横領被害にあったら

最終更新日:2024.10.03

業務上横領の証拠がないならどうする?被害者がしてはいけないことは?

「業務上横領の証拠がないが加害者の責任を追及できないか」とお悩みでしょうか?

横領はこっそり行われるため、疑わしくても決定的な証拠がないケースもあります。十分な証拠がないと、返金を請求できない、刑事責任を追及できない、解雇すると無効になるといった問題が生じます。

とはいえ、犯人だと決めつけて強引に自白をとってはなりません。時間をかけすぎてはいけませんが、可能な範囲で慎重に証拠を集める必要があります。

この記事では、業務上横領の証拠がないときに被害者がしてはいけないことや、できる対応について解説しています。横領の被害に遭った疑いがあるものの証拠がなくてお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。

業務上横領で証拠がない理由

業務上横領では、疑わしくても決定的な証拠がないケースがたびたびあります。なぜ証拠がないのでしょうか?

そもそも業務上横領罪とは?

業務上横領罪は、業務として管理を任されている他人の財産を、勝手に自分のものにする犯罪です。会社から管理を任された金品を従業員が着服するのが、典型的な事例です。

具体例としては以下が挙げられます。

  • 経理担当者が、会社の預金を私的に利用する
  • 店舗責任者が、売上金を過少申告して差額を着服する
  • 集金担当者が、取引先から受け取った現金を懐に入れる
  • 在庫管理担当者が、会社の商品を転売する

管理権限がない従業員が会社財産を自分のものにしたときは、窃盗罪など別の犯罪が成立します。横領と窃盗の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。

参考記事:横領と窃盗の違いとは?具体例や被害者がすべきことを弁護士が解説

業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。罰金刑はなく、起訴されて刑事裁判になれば必ず懲役刑が科されます。被害額が大きいときには、執行猶予がつかず実刑判決となり、犯人はただちに刑務所に収監されます。

業務上横領罪は、会社からの信頼を裏切る重大な犯罪です。要件や量刑、事例について詳しくは以下の記事を参照してください。

参考記事:業務上横領罪とは?量刑と構成要件、背任罪との違いについて被害者向けに解説

ひそかに行われる

業務上横領罪で証拠がない理由としては、ひそかに行われる点が挙げられます。

たとえば、傷害・殺人といった身体犯では、人が傷つけられている以上、被害の証拠は残りやすいです。財産犯でも、侵入盗、ひったくり、強盗といった事例では被害は明らかといえます。

これに対して業務上横領は、会社にバレないように行われるケースが多いです。堂々と実行せず、判明しないように犯行がなされるために、横領では証拠が残りづらいと考えられます。

被害に気がつくまでに時間がかかりやすい

業務上横領の被害に会社が気がつくまでに時間がかかりやすい点も、証拠が見つからない理由として挙げられます。

とりわけ、担当者がひとりしかいないために、なかなか横領の事実が判明しづらいケースが多いです。たとえば、規模が小さい会社で経理業務をひとりの担当者に任せきりにしていた場合、チェック機能が働かずに不正に気がつきづらいといえます。

被害に気がつかないまま時が経過すると、記録の保存期間が過ぎるなどして証拠は消滅しやすいです。加害者が証拠隠滅を図る時間も与えてしまいます。

こっそりと行われるため元々証拠が残りづらいことに加えて、判明するまでの時間経過によって、さらに証拠がなくなってしまうのです。

業務上横領の証拠がないと起きること

業務上横領で証拠がないと、被害者である会社にとっていかなる問題が生じるのでしょうか?

民事訴訟で勝訴できない

会社の金品を横領された際には、民事上の請求により返還を求められます。ただし証拠は不可欠です。

民事訴訟では証拠をもとに裁判官が事実を認定するため、証拠がないと請求は認められません。交渉で返金を求めようにも、証拠がない状態では相手に応じるメリットがありません。

したがって、証拠不足だと金銭的な被害の回復ができない事態に陥ります。

刑事告訴が受理されない

犯罪被害者は、刑事告訴によって捜査機関に加害者の処罰を求められます。しかし、証拠がないと警察は告訴を受理してくれません。

多くの被害者の方は「警察が捜査して証拠を集めてくれないのか」とお考えになるでしょう。本来は証拠を集めるのは警察・検察の仕事のはずです。現実には捜査にかけられる人員に限りがあるため、重大事件でない限り、一定程度の証拠が揃っていないと警察は告訴を受理しない運用となっています。したがって、証拠は被害者の側で見つける必要があります。

証拠がないと告訴が受理されないため、民事責任のみならず刑事責任も追及できません。

懲戒解雇を強行すると無効と判断される

横領した従業員に対しては、社内での懲戒処分も検討します。犯罪行為に及んでいる以上、多くのケースでは懲戒解雇が相当です。

ただし、証拠がないのに懲戒解雇をしてはなりません。「解雇は無効だ」として従業員に裁判所での争いを起こされたとき、証拠がないと会社が敗訴してしまいます。結果的に、復職だけでなく、それまでの未払い賃金の支払いを命じられます。

証拠が不十分な状態で懲戒解雇すれば、被害者であるはずの会社が多額の金銭的支出を強いられてしまうのです。

業務上横領の証拠がないときにしてはいけないこと

業務上横領で責任を追及するためには証拠が不可欠です。証拠がないときは、以下のことはしてはなりません。

最初から加害者本人に事情聴取する

証拠がない状態で、加害者と思われる人にいきなり事情聴取してはいけません。

聴取の際に犯行を否定されると、証拠がなければそれ以上追及できず、打つ手がなくなり行き詰ってしまいます。疑いをかけられていると本人にわかってしまうため、本当に犯人であったときは証拠を隠滅する可能性が高いです。最悪の場合、逃げられてしまうかもしれません。

たしかに、結果として本人が認めてくれれば、責任をとってもらいやすくなります。しかし、正直に話してくれる保証はありません。否定される事態を想定すると、いきなり本人に事情を聴くのは不適切です。

犯行があったと決めつけ自白を強要する

本人の自白があれば、非常に有力な証拠になります。とはいえ、自白の強要は絶対にしてはなりません。

無理やり自白させるつもりがなくても、認めさせたい思いが先走ると、つい強い言動に出てしまいがちです。意に反して自白させれば会社が損害賠償を請求されるだけでなく、脅迫罪、強要罪などの犯罪に該当するおそれもあります。

決定的な証拠がない以上、誰が加害者かは明らかではありません。犯人だと決めつけて無理やり認めさせるのは避けてください。

いきなり懲戒解雇する

証拠がないのに懲戒解雇しないでください。

後から争いになって解雇が無効だと判断されると、復職に加えて、それまでの期間の賃金支払いが命じられてしまいます。争いの期間が長ければ長いほど、会社の支払額は膨らみます。

焦って処分を決めると結果的に大きな損失になるため、解雇する際には証拠を集めたうえで弁解の機会を与えるなど、適切な手続きを踏みましょう。

多数の従業員に協力を求める

証拠を獲得するために、他の従業員に事情を聴いたり、調査への協力を求めたりする場合もあります。ただし、対象にする従業員は慎重に選んでください。

十分に検討しないまま多数の従業員に協力を求めると、共犯者が紛れている可能性があります。共犯者が調査の事実を知れば、すぐに証拠隠滅に走るでしょう。結果的に、犯行の証拠を得るのが困難になってしまいます。

信頼できる従業員にだけ、調査への協力を求めるようにしましょう。

ただ時間が過ぎる

焦って誤った調査方法をとるのは厳禁ですが、何もせずにただ時間が過ぎるのもいけません。

時間が経てば経つほど、物的証拠は消えていき、人の記憶は薄れていきます。犯行から長い年月が経過すると証明が困難になる可能性が高いです。

最悪の場合、時効にかかって法律上責任追及ができなくなってしまいます。業務上横領罪の公訴時効期間は7年であり、過ぎると刑事責任を問えません。民事上の請求にも「損害及び加害者を知ってから3年」あるいは「行為の時から20年」という消滅時効期間が定められています。

証拠がなくなる、時効にかかるといった事態を避けるために、迅速に調査を進める必要があります。業務上横領罪の時効について詳しくは、以下の記事をお読みください。

参考記事:業務上横領の時効は何年?被害者がいつまでに行動すべきか解説

業務上横領の証拠がないときはどうすべき?

では、業務上横領の証拠がないとき、被害者はどうすればよいのでしょうか?

何が証拠になるかを知る

まずは、何が証拠になるかを把握しましょう。証拠になりそうな物がわからないと、探しようがありません。

横領の証拠になる物はケースバイケースです。たとえば以下が考えられます。

犯行態様証拠の例
預金の私的流用口座の入出金記録、送金伝票
現金や商品・備品の持ち出し防犯カメラ映像、管理記録
集金したお金の着服取引先に渡した領収書
商品の転売ネットオークションサイト

他にも、メールのやりとり、加害者の犯行当日の行動がわかる業務日報、同僚の証言など、様々な証拠が考えられます。もちろん加害者本人の自白は重要な証拠ですが、事情聴取の前に他の証拠を揃えておく必要があります。

横領の証拠について詳しくは、以下の記事をお読みください。

参考記事:業務上横領が社内で起きた際の証拠の集め方・注意点を弁護士が解説

できる限り証拠を集める

証拠になりそうな物のあたりをつけたら、実際に証拠を集めます。

とはいえ、証拠は簡単には揃いません。すべての行為について証拠がなくても、証拠が確実に存在する行為に限って責任追及をする方法があります。できる範囲で集めてください。

前述の通り、証拠収集は慎重に進めましょう。事情聴取を最後にするだけでなく、調査している事実を本人や共犯者に悟られないようにしなければなりません。

弁護士に相談する

「証拠を集めてください」と言われても、現実には自力では難しいかと思います。

証拠になり得るものはケースバイケースであり、そもそも何が証拠になるかすらわからない場合も多いです。また、一般の方が考える以上に、細かい部分まで犯行内容が特定できるほどの証拠が必要になります。どの程度の証拠があれば十分かを判断するのは、法的専門知識がないと困難です。

そこで、弁護士への相談がオススメです。弁護士は犯行態様や今ある証拠を踏まえ、必要な証拠や収集方法をアドバイスできます。ご依頼いただければ、実際の証拠収集もサポートいたします。証拠収集だけでなく、告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉などもお任せください。

証拠がないケースでは、本人から強引に聞き出そうとする、あるいはただ時間が過ぎてしまうといった状況になりがちです。無理せず弁護士に相談して対応を検討するのが得策といえます。

横領の被害者側に強い弁護士の選び方については、以下の記事をお読みください。

参考記事:横領の被害者側に強い弁護士とは?依頼のメリットや選び方を解説

業務上横領の証拠がないときはリード法律事務所にご相談ください

ここまで、業務上横領の証拠がない理由や、してはいけないことなどについて解説してきました。

加害者の責任を追及するうえで証拠は不可欠です。しかし、業務上横領はこっそりと行われる傾向にあります。特に当該業務に対して他の従業員から十分なチェックが働かない状況では、被害に気がつくのが遅れてしまい、証拠が乏しい場合も多いです。

証拠がないからといって、本人から聞き出そうとする、すぐに懲戒解雇をするといった強引な方法をとってはなりません。証拠がなくなる前に、弁護士に相談して対応を検討するのが得策です。

業務上横領の証拠がなくてお困りの方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所は犯罪被害者の弁護に力をいれており、横領でも告訴を受理させてきた実績がございます。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉までお任せいただけます。

「業務上横領の疑いがあるが証拠がない」とお悩みの方は、証拠が消える前にお問い合わせください。

当事務所に横領の刑事告訴を依頼いただいた際の流れはこちら

メニュー

お問い合わせ・相談

記事カテゴリー

03-6807-5708 受付時間 平日 9:00~21:00 LINE相談 相談フォーム