「横領犯から財産がないと主張されている」とお困りではないですか?
残念ながら、横領犯の手元には本当にお金がない場合も多く、被害額の回収は困難であるのが実情です。証拠を集めて民事訴訟で勝訴しても、強制執行の対象になる財産がなければ意味がありません。ただし、刑事告訴をきっかけに結果として返還に応じるケースもあるため、諦めないようにしましょう。
この記事では、横領被害を回収するのが難しい理由や、被害者ができることを解説しています。横領被害を受け金銭を取り戻したいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
横領に関する基礎知識は、以下の記事で解説しています。
参考記事:【被害者向け】横領罪とは?類型と量刑、構成要件について解説
目次
横領被害を回収するのが難しい理由
横領被害を取り戻すのは困難です。難しい理由としては以下が挙げられます。
・そもそも証拠がない
・証拠をもとに民事訴訟で勝訴しても、強制執行の対象になる財産がない
・給与からの天引きや退職金不支給も法的ハードルが高い
・身元保証人の責任は限定される
順に見ていきましょう。
証拠がない
被害を取り戻すためには証拠が不可欠ですが、そもそも証拠がないケースも多いです。
横領犯が発覚しないように計画的に犯行をしていれば、十分な証拠は残りません。時間の経過とともに証拠がなくなっている場合もあります。証拠がないのであれば本人を問い詰めても認めないでしょう。
証拠がないと、民事訴訟や刑事告訴といった法的手段はとれません。結果として被害を回収できなくなってしまいます。
横領の証拠がなくお困りの方は、以下の記事をお読みください。
参考記事:業務上横領の証拠がないならどうする?被害者がしてはいけないことは?
民事訴訟で勝訴しても財産がない
証拠が見つかれば、まず交渉により返金を請求し、応じない場合には民事訴訟を提起する方法が考えられます。しかし、たとえ勝訴できたとしても、横領犯に財産がなければ強制執行は空振りに終わってしまい、結局お金を回収できません。
実際に、横領犯はギャンブル・浪費・投資の失敗などでお金に困った結果として犯行に及んでいるケースが目立ちます。もともとお金がないうえに、横領で得たお金を既に使い切っていれば、手元にお金は残っていないでしょう。
わざわざ民事訴訟をして勝訴しても、相手に財産がなければ判決は絵に描いた餅です。いくら証拠が揃っていても被害は取り戻せません。
横領している人の特徴については、以下の記事で解説しています。
参考記事:横領してる人の特徴は?会社が注意すべきポイントや対処法を解説
給与からの天引き・退職金不支給はハードルが高い
従業員が業務上横領をした際には、会社としては給与からの天引きや退職金の不支給により対応しようと考えるかもしれません。しかし、給与からの天引きや退職金不支給は法的なハードルが高いです。
まず給与からの天引きは、「賃金全額払いの原則」(労働基準法24条1項)が障害になります。労働者の生活を保護するために賃金は全額支払うことが原則とされており、会社が従業員に対して有する金銭請求権との相殺には、判例上厳しい制限が課されています。現実には、従業員が同意していないと判断され、天引きは認められない可能性が高いです。
退職金の一部・全額不支給のためには、退職金規程等における定めが必要です。定めが置かれていたとしても、全額不支給とするには、それまでの功労を抹消するほどの不正行為があったと認められなければなりません。実際には、減額しか許されないケースも多いです。
したがって、給与からの天引きや退職金不支給によって被害をカバーしようとしても、法的な壁により十分な対応ができない事態が想定されます。
身元保証人の責任は限定される
従業員を雇用する際に親族などを身元保証人にしており、身元保証人から回収しようとする場合もあるでしょう。しかし、身元保証人の責任は限定されています。
まず、保証の期間は定めがないときは3年とされ、定めた際にも最高でも5年までしか認められません(民法465条の3第1項、2項)。自動更新にはできないため、身元保証人に請求しようとしたときには契約の効力が失われている可能性があります。
金銭面でも、裁判例においては責任が限定されているケースが多いです。たとえ契約期間中であっても、身元保証人からは被害額の一部しか取り戻せないと想定されます。
このように期間や金銭的な責任が限定されているため、身元保証をとりつけていても被害額を回収できるとは限りません。
横領被害を取り返すために被害者ができること
回収が難しいとはいえ、被害者ができることはあります。被害者ができる証拠収集、財産調査、刑事告訴といった方法について解説します。
横領された会社の対応については、以下の記事もあわせてご覧ください。
参考記事:業務上横領が起きたらどうすればいい?会社の対応について弁護士が解説
証拠収集
まずは証拠収集を進めましょう。民事上の返還請求や刑事告訴をするにあたっては証拠が不可欠になるためです。
横領の証拠になるものはケースバイケースですが、代表例としては以下が挙げられます。
防犯カメラ映像
預金通帳などお金の動きがわかる記録
領収書・契約書といった書面
メールやSNSのメッセージ
時間の経過に伴い証拠はなくなっていきます。隠滅される前に、すぐに証拠収集にとりかかるようにしましょう。客観的な証拠のほか、関係する従業員への事情聴取が必要になる場合もあります。
横領の証拠収集について詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:業務上横領が社内で起きた際の証拠の集め方・注意点を弁護士が解説
財産調査
民事訴訟を通じて回収する際には、強制執行の対象にできる財産の有無が重要です。事前に本人や身元保証人の財産を調査しておけば、回収の見通しをつけられます。
主な財産としては、不動産、預金口座、生命保険が挙げられます。
不動産としてまず考えられるのは自宅です。会社は住所を把握しているため、自宅を割り出せます。登記簿から抵当権の有無や共同担保目録を確認でき、芋づる式に他の不動産が判明する可能性もあります。
預金については、給与の振込先の口座情報はわかるでしょう。もっとも、預金残高等の細かい情報を事前に集めるのは困難です。
生命保険については、年末調整で保険料控除の申請がなされていれば、解約返戻金を差し押さえる見込みが立ちます。
調査の結果、一定の財産が存在しているとわかれば、被害の全部または一部を回収できる可能性はあります。もっとも、実際には全財産を把握するのは困難です。そもそもほとんど財産を有していないケースも多く、民事訴訟をしても回収できる保証はありません。
刑事告訴
刑事告訴も考えられます。刑事告訴とは、犯罪被害に遭った事実を捜査機関に伝え、処罰を求める行為です。被害届とは異なり、告訴を受けた警察には、捜査を進めて検察に送致する義務が生じます。
告訴すれば捜査が進み、逮捕や刑事罰が現実味を帯びます。被害額が大きく実刑判決が予想されるケースでは、加害者は刑務所行きを避けたいと考えるでしょう。執行猶予つき判決が見込まれるとしても、刑事裁判にかけられて前科がつけば、再就職が困難になるなど今後の人生に大きなマイナスが生じます。
加害者にとって、処分を軽くしてダメージを避けるためには、被害者との示談が近道です。示談の際に通常は被害弁償が行われます。したがって、別途民事訴訟を提起しなくとも、被害を取り戻せる可能性があるのです。加害者本人に財産がなくとも、親族が肩代わりするケースがあります。
刑事告訴は、本来は犯人への刑罰を求めるために行われるものです。もっとも、告訴をきっかけとして結果的に被害額の回収につながるケースも存在します。
横領による刑事告訴について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
参考記事:従業員による業務上横領は刑事告訴すべき?メリット・デメリットを解説
横領犯からの金銭回収を弁護士に依頼するメリット
横領犯からの金銭回収は容易ではなく、とりわけ自力で進めるのは困難です。弁護士への依頼をオススメします。
弁護士に依頼するメリットとしては以下の3点が挙げられます。
・回収可能性を高められる
・刑事責任も追及できる
・被害者の負担が軽減される
順に解説します。
参考記事:横領の被害者側に強い弁護士とは?依頼のメリットや選び方を解説
横領被害の回収可能性を高められる
弁護士に依頼すれば、被害を回収できる可能性を高められます。
横領被害に強い弁護士は、被害を取り戻すために、交渉・訴訟・刑事告訴といったあらゆる手段を用います。状況や被害者の希望に応じてベストな手段をとれるため、被害者自身で行う場合と比べて回収可能性をアップできます。
そもそも証拠がわからない・見つからない場合でも、証拠の収集・保全の段階からサポートいたしますのでご安心ください。
参考記事:横領されたお金は返ってくる?返済されやすいケースと方法を弁護士が解説
刑事責任も追及できる
弁護士に依頼して刑事告訴をすれば、加害者の刑事責任も追及できます。
単純横領罪の法定刑は「5年以下の拘禁刑」、業務上横領罪では「10年以下の拘禁刑」です。罰金刑の定めはなく、被害額が大きいときは実刑判決により即座に刑務所に収監されます。
もっとも、告訴するには、証拠を揃えたうえで必要事項を記載した告訴状を作成し、提出しなければなりません。被害者本人が刑事告訴をしようとしても、証拠が足りない、犯罪にならない、民事不介入などと理由をつけて警察が受理しないケースが非常に多いです。
告訴に強い弁護士に依頼すれば、警察への説得により告訴を受理してもらいやすくなり、加害者に刑罰を科せる可能性が高まります。前述の通り、告訴をきっかけに被害を回収できるケースもあるため、被害を取り戻すうえでも刑事に強い弁護士に依頼するのは効果的です。
参考記事:警察が告訴を断る理由と告訴を受理してもらうための5つのポイントを弁護士が解説
被害者の負担が軽減される
弁護士に依頼すれば、被害者の時間的・精神的な負担も軽減されます。
民事訴訟や刑事告訴といった法的手続きは、慣れていない方にとっては大変であり、多大な時間を要します。また、加害者への追及や交渉は精神的負担も大きいです。
弁護士に任せてしまえば、面倒な手続きや精神的ストレスから解放されます。会社としての本来の業務に集中できる点も、弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。
横領被害を回復したい方は弁護士にご相談ください
ここまで、横領犯からお金を回収する方法などを解説してきました。
そもそも証拠がない、加害者に財産がないといった理由で、横領の被害を取り返すのは難しいのが実情です。とはいえ、回収できるケースもあります。民事上の交渉や訴訟だけでなく、刑事告訴も含めたあらゆる手段を利用して、諦めずに行動するようにしましょう。
横領犯人から被害を回収したい方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所は犯罪被害者弁護を専門としており、民事上の請求だけでなく刑事告訴にも強い弁護士事務所です。実際に、横領でも数多くの告訴を受理させて参りました。証拠収集から告訴状の作成、警察への提出、加害者との交渉に至るまで、徹底的にサポートいたします。
横領被害にお困りの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

