犯罪被害を受けた事実を警察に伝える方法として考えられるのは、被害届と刑事告訴です。両者は捜査のきっかけになる点で共通しますが、数多くの違いがあります。
たとえば、刑事告訴をすると警察が検察に事件を送致する義務が生じるため、より真剣に捜査を進めてくれます。また、「親告罪」と呼ばれる類型の犯罪では、犯人に処罰を科すためには刑事告訴が不可欠です。加害者にプレッシャーをかけるには、より効力が強い刑事告訴をするべきです。
この記事では、被害届と刑事告訴の違いや、被害届よりも告訴状を提出すべきケースなどについて解説しています。犯罪被害に遭った方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
刑事告訴全般についての基礎知識は、以下の記事で解説しています。
目次
被害届と刑事告訴の違い
被害届と刑事告訴は、いずれも捜査機関に被害事実を伝えるものであり、捜査のきっかけになる点で共通しています。
とはいえ、両者には様々な違いがあります。
被害届 | 刑事告訴 | |
処罰の意思表示 | 含まれない | 含まれる |
検察への送致義務 | なし | あり |
親告罪での処罰 | できない | できる |
主体 | 規定なし | 規定あり(被害者等) |
それぞれのポイントについて、順に詳しく解説します。
犯人処罰の意思が含まれているか
被害届は、捜査機関に対して犯罪被害に遭った事実を申告する届出です。
刑事告訴は、捜査機関に対して犯罪被害に遭った事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。一般的に、刑事告訴をする際には「告訴状」という書面を提出します。
定義にある通り、被害届と刑事告訴(告訴状)には、いずれも犯罪被害に遭った事実を捜査機関に申告する意味があります。ただし、刑事告訴には、単に被害に遭った事実を伝えるだけでなく、犯人を処罰して欲しいとの意思表示が必ず含まれます。
犯人の処罰まで明確に求める点が、被害届とは異なる、刑事告訴の特徴のひとつです。
捜査機関に義務が生じるか
捜査機関に法律上の義務が生じるかは非常に大きなポイントです。
被害届を提出しても、警察に捜査を進める義務は生じません。もちろん、犯人の逮捕や処罰につながるケースはあるものの、事実上動いてくれないケースもあります。被疑者取調べ等の捜査が進まないと、加害者にプレッシャーをかけられません。
刑事告訴をすれば、警察は書類や証拠物を検察に送付する義務を負います(刑事訴訟法242条)。捜査を進めなかったり、警察だけで処理を済ませる「微罪処分」等とされたりする心配はありません。検察に事件を送る必要があるため、真面目に捜査が行われると期待できます。取調べの実施などを通じて、加害者にプレッシャーをかけることも可能です。
警察から検察に事件が送られると、検察官が捜査を進め、最終的に起訴して刑事裁判にかけるか否かを決定します。告訴された事件については、起訴・不起訴の決定をした際に、検察官は告訴人に結果を通知しなければなりません(刑事訴訟法260条)。また、不起訴の場合には、告訴人の請求があった際に不起訴にした理由を伝える義務があります(刑事訴訟法261条)。
被害届を提出しても法的な効果が薄く、十分な対応がなされないケースがありますが、告訴をすれば法的義務が生じるため捜査が進み、結果も確実に伝えてもらえるのです。
親告罪では告訴が不可欠
「親告罪」と呼ばれる類型の犯罪では、起訴して刑事罰を科すために告訴が不可欠です。
大半の犯罪は、告訴がなくても、検察官の判断により起訴して刑事裁判にできます。しかし法律上、一部の犯罪については、告訴がない限り起訴できません。起訴するのに告訴が必須とされる犯罪を「親告罪」と呼びます。
親告罪が設けられている理由としては、事件が公になり被害者の名誉やプライバシーが害されるのを防ぐ、犯罪が軽微であるといった点が挙げられます。
親告罪の代表例は以下の通りです。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 過失傷害罪
- 器物損壊罪
他に窃盗罪や詐欺罪などでは、一定の親族間で発生した事件について、家族関係を尊重するため、告訴がなければ起訴しないとされています。
親告罪での告訴は、犯人を知った日から6ヶ月以内にしなければなりません(刑事訴訟法235条本文)。ご自身が親告罪の被害者である場合には、早めに告訴するか否かを決定する必要があります。
なお、現在の不同意性交等罪や不同意わいせつ罪のように、かつては親告罪であった犯罪が法改正により親告罪ではなくなっている場合もあります。親告罪について詳しくは、以下の記事を参照してください。
告訴できる人は法律で決まっている
被害届と刑事告訴は、誰ができるかという点も異なります。
被害届を提出するのは、通常は被害者です。ただし、提出できる人について法律では定められていません。
刑事告訴ができる人は法律で決まっています(刑事訴訟法230条以下)。主な告訴権者は次の通りです。
- 被害者
- 被害者の法定代理人
- (被害者が死亡したとき)被害者の配偶者、直系親族、兄弟姉妹
法律においてできる人が決まっているか否かも、被害届と刑事告訴の違いです。
告発との違い
刑事告訴と似た行為として、刑事告発があります。
刑事告発とは、告訴権を持たない第三者が、捜査機関に犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示のことです。「告発状」を提出して行います。
捜査機関に犯罪事実を伝えるとともに、犯人の処罰を求める点で、告訴と告発は共通します。告発でも、警察から検察への送致義務や告発人への処分通知義務は存在します。
両者の大きな違いは、告訴は被害者をはじめとする告訴権者が行うのに対して、告発は第三者が行う点です。
告発できる人について、法律上制限は定められていません(刑事訴訟法239条1項)。犯人や告訴権者以外の第三者が行うのが告発です。
なお、親告罪で起訴するには被害者等による告訴が不可欠です。親告罪について第三者が告発しても、告訴がない限り犯人を起訴できません。
被害届・刑事告訴・刑事告発の違いをまとめると以下の通りです。
被害届 | 刑事告訴 | 刑事告発 | |
処罰の意思表示 | 含まれない | 含まれる | 含まれる |
検察への送致義務 | なし | あり | あり |
親告罪での処罰 | できない | できる | できない |
主体 | 被害者等 | 被害者等 | 第三者 |
被害届より告訴状を提出すべきケース
被害届であっても、捜査機関に犯罪事実を伝える意味はあります。しかし、告訴の方が法的な効果は大きいです。
告訴状を提出すべきケースとしては、以下が挙げられます。
- 親告罪の被害に遭った
- 確実に捜査を進めてもらいたい
- 被害回復の可能性を高めたい
順に詳しく解説します。
親告罪の被害に遭った
親告罪の被害に遭ったときは、加害者に処罰を科したいのであれば告訴してください。親告罪に該当する罪で犯人を起訴して刑事裁判にかけるためには、法律上告訴が必須とされています。
親告罪で告訴する際に注意して欲しいのが、告訴できる期間です。
通常の犯罪では、告訴に期間制限はありません。公訴時効が完成する前であれば、告訴して処罰を求められます。しかし、親告罪では「犯人を知った日から6ヶ月以内」という期間制限が設けられています(刑事訴訟法235条本文)。
名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪、リベンジポルノ防止法違反など、親告罪の被害に遭った際には、告訴するか否かを早めに検討しなければなりません。
確実に捜査を進めてもらいたい
親告罪でない犯罪の被害者の方も、確実に捜査を進めて欲しいと考えているのであれば、被害届ではなく告訴状を提出しましょう。
被害届でも犯罪被害に遭った事実を伝えられますが、警察から検察に事件を送致する法的義務は課されません。十分に捜査されなかったり、軽い犯罪であれば「微罪処分」として警察だけで処理されてしまうリスクが高いです。
告訴をすれば、法律上、警察から検察に送致する義務が生じます。警察限りで処理される心配がないうえ、検察に事件を送致する以上、より真面目に捜査が進められると期待できます。
告訴をきっかけに捜査が進めば、結果的に起訴されて加害者に刑罰を科せる可能性も高まります。
被害回復の可能性を高めたい
被害を回復しやすくするためには、被害届よりも告訴の方が有効です。
上述の通り、告訴をすれば確実に捜査を進めてもらえるため、加害者に刑罰を科せる可能性が高まります。刑事裁判で有罪判決が言い渡され刑罰がくだされれば、程度の差こそあれ、「加害者を処罰して欲しい」という気持ちは満たされるでしょう。反面、刑事裁判では被害者への直接の賠償は命じられず、金銭的な被害は回復できません。
しかし実は、告訴をすれば金銭面での被害回復にもつながりやすいです。
告訴をきっかけとして取調べなどの捜査が進めば、加害者は「本当に刑罰を科されるかもしれない」「前科がつくと仕事をクビになる」などとプレッシャーを感じます。結果として、「示談をして告訴を取り下げてもらいたい」と考え、示談に積極的になるケースがあります。示談の際には被害弁償がなされるのが通常であり、被害者が応じれば金銭的な被害を回復できます。
被害届を出しても捜査が十分に進まなければ、加害者が被害弁償をしてまで示談する必要性を感じづらいです。処罰を求めるだけでなく、金銭的な被害を取り戻すためにも、刑事告訴は効果的といえます。
被害届より刑事告訴のハードルは高い!
被害届と比較して、刑事告訴は効果が大きいです。しかし、警察は告訴をなかなか受理してくれません。
告訴が受理されない理由
本来であれば、被害を訴えている以上、警察は告訴を受理すべきです。しかし現実には、様々な理由で警察は告訴の受理を断ります。
警察が告訴を受理しない理由としては、以下が挙げられます。
- 民事上のトラブルであり警察は関与できない(民事不介入)
- 犯罪に該当しない
- 犯人や犯行に関する証拠が足りない
- 軽微な事件である
- 他の事件処理で忙しい
実際には、正当な理由ではないケースも多いです。とはいえ、頑なに拒否されると、被害者は告訴を諦めてしまうでしょう。
そこで、弁護士に依頼して告訴するのがオススメです。必要な証拠の収集や告訴状の作成、警察への説得などを弁護士に任せれば、告訴が受理される可能性を高められます。告訴を考えている方は、弁護士にご相談ください。
警察が告訴を断る理由について詳しくは、以下の記事で解説しています。
参考記事:警察が告訴を断る理由と告訴を受理してもらうための5つのポイントを弁護士が解説
被害届と告訴状は両方出せるか?
法律上は、被害届と告訴状を両方とも提出することは可能です。「片方しかできない」わけではありません。
被害届を提出した後で告訴状を受理してもらうケースも存在します。さしあたりハードルの低い被害届を出しておき、告訴の準備も進めておく方法です。
「既に被害届を提出しているが動きがない」という方も、お気軽に告訴について弁護士にご相談ください。
被害届・告訴状の提出は弁護士にご相談ください
ここまで、被害届と刑事告訴の違いを中心に解説してきました。
被害届と異なり、告訴は「犯人を処罰して欲しい」との意思表示を含み、捜査を進める法的な義務を発生させる強力な手段です。親告罪の被害に遭った方はもちろん、その他の犯罪の被害者の方も、被害を回復するために告訴を検討しましょう。
犯罪被害に遭った方は、リード法律事務所までご相談ください。
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