刑事告訴の基礎知識

最終更新日:2023.07.20

刑事事件の証拠になるものとは?証拠の種類や証拠調べ手続きについて解説

刑事事件においては、様々なものが証拠になります。

たとえば、

  • 被害者の法廷での証言(人証)
  • 犯行に用いられた凶器(物証)
  • 被告人の取調べ時の供述書面(書証)

などです。

これらの証拠に関して、刑事裁判では「証拠調べ手続き」が行われます。手続きを通じて証拠にしてよいか、証拠としての価値はどの程度あるかなどが判断され、最終的に判決がくだされる際の判断材料になります。証拠が有する意味は非常に大きいです。

この記事では、刑事事件における証拠の種類や訴訟での手続きなどを解説しています。刑事事件の証拠について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

刑事事件における『証拠』とは

刑事事件においては、そもそも犯行があったのか、犯行はどういった内容であったかなどの事実を知るためには、証拠が必要です。十分な証拠がないのに「何となく悪そうな人だから有罪」とはできません。

裁判になる前の捜査の過程でも、法廷においても、証拠は重要な意義を持ちます。被疑者・被告人の責任を追及するためには、証拠が存在しなければなりません。

証拠について知るために、まずは基本的な用語の意味を説明します。

証拠方法

証拠方法とは、裁判官が事実を認定するために調べる人や物です。

具体的には、以下の3種類があります。

  • 人証(口頭証拠) :証人、鑑定人など
  • 物証(証拠物) :ナイフ、覚せい剤の粉末など
  • 書証(証拠書類) :供述調書、DNA鑑定書など

それぞれについて詳しくは後述します。

証拠資料

証拠資料とは、証拠方法を調べることで得られた内容です。

証人の口から発せられた「証言」や、調書に書かれていた「記載内容」が証拠資料にあたります。

証拠原因

証拠原因とは、証拠資料のうち、裁判官が事実を認定する際の根拠となった内容です。

証拠から得られた内容であっても、裁判官がすべてを利用するわけではありません。事実認定の根拠となったものだけを証拠原因と呼びます。

被告人が「私はやってない」、被害者が「被告人がやった」と言ったケースで有罪と判断されれば、被害者の証言が証拠原因になったといえます。

証拠調べ手続きとは?

刑事裁判は、大まかにいうと

  1. 冒頭手続き
  2. 証拠調べ手続き
  3. 弁論手続き
  4. 判決

の順に進みます。

まず、冒頭手続きは次の流れで行われます。

  • 人定質問 :被告人が人違いでないか確認する
  • 起訴状朗読 :検察官が審理の対象を明らかにする
  • 黙秘権の告知 :裁判官が被告人に黙秘権がある旨を告げる
  • 被告事件に対する陳述:被告人が言い分を明らかにする

次に行われるのが、証拠調べ手続きです。証拠調べの始めに行われるのが、検察官が証拠により明らかにする事実を示す冒頭陳述です。その後、尋問などの具体的な証拠調べが行われます。

証拠調べが終わると、検察側・弁護側双方が論告・弁論で最終的な主張をします。

以上を受けて、最後は裁判官による判決がくだされる流れです。

特に重要なのは、証拠調べ手続きにおける立証活動です。以下で、証拠の種類や分類について解説します。

証拠の種類

証拠は性質によって、人証、物証、書証に分けられます。いずれに該当するかによって、証拠調べの実施方法が異なります。

人証(口頭証拠)

人が口頭で発言した内容が証拠になるものです。

証人が代表例です。被害者、目撃者、被告人の親族などが証人になります。他に医学など特定分野の専門家が鑑定人として証言するケースもあります。

証拠調べ方法は、尋問です。尋問は、質問に対して証人らが回答する形で進みます。

検察側が請求した証人であれば「検察側(主尋問)→弁護側(反対尋問)→検察側(再主尋問)→裁判官(補充尋問)」の流れで進むのが一般的です。

物証(証拠物)

物の存在や状態が証拠になるものです。

犯行に用いられた凶器が代表例です。録音・録画された媒体も物証になります。

証拠調べ方法は、展示です。当事者や裁判官にわかるように示します。録音・録画については、法廷で再生します。

書証(証拠書類)

書面の記載内容が証拠になるものです。

被告人の供述調書、現場の実況見分調書、DNA鑑定書などが該当します。

証拠調べ方法は、朗読です。法律上は全文朗読が原則となっていますが、実際には多くの場合でポイントだけを伝えます。

証拠の分類

上で説明した分類の他にも、以下の分類が可能です。

  • 直接証拠・間接証拠
  • 実質証拠・補助証拠
  • 本証・反証
  • 供述証拠・非供述証拠

それぞれの分類について、順に詳しく解説します。

直接証拠

直接証拠とは、証明すべき事実を直接証明できる証拠です。

「AがBを殴った事実」を証明するときには、以下のものが該当します。

  • 被害者(B)の供述 :「私はAに殴られました」
  • 目撃者の証言 :「AがBを殴っているのを見ました」
  • 被告人(A)の自白 :「私はBを殴りました」
  • 防犯カメラ映像 :AがBを殴った場面が鮮明に映っているもの

直接証拠によれば、直ちに事実の証明が可能です。もっとも、ウソをついているなど、信用できないケースもあります。したがって、信用性が認められるか否かが重要です。

信用性を判断する際には、以下の点がポイントになります。

  • 他の客観的な証拠による裏付けの有無
  • 事実を体験したときの状態(例:明るさ、距離、視力)
  • 記憶に誤りがある可能性(例:他の事実と混同していないか)
  • 供述の一貫性(言っていることが変わらないか)
  • 供述している人の立場(当事者・関係者か第三者か)
  • 供述内容(例:不自然な点はないか)
  • 供述態度(例:動揺している、落ち着かない)

これらを総合的に判断して、信用できると認められるときには、事実を直ちに証明できます。

間接証拠

間接証拠とは「間接事実」を証明する証拠です。

間接事実とは、証明すべき事実を間接的に証明できる事実をいいます。「間接的に」というのは、推測をはさむという意味だとお考えください。

「間接証拠」から「間接事実」を証明し、「間接事実」から「要証事実(証明すべき事実)」を証明するという構造です。

例として、殺人事件で「被告人が犯人である」事実を証明するケースを考えましょう。

現場付近の防犯カメラに「犯行時刻の1分後に、犯行現場から100mの場所で、被告人がナイフを持って立っていた」場面が映っていたとします。

このとき、防犯カメラ映像は直接証拠にはなりません。犯行の場面をとらえておらず、直接は「被告人=犯人」と証明できないためです。

しかし、間接証拠には該当します。映像によって「犯行時刻の1分後に、現場から100mの場所で、被告人がナイフを持って立っていた」という間接事実を証明でき、この間接事実から「被告人=犯人」と推測できるためです。

たしかに、犯行と関係なく偶然その場にいた可能性もゼロではありません。しかし、たまたまナイフを持って犯行直後に現場付近にいた確率はかなり低いでしょう。

このケースのように、単独で強い力を持つ間接証拠も存在します。実際は、複数の間接証拠を組み合わせて証明するケースも多いです。

実質証拠

実質証拠とは、要証事実の存在を直接または間接に証明する証拠です。上で説明した直接証拠と間接証拠を合わせた概念とお考えください。

「被告人が犯人である」事実を証明するときには、たとえば以下の証拠が実質証拠です。

  • 「被告人が被害者を殴っている場面を見た」との証言(直接証拠)
  • 「被告人が犯行時刻直後に現場付近にいた」との証言(間接証拠)

補助証拠

補助証拠とは、補助事実を証明する証拠です。

補助事実とは、実質証拠が証拠として有する力(証明力)に影響を及ぼす事実をいいます。

「被告人が被害者を殴っていた」との証言は、上述の通り実質証拠です。

このとき「当時晴れていて見通しがよかった」事実は、実質証拠である証言の信用性を高める「補助事実」に該当します。この補助事実を証明する気象記録は「補助証拠」です。このように、実質証拠の証明力を強める補助証拠を特に「増強証拠」といいます。

反対に「目撃者の視力が0.1であった」事実は、証言の信用性を弱める「補助事実」です。視力検査結果が「補助証拠」に該当します。実質証拠の証明力を弱める補助証拠を特に「弾劾証拠」と呼びます。

さらにここで「目撃者がコンタクトをしていた」事実は、証言の信用性を回復させる「補助事実」です。コンタクトをしていた事実を示す証拠が「補助証拠」です。いったん弱められた証明力を回復させる補助証拠は「回復証拠」と呼ばれます。

すなわち、補助証拠には、増強証拠、弾劾証拠、回復証拠の3種類があります。

ここまでをまとめると、次の通りです。

実質証拠【要証事実を証明】直接証拠【直接証明】「AがBを殴った」
間接証拠【間接事実を証明】「Aが犯行直後現場付近にいた」
補助証拠【実質証拠の証明力に影響与える事実を証明】増強証拠【証明力強める】現場の見通しはよかった
弾劾証拠【証明力弱める】 視力が悪かった
回復証拠【弱まった証明力を回復】コンタクトをしていた

本証・反証

本証・反証は「どちらが事実を証明すべきか」との観点からの区別です。

本証は、事実を証明する責任を負っている側が提出する証拠をいいます。反証は、証明する責任を負わない側が提出する証拠です。

刑事事件では、基本的に検察官が犯罪事実を証明する責任を負っています。したがって、検察側が提出する証拠が本証、弁護側が提出する証拠が反証です。

検察側は本証で「確実に有罪である」と証明しようとします。弁護側は反証で「絶対に無実だ」とまで示す必要はなく、本証に疑いを生じさせれば無罪判決がくだされます。

供述証拠・非供述証拠

言語によって表現されるかどうかによる区別です。

供述証拠は、事実の痕跡が人の記憶に残り、言語で表現されたものです。供述調書や証言が該当します。

非供述証拠は、事実の痕跡が人の記憶以外に残ったものです。凶器などの物証が該当します。

供述証拠については、見間違い、記憶違い、言い間違いが発生し得るため、そもそも裁判で証拠と認められなかったり、信用性に疑いが生じたりする場合があります。

刑事事件で証拠が重要な理由

刑事事件においては、証拠が決定的に重要な意味を持ちます。

検察官には、証拠から犯罪事実を立証する責任があります。立証する際に用いる証拠は、証拠能力と証明力を備えていなければなりません。

検察官には立証責任がある

検察官には、被告人が犯罪をした犯人であることを積極的に証明する責任があります。「疑わしきは罰せず」が刑事裁判の基本ルールであるためです。

犯罪事実について、通常考えられる範囲で疑いが生じないレベルまで証明しなければなりません。「無罪の可能性がゼロ」とまでいえないにしても、常識的に考えて疑いが生じないレベルまで証明ができないと、無罪になります。「おそらく犯人だろう」という程度では有罪にできないのです。

証拠能力・証明力とは

犯罪の立証の際には、証拠を用います。ただし、証拠能力が認められ、かつ一定の証明力を有する証拠を用意しなければなりません。

証拠能力とは、裁判において事実認定の根拠にするための資格です。証拠能力がなければ、そもそも裁判で証拠にできません。

証拠能力は、一般的に以下の3つの要件を満たすと認められます。

自然的関連性がある

自然的関連性とは、証拠と証明したい事実との間に最低限のつながりがあることです。

たとえば「被告人の自宅から発見されたナイフ」であっても、ナイフに血痕がなく、被害者にも刺された形跡がない場合には、犯行に使用した疑いが生じません。したがって、このときは自然的関連性が認められず、証拠能力が否定されます。

法律的関連性がある

自然的関連性があったとしても、裁判官に判断を誤らせるおそれがある証拠は、法律的関連性が否定されます。

たとえば、拷問によって自白がなされた場合には、被告人の意思によってした自白でないおそれがあります。したがって法律的関連性がなく、証拠能力が否定されます(刑事訴訟法319条1項)。

証拠禁止でない

関連性があっても、法律上の手続きを経ずに得た証拠は証拠能力を有しません。違法な手段で収集された証拠は「違法収集証拠排除法則」により証拠能力が否定されるケースがあります。

以上の条件を満たして証拠能力が認められた証拠については、証明力が問題となります。

証明力とは、事実認定において証拠が有する価値です。

例として、壺の窃盗事件において「被告人が犯人である」事実を証明する場合を考えます。

たとえば「犯行時刻直後に現場付近で、盗まれた物と同じ種類の壺を持っていた」事実を示す防犯カメラ映像は、証明力が強いといえます。たまたま犯行時刻直後に現場付近で、同じ壺を持って歩いていた可能性は非常に低いためです。

反対に「被告人の当時の所持金は500円だった」事実を証明する証拠は、証明力が高くはありません。たしかに、お金がなかったことは犯行の動機になり得ます。しかし、所持金が少なくても大半の人は窃盗には及ばないため、犯行とのつながりが薄いのです。

犯行を証明するためには、証拠能力があるだけでなく、証明力も備えた証拠を提出する必要があります。

証拠調べの方法

種類によって、法廷でする証拠調べの方法が変わります。

具体的な方法は、以下の通りです。

  • 書証:朗読
  • 物証:展示
  • 人証:尋問

以下で詳しく解説します。

朗読と展示

供述調書などの書証は、朗読します。もっとも、刑事裁判の書証の量は膨大です。すべてを朗読するのは現実的ではありません。実務上は、要旨の告知として、ポイントだけを読み上げるケースが多いです。

凶器などの物証は、展示します。展示とは、当事者双方や裁判官に実物を見せる方法です。録音・録画したDVDなどの記録媒体が物証となっているときには、法廷で再生されます。

証人尋問・被告人質問・鑑定

人証については、尋問などの方法がとられます。

証人尋問

典型的なのは証人尋問です。証人は「ウソを言わない」旨の宣誓をしたうえで、尋問を受けます。

尋問は、当事者が質問し、証人が回答する形式で進みます。

被害者など検察側が請求した証人であれば「検察側(主尋問)→弁護側(反対尋問)→検察側(再主尋問)→裁判官(補充尋問)」の流れで進むのが一般的です。

反対に被告人の家族など弁護側が請求した証人であれば「弁護側(主尋問)→検察側(反対尋問)→弁護側(再主尋問)→裁判官(補充尋問)」の順番になります。

被告人質問

被告人にする質問は「尋問」とは呼ばれません。流れとしては証人尋問と似ていますが、宣誓は不要です。弁護側から質問を始めます。

被告人質問は、通常は証拠調べの最後に行われます。

鑑定人への尋問

精神鑑定を行った場合など、必要に応じて特定分野の専門家である鑑定人に尋問をするケースもあります。流れとしては証人尋問と同様であり、請求した側から尋問を始めます。

まとめ

ここまで、刑事事件の証拠について、種類や手続きなどを解説してきました。

被告人の処分を決めるにあたって、証拠が持つ意義は非常に大きいです。事件の種類や内容によって、必要な証拠は異なります。ご自身や身近な方が関係する事件の証拠について知りたい方は、弁護士まで相談するのがよいでしょう。

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