不正競争防止法被害にあったら

最終更新日:2024.01.05

営業秘密侵害罪とは?営業秘密の管理方法と従業員を刑事告訴する方法について解説

営業秘密を従業員が外部に流出させた際には営業秘密侵害罪が成立し、会社は刑事告訴が可能です。もっとも、適切な管理方法をとっていないと、そもそも営業秘密として認められません。

この記事では、営業秘密侵害罪に関して、成立要件、営業秘密の管理方法、従業員を刑事告訴する方法などについて解説しています。営業秘密の流出被害に遭った、あるいは被害を防止したいと考えている会社関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。

営業秘密侵害罪とは

営業秘密侵害罪とは、営業秘密の不正取得、流出等を罰する犯罪です。不正競争防止法21条1項各号に定められています。たとえば、従業員が職務上知った製品の製造方法、顧客情報、マニュアルなどを流出させる行為が該当します。

処罰対象となっているのは、企業の営業上の秘密が外部に漏れると、ライバルへの優位性が崩れ、企業経営や公正な競争環境にマイナスの影響を与えるためです。

営業秘密侵害罪の法定刑は「10年以下の懲役」「2000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。秘密の内容や流出方法によっては被害が大きくなる可能性もあるため、重い罰則が定められています。

加えて、法人の業務に関して違反行為があった場合には、行為者本人だけでなく法人についても処罰の対象です(22条1項)。「5億円以下の罰金」と非常に重くなっています。ただし、自社の従業員が加害者になっても、被害を受けた会社が処罰されることはありません。

不正競争防止法とは

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争の確保を目的とする法律です。

社会が経済的に発展するためには、公正な競争によってより良い製品・サービスが世に出る必要があります。しかし、以下のような不正なやり方で製品・サービスが生み出されると、まっとうに商売をしている会社が不利益を受けます。

  • 他社の有名な商品名を、勝手に自社商品に使う
  • 他社の企業秘密を持ち出して、自社の製品開発に利用する
  • 製品の品質について誤解を与える表記をする

このような不正行為により利益を得られるのであれば、真面目に製品・サービスを開発する意欲が無くなってしまうでしょう。消費者はもちろん、経済全体にとっても望ましくありません。

不正競争防止法では、不正競争行為を類型的に定め、違反した場合の民事上の差止請求、損害賠償請求、信頼回復措置請求や刑事上の罰則を規定しています。不正競争行為を抑止するとともに、違反した者に制裁を科すことで、事業者間の公正な競争環境の確保が目指されています。

営業秘密侵害罪の種類

営業秘密侵害罪には、様々な種類があります。

不正競争防止法21条1項各号に定められている類型と犯罪行為の概要は以下の通りです。各類型の冒頭の丸数字は、21条1項の号番号と対応しています。

類型概要
①不正取得罪詐欺・暴行・脅迫や窃取・侵入・不正アクセス等によって営業秘密を取得
②不正取得後使用・開示罪不正に取得した営業秘密を使用・開示
③不正領得罪秘密管理の任務に背いて、文書・記録媒体等を横領、複製、消去すべきものを消去せずに領得
④不正領得後使用・開示罪不正に領得した営業秘密を使用・開示
⑤在職者不正使用・開示罪役員・従業者が秘密管理の任務に背いて、営業秘密を使用・開示
⑥退職者不正使用・開示罪退職した元役員・元従業者が在職中に秘密管理の任務に背き、退職後に使用・開示
⑦二次取得者不正使用・開示罪②④⑤⑥の不正開示により営業秘密を取得した者が、営業秘密を使用・開示
⑧三次取得者不正使用・開示罪②④⑤⑥⑦の不正開示が介在したと知りながら、営業秘密を使用・開示
⑨営業秘密侵害品譲渡等罪営業秘密侵害により生じた物と知りながら、譲渡・輸出入等

対象者

上記の9つの類型のうち、①と②は部外者が営業秘密を侵害するケースを想定しています。対象になるのは、社外から不正な手段で営業秘密を取得したケースや、社内で権限を有しない従業員が不正に秘密を取得したケースです。

③と④の対象になるのは、社内で秘密を知る立場にある従業員や、業務提携等により秘密を知った社外の人間です。秘密を守るべき立場にある人が、秘密が記載された文書・記録媒体等を持ち出す、コピーを作る、消去していないのに消去したように装うといった行為をすれば罪になります。

⑤と⑥の対象になるのは、秘密を有する会社の役員・従業者や退職者です。従業者には、雇用契約を結んだ従業員のほか、派遣労働者も含まれます。秘密を知っている会社内部の人間については、③④の処罰対象に該当する行為をしていなくても、何らかの形で営業秘密を使用・開示すれば処罰されます。退職者が処罰対象になるのは、在職中に約束したうえで、秘密を退職後に使用・開示したケースです。

⑦・⑧では、不正に流通している秘密を得た二次取得者・三次取得者が、さらに情報を使用・開示するケースが想定されています。

⑨は、営業秘密の不正流出により製造された製品を、譲渡・輸出入した人を処罰する犯罪です。

営業秘密侵害罪の要件

類型によって成立要件は異なりますが、共通する要件もあります。

特に争いになりやすいのが「秘密管理性」と「図利加害目的」です。

秘密管理性

営業秘密侵害罪が成立する前提として、当該情報が不正競争防止法上の営業秘密と認められなければなりません。営業秘密に該当するためには3つの要件がありますが、特に問題になりやすいのが秘密管理性です。

秘密管理性が認められるためには、企業が秘密と考えているだけでなく、具体的な措置によって、従業員や取引先が秘密だと認識できる必要があります。たとえば、「社外秘」と記載して一部しか立ち入れない場所に保管している、アクセス制限をかけるといった方法です。

もっとも、明確な基準があるわけではありません。情報の性質や保有形態、企業の規模などによって、求められる措置はケースバイケースです。十分なアクセス制限がなくても、秘密管理性が認められた事例もあります。秘密であると示すために必要な措置について、詳しくは後述します。

図利加害目的

営業秘密侵害罪においては、いずれの類型についても「不正の利益を得る目的」または「営業秘密保有者に損害を加える目的」が要件とされます。合わせて図利加害目的と呼ばれます。

「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗や信義則に反して営業秘密を不正に使用することで、自己や第三者が不当な利益を得る目的です。加害者と秘密保有者とが競争関係にある必要はありません。自己の名誉など、経済的利益以外を目的としていても該当します。

「営業秘密保有者に損害を加える目的」とは、秘密保有者に財産上の損害や信用の失墜などの損失を生じさせる目的です。実際に損害が発生している必要はありません。

不正競争防止法上の営業秘密とは?管理者が注意すべき点

営業秘密侵害罪が成立するためには、前提として流出した情報が営業秘密に該当しなければなりません。営業秘密にあたらない情報については不正競争防止法では保護されず、流出しても民事上の措置や刑罰に関する規定が適用されません。

不正競争防止法において、営業秘密の定義は2条6項に規定されています。

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

条文からは、以下の3つが要件であるとわかります。

①秘密管理性

②有用性

③非公知性

特に問題になりやすいのは、①の秘密管理性です。他の要件は会社側で対策するのが難しいですが、秘密管理性については、管理方法によって該当するかが変わり得ます。管理者としては特に注意が必要です。

以下で、各要件について順に解説します。

秘密管理性

秘密管理性が認められるには、会社が秘密と考えているだけでは足りません。秘密を確保するための具体的な措置がとられており、従業員などが秘密だと認識できる必要があります。

秘密だと認識できない状態であるのに持ち出し・使用などをした際に違法とされてしまうと、従業員や取引先にとって酷であるためです。

営業秘密であることを明らかにする方法

営業秘密であると明らかにする方法は、情報の性質や媒体(紙・データ)、企業の規模などによって変わります。

例としては、以下が考えられます(参考:営業秘密管理指針|経済産業省)。

  • 管理場所への立ち入りを制限する
  • データへのアクセス制限をする
  • 秘密情報の種類・類型をリスト化する
  • 秘密保持契約・誓約書に明記する

【紙媒体の場合】

  • 文書に「社外秘」などと明記したうえで、他の文書とは別のファイルで管理する
  • 施錠できるキャビネットや金庫に保管する

【電子媒体の場合】

  • 記録媒体そのものや保管するケース・段ボールに社外秘だと表示する
  • ファイル名やフォルダ名に秘密である旨明記する
  • ファイル・フォルダの閲覧にパスワードを設定する

一概に「こうすれば秘密管理性が認められる」とはいえません。いずれにしても、従業員などが「営業秘密である」とわかるように管理しましょう。

有用性

次に、会社の事業活動に有用な情報でなければなりません。有用でない情報は保護する必要性がないためです。

たとえば以下の情報は有用だといえます。

  • 生産方法に関する情報(製品の設計図、製造ノウハウなど)
  • 販売方法に関する情報(顧客名簿、販売マニュアルなど)

現在は利用されていなくても、今後利用価値があれば構いません。実験の失敗データも有用といえます。

もっとも、以下のような反社会的な情報は有用性が認められません。

  • 脱税方法
  • 違法な製品の製造方法
  • 賄賂供与の事実

反社会的な情報でなければ、多くの情報が有用と判断されます。

非公知性

最後に、一般的に知られていない、あるいは簡単に知られない情報であることが要件となります。一般的に知られている情報は保護に値せず、保護すればかえって情報の利用が阻害されて悪影響が生じるためです。

一般に入手できる刊行物に記載されている、インターネット上に公開されているなど、一般人が知り得る情報になった場合には非公知性は認められません。

守秘義務が課されていなくても、事実上秘密が維持されていれば非公知といえます。また、他社が別の手段により知っていた情報であっても、一般的に知られていない段階であれば非公知性は認められます。

営業秘密侵害罪で従業員を刑事告訴するには

従業員が営業秘密を流出させて罪に該当するときには、刑事告訴が可能です。

営業秘密侵害罪は以前は親告罪でしたが、2015年の法改正により非親告罪となり、告訴がなくても起訴して刑罰を科せるようになりました。しかし、実際には被害企業が告訴をして申告しないと、捜査機関が犯行に気がつくのは困難です。従業員の刑事責任を追及したいのであれば、告訴をしましょう。

刑事告訴するには、証拠を集めたうえで告訴状を作成します。もっとも、証拠が足りない、成立要件を満たさないなどの理由で、告訴を受理してもらえないケースも多いです。

受理させるには、告訴に精通した弁護士に依頼するようにしましょう。弁護士は必要な証拠を収集し、犯罪が成立するとわかるように告訴状を作成したうえで、捜査機関とのやりとりを代わりに行います。

当事務所では、秘密情報を返還しないまま退職した従業員に対して、営業秘密侵害罪に該当するとして刑事告訴を受理させた事例がございます。

解決事例:営業秘密の持ち出しについて不正競争防止法で刑事告訴が認められた事例

まとめ

ここまで、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪について、成立要件、秘密の管理方法、従業員を刑事告訴する方法などについて解説してきました。

役員や従業員が不正に営業秘密を流出させれば犯罪になり得ます。被害を防ぐために管理を徹底するとともに、刑事責任の追及も検討しましょう。

従業員などによる情報流出の被害に遭った会社関係者の方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまで、告訴に関して徹底的にサポートいたします。

被害に遭って告訴すべきか悩んでいる、警察に取り合ってもらえず困っているといった方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

メニュー

お問い合わせ・相談

記事カテゴリー

03-6807-5708 受付時間 平日 9:00~21:00 LINE相談 相談フォーム