最終更新日:2024.03.18
背任罪で刑事告訴するために必要な証拠とは?証拠保全が重要な理由
背任罪の被害に遭って刑事告訴をする際には、証拠が不可欠です。加害者本人の自白だけでなく、客観的な証拠も必要になります。証拠が不十分だと、警察に告訴を受理すらしてもらえません。
この記事では、背任罪で告訴をするために必要な証拠や他の法的手段について解説しています。背任の被害に遭われた方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
背任罪とは
背任罪とは、他人から職務を任された人が任務に背く行為をして、職務を任せた人に損害を与える犯罪です。
具体例としては以下が挙げられます。
- 銀行の融資担当者が、返済の見込みがないと知りながら融資を実行した
- 取引先への発注権限を有する社員が架空取引を計上し、会社に損害を与えた
- 友人のために会社の商品を勝手に値引きした
権限を与えて仕事を任せたのに、期待を裏切って従業員が自分自身や第三者のために行動し、会社に財産上の損害を加えたケースで成立します。
背任罪の刑罰は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。被害額が大きければ執行猶予がつかない実刑判決が下され、犯人が刑務所に収監されるケースもあります。
取締役など会社で重要な役割を果たす人が背任行為をした場合には、特別背任罪が成立します。刑罰は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかであり、通常の背任罪よりも大幅に重いです。
背任罪の概要や構成要件について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:背任罪・特別背任罪とは?構成要件や横領罪との違いなど、事例付きで解説
従業員の背任行為に気づいたら
従業員が背任行為をしたときは、会社として民事訴訟や刑事告訴といった法的手段をとれます。
会社が受けた損害を賠償してもらうために行うのが、民事上の損害賠償請求です。まずは交渉によって支払いを求め、応じないときに訴訟を提起するのが一般的な流れになります。もっとも、加害者が十分な財産を持っていなければ、勝訴判決を得てもお金を回収できません。背任行為に及ぶ加害者は、お金を持っていないケースが大半です。犯行の見返りとして金銭を得ていても、使い切ってしまっています。民事訴訟をしても、結果的に時間と費用の無駄になってしまう可能性が高いです。被害額が大きく一括払いが難しいときには、分割払いできないか話し合うなどして、できる限り支払ってもらうようにしましょう。
そこで有効なのが刑事告訴です。
刑事罰まで求めるときには、刑事告訴は、本来は刑事罰を求めるためにを行います。一般的に背任はバレないように行われる犯罪であり、被害者が申告しないと警察・検察には発覚しづらいです。刑事告訴をすれば捜査が進み、犯人に刑罰を科せる可能性が高まります。
加えて、刑事告訴によって加害者が刑罰をおそれ、示談するために損害賠償の支払いに応じてくれるケースも多いです。特に被害額が大きく実刑判決が予想されるケースでは、刑事告訴によって、刑務所に入るか、賠償金を支払って示談するかの究極の二択を迫れます。有罪判決がくだされて前科がつくのを避けるために、親族から借金をしてでもお金を用意して示談しようとする加害者もいます。
背任行為に及んだ従業員に対しては、民事訴訟も考えられますが、刑事告訴が特に効果的です。や刑事告訴の他にも、後述する懲戒処分ができます。十分に検討して、必要に応じた措置を講じましょう。
証拠収集が重要
いずれの手段をとるにせよ、証拠収集は不可欠です。
十分な証拠がなければ、被害があった事実を法律上証明できません。刑事告訴は受理してもらえませんし、民事訴訟をしても敗訴してしまいます。解雇をはじめとする懲戒処分も無効になります。
いくら会社が疑いを抱いていたとしても、証拠がないと法律上の措置はとれません。証拠隠滅を防ぐ必要もあるため、疑いが生じたらすぐに調査を開始し、証拠を収集するようにしてください。
刑事告訴時に必要な背任行為の証拠とは?
「証拠を集めてください」と言われても、何が証拠になるかわからない方は多いでしょう。
背任行為の証拠になり得るものとしては、たとえば以下が考えられます。
- 不正行為に用いられた書面(契約書、領収書など)
- 金銭の動きがわかる記録
- 共犯者などとのメールのやりとり
- 監視カメラの映像
- 同僚・取引先など関係者の証言
- 加害者本人が犯行を認めた書面(支払誓約書など)
これらはあくまで例であり、犯行態様によって証拠になるものはケースバイケースです。お困りであれば、弁護士に相談して、必要な証拠の種類や収集方法に関してアドバイスを受けるとよいでしょう。
証拠不十分だと告訴状を受理してもらえないケースも
「証拠は警察が集めてくれるのではないか」とお考えになる方もいるかもしれません。しかし、警察はなかなか告訴を受理すらしてくれないのが実情です。
警察は以下の理由で、告訴状の受理を拒んできます。
- あくまで社内の問題であり、警察は介入できない
- 犯行の証拠が足りない
- そもそも犯罪には該当しない
- 他の重大事件の処理で忙しい
証拠を集めるのは本来であれば捜査機関の仕事であり、被害者が訴えている以上、告訴を受理したうえで捜査を進めるべきです。ところが、実際には上記の理由でなかなか告訴を受理してくれません。
証拠がなければ警察が動いてくれない以上、被害者がある程度の証拠を集めて告訴状を作成する必要があります。
弁護士に依頼し、受理されやすい告訴状を作るのも効果的
警察を動かすには証拠が不可欠であるにしても、法律に詳しくない方が一から証拠を集め、告訴状を作成するのは大変です。そこで、弁護士に依頼して証拠収集や告訴状の作成を任せるのが効果的になります。
法律上、告訴の形式は指定されていません。理論上は口頭でも可能です。もっとも、実務上は告訴状の作成が要求されています。ただ書類を作ればよいわけではなく、犯罪が成立するとわかるように記載する必要があります。専門知識のない方が受理される告訴状を作成するのは難しいため、法律を熟知した弁護士に依頼するのが有効です。
依頼する際には、刑事告訴に強い弁護士を探すようにしてください。受理される告訴状を作成するには、被害者の視点からのノウハウが不可欠です。警察を説得する際にも、十分な刑事告訴の経験が必要になります。
刑事事件を多く扱っている弁護士であっても、ほとんどが加害者側しか扱っておらず、被害者側の弁護には精通していません。被害者に寄り添っている弁護士に相談し、証拠の収集や告訴状の作成、警察とのやりとりを任せるのが、告訴を成功させるためのポイントです。
刑事告訴は社内コンプライアンスの意識向上にも
刑事告訴には、加害者に刑罰を科せる、賠償金の支払いを促せるといったメリットがあります。加えて重要なのが、社内にコンプライアンスへの意識を植えつけられる点です。
告訴して会社として刑罰を求める姿勢を示せば、他の従業員は「不正行為に厳しい会社だ」「犯罪に手を染めてはならない」と考えるでしょう。刑罰まで求めるインパクトは強く、社内への強いメッセージになるはずです。
もちろん、民事上の損害賠償請求や懲戒処分でも、他の従業員に対して一定の抑止効果はあります。とはいえ、「処分が甘い」「なあなあで済ませた」と感じられてしまうケースもあるでしょう。刑事告訴の方が、コンプライアンスに関する断固たる意思を伝えられます。
告訴をすれば、対外的にも「会社ぐるみではない」「今後は不正を許さない」との姿勢を示せます。もちろんケースによってベストな方法は異なりますが、刑事告訴もひとつの選択肢としてご検討ください。
背任の証拠があれば、懲戒処分も可能
背任の証拠を揃えていれば、民事訴訟や刑事告訴の他に、解雇を含む懲戒処分もできます。背任という犯罪行為に及んでいると証拠から明らかであれば、解雇が妥当なケースが多いでしょう。
もっとも、証拠が足りず事実が明らかではないのに解雇してしまうと、従業員から解雇無効を主張されて激しい争いになる可能性があります。裁判所に解雇が無効だと判断されると、会社が未払い賃金など多額の支払いを強いられてしまいます。必ず証拠を十分に集めたうえで、処分を検討するようにしてください。
また、加害者本人の言い分を聞くのも重要です。認めるか否かにかかわらず、証拠を集めた後で本人に事情聴取して弁明の機会を与え、言い分を記録に残しておきましょう。
背任の証拠があれば懲戒処分ができますが、手続きは慎重に進めるようにしてください。
証拠が手元になければ弁護士にアドバイスをもらう
現実には、背任の疑いがあっても証拠がないケースや、そもそも何が証拠になるかわからないケースもあるでしょう。証拠が手元にないときは、弁護士に相談してアドバイスを受けるのが効果的です。
弁護士に相談すれば、ケースに応じて証拠になり得るものや収集方法がわかります。あわせて、考えられる法的手段やとるべき方針についても意見を聞けます。アドバイスを受けることで、証拠を隠滅される、先走って懲戒解雇をしてトラブルになるといった事態を防げる点もメリットです。
「疑いが生じたが証拠はない」「そもそも犯罪になるかすらわからない」といった場合でも、遠慮せずにご相談ください。
背任に気づいたら弁護士に相談
ここまで、背任罪で告訴するために必要な証拠や、会社としてとれる方法などについて解説してきました。背任の証拠になるものはケースバイケースですが、早めに調査を進めて証拠を保全したうえで、刑事告訴などの対処法を検討するようにしましょう。
背任の被害に気がついた方は、リード法律事務所までご相談ください。
当事務所では、犯罪被害者の方々から依頼を受け、背任罪も含め数多くの刑事告訴を受理させてまいりました。方針の決定から証拠収集、告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉まで徹底的にサポートいたします。
手元に十分な証拠がなくても構いません。被害に遭われた方は、まずはお気軽にお問い合わせください。