不正競争防止法被害にあったら

最終更新日:2024.03.22

ドメイン名を不正取得・不正使用されたら不正競争防止法違反として対処できるか

ドメインとは、Webサイトがどこにあるかを示す文字や数字の配列であり、いわばインターネット上の住所です。例としては「〇〇.com」「〇〇.jp」などが挙げられます。

企業名や商品名に類似したドメイン名を不正に取得・使用する行為は、不正競争防止法違反です。被害者から使用の差止めや損害賠償請求などができます。もっとも、刑罰は定められていないため、ドメイン名の不正利用だけで刑事告訴はできません。

この記事では、ドメイン名を不正に利用された場合の対処法について解説しています。自社の企業名や商品名と同じまたは類似したドメイン名を使われてお困りの方は、ぜひ最後までお読みください。

ドメイン名の不正取得・不正利用とは?

ドメインはWebサイトがどこにあるかを示す文字や数字の配列であり、いわばインターネット上の住所といえます。当サイトであれば「lead-law-office.com」がドメイン名です。

多くの企業が、自社の企業名・商品名・ブランド名を含んだドメイン名を使用し、ネット上でビジネスを展開しています。現在では、ドメイン名がネット上で重大な価値を有するようになっています。

もっとも、ドメイン名は基本的に誰でも先着順に取得可能です。残念ながら、他社をイメージさせるドメイン名を取得し、価値を悪用しようとする人もいます。

ドメイン名の不正利用の例としては、以下が挙げられます。

  • 取得したドメイン名を企業に高値で売りつける
  • 企業の公式サイトだと安心させてフィッシング詐欺に利用する
  • 著名企業のブランド価値を利用して自社サイトに誘導する
  • サイトに不適切な内容を記載し、ドメイン名から想起される企業についてイメージを悪化させる

こうしたドメイン名の不正利用行為は、他社の知名度やブランド価値にフリーライドする、あるいは他社の信用を低下させる点で悪質な行為です。

ドメイン名を悪用されたら、不正競争防止法違反に該当する

ドメイン名の不正取得・保有・使用は、不正競争防止法で規制されています。

不正競争防止法2条1項19号では、次の行為が不正競争行為のひとつの類型として定められています。

不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

ドメイン名取得により、他社の企業価値にタダ乗りして利益を得る、または他社のイメージを悪化させるといった行為は、公正な競争環境を害する行為です。ドメイン名の価値の高まりにより規制の必要性が高まり、平成13年の法改正により上記規定が新設されました。

以下で、違法となる要件や事例を解説します。

違法となるドメイン名不正取得の条件とは?

違法となる要件は以下の3つです。

①図利加害目的がある

「不正の利益を得る目的」あるいは「他人に損害を与える目的」が要求されます。

例としては、以下が挙げられます。

  • 高値で転売するために取得した
  • 他社の顧客吸引力を利用する目的があった
  • サイト上に中傷記事やわいせつな内容を掲載し、ドメイン名から想起される企業について、信用を低下させようとした

他社を想起させるドメイン名を利用していても、悪用する意図が存在しないときには要件を満たしません。

②「特定商品等表示」と同一・類似のドメイン名である

「特定商品等表示」とは、氏名、商号、商標、標章などです。特定の企業名・商品名・ブランド名などと同一・類似のドメインが規制対象になっています。ただし、一般的な名称は除かれます。

表示が広く周知されていたり、著名であったりすることは要件ではありません。商標登録がされている必要もありません。

③ドメイン名を取得・保有・使用する

「取得」とは、登録機関に対する申請により、ドメイン名を使用する権利を得ることです。

当初は悪用する意図がなくても、途中から図利加害目的が生じるケースもあり、これを含めるために「保有」が規制されています。

「使用」は、ドメイン名をウェブサイトの開設などの目的で用いる行為です。

以上①から③の要件をすべて満たすと、違法になります。

類似のドメイン名とは?過去に認められた事例

「同一」となるケースは明らかですが、実際には「類似」かどうかが問題になる場合が多いです。多くの方にとって「類似」の範囲がどこまでなのかはイメージしづらいかもしれません。

過去に類似性が認められた事例は以下の通りです。

ドメイン名企業名など
jaccsJACCS
j-phoneJ-PHONE
e-zaiエーザイ
dentsuDENTSU
maxellgrpmaxell

類似性を認めた事例は、大文字を小文字にしただけ、発音が同じなど、知らない人が見たら混同してしまうようなケースです。ここまで類似していると、企業が有するイメージを利用できるといえます。

実際には、より判断が難しいケースもあります。ご自身の場合についてどう判断されそうか知りたい方は、弁護士までご相談ください。

ドメイン名の不正取得・不正利用被害に遭った時にできること

ドメイン名を不正に利用される被害にあった場合には、加害者に対して不正競争防止法に定められている請求ができます。

具体的には以下の3つの方法です。

  • ドメイン名の使用の差止請求(3条1項)
  • 損害賠償請求(4条)
  • 信用回復措置請求(14条)

これらの方法は、どれかひとつには限られません。すべて求めても構いませんし、特定の請求だけ選ぶことも可能です。

以下で、ドメイン名を不正利用された際にできることについて、順に解説します。

ドメイン名の使用の差止請求(不正競争防止法3条1項)

不正競争行為によって営業上の利益を侵害された、または侵害されるおそれがある場合には、侵害の停止または予防を請求できます。

ドメイン名を不正利用されたケースでは、ドメイン名の使用停止だけでなく、登録抹消まで可能です。加害者がドメイン名を利用し続けるのを止められるため、被害が続くのを防げます。

不正利用されたドメイン名を被害者が利用できれば、自社のビジネスに活用できるため被害者にとってメリットが大きいです。しかし、裁判ではドメイン名の移転請求までは認められていません。ドメインの利用まではできないので注意してください。なお、後述する日本知的財産仲裁センターによる紛争処理制度では、ドメイン名の移転が可能です。

損害賠償請求(不正競争防止法4条)

今後の被害を防ぐだけでなく、すでに発生した損害の賠償請求もできます。故意または過失によって不正競争行為をして他人の営業上の利益を侵害した者は、生じた損害を賠償しなければなりません。

ドメイン名の不正利用によって損害を受けた被害者は、生じた損害を賠償するように請求できます。

具体的な損害としては、

  • 類似のドメイン名を詐欺に悪用され、注意喚起に費用を要した
  • 信用の低下により売上が減少した
  • ドメインを使用すれば得られるはずの売上が発生しなかった

といったものが想定されます。

もっとも、実際に立証するのは困難です。そこで、不正競争防止法では損害額の推定規定が設けられ、被害者の立証負担が軽減されています(5条)。

信用回復措置請求(不正競争防止法14条)

ドメイン名の不正使用により、被害を受けた企業の信用が損なわれるケースがあります。

たとえば以下の事例です。

  • フィッシング詐欺に利用された
  • サイト上に一般的に不適切と考えられるコンテンツが掲載された
  • 誘導先のサイトで価値に比べて高額なぼったくり商品が販売された

被害企業が悪い行いをしていなくても、ドメイン名に企業名などが含まれていたために、被害企業のイメージが悪化してしまう可能性があります。

不正競争行為によって営業上の信用を害された場合は、損害賠償の代わりに、または損害賠償とともに、信用を回復するために必要な措置を請求できます。

ドメイン名の不正使用により、被害企業に対する信用が損なわれた際には、加害者に信用回復措置を求めることが可能です。信用回復措置の内容は特に限定されておらず、新聞への謝罪広告の掲載や取引先への謝罪文の配布などが考えられます。

ドメイン名の不正使用だけでは刑事告訴できない

ドメイン名を不正使用されると、加害者に刑罰が科されるよう望む場合もあるでしょう。

しかし、ドメイン名の不正使用だけでは刑事告訴はできません。不正競争防止法において、ドメイン名の不正使用行為は刑罰の対象となっていないためです。

不正競争行為の中でも、特に公正な競争を妨げる類型については刑事罰が規定されています。具体的には、以下の行為は刑罰の対象です。

  • 周知表示混同惹起行為
  • 著名表示冒用行為
  • 形態模倣商品の提供行為
  • 営業秘密の侵害
  • 技術的制限手段無効化装置等の提供行為
  • 誤認惹起行為

代表的なのは営業秘密の侵害であり、特に刑罰が重くなっています。

ドメイン名の不正使用については、刑罰が定められていません。したがって、刑事告訴は不可能です。ただし、周知表示混同惹起行為や著名表示冒用行為に該当する場合には、刑罰があるため刑事告訴できます。

不正競争行為の他の類型について詳しくは、以下の記事を参照してください。

参考記事:不正競争防止法とは?10の違反行為と違反に対する民事・刑事措置について解説

ドメイン名の不正取得・不正利用への対処法

ドメイン名の不正取得等に対しては、裁判において前述の3つの請求ができます。もっとも、「他に方法はないのか」「何を選べばいいかわからない」といった方もいるでしょう。

裁判上の請求の他に、裁判外での紛争処理制度の利用もひとつの選択肢になります。どうすべきかわからなければ、弁護士に相談するのが有効です。

日本知的財産仲裁センターによる紛争処理制度を利用する

「〇〇.jp」のドメインについては、日本知的財産仲裁センターにおける紛争処理制度を利用できます。

裁判外で解決する制度であり、裁判に比べて簡易かつ迅速な紛争解決を目指せる点がメリットです。

また、ドメイン名の移転が認められるケースもあります。認められれば、加害者が使っていたドメインの使用が可能です。ドメイン名の移転は裁判では実現できないため、紛争処理制度を利用する大きなメリットといえます。

ただし、日本知的財産仲裁センターの裁定には法的な拘束力がありません。結局裁判の場での争いになり、二度手間になり得る点がデメリットです。また、損害賠償請求はできません。

なお、jp以外のドメインについては、他の機関で紛争処理手続を利用できます。

弁護士に相談する

数多くの対処法を聞いても「結局どれを選べばいいかわからない」という方は多いかもしれません。対処法を決められない方や、どうすべきか見当がつかない方は、弁護士に相談するとよいでしょう。

一般的には、まずはドメイン名の使用をやめるように加害者に伝えます。応じる気配がないときには、法的手段を検討しなければなりません。どの機関にいかなる請求をすべきかは、ケースバイケースです。

弁護士に相談すれば、被害者の方の希望も尊重しつつ、ベストな方法を選択できます。依頼まですれば手続きを任せられるため、無駄に時間や手間を割かれずにすみます。

一方的にドメイン名を不正利用されてしまい、お困りかと思います。対処法は弁護士までご相談ください。

ドメイン名の不正利用被害にあった場合は…

ここまで、ドメイン名の不正利用について、不正競争防止法における定めや対処法などについて解説してきました。

企業名・商品名・ブランド名などと類似したドメイン名を取得・保有・使用する行為は、不正競争防止法で規制されています。被害を受けた際には、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求が可能です。裁判外の紛争処理制度も含め、ベストな方法を検討する必要があります。

ドメイン名の不正利用被害に遭った方は、リード法律事務所までご相談ください。

弁護士に相談いただければ、被害回復のためにどう対処すべきかについてアドバイスが受けられます。「ドメイン名の不正利用にどう対処すればいいかわからない」とお悩みの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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