刑事告訴の基礎知識

最終更新日:2023.05.31

【書式・文例付き】告訴・告発の取消し方法について弁護士が解説

犯罪被害にあった場合や目撃した場合、犯人に刑罰を科するために告訴・告発することができます。しかし、示談が成立し処罰感情がなくなったり、交渉により解決したりと、状況が変化した際には、告訴・告発を取り消すことが可能です。

この記事では、告訴・告発の取消し方法や取り消す権利がある人、取消書の作成方法について、図解付きで丁寧に解説いたします。

告訴・告発の取消し方法

告訴・告発は捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人に対し刑事処罰を求めるものです。告訴・告発が受理されると、捜査機関が捜査を開始し、起訴や不起訴など処分を決定します。

告訴・告発すると加害者である犯人は、刑罰を科されるのを避けるために、示談を持ちかけてくることがあります。示談の内容は、慰謝料などの示談金を支払ってもらう代わりに、告訴や告発を取り下げるというのが一般的です。

以下では、告訴・告発を取り消すことができる期間や取り消す権利がある人について解説いたします。

告訴の取消しについて

刑訴法237条1項により、告訴は公訴の提起がされるまで取り消すことができると定められています。告訴をした人は、検察官が裁判所に起訴状を提出し刑事訴訟を提起するまでの期間なら、いつでも告訴の取り消しを行うことができるのです。

とはいえ、非親告罪の場合は、告訴は捜査の端緒にすぎないので、公訴が提起された後でも取り消すことが可能です。非親告罪は告訴がされなくても、捜査機関の裁量で起訴することができる為、起訴後に告訴を取り消した場合でも刑事訴訟は通常どおり行われます。ただし、告訴を取り消したという事実が情状の一つとして量刑を左右する可能性はあるでしょう。

一方、親告罪は、起訴後に告訴を取り消せません。親告罪は告訴がなければ起訴できないため、起訴後に告訴を取り消せば、刑事訴訟自体を一個人の考えで中止することになってしまいます。刑事訴訟は民事訴訟と違い、国が犯人に対し刑罰を科するために起こすものですので、一個人の考えがすでに発動した国家権力に影響を及ぼすのは適正ではないと考えられています。そのため、告訴を取り消す場合は、起訴される前に手続きをしなければならないのです。

告発の取消しについて

告発の取消しについて、刑訴法の中には明確な規定が存在しません。しかし、刑訴法238条2項や243条には「告訴又は告発の取消し」といったように、告発の取消しがあることを前提とした条文が存在するため、告発の取消しは可能とされています。

一般的に、告発は非親告罪の告訴同様、捜査のための端緒にすぎないため、公訴が提起された後でも取り消すことができます

しかし、独占禁止法違反や公職選挙法違反など、告発が訴訟条件(公訴提起要件)とされている犯罪もあり、その場合の告発の取消しについては、見解が分かれています。たとえば、関税法148条5項では告発の取消しを禁止してますが、独占禁止法96条4項では、公訴提起前の告発の取消しを認めています。

とはいえ、一般的には告発の取消しも可能です。

告訴・告発を取り消す権利がある人

告訴の取消しは、原則として告訴をした本人に限られていますが、実際には弁護士などの代理人が取消し手続きを行う場合も多いでしょう。

告発の取消しについては、刑訴法などに規定がないため、議論があり、学説では、そもそも弁護士による告発の代理が認められないことから、弁護士による告発の取消しについても代理は認められない、と考えるのが多数です。

しかし、リード法律事務所では告発の代理についても多くの実績があり、実務上は弁護士による告発の代理は可能です。したがって、告発の代理が可能である以上、告発の取消しの代理について、これを否定すべき合理的理由が無い為、弁護士による告発の取消しについても、認められると考えます。

ここからは、告訴の取消しについて4つのケース別に具体的に解説致します。

① 任意代理人による告訴の取消し

告訴は、弁護士や司法書士など、代理人によっても行うことができますが、告訴の取消しは、告訴を行った本人が行うのが原則ですが、代理人によって取消しを行うことも可能です。その際は、別途委任状を準備しましょう。なお、告訴の取消しを代理人において行う場合、報酬を払って弁護士以外の者に依頼すると違法になる可能性があるので(弁護士法第72条)、注意しましょう。

・委任状の作成例

任意代理人による告訴の取消しの委任状画像

告訴する時点で捜査の進展状況や犯人との交渉で告訴を取り消す可能性を考慮している場合は、任意代理人に告訴代理権を授与するために作成する委任状の中に告訴取消しの代理権も授与する旨を記述しておくことで、委任することも可能です。

② 法定代理人による告訴の取消し

法定代理人とは、被害者の親権者や後見人など法定代理人は被害者とは独立して告訴をする権利を有しています。ですので、法定代理人が告訴した場合、被害者本人がその告訴を取り消すことはできず、告訴をした本人である法定代理人しか告訴を取り消せません。

被害者が告訴をした場合は、被害者が告訴した本人になるため、法定代理人がその告訴を取り消すことはできません。

③ 告訴権者が複数いる場合

被害者が複数いる事件の場合、1つの事件に対し複数の告訴権者がいる場合もあります。この場合、自分以外の告訴権者がした告訴を取り消すことはできません。

④ 告訴人が死亡した場合の告訴・告発の取消し

告訴をした本人が死亡した場合、取消しできる権利を有する人はいなくなります。告訴の取消し権は相続の対象ではないため、告訴の取消しは不可能となります。

告訴・告発の一部のみを取り消すことは?

複数の犯人がいる場合、犯人うちの誰か1人のみに対する告訴・告発を取り消すことはできません。取り消す際には、他の共犯者に対する告訴・告発も取り消されます。告訴・告発とは、犯罪事実を申告し、その犯罪を犯した人の処罰を求めるものですので、特定の犯人に対する処罰を求めるものでないからです。(刑訴法238条1項 主観的不可分の原則)

また、共犯者のうち、一部が先に起訴された場合、告訴・告発を取り消すことはできなくなります。

告訴・告発を取り消すときの注意点

告訴・告発を取り消す際の注意点について解説する前に、まずは告訴・告発を取り消した後の流れを理解しておきましょう。

親告罪や独占禁止法違反のように告訴・告発が訴訟条件に含まれる事件に対する告訴・告発を取り消した場合は、捜査機関が不起訴処分として事件を終結させます。非親告罪のように告訴・告発が訴訟条件となっていない場合は、告訴・告発は捜査の端緒に過ぎないため、取り消し後も捜査機関が独自に捜査を進め、起訴・不起訴を決定します。ただし、告訴・告発が取り消されたという事情を踏まえ不起訴処分や起訴猶予になることが多いでしょう。

このように、告訴・告発を取り消すと不起訴処分や起訴猶予になり、起訴されないことが多いです。起訴されないため、犯人に刑事罰を科すことはできません

万が一、告訴・告発を取り消した後に「やはり刑事事件として裁いてほしい」と思った場合はどうすれば良いのでしょうか?

刑訴法237条2項によると、再告訴は認められていないため、一度告訴を取り消すと同じ犯罪に対して告訴することはできません。しかし、この規定は親告罪にのみ適用されると考えられているため、非親告罪の場合は再告訴が可能というのが通説です。

告発については、一般的に再告発が可能と考えられています。しかし、告発が訴訟条件になっている罪についての再告発については告発の取消し同様、見解の対立がありますが、再告発できるという考えが多数派です。

とはいえ、再告訴・再告発しなくても済むよう、十分に考えてから取り下げましょう。

告訴・告発の取消手続きについて

告訴・告発の取消しは、捜査機関の検察官や司法警察員に対して口頭か書面で行うことができます。手続の方法について、特に定められてはいませんが、告訴取消書・告発取消書を提出するのが一般的です。

取消手続きの方法について、詳しく解説いたします。

告訴・告発の取消手続き方法

告訴・告発の取消し手続きは、告訴取消書・告発取消書を作成し、捜査機関に提出することで告訴・告発を撤回する意思表示をします。先述したとおり、親告罪など公訴後取消しできない犯罪の場合は、公訴前に手続しましょう。非親告罪などは、いつでも手続きをすることが可能です。

取消書の提出先は、下記を参考にしてください。

①司法警察員に対し告訴・告発した場合

1.検察官送致されていない場合

告訴・告発を受理した捜査機関に属する司法警察員に対し、取消しの意思表示をします。提出先の宛名は警察署長など、所属長にするのが一般的です。

2.検察官送致はされていないが、告訴・告発を受理した所轄署から他に移送されている場合

移送先の捜査機関の司法警察員に対し、取消しの意思表示をします。提出先の宛名は警察署長など、所属長にするのが一般的です。

3.検察官送致された場合

司法警察員に対して取消しの意思表示をしても良いですが、担当検察官に対し、直接取消しの意思表示をした方が正確かつ迅速に伝わります。提出先の宛名は担当検察官にするのが一般的です。

② 検察官に直接告訴・告発した場合(直告)

担当検察官に対し、直接取消しの意思表示をします。提出先の宛名は担当検察官にするのが一般的です。

告訴・告発の取消書の書き方

告訴取消書・告発取消書には、作成年月日・宛名・取消権者の住所・氏名を記し、告訴・告発した事件とその事件に対する告訴・告発を取り消す旨を明示します。

「示談金の支払いを受け、示談が成立した」など、取消しする理由を記載する場合もあります。

以下、告訴取消書・告発取消書の書き方例を示しますので、作成時の参考にしてください。

告訴取消書の書き方例

告訴取消書の画像

告発取消書の書き方例

告発取消書の画像

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告訴・告発の取消し方法について解説いたしました。

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