不正競争防止法被害にあったら

最終更新日:2023.05.31

営業秘密侵害罪(不正競争防止法違反)とは?要件や民事・刑事措置について解説

営業秘密侵害罪とは、営業秘密を不正に持ち出すなどする犯罪です。不正競争防止法違反の中でも、近年特に問題になっている類型にあたります。

不正競争防止法における営業秘密として保護されるには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つの要件を満たさなければなりません。

保護される営業秘密を侵害された場合には、民事上は差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求が可能です。悪質なケースでは、刑事告訴をして営業秘密侵害罪に問う方法もあります。

この記事では、不正競争防止法の営業秘密侵害について、成立要件や違反に対する民事・刑事上の措置を解説しています。営業秘密を持ち出される被害にあった方は、ぜひ参考にしてください。

営業秘密侵害罪とは

営業秘密侵害罪とは、営業秘密を不正に持ち出すなどする犯罪です。

たとえば、回転ずしチェーン店の社長に、転職する前に競合他社からデータを持ち出した疑いがかけられる事件が発生しました。不正競争防止法違反の中でも特に刑事罰が重く、問題になっている類型です。

営業秘密とは

一般的に営業秘密とは、企業の研究・開発や営業活動の成果として得た情報をいいます。

営業秘密の例としては、以下が挙げられます。

  • 技術上の情報(製造方法、物質の成分情報、設計図、実験データなど)
  • 営業上の情報(顧客名簿、接客マニュアル、仕入れ先リスト、新規事業計画など)

営業秘密が社外に流出すると、同業他社に対する優位性が低下するなど、事業に大きな影響が生じます。社会全体で営業秘密の不正流出が横行すると、競争環境がゆがめられ、企業がまっとうな努力をする意欲が低下しかねません。

技術上の情報については特許制度があるものの、営業秘密は秘密であることに価値があるため、公開を前提とする特許では保護が難しいのが実情です。そこで、不正競争防止法において、営業秘密の不正取得・使用・開示を不正競争行為として位置づけて保護しています。

企業秘密・知的財産との違い

営業秘密と似た言葉に「企業秘密」があります。

両者が混同されるケースもみられますが、営業秘密は不正競争防止法において定義がある法律用語であるのに対して、企業秘密は法律用語ではありません。

企業秘密は営業秘密を含んだ意味で用いられる場合もあり、より広い意味の言葉といえるでしょう。企業秘密のうち、後述する3つの要件に該当する情報だけが、不正競争防止法上の営業秘密となります。

「知的財産」は、知的財産法に定義がある法律用語です。不正競争防止法においては、営業秘密が知的財産の一種として保護されています。特許とは異なり、営業秘密そのものに権利を与えたわけではなく、営業秘密を侵害する行為に対して制限を加える形で保護されている点が特徴です。

営業秘密の3要件

営業秘密の定義は、不正競争防止法2条6項に規定されています。

不正競争防止法2条6項この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

条文上、以下の3つが要件とされています。

1.秘密管理性:秘密として管理されていること

2.有用性:有用な技術上又は営業上の情報であること

3.非公知性:公然と知られていないこと

各要件について詳しく解説します。

1. 秘密管理性:秘密として管理されていること

営業秘密として管理していると認められるためには、単に会社として秘密にしたいと考えているだけでは不十分です。秘密を確保する措置がとられており、従業員や外部の人から見て、秘密であることを認識できなければなりません。

たとえば、「社外秘」との記載があり施錠して管理されていることや、データにアクセス制限をかけていることなどが要求されます。

重要な情報であったとしても、その旨の記載がなく簡単に見られる場所に書類が置かれている場合や、データに誰でもアクセスできた場合などには、秘密管理性は認められません。

もっとも、情報の性質、保有形態、企業の規模などによって、必要な措置は変わります。秘密であると認識できる状態であったかがポイントです。

秘密管理性が認められずに営業秘密に該当しないと判断されるケースも多く、特に注意が必要な要件といえます。

2. 有用性:有用な技術上又は営業上の情報であること

事業活動に有用でない情報は保護に値しないため、営業秘密とは認められません。

条文においては、生産方法(製品の設計図、製法など)や販売方法(顧客名簿、販売マニュアルなど)が有用な情報として挙げられています。積極的に利用されている必要はなく、失敗した実験データであっても、無駄な経費の削減につながるなど意味があるときには、有用性が認められます。

反対に有用性が認められないのは、以下の情報です。

  • 脱税の方法
  • 覚せい剤など禁制品の製造方法
  • 賄賂に関する事実

このような反社会的な情報は法律上の保護に値しないため、有用性は認められません。

有用性の要件が存在するのは、反社会的な情報などを除く意味合いが大きいです。通常の企業活動において価値のある情報については、多くのケースで有用性が認められます。

3. 非公知性:公然と知られていないこと

営業秘密と認められるには、一般的に知られていない、あるいは簡単には入手できない情報でなければなりません。

刊行物に記載されている、インターネット上に公開されているなど、一般人が知り得る情報になった場合には非公知性が否定されます。

同業他社が別の手段により知っていた情報であっても、一般的に知られていない段階であれば、非公知性が認められます。

営業秘密の侵害は不正競争防止法違反となる

営業秘密に該当する情報を不正に取得・使用・開示する行為は、不正競争行為に該当します。産業スパイや転職者による情報持ち出しがその例です。

不正競争防止法においては、営業秘密の侵害に対してとれる民事・刑事上の措置が規定されています。

不正競争防止法の民事措置とは

不正競争防止法違反に対する、民事上の措置としては、

  • 差止請求(3条)
  • 損害賠償請求(4条)
  • 信用回復措置請求(14条)

が規定されています。

差止請求とは、不正競争行為によって営業上の利益を侵害された、または侵害されるおそれがある場合に、侵害の停止や予防を求めることです(3条1項)。侵害の原因となった物の廃棄や設備の除去なども請求できます(3条2項)。

したがって、営業秘密の不正使用の停止、営業秘密を用いて製造した商品の破棄、データの消去などの請求が可能です。

不正競争行為によって金銭的な損害が生じたときは、損害賠償を請求できます(4条)。対応に要したコストや、自社の売り上げの減少などが損害の例です。

損害額の算定が困難なケースでも、損害額の推定規定があるため、立証の負担が軽減されています(5条)。

不正競争行為によって信用を害された場合には、信用回復措置の請求も可能です(14条)。信用回復措置の例としては、新聞への謝罪広告の掲載や取引先への謝罪文の送付が挙げられます。

営業秘密を侵害された場合にとれる民事措置とは

営業秘密の侵害は不正競争行為であるため、被害を受けた会社は上記の3種類の民事上の措置をとることが可能です。

営業秘密の侵害においては「営業秘密の不正な使用等の推定」の規定を活用できます(5条の2)。

これは、

  • 生産方法等の技術上の秘密を不正に「取得」されたこと
  • その生産方法を使って生産できる製品を生産していること等

の両方を証明したときに、不正「使用」を推定できるとの規定です。

営業秘密を使用した事実は加害者側の内部事情であり、被害者の側で証明するのは困難なケースも多いです。そこでこの規定により、不正使用したかどうかの証明を、加害者側にさせることができます。

また、民事訴訟においては、提出された証拠により明らかになった営業秘密について、訴訟追行目的以外で使用したり、第三者に開示したりするのを禁じる「秘密保持命令」を裁判所が出すことが可能です(10条)。秘密保持命令違反は刑事罰の対象にもなっており、訴訟の提起により営業秘密が拡散する事態を防止できます。

加えて、当事者尋問等を非公開にすることも可能です(13条)。

なお、営業秘密侵害に関する差止請求権には、消滅時効による期間制限があります(15条1項)。「不正使用の事実及び不正使用者を知った時から3年」「不正使用行為の開始から20年」のいずれかの期間を経過すると、差止請求権は時効によって消滅し、行使できません。

不正競争防止法の刑事措置とは

不正競争行為の中でも、特に違法性の高い行為については、刑事罰も定められています。

とりわけ営業秘密侵害罪の法定刑は重いです。

具体的には、営業秘密侵害罪には「10年以下の懲役」「2000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかが科されます(21条1項)。それ以外の類型の法定刑は「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです(21条2項)。

また、不正競争行為をした人が所属する法人にも、刑罰が科されます(22条1項)。

法人に対する刑罰は、営業秘密侵害罪については「5億円以下の罰金」であるのに対して、その他の類型については「3億円以下の罰金」です。

営業秘密侵害罪の刑罰が、他の類型と比べて重いとおわかりいただけるでしょう。

営業秘密を侵害された場合にとれる刑事措置とは

営業秘密侵害罪については、他の類型と比べて処罰対象が広げられています。

まず、営業秘密侵害罪は未遂であっても処罰対象です(21条4項)。

国外に営業秘密が流出した場合には、罰金が「3000万円以下」となり、より重くなります(21条3項)。法人への罰金も「10億円以下」に加重されています(22条1項1号)。これは、営業秘密が国外に流出すると、利益も国外で生じてしまい、我が国の経済に与える影響が大きいためです。

また、原則として不正競争防止法違反の罪は、国内で行われた場合のみを対象にしていますが、営業秘密侵害については、国外で行われたケースでも処罰対象です(21条6項)。

さらに、営業秘密侵害罪を犯して得た財産は、上限なく没収できます(21条10項)。

営業秘密侵害罪は重大犯罪であるため、このように他の類型と比べて処罰対象が広げられ、刑罰も重くなっています。

なお、営業秘密侵害罪の審理においては、営業秘密が刑事裁判の場で明らかにならないようにするために、以下の特例が定められています。

  • 秘匿対象となった事項を、別の呼称で表現する(23条4項)
  • 起訴状朗読の際に、秘匿対象事項を明らかにしない(24条)
  • 秘匿対象事項に関する尋問等を制限できる(25条)
  • 公判期日外で証人尋問等ができる(26条)
  • 証拠開示の際に、営業秘密を知られないように求められる(30条)

「裁判の場で営業秘密が公開されるとまずい」とお考えの場合でも、以上の特例を利用すれば、営業秘密が拡散されないように配慮した裁判対応が可能です。

被害にあった場合は…

営業秘密侵害の被害にあった際は、証拠の保全や刑事告訴が重要になります。

もっとも、法律に詳しくない方が必要な証拠を集めるのは簡単ではありません。不正競争防止法違反の中でも、営業秘密侵害罪は慎重な立証が要求されます。十分な証拠がなければ、警察が取り合ってくれない可能性も高いです。

営業秘密侵害の被害にあった方は、弁護士にご相談ください。

リード法律事務所では営業秘密侵害罪が成立することを示す証拠の収集をサポートいたします。刑事告訴など警察とのやり取りもお任せください。裁判になった後も、法廷の場で営業秘密が明らかにならないために必要な配慮を、検察官や裁判所に求めることが可能です。

リード法律事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、数多くの刑事告訴を受理させてまいりました。営業秘密侵害罪での刑事告訴を受理させた実績もございます。(https://lead-law-office.com/keijikokuso/case/95/)営業秘密侵害の被害に遭われた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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