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最終更新日:2024.07.22

従業員の横領が退職後に発覚したら?対処法や時効について解説

従業員による横領行為が退職後に発覚し「賠償を請求したい」「退職金を返してもらいたい」「さかのぼって懲戒解雇できないか」などとお考えでしょうか?

退職後であっても、横領により生じた損害の賠償を請求できます。刑事告訴により刑罰を求めるのも効果的です。

しかし、すでに雇用関係がない以上、懲戒解雇はできません。支払い済みの退職金の返還が実現するかはケースバイケースです。

いずれにせよ、退職から時間が経って横領が発覚した際には、時効に注意しなければなりません。早めに行動しましょう。

この記事では、従業員による横領が退職後に発覚したときにできることや、時効期間について解説しています。退職した従業員による横領が判明してお悩みの会社関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。

そもそも会社での横領行為に業務上横領罪が成立する要件や事例を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

参考記事:業務上横領罪とは?量刑と構成要件、背任罪との違いについて被害者向けに解説

横領が退職後に発覚したときにできる対応

横領はひそかに行われるため、従業員の退職後に発覚するケースもあります。会社としては、主に以下の対応を検討するのではないでしょうか?

  • 民事上の損害賠償請求
  • 刑事告訴
  • 懲戒解雇
  • 退職金の返還請求

今からできる対応もあれば、法律上困難なものもあります。順に見ていきましょう。

なお、在職中の従業員による横領行為への対処法については、以下の記事で解説しています。

参考記事:業務上横領が起きたらどうすればいい?会社の対応について弁護士が解説

民事上の損害賠償請求は無意味な場合も多い

横領された金銭について、退職した従業員に民事上の損害賠償請求ができます。交渉で支払いに応じなければ、民事訴訟を提起します。しかし、結局返還を受けられず、無意味なケースが多いです。

まず、時間が経って証拠が十分に残っておらず、そもそも訴訟で請求が認められない場合があります。

たとえ証拠が揃っていて勝訴判決を得たとしても、被害額が多いと相手が支払えず、強制執行をしても回収できない可能性が高いです。横領したお金は、すでに使い切っている場合が多いでしょう。結局金銭を回収できなければ判決は絵に描いた餅であり、かけた時間や手間が無駄になってしまいます。

民事上の損害賠償請求は法律上は可能ですが、実際には納得のいかない結果になりやすいです。

刑事告訴は有効な手段

退職後に気がついたとしても、犯罪が成立するときには刑事告訴ができます。刑事告訴とは、犯罪被害を受けた事実を捜査機関に申告し、処罰を求める意思を伝える行為です。

刑事告訴をすれば、元従業員に刑罰を科せます。加えて、示談を申し出てくれば被害額の返金を受けられるケースもあります。民事上の請求と比べても、刑事告訴は効果的です。

以下で刑事告訴のメリットを説明します。横領で刑事告訴するメリットについては、次の記事でも詳しく解説しています。

参考記事:従業員による業務上横領は刑事告訴すべき?メリット・デメリットを解説

刑罰を与えられる

刑事告訴をすれば、加害者に刑罰を科す道が開かれます。

告訴をしなくても、横領を処罰することは法律上可能です。しかし、横領はこっそりと行われるため、通常は何もしないと部外者には明らかになりません。会社が告訴をすれば、捜査機関に被害を受けた事実を伝えられます。

告訴を受理したら、警察・検察は捜査を進めなければなりません。捜査の結果、検察官が起訴すると判断すれば刑事裁判になり、最終的に裁判官により判決が言い渡されます。

業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。罰金刑は規定されておらず、有罪となれば必ず懲役刑が言い渡されます。被害額が大きい場合には実刑判決となり、加害者がただちに刑務所に収監されます。

最終的に刑罰を科せる可能性がある点で、刑事告訴は強力な方法です。

示談により返金を受けられるケースがある

刑事告訴をした結果、示談により返金を受けられるケースもあります。

告訴された事実を加害者が知ると「退職してから時間が経っているのにバレてしまった」と驚くでしょう。驚きと同時に「刑罰を科されるかもしれない」と恐れるはずです。

刑事裁判で有罪判決がくだされると、犯人には前科がつき、社会的・経済的に大きな不利益が生じます。たとえば、配偶者に離婚される、転職先に発覚して会社にいられなくなり再就職もできないといった事態が想定されます。

加害者にとって、前科による不利益を避けるための近道は被害者との示談です。示談の際には示談金の支払いが伴うため、被害者は別途民事訴訟をせずともお金を受け取れます。手元にお金がなくても、どうしても示談したいがために親族などから借金をする加害者も存在します。

刑事告訴の本来の目的は、加害者に刑罰を科すことです。もっとも、結果的に示談を申し出てきて被害を回復できる可能性もあります。

横領で返金を受けやすいケースについては、以下の記事で詳しく解説しています。

参考記事:横領されたお金は返ってくる?返済されやすいケースと方法を弁護士が解説

再発防止につながる

刑事告訴という厳しい措置をとることで、社内での再発防止につながる効果もあります。

たしかに、既に加害者は退職している以上、本人への再発防止にはつながりません。とはいえ、会社に残っている他の従業員に対して「横領には厳しい対応をする」との強いメッセージを発信でき、抑止効果が期待できます。

次に説明する通り、退職後に懲戒解雇はできません。解雇による再発防止ができないだけに、なおさら告訴という強力な手段をとる意味が大きいといえます。

懲戒解雇はできない

退職後に横領行為が発覚した従業員に対して、さかのぼって懲戒解雇はできません。

懲戒解雇は、雇用関係の存在を前提に行う処分です。退職している以上、すでに雇用関係はなくなっており、事後的に処分はできません。

見せしめのために「懲戒解雇した」と対外的に発表すると、元従業員への名誉毀損に該当してトラブルになる恐れもあります。懲戒解雇はできないので、他の手段を検討してください。

退職金の返還は請求できる?

「既に満額支払ってしまった退職金を返還してもらいたい」と考える方もいるでしょう。退職後に横領が発覚した従業員に対し、退職金の返還は請求できるのでしょうか?

規定があれば可能

退職金の返還請求は、規定が存在していればできます。

たとえば社内規程に「退職後に懲戒解雇に相当する事由があったと判明した場合には、支払済みの退職金の全部または一部の返還を請求できる」といった定めがあるケースです。

もっとも、定めによっては返還を請求できない場合もあります。「懲戒解雇をした場合には退職金を不支給とする」という内容であれば、退職後の懲戒解雇はできない以上、基本的には返還も請求できません。

退職金の返還を請求できるかを判断するためには、社内ルールを確認してください。

全額不支給にするハードルは高い

退職金の返還を請求できるケースであっても、全額を不支給として返還を求めるハードルは高いです。

退職金には、賃金の後払いという性格と功労に報いるという性格があります。全額不支給とできるのは、それまでの勤続の功労を無にしてしまうほどの行為をしたケースに限られます。退職金の一部であれば不支給とするのは認められやすいものの、全額の返還まで求められるとは限りません。

退職後に横領に気がついたらどうすべき?

退職した従業員による横領に気がついた際には、次の行動をとってください。

証拠を集める

まずは、横領の証拠を集めてください。

いかなる法的手段をとるにしても、証拠は不可欠です。既に時間が経って無くなっている証拠があるかもしれませんが、できる限り集めましょう。

横領の証拠になる物の例としては、以下が挙げられます。

  • 横領に使った書類(契約書、請求書、発注書、領収書など)
  • 会社口座の入出金記録
  • 加害者が送受信したメール

時間が経てば経つほど証拠は消えてしまいます。早めに行動するようにしてください。

業務上横領の証拠になる物や集め方については、以下の記事で詳しく解説しています。

参考記事:業務上横領が社内で起きた際の証拠の集め方・注意点を弁護士が解説

損害賠償請求・刑事告訴をする

証拠を揃えたら、民事上の損害賠償請求や刑事告訴を行います。いずれの手段をとるかは会社の自由です。両方進めても構いません。

ただし、前述の通り、民事訴訟をしても回収できないケースは多いです。刑事告訴をきっかけに示談交渉が進み、返金を受けられる可能性がある点を頭に入れておきましょう。

再発防止策を検討する

加害者への法的責任の追求だけでなく、再発防止も重要です。

ひとりの担当者しか確認できない状態であった、不正行為への意識が低かったなど、横領が起きる背景には何らかの問題があるはずです。体制を見直し、二度と社内で横領が発生しないようにしましょう。

退職後に横領が判明したときは時効に注意

従業員の退職後に横領が判明した場合、行為から時間が経過しているため、時効にかかって民事・刑事の責任を追及できなくなる恐れがあります。

ここでは、業務上横領の時効について簡単に解説します。詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせて参考にしてください。

参考記事:業務上横領の時効は何年?被害者はいつまでに行動すべきかを解説

民事の時効期間

横領による民事上の請求は、一般的には不法行為に基づく損害賠償請求権を根拠にして行います。不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は「損害及び加害者を知った時から3年」と「不法行為の時から20年」のうち早い方です(民法724条)。

まず、元従業員が横領していたと気がついた時から3年を過ぎると時効になります。時効にかかると、賠償請求はできません。気がついたらすぐに行動を開始しましょう。

また、気がつかないまま時が過ぎていても、横領行為から20年が経過した場合には時効が完成します。

刑事の時効期間

刑事の公訴時効期間は、主に刑罰の重さによって決まります。業務上横領罪は最高で懲役10年であるため、公訴時効期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。7年を過ぎると刑罰は科せません。

期間のカウントが始まるのは「犯罪行為が終わった時」です(刑事訴訟法253条1項)。民事とは異なり、会社が気がついていなくても行為時から進行します。気がつかないまま7年を過ぎると、刑罰を科せなくなってしまいます。

複数回の横領があったときには、基本的には期間が別々にカウントされますが、最後の行為からまとめてカウントされる場合もあります。区別する明確な基準はないので、いずれにしても気がついたらすぐに行動を開始するべきです。

退職した従業員による横領がわかったらすぐに弁護士にご相談ください

元従業員による横領に気がついたら、すぐに弁護士にご相談ください。弁護士に相談・依頼するメリットとしては以下が挙げられます。

とるべき手段がわかる

横領が発覚した元従業員に対して、いかなる方法で責任を追及すればいいかお悩みの方は多いでしょう。弁護士に相談すれば、とれる手段やメリット・デメリットがわかります。

相手に十分な財産があれば、民事訴訟を通じて返金を求めるのもひとつの方法です。ただし、実際には回収が困難なケースがよくあります。そのときは刑事告訴を通じて追及するのが有効です。徹底的に責任を追及したければ、両方とも行う方法もあります。

状況や希望に応じた最適な手段がわかるのは、弁護士の力を借りるメリットといえます。

証拠収集をサポートしてもらえる

いずれの手段をとるにせよ、証拠は不可欠です。とはいえ、何が証拠になるのか、どう集めればいいかがわからずにお困りかもしれません。犯行から時間が経っていると尚更です。

弁護士は証拠収集のサポートも可能です。法的手段をみすえて必要な証拠や収集方法についてアドバイスを聞けるため、加害者の責任を追及しやすくなります。時間が経っていても、できる限り証拠を集められるように弁護士のサポートを受けましょう。

法的手続きや交渉を任せられる

実際の法的手続きは、慣れていない方にとっては思いのほか面倒なものです。また、警察や加害者とのやりとりもストレスになります。

弁護士には、民事訴訟・刑事告訴の手続きや警察・加害者との交渉を任せられます。弁護士に依頼すれば、成功する可能性を上げつつ、時間的・精神的な負担を軽減できるのです。

まとめ

ここまで、退職後に従業員の横領行為が発覚したときの会社の対応について解説してきました。

退職後であっても、民事上の金銭請求や刑事告訴はできます。より効果的なのは刑事告訴です。いずれにせよ、時効がかからないうちに証拠を集め、法的手段をとる必要があります。

退職した従業員による横領が判明してお困りの方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所は、犯罪被害者の弁護に力をいれており、横領でも告訴を受理させてきた実績がございます。被害者の皆様に寄り添って、加害者の責任を追及するために全力でサポートいたします。

退職した従業員による横領被害に気がついた会社関係者の方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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