横領被害にあったら

最終更新日:2024.05.23

横領と窃盗の違いとは?具体例や被害者がすべきことを弁護士が解説

他人の財産を奪う行為には、横領、窃盗など様々な犯罪が成立する可能性が考えられます。会社の財産を従業員が私物化した場合など、横領と窃盗の違いがわかりづらいケースもあります。

両罪を分けるポイントは「誰が占有していたか」です。管理を任されていて手元にある他人の財産を自分の物にすると横領、他人が占有している財産を盗むと窃盗になります。

いずれの罪が成立するにしても、被害を受けた際には刑事告訴などを通じて加害者の責任を追及できます。罪名がわからなくても、すぐに行動をとりましょう。

この記事では、横領と窃盗の違いについて具体例に触れつつ説明したうえで、被害者がすべきことを解説しています。財産を奪われる被害に遭った方は、ぜひ最後までお読みください。

横領と窃盗の基礎知識

横領と窃盗の違いを詳しく説明する前に、そもそも両罪はどのような犯罪なのかを簡単に解説します。

横領は管理を任されていた他人の財産を着服する犯罪

横領は、管理を任されている他人の財産を、勝手に自分の物にする犯罪です。

より正確には「本来は所有者でなければできないはずの行為」が横領に該当します。自分の物にするほか、使い切る、持ち逃げする、返還しない、売却する、質に入れるなどの行為も含まれます。

具体例は以下の通りです。

  • 認知症の人の預金を管理する成年後見人が、自分の生活費のために引き出す
  • 従業員が、管理を任されていた会社の現金を持ち逃げする
  • 期限が過ぎてもレンタカーを返却しないままでいる
  • 友人から預かっていたゲームソフトを勝手に売却する
  • 時計屋の店主が、客から修理のため預かった腕時計を質に入れる

横領に該当する行為は多岐にわたります。横領の意味や類型について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

参考記事:横領と着服の違いとは?弁護士が事例でわかりやすく解説

窃盗は他人が占有している財産を盗む犯罪

窃盗は、他人が占有している財産を盗む犯罪です。他人が管理する財産を持ち出すなどしたときに成立します。こっそりとバレないように盗むのが一般的ですが、被害者の意思に反して奪っていれば窃盗に該当します。

具体例は以下の通りです。

  • 陳列された商品を店員の目を盗んでポケットに入れる(万引き)
  • 一時的に置かれた荷物を持っていく(置き引き)
  • 留守宅に侵入して金品を持ち出す(空き巣)
  • 駐車場に停まっているバイクを盗む
  • 歩行者の荷物を追い抜きざまに奪う(ひったくり)

横領と同じく、窃盗にも様々なバリエーションがあります。詳しくは以下の記事を参考にしてください。

参考記事:窃盗罪と強盗罪の違いとは?被害に遭ったらどうするべき?

横領と窃盗の違い

横領と窃盗の違いを表にまとめました。

横領窃盗
加害者になる人委託信任関係に基づいて他人の財産を占有している人(限定なし)
行為自分が占有している」他人の財産を、自分の物にする他人が占有している」財産を、自分の物にする
法定刑5年以下の懲役(業務上横領罪は10年以下の懲役)10年以下の懲役または50万円以下の罰金

以下で詳しく解説します。

誰が占有していたかがポイント

窃盗と横領は、他人の財産を自分の物にする点で共通しています。

両者の決定的な違いは、犯人が自分の物にした他人の財産(被害品)について、誰が「占有」していたかです。ここでいう「占有」とは「財産に対する支配」を意味します。手に持っているだけでなく、自宅・倉庫などの管理下にある空間に置いている場合も含まれ、絶えず監視している必要まではありません。

占有しているのが加害者自身であれば横領、加害者以外であれば窃盗になります。

たとえば、ゲームソフトを友人に預けているときには、友人同士の信頼関係に基づいて管理を任せているため、占有は預けられた側にあります。そこで預けられた側が持ち逃げすれば、「自己が占有している」他人の財産を自分の物にしているため、横領です。

同じゲームソフトであっても、持ち主の自宅にあれば、持ち主自身が管理して占有しているといえます。家に招かれた人が持ち主の目を盗んで持ち出したとすれば、「他人が占有している」財産を自分の物にしているため、窃盗です。

被害品について管理を任されていたときには横領、任されていなかったときには窃盗と考えておけば、おおむね間違いはありません。

単純横領罪と業務上横領罪の違い

横領には、通常の横領罪(単純横領罪)と業務上横領罪があります。「業務上」占有している他人の財産を横領すると業務上横領となり、刑が重くなります。

他人の財産を「業務上」占有している人とは、委託を受けて他人の財産を管理・保管する事務を繰り返し、または継続して行う人です。運送業者・倉庫業者・クリーニング業者・質屋のように、他人の物を預かるのが前提となる仕事の場合には当然該当します。加えて、企業・団体において金品の管理を任されている従業員・職員もあてはまります。

単なる友人・知人のように、純粋なプライベートで物を預かっている人が横領をした場合に成立するのは、単純横領罪です。「業務上」占有する立場にある人が横領行為をすると業務上横領罪となり、刑が重くなります。

業務上横領罪について詳しくは、以下の記事を参照してください。

参考記事:業務上横領罪とは?量刑と構成要件、背任罪との違いについて被害者向けに解説

占有離脱物(遺失物)横領罪と窃盗罪の違い

「横領」と名がつく犯罪には、他に「占有離脱物(遺失物)横領罪」があります。占有離脱物横領罪は、誰の占有下にもない財産を自分の物にする犯罪です。

落とし物の財布を拾ったにもかかわらず、警察に届け出ないで持ち去るケースが典型例です。他の横領罪とは異なり、委託した人の信頼を裏切るという側面はありません。

ベンチに置いたバッグなど、公の場所に置き忘れた物が持ち去られた場合には、占有離脱物横領罪と窃盗罪の区別が難しいです。置き忘れた被害者の占有が認められ、窃盗になる場合があります。

両罪の区別基準としては、一般的に以下が挙げられています。

  • 被害者が置き忘れてからの時間、被害品との距離
  • 置き忘れた場所
  • 被害品の大きさ、重さ、移動しやすさ
  • 被害者の認識・行動

たとえば、被害者が置いた場所を覚えていて近くにおり、持ち出されるまでの時間が短いケースでは、被害者の占有が認められ、窃盗とされやすいです。

様々な事情を総合して判断されるため、両罪の区別が難しい場合もあります。占有離脱物横領罪の刑罰は「1年以下の懲役」「10万円以下の罰金」「拘留」「科料」のいずれかであり、非常に軽いです。窃盗罪と刑罰が大きく異なりますので、被害を受けた際には弁護士にご相談ください。

法定刑も異なる

横領と窃盗は法定刑も異なります。

窃盗は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。万引きから貴金属の大量盗難まで様々な態様があり、実際に科される刑罰はケースによって大きく異なります。

単純横領罪は「5年以下の懲役」です。自分の管理下にある財産は持ち出す誘惑に駆られやすいと考えられるため、窃盗よりも刑罰が軽くなっています。

ただし、業務上横領罪では「10年以下の懲役」です。会社などでは管理を任される財産が大きくなりやすいため、重い刑を科せるとされています。罰金刑が規定されておらず必ず懲役刑になる点で、窃盗よりも重い刑罰です。

いずれの罪が成立するにせよ、実際に科される刑の重さは被害額などによって左右されます。被害額が大きいときには、執行猶予がつかずに実刑判決がくだされ、加害者が刑務所に収監されるケースもあります。

会社の物を従業員が私物化したら横領?窃盗?

横領と窃盗のいずれが成立するかの判断が特に難しいのが、会社の財産を従業員が持ち出したケースです。どちらが成立するかについて、具体例を交えて解説します。

管理権限があれば業務上横領

会社の物について、従業員に対して管理権限を付与している場合があります。管理を任された従業員が、権限を利用して会社に属する財産を自分の物にしたときには、業務上横領罪が成立します。

たとえば以下のケースです。

  • 経理担当で会社の預金を動かす権限のある社員が、自分の口座に振り込んだ
  • 会社から店舗の商品を管理する権限を任された店長が、商品を持ち出して売却した
  • 集金を任されていた担当者が、取引先から受け取った現金を懐に入れた
  • 切手や印紙の管理を任されていた従業員が、持ち出して現金化した

会社が権限を与えたにもかかわらず、信頼を裏切って着服などの行為に及んだ場合には、加害者は業務上横領罪の責任を負います。

権限がなければ窃盗

管理権限がない従業員が会社の財産を私物化したときには、窃盗罪となります。権限がないときには、従業員が自分で占有しているとはいえないためです。

窃盗になる例としては、以下が挙げられます。

  • 権限のない社員が、会社の金庫からお金を持ち出して借金返済に充てた
  • 店舗のアルバイトが、店の商品を持ち逃げした
  • 管理者ではない従業員が、オフィスにあった切手や印紙を現金化した
  • 会社にあった予備のパソコンを勝手に持ち帰り、プライベートで使用した

「会社の備品を自分の物にしたら横領」とのイメージがあるかもしれませんが、実際には窃盗罪が成立するケースも多いです。

横領や窃盗の被害に遭ったら?

横領や窃盗の被害にあった際には、以下の対応をとりましょう。

特に会社における業務上横領への対応についてはこちらで詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。

参考記事:業務上横領が起きたらどうすればいい?会社の対応について弁護士が解説

証拠を集める

まずは、証拠を集めるのが大変重要です。刑罰を求めるにせよ、民事上の損害賠償を請求するにせよ、証拠は不可欠になります。

証拠になり得るものとしては、以下が考えられます。

  • 防犯カメラ映像
  • 金の流れがわかる書類・記録(通帳など)
  • 目撃者・関係者の証言

手口は様々であり、証拠になるものはケースバイケースです。関係しそうなものはすべて残しておくようにしましょう。

収集が遅れると、データが消えたり、犯人に証拠隠滅を図られたりするおそれがあります。早めに確保するようにしてください。

以下の記事では、会社で業務上横領が起きた際の証拠の集め方について特に詳しく解説しています。

参考記事:業務上横領が社内で起きた際の証拠の集め方・注意点を弁護士が解説

刑事告訴する

加害者の法的責任を追及するには、刑事告訴がオススメです。

刑事告訴とは、捜査機関に対して、犯罪被害に遭った事実と処罰を求める意思を示す行為です。警察・検察に被害の事実が伝わるため、捜査の進展が期待でき、最終的には加害者に刑罰を科す道が開かれます。

さらに、告訴を受けた加害者が、刑罰を避けるために示談を申し入れてくるケースも多いです。示談する際には被害弁償が伴うため、民事上の請求をしなくても、金品を返してもらえる可能性を高められます。本人にお金がなくても、前科がつくのを避けるために親族などに借金をして用意するケースもあります。

刑罰を科すためだけでなく、金銭的被害を回復するためにも刑事告訴は効果的です。

以下の参考記事では、横領や窃盗で刑事告訴するメリットなどについて詳しく解説しています。

従業員による業務上横領は刑事告訴すべき?メリット・デメリットを解説

【窃盗被害】盗まれた物が返ってきた場合も刑事告訴できる?未遂についても解説

民事上の返還請求をする

被害を金銭的に取り返す方法としては、民事上の請求も考えられます。もっとも、民事上の交渉や訴訟による返還請求は、うまくいかないケースが多いです。

いくら被害の証拠があっても、加害者が奪った財産を使い切ってしまっていて他にめぼしい財産がなければ、返してもらいようがありません。勝訴判決を獲得したとしても、強制執行を通じて回収できなければ、判決は絵に描いた餅です。

他人から金品を奪う人は、一般的にお金に困っている傾向にあるといえます。お金がない人に民事上の請求をしても、あまり効果的ではありません。

犯罪加害者に法的責任を追及する際の民事と刑事の違いについて詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

参考記事:民事と刑事の違いとメリット・デメリット|犯罪被害者がとるべき方法は?

横領か窃盗かわからなくても弁護士にご相談ください

ご自身の受けた被害が横領と窃盗のいずれに該当するかわからなくても、まずは弁護士にご相談ください。弁護士に相談・依頼すると以下のメリットがあります。

成立する犯罪や見通しがわかる

犯罪被害を受け、どう対応すればよいかわからない方が多いでしょう。弁護士に聞けば、成立する犯罪や今後の見通しがわかります。

横領と窃盗のどちらになるかが微妙なケースでも法的知識をもとに回答できるほか、犯罪を証明するために集めるべき証拠も聞けます。相談するだけでも、有益なアドバイスを受けられるはずです。

民事訴訟・刑事告訴や示談交渉を任せられる

依頼した際には、民事訴訟・刑事告訴・示談交渉などを任せられます。

訴訟を提起する際には訴状、告訴する際には告訴状など、法的手続きには書類作成が必要です。慣れていない一般の方にとっては、大変な負担でしょう。加害者とのやりとりも、自分ですれば精神的ストレスがかかるだけでなく、場合によっては身の危険も伴います。加害者側に弁護士がついているときには、言いくるめられてしまう不安もあるかもしれません。

弁護士に書類の作成・提出や相手との示談交渉を任せてしまえば、無駄な時間をとられずに、ストレスも軽減されます。時間的・精神的負担が減るのは、弁護士に依頼するメリットのひとつです。

返してもらえる可能性が高まる

弁護士に依頼すれば、被害を返してもらえる可能性が高まります。

ご自身で民事訴訟をしようとしても、ケースによっては証明が難しいです。刑事告訴をしようにも、警察は「証拠が足りない」「民事不介入」などと理由をつけてなかなか受理してくれません。

弁護士はケースに応じて最適な方法で被害の回復を目指します。民事訴訟の提起だけでなく、刑事告訴が有効なケースでは受理されやすい告訴状を作成し、警察を説得いたします。

被害を回復したい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

まとめ

ここまで、横領と窃盗の違いについて具体例を交えて説明したうえで、被害者がすべきことを解説してきました。

管理を任された他人の財産を自分の物にしたときは横領、他人のもとにある財産を奪ったときには窃盗になります。どちらが成立するかわからなくても、弁護士を通じて加害者の法的責任を追及しましょう。

横領や窃盗の被害に遭われた方は、リード法律事務所までご相談ください。

被害を取り返すには刑事告訴が有効ですが、告訴に精通している弁護士は少ないです。当事務所は犯罪被害者弁護を専門にしており、横領・窃盗についても、これまで数多くの刑事告訴を受理させて参りました。民事では解決が難しいケースでも、被害を回復するために全力で活動いたします。

金品を奪われる被害に遭った方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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