刑事告訴の基礎知識

最終更新日:2023.10.25

誹謗中傷されたら刑事告訴できる?告訴できない場合とは?

近年、SNSやネット掲示板での誹謗中傷の被害が増加しています。誹謗中傷には、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪などの犯罪が成立するケースがあり、刑事告訴も可能です。もっとも、事案によっては犯罪にならず、告訴ができない場合もあります。

この記事では、誹謗中傷に対して刑事告訴できるケース・できないケースや、刑事告訴をするメリットなどについて解説しています。被害を受けた方は、ぜひ最後までお読みください。

誹謗中傷されたら刑事告訴できる

一般的に誹謗中傷とは、悪口などで他人の社会的評価を傷つけることや、バカやブスなど公然と人を侮辱することです。名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪などの犯罪に該当するときには、刑事告訴ができます。

誹謗中傷により成立する各犯罪について、概要や具体例を解説します。

名誉毀損罪にあたる場合

まず考えられるのが、名誉毀損罪にあたるケースです。

名誉毀損罪は、公然と事実を示し、他人(法人含む)の名誉を傷つける犯罪です。不特定または多数の人が認識できる状況で、他人の社会的評価を傷つけるような事実を示すと成立します。意外と思われるかもしれませんが、事実が真実か虚偽かは問いません。

誹謗中傷が名誉毀損に該当し得る例としては、以下が挙げられます。

  • 社内で「A部長は不倫している」と言いふらす
  • SNSで「芸能人のBは薬物を使用しているらしい」と噂を流す
  • ネット掲示板に「C社ではパワハラが黙認されている」と書き込む

刑罰は「3年以下の懲役・禁錮」あるいは「50万円以下の罰金」です。

有名な判例としては「ラーメンチェーン店がカルト集団である」旨の虚偽の内容をネット上に掲載した事例が挙げられます(最高裁平成22年3月15日決定)。被告人は「相当の根拠を元に真実であると信じていた」と主張したものの認められず、30万円の罰金判決が確定しました。

根拠がないのに「前科持ちだ」と断定するなど、より悪質な事例では、懲役刑が科される可能性もあります。

侮辱罪にあたる場合

侮辱罪に該当するケースもよくあります。

侮辱罪とは、事実を示さずに、公然と他人を侮辱する犯罪です。名誉毀損罪と同様に、不特定または多数の人が認識できる状況で、人の評価を傷つけると成立します。

名誉毀損罪との違いは、事実を示しているか否かです。侮辱罪は、事実を示さずに、個人的な評価で他人を侮辱したときに成立します。

たとえば、以下のケースは侮辱罪に該当します。

  • 多くの人がいる前で「お前はクズだ」と言う
  • SNS上で「ブス」「バカ」などと罵る

「ブス」や「バカ」などは人を傷つけるひどい言葉ですが、個人的な評価にすぎず、事実を示してはいません。したがって、名誉毀損罪ではなく侮辱罪の成否が問題になります。

侮辱罪の法定刑は従来「拘留(30日未満)」または「科料(1万円未満)」とされていました。リアリティ番組に出演していたプロレスラーの女性に対して、SNS上で「いつ死ぬの?」などと誹謗中傷した事例では、科料9000円の略式命令がくだされています。

このケースでは、被害者の女性が多くの人から誹謗中傷を受けて自殺に追い込まれたため、「侮辱罪の刑罰が軽すぎる」との声が高まりました。法改正により令和4年7月7日以降は厳罰化され、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」が追加されています。

脅迫罪にあたる場合

誹謗中傷の中で被害者を脅すと、脅迫罪に該当するケースもあります。

脅迫罪とは、人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知する犯罪です。親族に害を加える旨を伝えたときにも成立します。

誹謗中傷が脅迫罪に該当する例としては、以下が挙げられます。

  • 店主に対して「店を燃やしてやる」と脅す
  • SNSのDMで「お前の子どもを連れ去る」とメッセージを送る
  • ネット掲示板に殺害予告を書き込む

脅迫罪の法定刑は「2年以下の懲役」または「30万円以下の罰金」です。

誹謗中傷されても刑事告訴できない例とは?

誹謗中傷されたとしても、犯罪の成立要件を満たさず、刑事告訴できないケースが存在します。

個別にこっそりと言われた場合

被害者自身だけに対してこっそりと行われた場合には、名誉毀損罪や侮辱罪では刑事告訴できません。

名誉毀損罪や侮辱罪が成立するためには、行為が「公然と」行われている必要があります。

公然性を満たすのは、不特定または多数の人が認識し得る場合です。多くの人に聞こえる状況で言われたケースや、ネット上で発言が誰もが見られる状態に置かれたケースでは、要件を満たします。

反対に、特定かつ少数の人しか認識できない状況でなされたときは、公然性の要件を満たしません。個室で1対1で「不倫野郎」と言われたケースや、SNSのDMで「ブス」とメッセージを送られたケースでは、公然性は認められず、名誉毀損罪や侮辱罪は成立しないと考えられます。

もっとも、直接伝えられたのが特定かつ少数の人であっても、不特定・多数の人に話が広がり得る場合には公然性が認められる可能性があります。

また、脅迫罪には公然性は求められません。個室で「殺すぞ」と脅された場合や、DMで「家を燃やす」と言われた場合には、脅迫罪での刑事告訴が可能です。

誰のことか特定できない場合

誰に対してなされたのかが特定できない場合にも、刑事告訴はできません。対象が誰かがわからなければ、社会的評価は低下しないためです。

たとえば、SNSでアカウント名で誹謗中傷を受けたときには、実在する誰のことかが第三者にわからないとすれば、名誉毀損罪や侮辱罪は成立しません。ネット掲示板でも同様です。

もっとも、イニシャルやハンドルネームだけで、現実の本人とのつながりが明確なケースもあるでしょう。実名が書かれていなくても、他の情報から誰のことを言っているかを第三者が簡単に特定できるのであれば犯罪になります。

たとえば、「ミュージシャンのA(イニシャル)は薬物を使っているらしい」と投稿したときに、事務所名や代表作などから誰のことを言っているか明らかになれば名誉毀損になり得ます。

誹謗中傷を受けて刑事告訴を考えているときには、客観的に誰のことかが特定できるかに注意してください。

商品・作品の誹謗中傷をされた場合

商品・作品に批判的な感想や意見・論評を示された場合には、名誉毀損にならない可能性があります。

商品や作品に対しては様々な意見が寄せられるものであり、中には厳しいコメントもあるでしょう。言われた側が傷ついただけでは、批判的な発言に名誉毀損罪は成立しません。

たとえば「A店の定食はおいしくなかった」とのネット上の口コミや、「作家Bの小説はつまらない」というSNSの書き込みは、通常であれば犯罪に該当しないと考えられます。

もっとも、単なる意見・論評にとどまらないときには、犯罪になり得ます。「A店の定食には虫が入っていた」とのウソの情報を発信した場合や、「作家Bの小説は盗作だ」とデマを流した場合などです。

商品・作品に批判的な意見はつきものです。誹謗中傷を受けたとしても、犯罪にならないケースがある点は知っておきましょう。

違法性阻却事由に該当する場合

名誉毀損罪の構成要件に該当しても、以下の要件をすべて満たした場合には罪に問えません。

①示した事実に公共性がある

②目的が公益を図ることであった

③真実であると証明された

たとえば、政治家の汚職の事実を報じたケースや、重大犯罪の犯人の実名を伝えたケースでは、名誉毀損罪は成立しません。

③の要件により「真実であれば名誉毀損ではない」と勘違いしている人もいます。しかし、一般人の不倫の事実を見せしめのために公表するなど、公共性(①)や公益目的(②)が認められない場合には、真実であったとしても名誉毀損です。

なお、③の真実性の要件について、「確実な資料・根拠を元に真実だと勘違いした場合には、名誉毀損罪にはならない」旨を示した判例があります(最高裁昭和44年6月25日判決)。とはいえ、事実が虚偽であったときに、「真実だと考えたのもやむを得ない」として無罪になる可能性は、現実には低いと考えられます。安易にネット上の情報を信じて誹謗中傷をした加害者に対しては、刑事告訴が可能です。

いずれにせよ、①から③の要件を満たしていると名誉毀損罪は成立しません。該当しそうなときには注意してください。

SNSでの誹謗中傷被害が増加

近年特に深刻になっているのが、X(旧Twitter)、InstagramなどSNSでの誹謗中傷の被害です。スマートフォンの普及によりSNSの利用時間が増加し、誹謗中傷に悩む方も増えています。

ネット上では互いの顔が見えず、匿名で発信できるため、誹謗中傷が過激になりがちです。「匿名だからバレないだろう」「周りから注目を集めたい」といった軽い気持ちで、加害者に自覚がないまま犯罪行為に及んでいるケースがよくあります。

SNSでの発信はすぐに拡散され、被害は深刻になりやすいです。前述した女性プロレスラーのケースのように、誹謗中傷を受けて命を絶ってしまう場合すらあります。

誹謗中傷被害に遭ったときに、刑事告訴するメリット

SNSなどで誹謗中傷の被害に遭ったときには、民事上の損害賠償請求だけでなく、名誉毀損罪や侮辱罪などで刑事告訴をするのも有効な方法です。

もっとも、警察は告訴を簡単には受理してくれません。そこで、弁護士への相談もご検討ください。弁護士に依頼して刑事告訴をすることには、以下のメリットがあります。

取り調べを受けさせることが抑止力となる

刑事告訴をしたときには、警察や検察は捜査を進めなければなりません。捜査の過程で、加害者への取り調べが行われます。

一般の人にとっては、犯罪加害者の立場で取り調べを受けることはプレッシャーになります。「処罰されないか不安」「前科はつけたくない」などと考えるはずです。追及を避けるために、誹謗中傷をやめるかもしれません。

したがって、刑事告訴が抑止力となり、さらなる被害を防げる可能性があります。

告訴状を受理してもらいやすい

弁護士に依頼することで、告訴状を受理してもらいやすくなります。

誹謗中傷で告訴しようとしても、警察はなかなか取り合ってくれません。「当事者で解決すべき問題だ」「証拠が足りない」「他の事件処理で忙しい」といった理由で断られるケースが多いです。

弁護士に依頼すれば、証拠を集めたうえで、受理されやすい告訴状を作成できます。警察に対しては、法的根拠に基づいた説得が可能です。被害者だけでは相手にしてもらえなくても、弁護士がつけば刑事告訴を受理してもらえるケースがよくあります。

加害者に刑事処罰を与えることができる

告訴をすれば、加害者に刑罰を与えられる可能性があります。

誹謗中傷に成立しやすい名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」という類型の犯罪です。親告罪とは、起訴して刑事裁判にかけるのに、被害者による告訴が不可欠となる犯罪をいいます。

親告罪にあたる名誉毀損罪や侮辱罪は、告訴をしないと刑罰を科せません。弁護士に依頼して告訴をすれば、刑事裁判を通じて刑罰を科す道が開かれます。

誹謗中傷され、刑事告訴を検討する前に…

誹謗中傷に対して刑事告訴をするのは、有効な方法です。もっとも、状況や被害者の意向によっては、必ずしもベストの方法とは限りません。

刑事告訴をしなくても、民事で損害賠償請求をする方法もあります。刑事告訴を考える際には、よく検討しましょう。

費用対効果が合わない場合もある

刑事告訴の問題点は、費用に見合った効果が得られない可能性がある点です。弁護士に依頼して刑事告訴をすると弁護士費用がかかる一方で、加害者の処分は思いのほか軽くなるケースがよくあります。

「刑事告訴に費用が掛かったのに加害者への処分は軽かった」と不満を残す事態にならないように、以下の点は頭に入れておいてください。

刑事告訴の料金が高い

刑事告訴を弁護士に依頼すると、ある程度の弁護士費用がかかってしまいます。着手金と成功報酬を合わせると、80万円程度の費用が想定されます。

たしかに、刑事告訴そのものに費用はかかりません。もっとも、自分で証拠を集めて告訴しようとしても、なかなか警察に受理してもらえないのが実情です。

そもそも、証拠をどう集めればいいのかわからない方も多いでしょう。ネット上の誹謗中傷で加害者が誰かわからなければ、発信者情報開示請求も必要となり難易度は上がります。結果的に弁護士に依頼する必要が生じ、一定の費用がかかってしまいます。

不起訴処分・起訴されても罰金になる可能性が高い

経験上、誹謗中傷について名誉毀損罪や侮辱罪で刑事告訴しても、加害者への処分は軽くなる可能性が高いです。不起訴処分になって刑事裁判にすらならない、あるいは起訴されても罰金ですんでしまう事例が多いです。

たとえば、誹謗中傷の加害者に前科前歴がなく、行為が1回限りで悪質性が低ければ、不起訴処分になると考えられます。

もちろん、前科前歴があり、長期間にわたって執拗に攻撃的な投稿がなされ、脅迫により生命の危険が生じたようなケースでは、実刑になる可能性もあります。とはいえ、重い処分が科されるケースは、全体から見ると少ないのが実情です。

刑事告訴以外の選択肢を検討する方法も

誹謗中傷に対しては、刑事告訴以外の方法もとれます。

そもそも刑事告訴は、刑事責任を追及するのが目的です。有罪判決がくだされても、被害者への金銭の支払いが命じられるわけではありません。

金銭を要求するのであれば、民事上の損害賠償請求を行います。ネット上の誹謗中傷で加害者がわからないときには、発信者情報開示請求により相手を特定する必要があります。

刑罰ではなく金銭的な賠償を求めるのであれば、発信者情報開示請求をして加害者を特定したうえで、民事上の損害賠償請求をする方法もご検討ください。

まとめ

ここまで、誹謗中傷に対して刑事告訴できるケース・できないケースや、刑事告訴をするメリットなどについて解説してきました。名誉毀損罪や侮辱罪で刑罰を求めるのであれば、刑事告訴が不可欠です。金銭を求める方法も含め、対応を十分に検討する必要があります。

誹謗中傷にお悩みの方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所は、被害者の方々からご依頼を受け、数多くの刑事告訴を受理させてまいりました。誹謗中傷行為について名誉毀損罪で刑事告訴を受理させた実績もございます。

誹謗中傷の被害に遭われた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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