最終更新日:2024.10.21
詐欺罪の刑罰|予想される刑罰と返金可能性を被害者側専門弁護士が解説
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。もっとも、実際に科される刑罰には大きな幅があります。
被害額が大きい、犯行態様が悪質といったケースであれば実刑判決になる反面、被害が小さいと不起訴処分となり刑事裁判が開かれない場合もあります。重い刑事処分が想定される際には、加害者が何としてでも回避しようと考え、示談による返金が実現しやすいです。
この記事では、詐欺罪の刑罰について、重さを左右する要素や返金可能性などを被害者目線で解説しています。詐欺被害に遭った方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
詐欺罪の刑罰
まずは、詐欺罪の概要や法定刑について解説します。
そもそも詐欺罪はどんな犯罪?
詐欺罪は、人から金品を騙し取る犯罪です。被害者が加害者に騙されて、お金をはじめとする財産を渡したときに成立します。被害者が気がついて財産を渡さずに済んだときでも、詐欺未遂罪として処罰対象です。
詐欺罪では様々な手口が知られています。具体例は次の通りです。
- 親族などを装って電話をかけ、お金が必要だと信じさせる(特殊詐欺・オレオレ詐欺)
- 被害者の恋愛感情を利用して金品を騙し取る(結婚詐欺・国際ロマンス詐欺)
- 投資名目でお金を集めて返金しない(投資詐欺)
- 少額のお金を借りると思わせて実際には返す気がない(寸借詐欺)
これらはほんの一部であり、他にも多種多様な手法が存在します。社会状況の変化に応じて日々新たな手口が生まれているのも、詐欺罪の特徴です。被害は深刻であり、近年大きな社会問題となっています。
詐欺罪の構成要件や手口について詳しくは、以下の記事をお読みください。
参考記事:詐欺罪とは?量刑や詐欺手口の種類、被害に遭ったらすべきことを解説
法定刑は「10年以下の懲役」
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
法定刑とは、法律上科せる刑罰の範囲を意味します。懲役は最低1ヵ月であるため、「10年以下の懲役」と規定されている詐欺罪では、1ヵ月から10年の範囲内で懲役の刑期が決定されます。
実際には、被害額が相当高額なケースでしか、10年に近い懲役刑は科されません。刑期が短く執行猶予がつくケースや、そもそも起訴されず刑事裁判にならないケースも多いです。
詐欺罪には罰金刑は規定されていません。有罪となれば必ず懲役刑です。国にお金を支払うだけの罰金刑よりも、刑務所に収監される懲役刑の方が重い刑罰とされています。したがって、罰金刑も規定されている窃盗罪と比べると、詐欺罪は刑罰が重い犯罪といえます。
詐欺罪の刑罰の重さを左右する要素
同じ詐欺罪であっても、実刑になるケースもあれば、執行猶予や不起訴処分になるケースもあります。被害額や示談の有無などによって、実際に科される刑罰は大きく異なります。
以下で、詐欺罪において刑罰の重さを左右する要素を見ていきましょう。
被害額
詐欺の刑罰を決めるにあたって、被害額は最も重要な要素です。被害額が大きければ大きいほど、重い刑罰になる確率が高まります。
初犯であっても、被害額が数百万円にのぼれば、実刑判決が下される可能性が高いです。反対に被害額が少ないと、執行猶予がついて刑務所に収監されない、不起訴で刑事裁判にならないといった軽い処分になりやすいです。
被害弁償・示談の有無
被害弁償や示談の有無も被害額に次いで重要な要素です。被害が金銭的に回復されている、被害者が許しているという事情があれば、刑事処分が軽くなります。
たとえ比較的被害額が大きい事案であっても、被害弁償や示談があれば執行猶予や不起訴処分になりやすいです。そのため、「重い処分を避けたい」という心理状態になった加害者が、示談を積極的に申し入れてくるケースがよくあります。
前科の有無
同種前科の有無も量刑に影響を与えます。初犯であれば軽い処分で済むような事案でも、前科の存在により結論が異なるケースがあるのです。
たとえば、被害額が少なくても、同種前科があるために刑が重くなる可能性があります。また、他の犯罪で執行猶予つきの判決を受けて猶予期間中だったケースでは、詐欺罪で有罪となれば基本的に執行猶予が取り消され、前の刑と合わせて刑に服さなければなりません。
その他
他にも刑の重さに影響を及ぼす要素は存在します。
詐欺罪の場合には犯行態様が重要です。特殊詐欺など悪質な事案では、被害額に比して刑が重くなりやすいです。
また、組織的な詐欺においては、組織内の地位も影響します。組織を統括する立場にある者であれば非常に重い罪が科されます。もちろん組織の末端で犯行に及んだ加害者であっても罪は重大ですが、上の立場の者と比べると刑罰は軽くなりやすいです。
詐欺罪で実際に科される刑罰は?
詐欺罪で捜査が行われた後に、検察官が起訴して刑事裁判にするか、不起訴処分にして罪に問わないかを決定します。起訴されると、最終的には裁判官により判決が下されます。有罪の場合でも、実刑になって刑務所に収監されるケースもあれば、執行猶予がついてひとまず刑務所行きを免れるケースもあります。
実刑・執行猶予・不起訴の違いを簡単にまとめると次の通りです。
実刑 | (全部)執行猶予 | 不起訴 | |
前科になるか | なる | なる | ならない |
刑務所に入るか | 入る | 入らない | 入らない |
以下で、詐欺罪で実刑・執行猶予・不起訴になるケースを順に見ていきます。
実刑になるケース
刑事裁判で執行猶予がつかずに実刑判決が下されれば、加害者はただちに刑務所に収監されます。
詐欺罪の場合、被害額が400万円程度を超えると、被害弁償をして示談しない限り実刑となる可能性が非常に高いです。もちろん、下回っていても実刑になるケースはあります。とりわけ特殊詐欺など犯行態様が悪質なケースや同種前科があるケースでは、実刑になりやすいです。また、執行猶予期間中に詐欺罪で有罪となれば執行猶予は基本的に取り消され、前回と今回の刑期を合わせて科されます。
実刑判決が下されて刑務所に収監されるのは、加害者にとっては何としても避けたい事態でしょう。実刑となるのを回避するために、加害者が示談に積極的になる可能性があります。
執行猶予になるケース
執行猶予(全部執行猶予)の場合、猶予期間中に犯罪をせずに過ごせば、加害者は刑務所には収監されません。同じ有罪判決でも、実刑と執行猶予には大きな差が存在します。
執行猶予がつきやすいのは、初犯で被害額が少ないケースや、被害がある程度大きくても示談したケースです。執行猶予は懲役が3年以下の場合しかつけられないため、被害額が高額で刑期が3年を超えるときには、執行猶予はつきません。懲役が3年以下であっても実刑になる可能性はあります。
執行猶予がつけば、ひとまずは刑務所に収監されません。ただし、有罪判決である以上、前科にはなります。執行猶予つき判決でも、前科に伴う社会的・経済的不利益は生じます。
不起訴になるケース
詐欺罪を犯しても不起訴処分になるケースがあります。不起訴となれば刑事裁判が開かれないため、前科はつきません。
不起訴になりやすいのは、被害額がさほど大きくなく、検察官が起訴するかを判断する前に示談が成立したケースです。示談していなくても、被害額が極端に少なければ不起訴になる可能性が高いです。
また、詐欺罪は財産犯(窃盗、横領、背任、強盗)の中でも特に証明が難しく、検察の証明が十分にできないときに不起訴になってしまう場合もあります。
加害者にとっては、刑務所に入らずに済み前科にもならない不起訴処分がベストといえます。加害者が不起訴を目指しているときは、早い段階で示談を申し入れてくるケースが多いです。
詐欺罪の刑罰の重さによって返金しやすさが変わる!
被害者の方にとっては「騙し取られたお金は返ってくるのか」という点が重要かと思います。実は、詐欺罪で予想される刑事処分の重さが返金のしやすさを左右します。
そもそも民事訴訟では返金が難しい
詐欺で受けた被害を取り返す方法としては、まずは民事訴訟が考えられます。被害者が加害者に対して民事上の請求権を有している以上、民事訴訟により返金を求めることは可能です。しかし、実際に返金を受けるのは難しいといえます。
詐欺の多くは計画的に行われ、証拠は残りづらいです。証拠がなければ、そもそも民事訴訟で勝訴できません。
たとえ十分な証拠があって勝訴できても、相手が支払いに応じなければ強制執行の手続きが必要です。しかし、詐欺で騙し取ったお金は、現金化や海外口座への送金などにより、多くのケースで執行できない形になっています。結果的に、強制執行をしてもお金を回収できません。
したがって、民事訴訟をしても返金を受けるのは困難です。
民事訴訟での返還が難しい点について詳しくは、以下の記事で解説しています。
参考記事:詐欺の被害者側に強い弁護士とは?刑事告訴に強い弁護士に依頼すべき理由
刑事告訴が有効
民事訴訟での返金が難しくても、刑事告訴により被害の回復につながる可能性があります。
刑事告訴とは、捜査機関に被害を申告し、加害者を処罰して欲しいとの意思を伝える行為です。刑事告訴により加害者がプレッシャーを感じ、返金に応じるケースがあります。
ここでは、想定される刑罰と刑事告訴の有効性の関係を解説します。詐欺で告訴するメリット・デメリットについて詳しくは、次の記事をお読みください。
参考記事:詐欺被害に遭ったらどうすればいい?刑事告訴のメリットとデメリットを解説
実刑を避けるためには返金に応じやすい
実刑判決が予想されるケースでは、刑務所への収監を避けるために加害者が返金に応じやすいといえます。
多くの加害者にとって、刑務所に入るのは大変な苦痛です。被害額が大きく実刑が確実な事案では、加害者が刑務所への収監を避けるためには返金して被害者と示談するほかありません。すなわち、刑務所に入るか、被害を返金して示談するかの究極の二択を迫られるのです。自分の手元に返金のためのお金がなくても、親族などに借金をしてまで用意するケースもあります。
刑事告訴をして捜査が進められると、加害者にとって刑事処分が現実味を帯びます。「このままだと刑務所行きだ」とプレッシャーを感じやすいため、実刑が確実なケースでは特に刑事告訴が有効です。
執行猶予になるとしても前科による不利益が大きいケースあり
執行猶予がつくと、ただちには刑務所に収監されません。しかし、有罪判決である以上、前科にはなります。前科に伴う社会的・経済的不利益が大きい加害者は、執行猶予が予想されるケースでも示談に積極的になりやすいです。
たとえば、前科がついて世間的に犯罪者とされれば、配偶者から離婚されるなど家庭が崩壊するおそれがあります。正社員であれば解雇され再就職も困難です。こうした不利益を避けるために、起訴前に被害者に返金して示談し、不起訴処分を獲得しようとする場合があります。
反対に、独身で無職など、前科がついても比較的ダメージが少ない加害者であれば「刑務所に入らないならいいか」と考えるかもしれません。現実的にお金を用意するのが難しい場合も多いです。ただし、家族が今後の人生を心配してお金を出してくれるケースはあります。
以上の通り、執行猶予つき判決が想定される場合には、加害者の属性が刑事告訴が返金につながるか否かを左右します。
不起訴が予想されるとプレッシャーになりづらい
不起訴が予想されるケースでは、告訴をしてもプレッシャーをかけづらいといえます。
いずれにせよ不起訴で刑罰を科されないのであれば、加害者は「わざわざ返金する意味はない」と考えやすいです。告訴の効果が低い可能性があります。
もっとも、実際の刑事処分がどうなるかは検察官の判断になるため、明確にはわかりません。加害者が起訴されるリスクを少しでも減らそうとして、返金に応じるケースはあります。
詐欺被害に遭ったら弁護士にご相談ください
ここまで、詐欺罪の刑罰や返金に与える影響について解説してきました。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。実際に科される刑罰は、被害額や示談の有無などに左右されます。実刑が予想されるケースでは、刑罰を科すためだけでなく返金してもらうためにも、告訴の効果がより高いです。もっとも、刑罰が軽くなりそうだからといって泣き寝入りする必要はありません。
詐欺の被害を受けた方は、リード法律事務所までご相談ください。
証拠が十分に残っていないケースが多いため、詐欺罪で告訴を受理してもらうのはとりわけ難しいです。当事務所は犯罪被害者の弁護に力をいれており、詐欺罪で告訴を受理させた事例も多数ございます。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉まで徹底的にサポートいたします。
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