最終更新日:2023.05.31
窃盗罪と強盗罪の違いとは?被害に遭ったらどうするべき?
窃盗罪と強盗罪は、いずれも他人の財産を奪ったときに成立する犯罪です。両者の違いは、暴行や脅迫を用いているか否かにあります。暴行や脅迫を手段として財産を奪う強盗罪は、より悪質で刑罰が重いです。
この記事では、窃盗罪と強盗罪の特徴や量刑、両者の違いなどについて解説しています。大切な財産を奪われる被害に遭った方は、ぜひ参考にしてください。
目次
窃盗罪とは
窃盗罪は「他人の財物」を「窃取」した場合に成立する犯罪です(刑法235条)。
「財物」には、現金や宝石など目に見える物はもちろん、電気も含むとされています(刑法245条)。価値の高低は関係ありません。少額の現金や価値の低い物であっても「財物」になります。
「窃取」とは、持ち主(被害者)にとって渡したくないはずの財物を、加害者が勝手に自分の物にする行為です。典型的なのは空き巣のようにこっそりと盗む行為ですが、そうでなくとも被害者の意思に反して財物を奪っていれば「窃取」に該当します。
以上を簡単にまとめると、窃盗罪とは「他人の財産を勝手に自分の物にする犯罪」です。
なお、窃盗の犯行に着手したものの、途中で捕まるなどして結局何も被害がなかったケースでは「窃盗未遂罪」が成立します(刑法243条)。
窃盗罪の量刑
窃盗罪の犯人には「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」の範囲で刑が科されます。
実際の裁判で言い渡される刑には幅があります。懲役の実刑判決となるのは、被害額が大きい、常習犯であるといったケースが多いです。
起訴されても執行猶予や罰金となり、犯人が刑務所に入らずに済んでしまう場合もあります。金額の少ない万引きなどでは、そもそも不起訴となって裁判にかけられない可能性もあります。
窃盗の手口による分類
「窃盗」と一口に言っても、空き巣、万引きなど手口は様々です。
窃盗にはどのような形態があるのかをイメージしていただくために、手口による分類をご紹介します。窃盗はおおまかに「侵入盗」「乗り物盗」「非侵入盗」に分けられます。
侵入盗
侵入盗とは、建物に不法に侵入してする窃盗です。
例としては以下が挙げられます。
- 空き巣(住人の留守中に住宅に侵入し金品を盗む)
- 忍び込み(夜間寝ている間に住宅に侵入し金品を盗む)
- 出店荒し(閉店中の店舗に侵入し金品を盗む)
- 事務所荒し(会社などの事務所に侵入し金品を盗む)
侵入盗には、窃盗罪の他にも住居侵入罪や建造物侵入罪が成立します(刑法130条)。窃盗罪と住居侵入罪・建造物侵入罪は「牽連犯(けんれんはん)」と呼ばれる関係にあり、窃盗罪の法定刑の範囲内で刑が科されます(刑法54条1項)。
侵入盗は、計画的になされるケースが多く被害者に恐怖心も与えることから、窃盗罪の中でも刑罰が重くなりやすい類型です。
乗り物盗
乗り物盗とは、乗り物を盗むタイプの窃盗です。
自動車、オートバイ、自転車などを盗む行為が乗り物盗に該当します。特に件数が多いのは「自転車盗」です。
起訴されて重い刑罰が科される可能性が高いのは、被害額が大きい「自動車盗」になります。
非侵入盗
非侵入盗とは、住居や建物に不法に侵入することなく行われる窃盗です。
例としては以下が挙げられます。
- 万引き(店舗の棚から商品を盗む)
- 車上・部品狙い(駐車中の自動車などから金品を盗む)
- 置き引き(一時的に置かれた荷物を盗む)
- 払出盗(不正に入手したキャッシュカードなどでATMから現金を引き出す)
- 色情狙い(外に干されている衣類・下着を盗む)
- スリ(身に付けている金品をこっそり盗む)
- ひったくり(歩行者や走行中の自転車の荷物をすれ違いや追い抜きの際に奪う)
非侵入盗には多くのタイプがあり、態様や被害額によって犯人の処分は大きく異なります。
その他
他にも、窃盗には数多くの手口があります。上記の分類とは別に、代表的な類型として次のものが挙げられます。
- ピッキング(カギを使わずに器具を用いて開錠する)
- 電気窃盗
- ゴト(パチンコで不正な方法で出玉を獲得する)
以上から、窃盗には様々な種類があるとおわかりいただけたでしょう。
強盗罪とは
強盗罪は「暴行または脅迫」を用いて、①「他人の財物」を強取する、あるいは②「財産上不法の利益」を得る犯罪です(刑法236条)。①の場合は「1項強盗」、②の場合は「2項強盗」と呼ばれます。
いずれにしても犯人が「暴行または脅迫」を利用している点がポイントです。
強盗罪が成立するには「暴行または脅迫」が「相手が反抗できない程度のもの」でなければなりません。ナイフを突きつける、手足を縄で縛るといった行為が典型例です。
「相手が反抗できない程度のもの」といえるかは、犯人と被害者の年齢・性別・体格、凶器の有無、周囲の状況などを材料にして客観的に判断されます。客観的に見て「被害者が抵抗できないはずだ」と考えられる状況にあるかがポイントです。
「相手が反抗できない程度のもの」に至っていないと判断された場合には、強盗罪ではなく恐喝罪が成立します(刑法249条)。
1項強盗に分類される強盗
1項強盗は「暴行または脅迫」を用いて「他人の財物」を奪う犯罪です(刑法236条1項)。
「財物」の意味は、窃盗罪の場合と同様です。したがって、価値のない物も含めて金品全般が対象になります。
例えば、以下のケースが1項強盗に分類されます。
- 銀行に押し入り拳銃で行員を脅し、現金を奪う
- 住宅に侵入して住人を縄で縛り、金品を奪う
- 路上で通行人を殴り、持ち物を奪う
一般的にイメージされる強盗の多くは、1項強盗に該当するでしょう。
2項強盗に分類される強盗
2項強盗は「暴行または脅迫」を用いて「財産上の利益」を得る犯罪です(刑法236条2項)。
「財産上の利益」とは、簡単にいえば、料金や借金などの支払いを免れることを意味します。
2項強盗にあたる具体例は次の通りです。
- 飲食店で会計の際に暴行をして、支払いをせずに外に出る
- タクシーを降りる際にナイフを突きつけ、料金を支払わず逃走する
- 借金の取り立てに来た人を殴って逃走し、返済を免れる
物を奪っていなくても、暴行・脅迫により犯人が財産上の利益を得ていれば2項強盗に該当し、処罰の対象になり得ます。
強盗罪の量刑
強盗罪の犯人には「5年以上の有期懲役」が科されます。有期懲役は最高で20年であるため「5年以上20年以下の懲役」になります。1項強盗でも2項強盗でも、法定刑は変わりません。
暴行・脅迫を伴っている点で悪質であるため、強盗罪の法定刑は窃盗罪と比べて重くなっています。実際の裁判でも、執行猶予がつかずに実刑になるケースが多いです。
強盗罪に関連する刑罰
罪名に「強盗」が含まれる犯罪は多いです。同じ「強盗」であっても、行為の内容によって罪名や法定刑が変わる可能性があります。
以下で強盗罪に関連する犯罪をまとめて解説します。
強盗予備罪
強盗をする目的で「予備」行為をすると「強盗予備罪」が成立します(刑法237条)。
「予備」とは、犯罪を実行する前の準備行為です。たとえば、強盗目的でナイフを購入し、犯行現場に向かう行為は「予備」に該当します。
強盗予備罪の法定刑は「2年以下の懲役」です。
強盗は重大犯罪であるため、実際の犯行に着手する前の準備段階でも犯罪が成立します。
強盗致傷罪/強盗致死罪
強盗の際に被害者が負傷した場合には「強盗致傷罪」が成立します(刑法240条前段)。
結果的にケガをしたものの、犯人にケガをさせる故意がなかったケースが強盗致傷罪となります。ケガについて故意が認められれば、次の項目で紹介する「強盗傷人罪」です。
ケガにとどまらず死亡させた場合には「強盗致死罪」となります(刑法240条後段)。殺意があったときは次の「強盗殺人罪」です。
強盗致傷罪は「無期または6年以上の懲役」、強盗致死罪は「死刑または無期懲役」と大変重い刑罰が科されます。
強盗傷人罪/強盗殺人罪
強盗の際に被害者を故意に負傷させれば「強盗傷人罪」が成立します(刑法240条前段)。また、殺意をもって被害者を死亡させたときには「強盗殺人罪」となります(刑法240条後段)。
法定刑は、強盗傷人罪は「無期または6年以上の懲役」、強盗殺人罪は「死刑または無期懲役」です。それぞれ強盗致傷罪、強盗致死罪と同じですが、故意があるため、実際に科される刑罰は重くなりやすいといえます。
強盗・強制性交等罪/強盗・強制性交等致死罪
強盗の犯人が強制性交等罪も犯していたときには「強盗・強制性交等罪」になります(刑法241条1項)。強制性交等罪とは、暴行または脅迫を用いるなどして性交等を強要した場合に成立する犯罪です(刑法177条、178条2項)。
強盗・強制性交等罪の法定刑は「無期または7年以上の懲役」と非常に重くなっています。
さらに、被害者を死亡させた場合には「強盗・強制性交等致死罪」が成立します(刑法241条3項)。強盗・強制性交等罪の法定刑は「死刑または無期懲役」です。
事後強盗罪
窃盗犯人が以下のいずれかの目的で暴行・脅迫をしたときには「事後強盗罪」が成立します(刑法238条)。
- 財物の取り返しを防ぐ
- 逮捕を免れる
- 罪跡を隠滅する
たとえば、窃盗犯が取り押さえようとした警備員を突き飛ばしたときには、事後強盗罪となります。
事後強盗をした犯人の扱いは、強盗罪と同じです。したがって「5年以上の有期懲役」に処されます。
昏睡強盗罪
人を昏睡(こんすい)させて財物を奪った場合には「昏睡強盗罪」が成立します(刑法239条)。
犯人が睡眠薬や大量のアルコールなどを飲ませ、被害者が昏睡状態に陥ったところで財産を奪う犯罪です。
昏睡強盗罪の法定刑は、強盗罪と同じく「5年以上の有期懲役」になります。
利益強盗罪
暴行・脅迫を用いて財産上の利益を得ると「利益強盗罪」となります(刑法236条2項)。先ほどご説明した「2項強盗」の別名です。
料金や借金の支払いを免れるケースが該当します。
法定刑は「5年以上の有期懲役」です。
窃盗罪と強盗罪の違い
窃盗罪と強盗罪の違いは、暴行や脅迫を用いているかどうかです。
暴行・脅迫を手段として財物を奪っていれば強盗罪、暴行・脅迫なく財物を奪っていれば窃盗罪となります。簡単にいえば、被害者に直接危害を加えていれば強盗罪、財産を奪うだけであれば窃盗罪です。
以下のように、当初は窃盗罪であっても、その後の行為により強盗罪になるケースもあります。
- 万引き犯が、逃走のために警備員を突き飛ばした
- 空き巣犯が、ちょうど帰宅した住人を殴った
- ひったくり犯が、荷物を離さない被害者に暴行を加えた
窃盗罪か強盗罪かで刑罰が大きく異なるため、両者の違いは重要です。被害者がケガをしたときには強盗致傷罪となり、さらに刑が重くなります。
窃盗・強盗被害に遭ったら弁護士に相談を
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一般的に、被害者の方がまず頼りにするのは警察でしょう。しかし、被害状況や告訴状の書き方によっては、警察が取り合ってくれないケースもあります。また、被害を受けて大変な精神状態の中で、警察とのやりとりはストレスにつながりかねません。
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