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最終更新日:2024.01.29

会社法における刑事責任とは?役員・取締役を刑事告訴するには

取締役など会社において重大な役割を担う人が不正行為をした際には、刑事責任を問える可能性があります。会社法にも、特別背任罪、違法配当罪、預合い罪といった、役員に適用される犯罪が規定されています。役員が会社法に定められている罪を犯したときには、被害を受けた会社は刑事告訴が可能です。

この記事では、会社法に定められている犯罪の内容や、刑事告訴する方法などについて解説しています。役員が不正行為を働いた会社の関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。

会社法とは

会社法は、会社の設立、組織、運営、管理などについて定める法律です(1条)。

かつて、会社に関するルールは主に商法に規定されていました。2005年に関連する法令を統合して会社法が制定され、2006年より施行されています。

会社法は全8編で構成され、たとえば以下の事項が規定されています。

  • 用語の定義
  • 設立方法
  • 株式の発行手順、譲渡方法など
  • 機関の設計・権限・運営方法(株主総会、取締役会など)
  • 資本金、配当に関する規制
  • 清算方法
  • 社債の発行手順
  • 組織再編(合併、会社分割など)

会社に関係する法律は様々ありますが、基本的なルールを定めているのが会社法です。

役員・取締役の不正や不祥事を罰する法律も

会社法には、役員などの不正行為について刑罰を定めた規定もあります(960条以下)。重要な立場にある人が不正行為をすると会社や株主など関係者への影響が大きく、規制の必要性が高いためです。

会社法に規定された犯罪としては、以下が挙げられます。

罪名概要
特別背任罪(960条)不正融資、不正取引、粉飾決算など
虚偽申述罪(963条1~4項)出資について虚偽の申述
自己株式取得罪(963条5項1号)会社の計算で自社株を不正に取得
違法配当罪(963条5項2号)法令・定款に違反して配当を出す
目的範囲外投機取引罪(963条5項3号)会社の目的の範囲外の投機的取引
虚偽文書行使等罪(964条)株式等の募集に際して虚偽の文書示す
預合い罪(965条)株式発行の払込みを仮装
株式の超過発行の罪(966条)発行上限を超えて株式を発行
贈収賄罪(967条)職務に関係して賄賂を収受
利益供与罪(970条)株主の権利行使に関し利益を与える

罪によって誰が規制対象になるかは異なります。取締役、会計参与、監査役といった役員は多くの罪で犯行の主体になるとされています。

不正行為により被害を受けた会社は、取締役をはじめとする役員に対して刑事告訴が可能です。

役員・取締役による会社法違反とは

取締役などの役員が会社法違反で問われる犯罪としては、特別背任罪、預合い罪、違法配当罪、贈収賄罪などが挙げられます。

会社法違反により問われる罪について、詳しく解説します。

1. 特別背任罪

典型的な会社法違反の犯罪としては、特別背任罪が挙げられます。会社において重要な地位にある人に限って、通常の背任罪よりも重い刑を科す規定です(960条)。

例としては、取締役による不正融資、不正取引、粉飾決算が挙げられます。

特別背任罪の要件は以下の4つです。

①対象者

加害者になるのは、法律で定められている、会社において重要な立場にある人に限られます。詳しくは次の項目で解説します。

②図利加害目的

「自己・第三者の利益を図る目的」か「会社に損害を加える目的」です。会社のために行動をしていた場合、特別背任罪には該当しません。自己・第三者と会社のいずれの利益も図っていたケースでは、どちらがメインかで判断します。

③任務に背く行為

会社から職務を任された者として、法的に期待された役割を果たさないことです。期待される行為のレベルは、法令、定款、内規、契約などから判断されます。

④財産上の損害

会社が財産を失った場合や、将来得られるはずであった利益を得られなくなった場合に損害が認められます。法的に権利を有しているものの実際には回収できないケースも含まれます。

刑罰は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。刑事告訴をすれば、役員に裁判で実刑判決がくだされて刑務所に入る可能性も十分にあります。

背任罪との違い

通常の背任罪との違いは、表の通りです。

背任罪特別背任罪
対象者他人のために事務を処理する者(一般の従業員など)会社で重要な立場にある者(取締役など)
刑罰「5年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」「10年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」または「その両方」
公訴時効期間5年7年

まずは対象者が異なります。

特別背任罪に問われるのは、たとえば以下の立場にある人です。

  • 発起人
  • 設立時取締役、設立時監査役
  • 取締役、会計参与、監査役、執行役
  • 支配人
  • 事業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人

対象外の一般従業員については、通常の背任罪で処罰されます。他の要件はほぼ同じです。

刑罰も大きく異なります。

通常の背任罪は「5年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」であり、他の財産犯と比べるとさほど重いわけではありません。

対して特別背任罪は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかであり、大幅に刑が加重されています。実刑判決がくだされ、役員が刑務所に収監されるケースもあります。

2. 見せ金・預け合い

株式を発行する際に、払込みがあったかのように仮装する「見せ金」や「預け合い」も不正行為です。実際に入金がなければ会社の財産が形成されず、事情を知らない人が騙されてしまいます。

「預け合い」とは、発起人や取締役が払込取扱機関から借り入れをして払込みに充てるものの、借り入れを返済するまでは会社の預金を引き出さないと約束する行為です。帳簿上のやりとりに過ぎず、実際には金銭は移動していません。預け合いの特徴は、払込取扱機関の職員と通謀して行う点です。

預け合いは、会社法で犯罪とされています(965条)。刑罰は「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。応じた払込取扱機関の職員も処罰されます。

同じく株式の払込みがあったかのように仮装するのが「見せ金」です。

見せ金とは、払込取扱機関以外から借り入れをして株式の払込みに充て、その後すぐに引き出して借入金の返済に充てる行為です。預け合いとは異なり現実に資金が移動していますが、実質的に会社財産にならない点は変わりません。

見せ金は、会社法上は処罰対象となっていません。もっとも、登記簿に虚偽の事実を記載させた点が、刑法の公正証書原本不実記載罪に該当します。刑罰は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

3. 株に関する犯罪

株式の発行や配当などに関係する不正行為も、会社法で犯罪とされています。

・自己株式取得罪

取締役などが、会社の計算で不正に自社株を購入する犯罪です(963条5項1号)。

会社から資金が出るだけでなく、相場操縦や会社支配に利用されるおそれもあるため規制されています。刑罰は「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。

近年では広く自己株式の取得が認められており、所定の手続きを踏んで行われる正当なものは処罰されません。

・違法配当罪

法令・定款の定めに反して剰余金の配当を行う犯罪です(963条5項2号)。

会社法上の分配可能額を超えた場合や、株主総会の承認を経ていない場合に処罰対象となります。

特に問題なのが、赤字なのに役員が粉飾決算をして利益があるように見せかけ、配当を行うケースです。図利加害目的があると特別背任罪になり得ますが、ないときでも違法配当罪には該当します。

刑罰は、自己株式取得罪と同じく「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。

・虚偽文書行使等罪

株式等の引受人を募集するときに、重要事項について虚偽の記載を含む文書を示す犯罪です(964条)。

募集に際して架空の売上・資産を示したケースなどで成立します。刑罰は「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。

あわせて金融商品取引法の「虚偽有価証券報告書等提出罪」に該当する場合も多いです。

・株式の超過発行の罪

定款で定められた発行可能総数を超えて株式を発行する犯罪です(966条)。

既存株主の影響力が極端に弱くなるのを防ぐために規定されています。刑罰は「5年以下の懲役」または「500万円以下の罰金」です。

4. 贈収賄

取締役などの役員が、職務に関して不正な依頼を受けて、金銭等の利益を受けとった場合には、会社法上の贈収賄罪が成立します(967条)。

賄賂といえば、政治家や公務員が受け取るものとのイメージをお持ちかもしれません。しかし、会社も公共性を有する存在であり、汚職は許されないでしょう。依頼された不正行為を実行して会社財産を危うくするおそれもあります。

会社役員が職務に関係する不正な依頼と引き換えに金銭等を受け取れば、罪に問われる可能性があります。刑罰は「5年以下の懲役」または「500万円以下の罰金」です。賄賂を渡した側も「3年以下の懲役」または「300万円以下の罰金」に処されます。

ただし、お歳暮やお中元のやり取りなど、社会的儀礼の範囲内であれば処罰対象にはなりません。

また、会社の役員が、株主の権利行使に関して利益を供与する行為も犯罪に該当します(970条)。株主の議決権行使などのために役員が財産的な利益を提供すれば、「3年以下の懲役」または「300万円以下の罰金」に処されます。

役員・取締役の会社法違反に気づいたら

取締役などの役員による会社法違反行為に気がついたときには、どうすればよいのでしょうか?

考えられる対処法をご紹介します。

内部通報する

制度が整備されている会社であれば、内部通報をするのが有効な方法になります。

内部通報制度とは、社内における不正行為を発見した従業員等が社内の窓口に通報する制度です。役員による不正行為についても内部通報ができるため、制度が機能している会社では社内での適切な措置が期待できます。

現在は、従業員301人以上の企業について、体制の整備が義務づけられています。法律上、通報者に対する解雇等の不利益な取扱いは認められていません。

とはいえ、制度が整っていない会社も多く、通報により社内での居場所がなくなってしまう危険を感じる場合には利用しづらい方法です。

役員・取締役を解任する

不正行為をした役員を解任する方法もあります。

株主総会決議があれば、取締役などの役員の解任が可能です(339条1項)。

もっとも、不正をした役員の影響力が強ければ、否決されるおそれもあります。否決された際には、全体の3%以上の株式を有している株主は、裁判所へ解任の訴えの提起も可能です(854条)。また、代表取締役の解職は、取締役会決議で決定できます(362条2項3号)。

実際に解任できそうなときには、有効な方法です。

違反者を刑事告訴する

社内で対処するのが困難であれば、被害を受けた会社として刑事告訴する方法もあります。

刑事告訴とは、被害者が犯罪事実を捜査機関に申告し、処罰するように求めることです。刑事告訴をすれば警察・検察が捜査を進めてくれるため、役員に会社法違反で刑事罰を科す道が開かれます。

加えて、刑事告訴によって民事上の損害賠償の支払いがなされるケースもあります。告訴によって役員が重い刑罰をおそれ、被害を賠償しようと考えるのです。被害額が大きければ全額の回収は困難かもしれませんが、損害賠償請求も進む可能性があるのは告訴のメリットといえます。

会社法違反者を刑事告訴するには

会社法に違反した役員を刑事告訴するには、証拠を集め、告訴状を作成して捜査機関に提出します。

客観的な証拠が揃っていなければ、告訴を受理してもらえない可能性が高いです。また、犯罪が成立すると明らかになるように、告訴状に事実を記載しなければなりません。

これらは、法律の専門家でないと難しい作業です。告訴に詳しい弁護士に依頼して、証拠収集、告訴状の作成、捜査機関とのやりとりを任せるとよいでしょう。

会社法に違反する不正行為に対しては、コンプライアンスの観点からも厳しく対処する必要があります。もっとも、社名や役員の実名が報道されてしまうと、会社の社会的評判に悪影響をもたらすリスクも大きいです。

身内に甘い対応とならず、かつ企業のイメージも損なわないようにするには、弁護士に適切な方法を相談するとよいでしょう。

まとめ

ここまで、会社法における刑罰の内容や刑事告訴する方法などについて解説してきました。役員による不正取引、違法配当などは会社法違反として刑罰の対象になり得ます。刑事告訴を含めて厳しい対応を検討しましょう。

役員による会社法違反の被害に遭った会社関係者の方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまで、告訴に関して徹底的にサポートいたします。

被害に遭って告訴すべきか悩んでいる、警察に取り合ってもらえず困っているといった方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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