不正競争防止法被害にあったら

最終更新日:2024.01.29

不正競争防止法違反で刑事告訴するメリットを弁護士が解説

不正競争防止法に違反する行為に対しては、民事上の差止請求や損害賠償請求が可能です。加えて、偽装表示や営業秘密の侵害など、一部の行為については刑事罰が規定されています。

刑事罰が規定されている行為については、不正競争防止法違反で刑事告訴ができます。告訴すれば、刑罰を科せるだけでなく、被害の回復や再発防止にも効果的です。

この記事では、不正競争防止法違反の刑事罰や刑事告訴するメリットなどについて解説しています。不正競争行為により被害を受けている方は、ぜひ最後までお読みください。

不正競争防止法違反の検挙数

近年、不正競争防止法違反での検挙が目立つようになっています。警視庁によると、令和4年の不正競争防止法違反での検挙事件数は53件であり、前年の47件を上回っています(参考:令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について|警視庁)。

以前に問題になったアサリの産地偽装も、不正競争防止法違反で検挙されました。

不正競争防止法違反の中でも、とりわけ多いのが営業秘密侵害事犯です。令和4年には29件にものぼり、過去10年で最多となりました。大手回転寿司チェーンで発生した機密情報の持ち出しなど、話題になった事件を思い出す方もいらっしゃるでしょう。

営業秘密侵害事件が増加している背景

営業秘密侵害事件が増加している背景には、雇用の流動化・転職の増加があります。

かつては、終身雇用制度のもとで転職は珍しいものでした。自社への帰属意識が強く「会社を裏切って企業秘密を外部に持ち出す」との発想自体が生じづらかったといえるでしょう。

しかし現在では、転職は当たり前になり、会社への忠誠心や帰属意識は弱まっています。転職先で評価されたいと考えて、転職前の職場から顧客データ・ノウハウなどの営業秘密を持ち出す事例が増加しています。

前述の大手回転寿司チェーンの事案は、前の勤務先から仕入れに関するデータを不正に取得し、移籍先の同業他社で活用しようとしたケースでした。転職者は即戦力として迎え入れられるため、すぐに成果を出す必要性に駆られ、不正行為に及びやすいと考えられます。

企業側は防衛意識を高く持つ必要がある

転職が当たり前になり、営業秘密の持ち出しが増加している以上、企業としては対策を怠るわけにはいきません。

他社に知られたくない技術、ノウハウ、顧客情報などが流出してしまうと、ライバルに対する優位性が薄れます。売上・利益の減少により会社経営にマイナスの影響が生じるリスクが高いです。

加害者側の企業が責任を追及されるのはもちろんですが、被害者であっても、情報管理の甘さが露呈した結果として、顧客からの信頼が低下するおそれがあります。秘密侵害への危機意識を高め、加害者にも被害者にもならないように対策をしなければなりません。

秘密情報が流出しないようにするには、たとえば以下の対策が考えられます。

  • 従業員と秘密保持契約を締結する
  • 就業規則で明確に禁止し、重大な処分があると示す
  • 「社外秘」と明記して秘密であると意識させる
  • 紙媒体については保管場所への立ち入りを管理・制限する
  • データへのアクセスを制限する
  • アクセスの記録を確実に把握できるようにする
  • 発生した際の対処法を確立しておく

秘密であると明らかでないと、そもそも営業秘密として法律上保護されません。従業員に秘密であるとわかるようにしたうえで、流出を防ぐシステムを構築する必要があります。発生したときに備えて、すぐに気がついて対処できるように準備しておくのも重要です。

「自社には関係ない」と思わずに、リテラシーを高めて情報流出対策をとるようにしましょう。

営業秘密の管理方法については、以下の記事もあわせて参照してください。

参考記事:営業秘密侵害罪とは?営業秘密の管理方法と従業員を刑事告訴する方法について解説

不正競争防止法違反の刑事罰とは?

不正競争防止法においては、2条1項各号で以下の10個の行為が不正競争行為と定められています。

1.周知表示混同惹起行為(1号)

2.著名表示冒用行為(2号)

3.形態模倣商品の提供行為(3号)

4.営業秘密の侵害(4号~10号)

5.限定提供データの不正取得等(11~16号)

6.技術的制限手段無効化装置等の提供行為(17、18号)

7.ドメイン名の不正取得等の行為(19号)

8.誤認惹起行為(20号)

9.信用毀損行為(21号)

10.代理人等の商標冒用行為(22号)

営業秘密の侵害以外にも多くの類型があります。たとえば、食品の偽装表示は「誤認惹起行為」に該当する可能性があります。

各類型について詳しくは、以下の記事を参照してください。

参考記事:不正競争防止法とは?10の違反行為と違反に対する民事・刑事措置について解説

刑事告訴できる事項

不正競争行為のうち、特に公正な競争を妨げやすい以下の類型については、刑事罰が定められています。

1.周知表示混同惹起行為

2.著名表示冒用行為

3.形態模倣商品の提供行為

4.営業秘密の侵害

6.技術的制限手段無効化装置等の提供行為

8.誤認惹起行為

とりわけ営業秘密の侵害は深刻な被害を与えるおそれがあるため、刑罰が重いです。「10年以下の懲役」「2000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかが科されます。海外に営業秘密が流出した場合には刑が加重され、罰金が「3000万円以下」となります。

他の類型については「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。

不正競争行為をした個人だけでなく、法人にも刑罰が科される可能性があります。前述の大手回転寿司チェーンの事案では、運営法人についても刑事事件化されました。

法人への処罰内容は以下の通りです。

  • 21条3項違反(営業秘密侵害罪の海外重罰):10億円以下の罰金
  • 21条1項違反(営業秘密侵害罪の一部) :5億円以下の罰金
  • 21条2項違反(その他) :3億円以下の罰金

刑罰が定められている類型については、被害者は刑事告訴し、処罰を求めることが可能です。

刑事告訴できない(刑事罰がない)事項

他方で、以下の類型については刑事罰が定められていません。

5.限定提供データの不正取得等

7.ドメイン名の不正取得等の行為

9.信用毀損行為

10.代理人等の商標冒用行為

刑事罰が規定されていない以上、刑事告訴は不可能です。

もっとも、民事上の請求はできます。不正競争防止法では、以下の措置が定められています。

  • 差止請求
  • 損害賠償請求
  • 信用回復措置請求

差止請求では、営業上の利益を侵害する行為を停止・予防できます。たとえば、模倣品である商品の製造中止や、製造された製品の廃棄などを求めることが可能です。

損害賠償請求では、発生した金銭的な損害を要求できます。売上げの減少などの損害を証明するのは難しいケースも多いため、損害額の推定規定があり、被害者の立証の負担が軽減されています。

被害者への信用が低下した場合には、信用回復措置請求も可能です。たとえば、新聞への謝罪広告の掲載、取引先への謝罪文の配布などを要求できます。

刑事告訴ができない類型については、これらの民事上の請求だけで被害の回復を図っていく流れになります。

不正競争防止法違反で刑事告訴するメリット

刑罰が定められている不正競争行為については、被害者が刑事告訴できます。刑事告訴とは、犯罪被害の事実を申告し、処罰を求める意思を示すことです。

不正競争防止法違反で刑事告訴するメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

加害者に刑罰を科せる

警察に告訴を受理してもらえれば、加害者に刑罰を科せる可能性が高まります。

不正競争防止法違反は、刑罰を科すのに告訴が必須となる「親告罪」ではありません。告訴をしなくても、警察や検察が事件化すれば、起訴して刑事裁判にできます。

もっとも、不正競争防止法違反の中には捜査機関に判明しづらい類型もあります。たとえば、営業秘密の侵害はこっそりと行われる行為であり、何も言わずに警察が気がついてくれるとは考えづらいです。

刑事告訴をすれば、捜査機関に被害の事実を伝えられます。告訴を受けた警察は検察に事件を送る必要があり、確実に捜査を進めてもらえます。被害届を提出しても動いてくれないケースがあるため、刑事告訴の方が有効な手段です。

被害を回復できる可能性が高まる

刑事告訴によって、金銭的にも被害を回復できる可能性が高まります。

告訴されると、加害者は刑罰を逃れるためには、示談をする他ありません。そのため、加害者は刑事罰を逃れるために、

告訴によって加害者が処罰される危険を感じ、被害者と示談をしようとするケースが非常に多いですたびたびあります。示談するには被害弁償がセットです。そのため、加害者が何とかしてお金を用意する極めて強いモチベーションが生じます。

被害者が加害者から金銭を受け取るためには、別途民事上の損害賠償請求をするのが通常です。しかし、刑事告訴によって加害者が被害弁償に積極的になれば、わざわざ請求する手間が省けます。また、示談金には特に制約はないので、刑事告訴するために要した弁護士費用や、遺失利益など、民事裁判を起こしても認められない費用を盛り込むことも可能であり、これは告訴をする大きなメリットとなります。

本来は、刑事告訴は処罰を求めるための行為です。副次的な効果として、被害弁償を受けられる可能性が高まる点もメリットとして挙げられます。

再発防止につながる

刑事告訴は再発防止にもつながります。

告訴をすれば「不正競争行為を許さない」との強い姿勢を社内に示せます。他の従業員が「不正競争行為をしてはならない」との意識を高めれば、抑止効果を有するでしょう。

反対に甘い態度を示してしまうと、他の従業員が誘惑に駆られたときに不正に手を染めてしまうリスクが高まります。

もちろん、懲戒処分や民事上の請求も有効な手段です。加えて刑事告訴まですれば、「再発を許さない」との強いメッセージが伝わります。

不正競争防止法違反の刑事告訴に関するよくある質問

不正競争防止法違反で刑事告訴を検討している方からよく受ける質問をまとめました。

刑事告訴して裁判になった場合、証拠は公開される?

「裁判の際に証拠が法廷で公開されないか」と気になる方は多いでしょう。特に営業秘密の侵害のケースでは、法廷で証拠が示されて傍聴人などに知られてしまうと、被害が拡大するおそれがあります。

そこで不正競争防止法では、営業秘密侵害罪の審理に関する特例が定められています。

内容は以下の通りです。

  • 秘匿対象となった事項を、別の呼称で表現する
  • 起訴状朗読の際に、秘匿対象事項を明らかにしない
  • 秘匿対象事項に関する尋問等を制限できる
  • 公判期日外で証人尋問等ができる
  • 証拠開示の際に、営業秘密を知られないように求められる

特例の適用を受ければ、営業秘密が刑事裁判を通じて広まり二次被害が生じるのを防げます。

かつて営業秘密侵害罪は親告罪でしたが、裁判の場で公開されるのをおそれて、告訴をしないケースもありました。現在は刑事訴訟における特例が整備されており、被害者にとって刑事事件化するハードルが下げられています。

未遂の場合は刑事告訴できる?

犯罪に着手したものの、結果が発生していない場合が「未遂」です。未遂でも罰せられるのは、別途処罰規定がある場合に限られます。

不正競争防止法で刑事罰が定められている行為のうち、営業秘密侵害罪については未遂も処罰されるとの規定が存在します。したがって、営業秘密侵害罪に限っては未遂で刑事告訴が可能です。

他の類型については、未遂は罰せられません。被害結果が生じていない段階では刑事告訴ができないので、注意してください。

被害にあった場合は…

ここまで、不正競争防止法違反の刑事罰や刑事告訴するメリットなどについて解説してきました。

営業秘密の侵害など、一部の不正競争行為については刑罰の定めがあり、刑事告訴が可能です。告訴すれば、刑罰を科せる、被害弁償を受けやすくなる、再発防止につながるといったメリットがあります。

不正競争防止法違反の被害を受けた方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。不正競争防止法違反で刑事告訴を受理させた事例もございます。

解決事例:営業秘密の持ち出しについて不正競争防止法で刑事告訴が認められた事案

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