最終更新日:2023.05.31
不正競争防止法とは?10の違反行為と違反に対する民事・刑事措置について解説
不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を確保するために、不正な競争の防止を図る法律です。不正競争防止法においては、10個の違反行為が定められています。
違反行為に対しては、民事上の措置として、損害賠償請求以外にも差止請求や信用回復措置請求が可能です。加えて、刑事告訴を行って刑罰を求められるケースもあります。
この記事では、不正競争防止法の概要や違反行為、違反に対する民事・刑事上の措置について解説しています。「不正競争防止法違反の被害にあった」と疑いをお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を確保するために、不正競争行為の類型と違反に対する民事・刑事上の措置を定めた法律です。
不正競争防止法は1934年に制定され、何度か改正された後に、1993年に全面的に改正されました。その後も時代の変化にあわせて頻繁に改正がなされており、近年では2018年に改正されています。
不正競争防止法の目的
不正競争防止法の目的は、事業者間の公正な競争を確保するために、不正競争の防止と損害賠償に関する措置などを講じ、国民経済の健全な発展に寄与することです(1条)。
資本主義経済社会が発展するには、自由競争によってよりよい製品やサービスが供給されることが不可欠といえます。
しかし、不適切な方法で作られた商品やサービスが世に出されると、まっとうな方法で競争をしている事業者が不利益を被ります。消費者からしても、何を信頼していいのかがわかりません。こうした状況では、経済の健全な発展は困難です。
不正競争行為が横行して経済が停滞する事態を防ぐため、不正競争防止法では、不適切な行為を類型化し、違反があったときに民事・刑事上必要な措置を講じられるようにしています。
独占禁止法・景品表示法との違い
不正競争防止法と似た目的を持つ法律に、独占禁止法と景品表示法があります。
独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の目的は、公正かつ自由な競争の促進です。目的は不正競争防止法と類似していますが、規制手段が異なります。
独占禁止法における主な規制手段は、公正取引委員会による排除措置命令などの行政上の規制です。対して不正競争防止法においては、事業者間の差止請求や損害賠償請求といった民事上の請求が中心になります。
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の目的は、一般消費者の利益保護です。景品表示法で禁止されている不当表示は、不正競争防止法違反に該当するケースもあり、共通点があります。両者の違いは、ここでも規制手段です。
景品表示法では、消費者庁による行政的規制により目的達成を目指すのに対し、不正競争防止法は民事的な請求を中心としています。
不正競争防止法と独占禁止法・景品表示法は、いずれも競争秩序の維持を担う点では共通しているものの、規制手段が異なるのです。
不正競争防止法違反となる行為
不正競争防止法においては、2条1項各号において、不正競争行為を定めています。
不正競争行為に該当し、違法となるのは以下の10個の行為です。
1.周知表示混同惹起行為(1号)
2.著名表示冒用行為(2号)
3.形態模倣商品の提供行為(3号)
4.営業秘密の侵害(4号~10号)
5.限定提供データの不正取得等(11~16号)
6.技術的制限手段無効化装置等の提供行為(17、18号)
7.ドメイン名の不正取得等の行為(19号)
8.誤認惹起行為(20号)
9.信用毀損行為(21号)
10.代理人等の商標冒用行為(22号)
順に詳しく解説します。
1. 周知表示混同惹起行為
周知表示混同惹起行為とは、すでに他人の商品等を示すものとして広く認識されている「商品等表示」と同一・類似の「商品等表示」を使用するなどして、オリジナルの商品の出所や営業主体と勘違いをさせる行為です(2条1項1号)。
「商品等表示」とは、氏名、商号、商標、標章、商品の容器、包装など、商品の出所や営業主体を示すものをいいます(2条1項1号かっこ書)。
広く知られた会社名や商品名などには、営業努力によって築き上げてきた信用があります。他人がそれを使用すれば、信用にタダ乗りして集客できてしまい、公正な競争とはいえません。
したがって、他人の商品等を示すものとして広く周知された「商品等表示」を使用する行為は、違法とされています。
たとえば、以下の行為が周知表示混同惹起行為に該当すると判断されました。
- ソニーの商品名である「ウォークマン」を看板や商号に使用した
- ファッション雑誌「VOGUE」と類似した名称のマンションを販売した
- 店舗の外観を、コメダ珈琲店と類似するデザインにした
「商品等表示」が一部の地域でしか知られておらず全国的に有名ではなくても、周知されている地域内では保護の対象になります。
また、勘違いが生じる状況であれば、両者は必ずしも同業種である必要はありません。
なお、以下の場合には適用除外となり、民事・刑事上の措置の対象とはなりません(19条1項1号〜3号)。
- 一般的に用いられている名称を使用する(例:「弁当」「黒酢」)
- 自己の氏名を不正目的なく使用する
- 他人の「商品等表示」が広く周知される以前から、不正目的なく使用していた
2. 著名表示冒用行為
著名表示冒用行為とは、他人の商品・営業を示すものとして著名な「商品等表示」と同一・類似の「商品等表示」を、自己のものとして使用する行為です(2条1項2号)。
著名な企業名やロゴは、長年かけて築き上げてきた強いブランド力を持ちます。他人が同一・類似のものを使用すれば、ブランド力にタダ乗りして顧客を集められてしまい、不公平です。加えて、従来使用してきた者とブランドとの結びつきが低下したり、ブランドイメージが傷ついたりする問題もあります。
そこで、著名な「商品等表示」を他人が使用する行為は、違法とされています。
1の周知表示混同惹起行為と似ていますが、勘違いを引き起こすこと(混同)は要件とされていません。代わりに「著名」といえるほど全国的な知名度が高い必要があります。
たとえば、任天堂のキャラクターと類似するコスチューム等の表示を営業に使用した事例で、著名表示冒用行為が認定されました(マリカー事件、知財高裁令和2年1月29日判決)。
周知表示混同惹起行為と同様に、以下のケースは適用除外となっています(19条1項1号、2号、4号)。
- 一般的に用いられている名称を使用する
- 自己の氏名を不正目的なく使用する
- 他人の「商品等表示」が著名性を獲得する以前から、不正目的なく使用していた
3. 形態模倣商品の提供行為
形態模倣商品の提供行為とは、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為です(2条1項3号)。
新たな商品開発には苦労が伴うはずです。にもかかわらず模倣商品の流通を許すと、他人が開発の成果にフリーライドできてしまいます。結果として先行するメリットが薄れ、開発意欲が低下しかねません。
そこで、形態が似た商品を自分のものとして市場に提供する行為は、不正競争行為とされています。
「商品の形態」とは、使用に際して認識できる商品の外部・内部の形状に加え、模様、色彩、光沢、質感のことです(2条4項)。ただし、商品の機能を確保するために不可欠な形態は含まれません(2条1項3号かっこ書)。ありふれた形態も保護の対象外です。
「模倣」とは、他人の商品の形態をもとにして、実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいいます(2条5項)。
商品形態の模倣は意匠法でも規制対象になりますが、不正競争防止法においては登録が不要
である点が特徴です。もっとも不正競争防止法では、国内で最初に販売された日から3年以内しか保護されません(19条1項5号イ)。
4. 営業秘密の侵害
営業秘密の侵害とは、窃取、詐欺、強迫などの不正な手段により、営業秘密を取得、使用、開示する行為などをいいます(2条1項4号〜10号)。
営業秘密が不正な手段で流出すると、事業に大きな支障が生じ、公正な競争を害することから、不正競争行為とされています。
保護される営業秘密と認められるのは、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つの要件を満たす場合のみです。
営業秘密の侵害について詳しくは、こちらの記事をご確認ください。
営業秘密侵害罪(不正競争防止法違反)とは?要件や民事・刑事措置について解説
5. 限定提供データの不正取得等
限定提供データの不正取得とは、窃取、詐欺、強迫などの不正な手段により、限定提供データを取得、使用、開示する行為などをいいます(2条1項11号〜16号)。
限定提供データとは、特定の相手に限って提供が予定されているデータです。気象データや地図データなど、他者に提供して新たな事業の創出などに利用されることが想定されているデータが該当します。
現代において企業が有するデータは大きな価値を持ち、他者に提供すると対価が生じます。データは簡単にコピーができてしまいますが、他者への提供が予定されていれば、上記の営業秘密には該当しません。
そこで、2018年の法改正により、限定提供データの不正な持ち出し等も不正競争行為として保護の対象に加えられました。
限定提供データとして保護されるためには、以下の要件を満たさなければなりません(2条7項)。
- 限定提供性(データを会員など特定の者に限って、繰り返し提供している)
- 相当蓄積性(データが電磁的方法により相当量蓄積されることで価値を有する)
- 電磁的管理性(ID・パスワードによるアクセス制限などで、特定の者にしか提供されないと明確になっている)
無償で公衆に利用可能となっている情報については、保護の対象外です(19条1項8号ロ)。
6. 技術的制限手段無効化装置等の提供行為
技術的制限手段無効化装置等の提供行為とは、技術的手段により制限されているコンテンツの視聴等を可能とする装置やサービスなどを提供する行為です(2条1項17号、18号)。
映像・音楽・ゲームなどのコンテンツを提供している事業者は、コンテンツを対価なしで利用されないために、コピー制限やスクランブル放送などで技術的に制限をかけています。しかし、制限を無効化する装置などが出回ってしまうと、追加で対策が必要になるなど事業継続に支障が生じかねません。
そこで、技術的制限手段無効化装置等の提供行為は違法とされています。
たとえば、以下の行為は不正競争防止法違反とされました。
- 違法コピーソフトをニンテンドーDSで起動させる機器を輸入・販売した
- BーCASカードを不正に改変してテレビの有料放送を無料で見られるようにするプログラムを、インターネット上に公開した
なお、技術的制限手段の試験・研究のために用いられる装置等の譲渡などについては、適用が除外されています(19条1項9号)。
7. ドメイン名の不正取得等の行為
ドメイン名の不正取得等の行為とは、不正な利益を得るまたは他人に損害を加える目的で、他人の商品・サービスと同一・類似のドメイン名を取得・使用などする行為です(2条1項19号)。
ドメインとは、Webサイトがどこにあるかを示す文字や数字の配列であり、いわばインターネット上の住所です。当サイトであれば「lead-law-office.com」がドメインにあたります。
ドメインは先着順に取得できます。それを悪用して、有名企業名を含んだドメインを取得し、企業の知名度を利用してビジネスを行うケースが発生しました。
これは企業が築いてきた信用にフリーライドするのみならず、企業の信用を低下させるおそれもある悪質な行為です。ドメインを企業に高額で買い取るよう求めるケースもあります。
そこで、ドメイン名の不正取得が不正競争行為として規定されました。
違法となるのは、不正な利益を得るまたは他人に損害を加える目的で、以下の行為をしたケースです。
- ドメイン名を使用する権利の取得
- ドメイン名を使用する権利の保有
- ドメイン名の使用
8. 誤認惹起行為
誤認惹起行為とは、商品・サービスやその広告などに、原産地、品質、内容などについて誤解を与えるような表示をする行為をいいます(2条1項20号)。
誤認惹起行為が不正競争行為とされているのは、誤解を与える表現をした事業者が、その他の事業者よりも優位に立つ事態を防ぐためです。
誤認惹起行為の例としては、以下が挙げられます。
- 外国産の肉に「国内産」と表示する
- 鳥や豚を混ぜたミンチ肉に「牛100%」と表示する
- 古米に「新米」と表示する
なお、誤認惹起行為を理由として法的措置をとれるのは、営業上の利益を侵害された同業者に限られます。一般消費者や消費者団体は、不正競争防止法に基づく請求はできません。
9. 信用毀損行為
信用毀損行為とは、競争関係にある他人について、営業上の信用を害する虚偽の事実を広める行為です(2条1項21号)。
ウソの事実を広めて競争関係にある他人の信用を害するのは、公正な競争をゆがめる行為であるため、規制対象となっています。
需要者や取引先が共通になる可能性があればよく、必ずしも同業者による行為でなくても構いません。
また、対象となる他人を明確に特定していなくても、伝えられた相手が誰のことを言っているのかがわかれば、信用毀損行為に該当し得ます。
信用毀損行為の例としては、「○○社の製品は検査を経ていない」とのウソを取引先に伝えたケースが挙げられます。
10. 代理人等の商標冒用行為
代理人等の商標冒用行為とは、パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なくその商標を使用する行為です(2条1項22号)。
商標権は、通常は登録国においてしか効力を発揮しません。もっとも、国際的に事業を展開する企業が現地に代理人を置いた際に、企業の商標を代理人に無断で使用されるケースがあります。
代理人に無断で権利を使用されると事業展開に支障が出るため、規制対象とされています。
代理人等の商標冒用行為にあたるのは、外国企業製品の輸入代理店をしている企業が、外国企業の承諾を得ずに、商標を使用しているケースなどです。承諾を得ていれば違反にあたりません。
不正競争防止法に違反に対する措置
ここまで紹介してきた不正競争防止法違反の行為に対しては、民事上・刑事上の措置が可能です。
違反行為によって、民事・刑事双方の措置が可能な場合と、民事上の措置のみが可能な場合に分かれます。
民事・刑事双方の措置が可能な行為1.周知表示混同惹起行為2.著名表示冒用行為3.形態模倣商品の提供行為4.営業秘密の侵害6.技術的制限手段無効化装置等の提供行為8.誤認惹起行為 |
民事上の措置だけが可能な行為5.限定提供データの不正取得等7.ドメイン名の不正取得等の行為9.信用毀損行為10.代理人等の商標冒用行為 |
民事措置
民事上の措置としては、
- 差止請求(3条)
- 損害賠償請求(4条)
- 信用回復措置請求(14条)
があります。
差止請求においては、不正競争行為によって営業上の利益を侵害された、または侵害されるおそれがある場合に、侵害の停止や予防を求められます(3条1項)。侵害の原因となった物の廃棄や設備の除去などの請求も可能です(3条2項)。
したがって、商品の製造中止や、製造された製品の廃棄などを求められます。
不正競争行為によって生じた金銭的な損害については、損害賠償請求が可能です(4条)。売り上げの減少などが損害にあたります。
損害額の算定が困難なケースでも、損害額の推定規定があるため、立証の負担が軽減されています(5条)。
不正競争行為によって信用を害された場合には、信用回復措置の請求も可能です(14条)。信用回復措置の例としては、新聞への謝罪広告の掲載が挙げられます。
刑事措置
不正競争行為の中でも、特に公正な競争を妨げる類型については、違法性の高い行為に対する刑事罰も定められています。刑事罰が規定されているのは以下の類型です。
1.周知表示混同惹起行為
2.著名表示冒用行為
3.形態模倣商品の提供行為
4.営業秘密の侵害
6.技術的制限手段無効化装置等の提供行為
8.誤認惹起行為
特に営業秘密の侵害については罰則が重く、「10年以下の懲役」「2000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかが科されます(21条1項)。海外に営業秘密が流出した場合には、罰金が「3000万円以下」であり、より重くなります(21条3項)。
それ以外の類型の法定刑は「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです(21条2項)。
また、不正競争行為をした人が所属する法人にも、以下の刑罰が科されます(22条1項)。
- 21条3項違反(営業秘密侵害罪の海外重罰):10億円以下の罰金
- 21条1項違反(営業秘密侵害罪の一部) :5億円以下の罰金
- 21条2項違反(その他) :3億円以下の罰金
以上の通り、不正競争行為には、刑事上厳しい罰が予定されています。
刑事訴訟手続の特例について
営業秘密侵害罪の審理においては、営業秘密が裁判の場で明らかにならないようにするために、以下の特例が定められています。
- 秘匿対象となった事項を、別の呼称で表現する(23条4項)
- 起訴状朗読の際に、秘匿対象事項を明らかにしない(24条)
- 秘匿対象事項に関する尋問等を制限できる(25条)
- 公判期日外で証人尋問等ができる(26条)
- 証拠開示の際に、営業秘密を知られないように求められる(30条)
「刑事裁判の場で営業秘密が公開されるとまずい」とお考えの場合でも、以上の特例を利用すれば、営業秘密を隠しての裁判対応が可能です。
被害にあった場合は…
不正競争防止法違反の被害にあった場合には、証拠の保全や刑事告訴が重要になります。
もっとも、法律に詳しくない方が証拠を集めるのは簡単ではありません。証拠がなければ、警察が取り合ってくれない可能性が高いです。
不正競争防止法違反の被害にあった方は、弁護士にご相談ください。
弁護士は法律違反にあたるかを判断し、証拠の収集をサポートいたします。刑事告訴など警察とのやり取りもお任せください。
リード法律事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、数多くの刑事告訴を受理させてまいりました。営業秘密侵害罪での刑事告訴を受理させた実績もございます。(https://lead-law-office.com/keijikokuso/case/95/)不正競争防止法違反の被害に遭われた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
(参考)