背任の被害にあったら

最終更新日:2024.03.22

従業員の背任行為に対する対処法を解説|懲戒処分の注意点

従業員が架空取引の計上や勝手な値引きなどをしていたときには、背任罪に該当する可能性があります。

背任罪を犯した従業員への対処法として考えられるのは、民事上の損害賠償請求、刑事告訴、社内での懲戒処分などです。対処方法を誤ると当該従業員から強い反発を受けてトラブルが拡大するおそれがあるため、慎重に進めなければなりません。

この記事では、従業員による背任行為の事例、背任を行った従業員への対処法、懲戒処分をする際の注意点などについて解説しています。従業員による背任被害に遭ってお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。

従業員による背任行為の事例

従業員による背任行為の事例としては、以下が挙げられます。

  • 銀行の融資担当者が、返済の見込みがないと知りながら融資を実行した
  • 取引先への発注権限がある従業員が実態のない架空取引を計上し、会社に損害を与えた
  • 親族や友人のために、会社の商品を勝手に値引きした

背任罪は、他人から職務を任された人が任務に背く行為をして、職務を任せた人に損害を与える犯罪です(刑法247条)。条文上、背任罪の成立要件は以下の4つです。

①「他人のためにその事務を処理する者」

②「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」(図利加害目的)

③「任務に背く行為」

④「本人に財産上の損害を加えた」

条文の文言だけ見てもイメージが湧きづらいかと思いますので、銀行の融資担当者が返済の見込みがない融資をした事例に即して、簡単に解説します。

①融資担当者は銀行から融資判断を任されているため、「他人のためにその事務を処理する者」に該当します。

②担当者が返済の見込みがないと知っていたのに、相手のために融資の実行を決めていれば「第三者の利益を図る目的」が認められます。純粋に会社の利益になると考えて行っていれば、背任罪は成立しません。背任罪では、加害者の心の中に図利加害目的があったかが争いになるケースが多いです。

③融資担当者は、返済の見込みを十分に考慮して融資の可否を決定することを銀行から求められています。したがって、返済見込みがないと知りつつ貸付けをする行為は「任務に背く行為」です。

④銀行が融資先から事実上お金を回収できない状態であれば、「本人に財産上の損害を加えた」といえます。なお、背任罪は未遂でも処罰対象であるため、財産上の損害が発生していなくても背任未遂罪(刑法250条)は成立し得ます。

背任罪の構成要件について詳しくは、以下の記事を参照してください。

参考記事:背任罪・特別背任罪とは?構成要件や横領罪との違いなど、事例付きで解説

業務上横領との違い

背任と似た犯罪が横領(従業員がしたときには業務上横領)です。いずれも「他人から委託を受けた人が委託者からの信頼を裏切る犯罪」にあたります。

横領は、他人から管理を任された財産を自分の物にする犯罪です。従業員による業務上横領の例としては、以下が挙げられます。

  • 経理担当者が、会社の預金口座から自己名義の口座に振り込みをした
  • 集金担当者が、取引先から回収したお金を自分の懐に入れた
  • 店舗責任者が、売上額を少なめに申告して差額を着服した

ケースによっては、背任と横領の区別は難しいです。判例では、経済的な効果が会社に帰属する場合には背任、加害者に帰属する場合には横領という区別がなされています。

たとえば、商品を勝手に値引きするケースでは、会社が経済的損失を受ける一方で加害者自身に経済的利益は帰属しないため背任です。取引先から回収したお金を着服するケースでは、金銭が加害者の懐に入り経済的利益を受けるため業務上横領になります。

現実には、法律に詳しくないと区別できない場合も多いでしょう。詐欺や窃盗といった他の犯罪が成立するケースもあります。どの犯罪が成立しそうか判断できていなくても構いませんので、被害を受けたら弁護士にご相談ください。

背任行為を行った従業員への対処法

背任行為を行った従業員に対しては、主に以下の3つの対処法があります。

  • 民事上の損害賠償請求
  • 刑事告訴
  • 社内での懲戒処分

これらは一部だけ行っても、すべて実行しても構いません。特に有効なのが刑事告訴です。順に詳しく解説します。

民事訴訟(損害賠償請求)

会社が受けた損害を取り返すためには、加害者である従業員に対して民事上の損害賠償請求を行います。

通常は、最初は話し合いで支払いを求め、応じなければ訴訟を提起するという流れになります。

被害額が大きければ、従業員が支払えないケースがほとんどです。一括払いが難しければ、分割でも支払いができないか交渉してみましょう。

「給与から天引きできないか?」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、給与から損害賠償を天引きするのは労働基準法により禁止されています。例外的に同意を得れば可能とされますが、同意の有無が争いになりやすく、確実な方法とはいえません。

そもそも背任行為に及ぶ加害者は、十分なお金を持っていないケースが大半です。犯行の見返りとして金銭を得ていても、多くは使い切ってしまっています。民事訴訟をして勝訴判決を得ても、相手に財産がなければお金を回収できません。結果的に時間と費用を無駄にしてしまう可能性が高いです。

損害を賠償してもらえる確率を高めるには、民事訴訟よりも次に紹介する刑事告訴を行うとよいでしょう。

いずれにせよ、従業員が現在お金を持っておらず、今後十分に得られる見込みもないケースは多いです。請求しても実際にはお金を受け取れない可能性がある点は認識しておいてください。

刑事告訴

背任の加害者に対しては、刑事告訴により刑罰を求めるのが効果的です。方法もあります。

背任罪で法律上科せる刑罰は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。被害額が大きいと、執行猶予がつかない実刑判決になるケースもあります。

また、単なる従業員ではなく、取締役など重要な立場にある人が背任行為をすると、特別背任罪が成立します。刑罰は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかであり、通常の背任罪より大幅に重いです。

刑事告訴をすれば、こうした刑罰を加害者に科せる可能性が高まります。

加えて、加害者が刑罰を科されるのをおそれ、民事上の損害賠償を支払ってくれるケースも多いです。特に被害額が大きく実刑判決が予想されるケースでは、刑事告訴によって、刑務所に入るか、賠償金を支払って示談するかの究極の二択を迫れます。有罪判決がくだされて前科がつくのを避けるために、親族から借金をしてでもお金を用意して示談しようとする加害者もいます。

刑事処分を求めるためだけでなく、お金を支払ってもらうためにも、刑事告訴は非常に有効な手段です。

告訴をする際には、会社から捜査機関に対し、証拠や告訴状を提出します。もっとも、「証拠が足りない」「そもそも犯罪にならない」「民事不介入」といった理由をつけられて告訴を受理してもらえないケースが非常に多いです。受理される可能性を上げるには、刑事告訴に強い弁護士に相談・依頼しましょう。

告訴は刑事処分を求めるために行うものですが、加害者が刑罰を科されるのをおそれ、民事上の損害賠償を支払ってくれるケースもあります。請求しても応じてくれないときには、刑事告訴が有効な手段です。

懲戒処分

社内での懲戒処分も検討しましょう。懲戒処分をすれば、本人に制裁を加えられるとともに、他の従業員に対しても不正行為への厳しい姿勢を示せます。

就業規則に規定された懲戒処分の中から検討しますが、一般的には以下の処分があります。

  • けん責・戒告
  • 減給
  • 出勤停止
  • 降格
  • 懲戒解雇

犯罪に該当するときには、懲戒解雇が妥当な場合が多いでしょう。もっとも、適切な手続きを踏まずに懲戒解雇をすると、解雇無効を主張されるリスクがあります。詳しくは次の項目で解説します。

従業員を背任行為で懲戒処分する際の注意点

従業員に背任行為があった際には、懲戒処分が可能です。もっとも、注意深く進めないと、証拠を隠滅されて責任を追及できなくなったり、解雇無効を主張されたりするリスクがあります。

懲戒処分をするまでの過程では、以下の点に注意してください。

すぐに調査する

背任の疑いが生じたときには、すぐに調査して証拠を集めるようにしてください。そもそも証拠がないと責任を追及できないのはもちろん、加害者に時間を与えると証拠隠滅に走るおそれがあるためです。

まずは客観的な証拠が重要です。契約書や領収書などの書類、金の動きがわかる預金通帳やデータ、関係者とのメールなどが考えられます。同僚や関係者からの事情聴取も有効ですが、共犯者に調査の事実が伝わると証拠を隠滅されてしまうため注意してください。

証拠がそろったら、本人に事情聴取します。認めるか否かにかかわらず、話した内容は記録にとっておきましょう。

調査は懲戒処分のみならず、民事上の損害賠償請求や刑事告訴をするためにも不可欠です。迅速かつ確実に進めるようにしましょう。

懲戒権の濫用・不当解雇に注意

懲戒権を濫用して、重すぎる処分を下さないようにしてください。

特に懲戒解雇をする場合には注意が必要です。懲戒解雇は労働契約を一方的に終了させる厳しい処分であり、他の処分と比べて無効と判断されやすいです。懲戒解雇の有効性を裁判で争われ、万が一無効だと判断されると、その時点までの未払い賃金など多額の支払いを命じられてしまいます。

たしかに、背任という犯罪に該当する行為がなされていれば、懲戒解雇が妥当なケースは多いです。しかし、被害額があまりに少なく現実には刑罰の対象になり得ない、会社のために実行したためそもそも犯罪に該当しないといった可能性もあります。「絶対に解雇だ」と決めつけないようにしてください。

懲戒処分は、重すぎても軽すぎてもいけません。妥当な処分がわからなければ、弁護士への相談をオススメします。

就業規則を確認する

処分を下す前に、就業規則の懲戒に関する定めを確認してください。

そもそも懲戒事由に該当しないときや、実行しようとしている処分が就業規則に記載されていないときには、懲戒処分はできません。通常は問題ないケースが多いですが、念のため確認しましょう。

他にも、事情聴取をして弁明の機会を与えるなど、手続き面も大事にして進めてください。適正な手続きを踏んで処分をしないと、裁判になった際に問題視される可能性があります。「事実は明らかだから手続きはいい加減でいいだろう」と軽く考えないようにしてください。

従業員の背任行為について弁護士に相談するメリット

従業員が背任行為に及んだ際には、弁護士にご相談ください。

弁護士に相談すると以下のメリットがあります。

的確なアドバイスのもと対処できる

弁護士に聞けば、対処方針に関する的確なアドバイスを受けられます。

紹介した対処法のうち、いずれをとるべきかはケースバイケースです。賠償金の支払いと引き換えにさえ受けられれば穏便にすませるケースもあれば、告訴して刑事処分を求めるケースもあります。

いかなる方針をとるべきか、具体的にどう進めればよいかなど、背任行為に及んだ従業員への対処に関する悩みは尽きないでしょう。疑問点を弁護士にぶつければ、法律上問題が生じない範囲でできる対処法がわかります。

証拠収集や証拠の保全をスムーズに行える

証拠収集・保全に関するアドバイスも受けられます。

前述の通り、いずれの対処法をとるにせよ、証拠は不可欠です。弁護士に相談すれば、何が証拠になるか、どのように集めればいいかがわかります。対応が遅れてデータが消えたり、加害者に隠滅されたりするリスクを回避できます。

「証拠を集めてください」と言われても、慣れていない方にとっては難しいでしょう。弁護士の力を借りるのが得策です。

刑事告訴・民事訴訟も依頼できる

弁護士には、懲戒処分に関してだけでなく、刑事告訴や民事訴訟の相談・依頼もできます。

被害を受けた方にとっては、いかに被害を回復するかが大きな関心事でしょう。しかし、ご自身で法律上の手続きをするのは負担が大きいです。プロである弁護士に任せれば、余計な時間をとられずに、かつ安心して手続きを進めてもらえます。

ただし、刑事告訴に関しては、専門にしている弁護士が少ないです。ノウハウがないと、弁護士に依頼しても告訴を受理してもらえないおそれがあります。被害者側の弁護に精通している弁護士を探して相談・依頼するようにしましょう。

まとめ

ここまで、背任罪を犯した従業員への対処法について解説してきました。

不正融資、架空取引の計上、勝手な値引きなどは、背任罪に該当する可能性があります。背任が疑われる際には、証拠を集めたうえで、民事上の損害賠償請求、刑事告訴、懲戒処分を検討します。いずれにしても、法律上問題が生じないように進めなければなりません。ただし、民事訴訟をしても金銭を回収できないケースが多いです。お金を支払ってもらうためには、民事訴訟よりも刑事告訴が有効といえます。

従業員による背任の被害を受けて対処法にお悩みの方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所では、犯罪被害者の方々から依頼を受け、背任罪も含め数多くの刑事告訴を受理させてまいりました。方針の決定から証拠収集、告訴状の作成、警察とのやりとり、加害者との交渉まで徹底的にサポートいたします。もちろん、従業員への民事上の損害賠償請求もお任せいただけます。

従業員による背任の被害にお困りの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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