最終更新日:2023.05.31
親告罪の告訴期間について弁護士が詳しく解説
皆さんは、「親告罪(しんこくざい)」という言葉を知っているでしょうか?
通常、窃盗や傷害などなんらかの犯罪が起きた場合、警察(捜査機関)は、被害者からの訴えがなくても捜査を開始することができます。
しかし「名誉毀損罪」や「器物損壊罪」など一部の犯罪では、仮に犯罪の事実がわかっていても、被害者等からの告訴がなければ捜査を開始できず、検察官も加害者を起訴できないのです。
このような犯罪を親告罪といいます。
あなたがもし上記のような親告罪の被害者になってしまったら、捜査を開始してもらうためには告訴が必要ですが、実はこの告訴ができるのは、法律で「いつまで」と期間が決まっています。
あなたが被害に遭ったとき、告訴期間について正しく理解していないと、あとで犯人を処罰できなくなってしまうかもしれません。
本記事では、親告罪の告訴期間の制限の詳細や、告訴期間の例外、告訴期間の計算方法などについて詳しく解説します。
目次
親告罪の告訴期間について
「親告罪」とは
再度説明しますと、親告罪とは告訴がないと検察官が起訴できない犯罪のことです。
日本では、それぞれの事件について起訴をするかどうかは検察官の判断に委ねられています。
しかし親告罪に限っては、もし目撃証言や告発があったとしても、基本的に被害者本人からの告訴がなければ検察官は起訴することができません。
親告罪にあたる犯罪は多数ありますが、代表的なものは以下の4つです。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪(刑法230条・231条)
- 器物損壊罪(刑法261条)
- 過失傷害罪(刑法209条)
▼親告罪についてさらに詳しい情報は、以下の記事でも解説しています
親告罪の告訴期間とは
親告罪においては、告訴できる期間は刑事訴訟法235条1項において以下のように定められています。
”親告罪の告訴は、犯人を知った日から6箇月を経過したときには、これをすることができない。”
例えば、もしあなたが「Aさんに家屋や車などの持ち物を故意に破壊された」(器物損壊罪)「Bさんにインターネットで嘘の悪口を広められた」(名誉毀損罪・侮辱罪)など、親告罪に該当する被害を受けた場合、犯人を知った日から6ヶ月を過ぎてしまうと告訴することができなくなり、犯人が分かっていても検察官も起訴できなくなってしまいます。
なお1ヶ月の日数は毎月30日・31日などばらつきがあるため、「6ヶ月目が正確にいつになるのか」という疑問を抱く方もおられるかもしれません。計算方法については記事の後半で解説しますので、まずは大きく6ヶ月ととらえておいてください。
告訴期間が定められている理由
なぜ親告罪では「告訴は犯人を知った日から6ヶ月以内でなければいけない」と決められているのでしょうか?
これにはいくつかの理由が考えられます。
- 期間を設けることで被害者本人の意思(告訴するかどうか)を明確にする効果があるため
- 事件解決や犯罪防止の観点から、告訴や捜査を行なうのであればできるだけ迅速な対応が望ましいため
- 犯人が分かってから長期間が経つと、証拠が失われたり証人の記憶が薄れたりする可能性があり、捜査に困難をきたすため
- 告訴期間が定められていないと、犯人(加害者)はいつまでも刑罰が下るかどうかわからない不安定な状態に置かれてしまうため
適切な期間を定めることで被害者・加害者・捜査機関のいずれにとってもメリットがあると考えられており、その期間が現在の法律では原則「犯人を知った日から6ヶ月」となっています。
親告罪における「犯人を知った日」とは
どの程度知っていればいいのか
親告罪の告訴期間は「犯人を知った日」から6ヶ月以内とされていますが、具体的にどのような状態なら「犯人を知った」と言えるのでしょうか?
過去の判例などから、犯人の住所氏名等の詳細まで把握する必要はないとされています。
しかし、犯人を他の人と区別して「この人が犯人だ」と特定・識別できる程度には分かっていることが必要です。
たとえば、単に「黒っぽい服を着た若い男」など、人相や服装だけでどこの誰だか全くわからない程度では犯人を知ったとは言えず、告訴するかしないかを決められる程度の知識が揃った場合にはじめて「犯人を知った」といえます。
犯人を告訴するかどうか決めるためには、犯人と自分とのつながりがあるか、またそのつながりの程度が重要な要素となります。
また、「犯人を知った」とは、告訴権者(被害者)にとってだけではなく、通常人の立場においても犯人の処罰を求めるか否かを選択できる程度に、犯罪事実の重要な部分について説明できることが必要です(下記東京地判平成13年11月2日)。
過去の判決から分かる「犯人を知った」の定義
①東京高判平成9年7月16日
強姦の犯行に用いられた脅迫の中に、犯人と告訴権者やその身辺者との特殊な関係を暗示させる内容が含まれていたことから「犯人を知った」と判断されたケースです。
裁判所は、告訴権者が告訴するかどうかの判断にあたって、犯人と告訴権者やその身辺者とのつながりの有無が影響する特殊な事情があるときは、犯人の外形的特徴を他の者と区別できる程度に認識していただけでは、まだ「犯人を知った」とはいえないとしています。
➁東京地判平成13年11月2日
被害者の母親が、被害者(当時11歳)から、犯人に下着を脱がされそうになっただけでなく、陰部を舐められたという犯罪の事実まで聞いている点で「犯人を知った」といえると判断されました。
告訴が犯人の処罰を求める意思表示である以上、犯罪事実を知らなければ犯人の処罰を求めることはできませんし、犯罪事実の内容によってはあえて告訴をしないという選択をすることもあり得るからです。
継続的犯罪では「犯人を知った日」が起算日ではない
告訴の期限である6ヶ月の起算日は「犯人を知った日」ですが、この言葉はあくまでも犯罪行為の終了後において告訴権者(被害者)が犯人が誰であるかを知った日を指します。
しかし犯罪のなかには既遂後でも継続しているものがあり、それらを「継続的犯罪」と呼ぶことがあります。
こういった継続的犯罪の途中で告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって親告罪の告訴期間の起算日とされることはありません。
継続的犯罪においては、「いつまで犯罪が継続しているか」が告訴期間の起算日に影響することになります。
たとえば、他人の名誉を毀損する記事をサーバーコンピューターに記憶・蔵置させ、インターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定する場合、名誉毀損罪は記事を公開した時点で既遂となっていますが、その後記事が削除されないままでは、被害発生の抽象的な危険が維持されており、犯罪が継続しているといえます。
そのため、もしこの間に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされないと判断されました(大阪高判平成16年4月22日)。
親告罪における告訴期間の例外
外国の代表者および外国の使節が行う告訴(刑事訴訟法235条但書)
親告罪の告訴期間は「犯人を知った日から6ヶ月以内」と何度か説明しましたが、例外もあります。
外国の君主等に対する名誉毀損罪に対し、外国の代表者が行う告訴(刑法232条2項)および日本国に派遣された外国の使節に対する名誉棄損罪(刑法230条)または侮辱罪(刑法231条)について外国の使節が行う告訴については、告訴期間の制限がありません。
これは、外国の君主等に対する名誉毀損罪等について、告訴期間の制限を設けることは外交政策上相当でないと考えられているからです。
告訴期間の計算方法
告訴期間の計算方法は、刑事訴訟法55条によって行なわれます。
刑事訴訟法55条1項期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで1日としてこれを計算する。2項月及び年は、暦に従つてこれを計算する。3項期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第百178号)に規定する休日、1月2日、1月3日又は12月29日から12月31日までの日に当たるときは、これを期間に算入しない。ただし、時効期間については、この限りでない。 |
告訴期間の計算においては初日を算入しないため、犯人を知った日の翌日が告訴期間の起算日となります。
月は暦に従って計算するので、起算日から暦上の6ヶ月が告訴期間です。
もし、6ヶ月という期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、1月2日、1月3日又は12月29日から12月31日までの日であれば、この日は期間に算入せず、その次の平日までが告訴期間となります。
複数の告訴権者がいる場合の告訴期間
複数の告訴権者がいる場合の告訴期間は、刑事訴訟法236条で定められています。
刑事訴訟法236条告訴をすることができる者が数人ある場合には、1人の期間の徒過は、他の者に対しその効力を及ぼさない。 |
つまり、複数の告訴権者がいる場合は、告訴権者ごとに告訴期間が計算され、1人の告訴権者の告訴期間が経過していても、他の告訴権者は自身の告訴期間が経過していなければ告訴できます。
これは、親告罪においては告訴権者(被害者)の意思により告訴するかどうかを決めることができ、その権利は告訴権者ごとに各自が自身の自由な意思に従って行使できると考えられているからです。
親告罪の告訴を検討するならぜひ弁護士へ
今回は親告罪の告訴期間の制限について詳しく解説しました。
親告罪では、告訴期間を過ぎると有効な告訴ができなくなり、捜査や犯人の逮捕と処罰ができなくなってしまいます。
告訴できる期間は「犯人を知った日から6ヶ月」までですが、この「犯人を知った日」の定義は判例や裁判例によって集積されているため、正確に判断するには専門知識が必要とされるケースも多くあります。
ご自身やご家族が親告罪の被害者となってしまい、告訴期間について不安があるときは、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。