疑者は刑事裁判にかけられる可能性があります。

親告罪、告訴から裁判までの流れとは?

親告罪で告訴してから裁判にかけられるまでは、どのような流れを辿るのでしょうか。

まず、「告訴」とは、「犯罪の被害者やその他一定の関係者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の訴追や処罰を求める意思表示」のことをいいます。

告訴をするには書面により「告訴状」を作成して捜査機関に提出するのが一般的です。

告訴状の作成

告訴状の様式について法的な定めはありませんが、捜査機関が特定の犯罪事実の存在に関する嫌疑を抱くきっかけとなる程度の記載は必要でしょう。

具体的には、表題を「告訴状」とし、提出年月日・提出先・署名捺印をして、以下のような内容を記載することが一般的です。

  • 告訴人の氏名・住所・電話番号
  • 被告訴人の氏名・住所:分からない場合には「不詳」と記載
  • 告訴の趣旨:罪名や罰条に該当していることを明示
  • 告訴事実:いつ・どこで・誰が誰に対し・何を・どのように・どうしたかを記載
  • 告訴に至る経緯:告訴に至った事情や心情 
  • 証拠資料 など

告訴ができる人(告訴権者)

告訴をすることができる「告訴権者」は、法律に規定されています。

まず、「犯罪により被害を被った者(被害者)」は告訴することができます(刑事訴訟法第230条)。

また、「被害者の法定代理人」も、被害者とは独立して告訴権を有しています(同法231条1項)。

もし被害者が死亡した場合には、被害者の「配偶者・直系の親族・兄弟姉妹」が告訴権者になりますが、生前に被害者が明示した意思に反することはできません(同法231条2項)。

被害者の法定代理人が、「被害者であるとき」・「被疑者の配偶者であるとき」・「被疑者の4親等内血族若しくは三親等内の姻族であるとき」には、「被害者の親族」も独立した告訴権者となります(同法232条)。

死者の名誉を毀損した罪や、名誉棄損について被害者が告訴をしないで死亡した場合には、「死者の親族又は子孫」は告訴権者となります(同法233条)。

告訴期間は「犯人を知った日から6カ月以内」

親告罪の告訴は、「犯人を知った日から6カ月」を経過した場合にはすることができません(刑訴法第235条)。

この「犯人を知った」とは、犯人が誰かを知ることをいい、犯人の住所・氏名などの詳細を知っている必要はないものの、少なくとも「犯人が何人(なんぴと)たるかを特定し得る程度に認識」することが必要とされています。

告訴権者が複数いる場合には、1人の告訴権者について告訴期間が経過したとしても、他の告訴権者に対してはその効力は及びません(刑訴法第236条)。

告訴状が受理された後の流れ

告訴状の受理、検察官へ送致

告訴状は検察官または司法警察員(警部以上のもの)に提出する必要があります。司法警察員は告訴状を受け取った場合には速やかに書類・証拠物を検察官に送付しなければなりません(刑訴法第242条)。

捜査の実施、被疑者の逮捕・勾留

捜査が実施され、被疑者に逃亡や罪証隠滅のおそれがあると判断された場合には、被疑者が逮捕される場合があります。

警察官による捜査段階で被害者も、被害の状況や被害内容について詳しく聴取され、供述調書が作成されることになります。

被疑者が逮捕された場合、必要な捜査をして48時間以内に検察官に身柄が送致されることになります。

そして検察官は、24時間以内(身体拘束から72時間以内)に勾留を請求するか否かを判断します。

検察官の請求により裁判官が勾留を決定した場合には、被疑者の身体拘束は最大20日間継続することになります。

起訴されて刑事裁判に進む

勾留期間中に、検察官はさらに必要な捜査を行い、被疑者を「起訴」するのか「不起訴」にするのかを決定することになります。

起訴された場合、被疑者は被告人となり、刑事裁判手続により有罪・無罪が判断されることになります。刑事裁判では被害者も証人として出廷して証言することをお願いされる場合があります。

親告罪を告訴する時の注意点

親告罪について告訴をする際の注意点について解説していきます。

親告罪は告訴を取り下げると起訴できなくなる

告訴については、公訴の提起があるまでは自由に取り下げることができます。しかし、告訴を取り消した告訴権者は、更に告訴をすることができません(刑訴法第237条2項)。

したがって、一度親告罪の告訴を取り下げると起訴できなくなる可能性があります。

告訴不可分の原則とは

告訴については「告訴不可分の原則」があります。この原則については、「客観的不可分」と「主観的不可分」に分けて説明することができます。

客観的不可分

告訴の「客観的(事実的)不可分」とは、1個の犯罪事実の一部についてなされた告訴やその取り消しの効力は、その他の部分について告訴やその取り消しがなくても、犯罪事実の全部に及ぶという考え方です。

したがって、窃盗の犯人が財物を窃取したという事実(窃盗罪)について告訴された場合には、これと包括一罪と考えられている財物の損壊(器物損壊罪)についても、告訴があったものと取り扱われることになります。

主観的不可分

親告罪について共犯の1人または数人に対する告訴やその取り消しについては、他の共犯者に対してもその効力が発生します(刑訴法第238条1項)。

このように告訴が共犯者にも及ぶという考え方を、告訴の「主観的(人的)不可分」といいます。

このように考えられている理由は、告訴は特定の者の訴追を求めるものではなく、特定犯罪事実を指摘して犯人の訴追を求めるものであるため、共犯者間で公平に効力が及ぶべきである、と考えられているからです。

しかし例外として、「相対的親告罪」(犯人と被害者の間に一定の身分関係がある場合のみ親告罪とされているもの)については、非身分者に対する告訴の効力は、身分関係のある共犯者には及びません。

つまり、共犯者である非親族Aに対して告訴をしたとしても、共犯者である親族Bについては「親告罪についてなされた告訴」ではないということになります。

告訴期間が過ぎてしまったら

親告罪の告訴は、告訴権者が犯人を知った日から「6カ月」の期間が経過してしまうとできなくなります。

告訴期間が設けられている理由は、刑事訴追を一般私人の意思にかからせる状態を長期間放置することが、「犯人の地位の安定」や「公訴権の適正な行使」の点から問題であると考えられているからです。

示談を申し込まれたら

示談とは、加害者が被害者に対し事実を認めて謝罪し、慰謝料・解決金など一定の金銭を支払うことなどを約束して、被害者の許しを得ることです。

示談書の条項には、「告訴を取り下げる」「刑事罰を求めない」などという約束が入っている場合もあるため、親告罪の場合には特に気を付けて判断する必要があるでしょう。

示談交渉は被害者のみで対応することもできますが、適正な内容、金額なのかと判断に悩むような場合には、刑事事件に精通した弁護士に交渉を依頼することも検討すべきでしょう。

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