最終更新日:2023.12.15
業務妨害されたら、刑事告訴できる?対処法や告訴する際の注意点を解説
業務妨害の被害にお悩みではないですか?
ウソの口コミをSNSに書き込む、執拗にクレーム電話を掛けるなど、業務を妨害する行為は犯罪に該当する場合があります。被害者は、損害賠償請求だけでなく刑事告訴も可能です。
この記事では、業務妨害罪が成立するケースや刑事告訴のメリット・注意点を解説しています。業務妨害の被害に遭われた方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
業務妨害とは?
業務妨害とは、その名の通り、他人がしている業務を妨げる行為です。
業務という言葉からは、仕事を連想するかもしれません。
業務妨害罪における「業務」とは、人が社会生活を維持するために反復・継続して行っていることを指します。
個人的な趣味や家事は含まれませんが、仕事に限らず、以下の非営利的な活動も業務に該当します。
- 政治活動
- 組合活動
- ボランティア活動
- サークル活動
思いのほか、業務の意味する範囲は広いです。これらの活動を妨げれば、業務妨害罪が成立します。
業務妨害罪の種類
業務妨害罪には、以下の類型があります。
- 偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
- 威力業務妨害罪(刑法234条)
- 電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)
偽計業務妨害罪は、ウソの情報を流す、相手をだます、勘違いや無知を利用するなどして業務を妨害する犯罪です。
例としては、
- 飲食店に架空の予約を入れる
- 執拗に無言電話をかける
- 入試で試験監督にバレないようにカンニングをする
などが挙げられます。
威力業務妨害罪は、相手に圧力をかけて業務を妨害する犯罪です。暴行や脅迫によるものが典型的ですが、他の行為でも該当し得ます。
たとえば、
- ネット上に爆破予告・殺害予告を書き込む
- お店にしつこくクレームをつける
- 机の引き出しに猫の死骸を入れる
- 弁護士の仕事用カバンを奪って自宅に隠す
などが挙げられます。
電子計算機損壊等業務妨害罪は、コンピュータに向けられた業務妨害に関する罪です。コンピュータウイルスに感染させる、ホームページ内の情報を改ざんするなどして業務を妨害したケースが該当します。
業務妨害の刑罰
偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
電子計算機損壊等業務妨害罪については、コンピュータに向けられた行為で影響が広範囲に及ぶおそれがあるため「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」と重くなっています。
いずれについても、行為が悪質である、大きな被害が生じたなどの事情があれば、懲役刑が科されます。場合によっては実刑判決もあり得る重大な犯罪です。
加害者が軽い気持ちでした行為であっても、被害者が刑事告訴をすれば重い処分がくだされる可能性があります。
業務妨害は非親告罪
業務妨害罪は、親告罪ではありません。
親告罪とは、起訴して刑罰を科すために、被害者による告訴が不可欠となる犯罪です。名誉毀損罪や器物損壊罪などが親告罪にあたります。
業務妨害罪は親告罪ではないため、被害者が告訴をしなくても、警察・検察が捜査をして起訴される可能性はあります。もっとも、被害者が申告しなければ被害の存在が捜査機関に判明しないケースも多いです。被害を伝えるためには、告訴は有効な手段となります。
なお、偽計・威力業務妨害罪については、未遂の処罰規定はありません。判例上は、妨害の結果が発生しなくても成立するとされており、実際に被害が生じていなくても罪に問えます。
業務妨害には時効がある
偽計・威力業務妨害罪の公訴時効期間は3年です(刑事訴訟法250条2項5号)。公訴時効期間を過ぎると、起訴できません。犯行から3年が過ぎると罪に問えなくなってしまいます。電子計算機損壊等業務妨害罪については5年です。
また、民事上の不法行為に基づく損害賠償請求にも、消滅時効期間の定めがあります。通常は、損害と加害者を知った時から3年です(民法724条1号)。
時効期間が経過する前であっても、時間が経てば経つほど証拠は消えていってしまいます。加害者の責任を追及するのであれば、できるだけ早めに証拠を集めて法的手段をとるようにしましょう。
業務妨害被害の事例
近年は、ネット上の書き込みや悪質クレーマーによる被害が相次いでいます。加害者が軽い気持ちでやっていて罪の意識がなかったり、正義感を振りかざしていたりするケースも多いです。
しかし、被害者にとってはたまったものではありません。以下で業務妨害になる事例を紹介しますので、ご自身の受けた被害が犯罪になりそうかの判断材料にしてください。
口コミとしてSNSに嘘の情報を書き込まれた事例
ネット上は多くの口コミであふれており、他人の口コミを参考にしている人も多いです。単なる感想であれば、大きな問題にはなりません。
しかし、口コミとしてウソの情報がSNSに書き込まれる事例があります。
- 飲食店Aで提供された食べ物にゴキブリが入っていた
- スーパーBでは棚に商品が並んでいない
- C社は反社会的勢力と関係があるので入社しない方がいい
これらのウソの口コミがSNS上でなされれば、拡散されて評判が下がるとともに、問い合わせやクレームが多数入るなどして、業務に支障がでるおそれがあります。
ウソの口コミは、偽計業務妨害罪のほか、信用毀損罪に該当する可能性があります。いずれも法定刑は同じです。「殺す」「放火する」などの書き込みであれば、威力業務妨害罪となります。
なお、書き込み内容が真実であった場合には、業務妨害罪は成立しません。名誉毀損罪が成立する可能性はあります。
同じ人から数十回以上クレームの電話がかかってきた事例
執拗なクレームも業務妨害に該当し得ます。
たとえば、同じ人が数十回以上クレームの電話を入れれば、従業員が対応に時間を割かれ、通常の業務に支障が出てしまいます。たとえ脅迫的な言動がないにせよ、業務に影響が出る事実に変わりはありません。圧力をかけたとして、威力業務妨害罪に該当すると考えられます。
同じ電話でも、無言電話を繰り返した場合には、偽計業務妨害罪になります。用事がないのに電話をしていれば、被害者をだましているためです。
お店の中で大声で怒鳴り暴れられた事例
お店の中で大声で怒鳴り暴れられた場合には、対応に人員を割かれるとともに、他のお客さんの利用が阻害されるおそれがあります。威力業務妨害罪が成立するでしょう。
他にも、
- 「殺すぞ」など害を与える旨の言動があれば脅迫罪
- 店員に土下座を強いれば強要罪
- 店員に暴力を振るえば暴行罪(ケガをすれば傷害罪)
- 店の商品を壊せば器物損壊罪
など、様々な犯罪が成立する可能性があります。
クレームのケースと同様に、いくら客であっても悪質な言動があれば犯罪になり得ます。
業務妨害罪で刑事告訴するメリットは?
業務妨害の被害を受けた際には、刑事告訴ができます。刑事告訴とは、犯罪事実を捜査機関に申告し、処罰を求めることです。
刑事告訴には以下のメリットがあります。
加害者に刑事罰を科すことができる
告訴をすれば、加害者に刑罰を科せる可能性が高まります。
業務妨害罪は親告罪ではありません。告訴をしなくても、警察や検察が捜査を進め、刑事裁判になる可能性はあります。
しかし、電話によるクレームは外部からは知りようがないですし、ネット上の書き込みを警察がすべて監視するわけにもいきません。判明しづらい以上、現実には被害者が申告しないと警察が動いてくれない可能性が高いです。
被害者が刑事告訴をしたときには、警察は捜査を進め、検察に事件を送る必要があります。検察官に「起訴すべき」と判断してもらえば、刑事裁判になり加害者に刑罰を科せます。
したがって、加害者に刑罰を科したいと考えているのであれば、刑事告訴をするのが近道です。
加害者を特定できる
加害者が判明していなくても、告訴をして警察に捜査を進めてもらえば、特定できる可能性があります。
業務妨害の加害者は、まったく知らない人であるケースも多いです。ネット上の書き込みやクレーム電話など、加害者が目の前にいないケースでは、犯人が誰かがわかりません。
被害の事実を警察に伝えれば、国家権力に基づく捜査によって加害者を特定できる可能性が高まります。加害者が判明すれば、民事上の損害賠償請求をして金銭的に被害を回復できる道も開かれます。
刑事告訴は、本来は犯人の名前がわかっていなくても可能です。もっとも、ネット上の書き込みの場合には、あらかじめ発信者情報開示請求をしておいた方がスムーズでしょう。発信者情報開示請求については後述します。
損害賠償請求がスムーズに進む
業務妨害により損害が生じていれば、民事上の不法行為が成立し、損害賠償請求が可能です。しかし、相手との話し合いが難しければ、訴訟を提起する必要が生じ、被害者にとっては大変な負担になります。
刑事告訴をすれば、民事上の損害賠償請求がスムーズに進むケースも多いです。
そもそも業務妨害の加害者は、自分の行為が犯罪になるとは考えていない場合もあります。告訴の事実を加害者が知れば「刑罰を科されるのではないか」と心配になるでしょう。そこで「被害者との示談交渉に応じて処分を軽くしてもらおう」と考えるのです。
示談交渉の際には、被害を弁償する形になります。加害者本人にお金がなくても、刑罰を避けるために、親族から借りるなどして何とか工面するケースもあります。訴訟をしなくても、被害額を返してもらえる可能性があるのです。
刑事告訴は刑罰を求めるために行いますが、加害者が示談に積極的になり、結果的に金銭的な被害の回復につながる場合もあります。
業務妨害罪で刑事告訴する際のポイント
業務妨害の被害を受けた際に刑事告訴をすれば、刑罰を科せる、損害賠償請求がスムーズに進むといったメリットがあります。
しかし、現実には警察はなかなか告訴を受理してくれません。理由としては以下が想定されます。
- 犯罪にならない(と勘違いしている)
- 証拠が足りない
- 自分達で解決して欲しい
- 他の事件処理で忙しい
犯罪について捜査をするのが警察の仕事であり、いずれも不当な理由です。しかし、実際に告訴を受理してもらえなければどうしようもありません。
告訴を受理してもらうために、以下のポイントに注意してください。
匿名の場合は発信者情報開示請求を行う
ネット上の書き込みで加害者がわからないときには、発信者情報開示請求をしましょう。誰が書き込みをしたかが判明すれば、スムーズに刑事告訴ができます。
もっとも、一般の方が手続きするのは難しく、記録が消える前に早めに行う必要もあります。弁護士に依頼して進めるようにしましょう。
証拠を収集する
証拠の収集は重要です。ある程度の証拠がないと、被害の事実を信じてもらえず、告訴を受理してもらえません。
具体的には、以下が証拠として考えられます。
- ネット投稿画面のスクリーンショット
- クレーム電話の録音、通話履歴
- 防犯カメラ映像
- 目撃者の証言
他にも、ケースに応じて証拠になりそうな物を考え、集めるようにしてください。
証拠の中には、時間が経つと消えてしまうものも多いです。できるだけ早く証拠を保全して、被害の事実を証明できるようにしましょう。
受理される告訴状を作成する
告訴をする際には、証拠とあわせて告訴状の作成が事実上不可欠です。法律上は口頭でも告訴できるとされていますが、現実には告訴状を提出しないと受け付けてもらえません。
告訴状に決まった書式はありませんが、処罰を求める意思を明記するようにしてください。
加えて、犯罪が成立するとわかるように記載する必要があります。事実の記載が不足しているなど、犯罪になると明らかでない場合には受理してもらえません。
犯罪の成立要件を正確に理解していないと間違いなく書くのが難しいため、告訴に精通した弁護士に任せるのをオススメします。
迅速な被害回復につとめる
告訴するだけで安心はできません。生じている被害をすぐに回復するようにしましょう。
特にネット上の書き込みの場合には、拡散するスピードが早いです。いくらウソの情報であっても、信じてしまう人はいます。被害が拡大するのを防ぎ、失われた信頼を取り戻すためには、迅速に行動しなければなりません。
具体的には、自社サイトやSNS上で経緯を説明し、被害にあった事実を伝えるとともに正確な情報を示す必要があります。ウソの情報の拡散を止めるために、書き込みなどの削除要請も行ってください。信頼を回復するために、消費者や取引先に個別に連絡すべき場合もあるでしょう。
まとめ
ここまで、業務妨害の事例や、刑事告訴のメリット・注意点などについて解説してきました。
ネット上のデマや爆破予告、執拗なクレーム電話などは業務妨害罪に該当する場合があります。刑事告訴すれば、加害者に刑罰を科せる可能性が高まるとともに、金銭的にも被害を回復しやすくなります。証拠がなくなる前に、早めに動くようにしましょう。
業務妨害の被害に遭った方は、リード法律事務所までご相談ください。
告訴をしようとしても、警察に受理してもらえないケースが多いです。当事務所では、刑事事件の被害者の方々から依頼を受け、数多くの告訴を受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまで、告訴に関して徹底的にサポートいたします。
業務妨害の被害に遭った、警察に取り合ってもらえず困っているといった方は、まずはお気軽にお問い合わせください。