背任の被害にあったら

最終更新日:2024.01.05

特別背任罪とは?構成要件・罰則や対象者、事例を紹介

取締役など会社で重要な役割を担う人が会社の任務に背く行為をした場合には、特別背任罪が成立します。通常の背任罪よりも刑罰が重く、刑事告訴をすれば実刑判決がくだされる可能性も十分にある重大犯罪です。

この記事では、特別背任罪の構成要件や対象者、事例などについて解説しています。被害に遭われて刑事告訴を検討されている会社関係者の方は、ぜひ最後までお読みください。

特別背任罪とは?

特別背任罪とは、取締役など会社において重要な役割を担っている人が、会社の任務に背く行為をした際に成立する犯罪です。会社法960条に定められています。

次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

刑罰は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。通常の背任罪は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」であり、大幅に重くなっています。

刑罰が重いのは、取締役などによる背任行為は一般の従業員の場合と比べて止めるのが難しく、会社に与える損害が大きくなりやすいためです。刑事告訴をして裁判になれば、犯人に実刑判決がくだされて刑務所に入る可能性も十分にあります。

公訴時効期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。重大な犯罪ですが、犯行から7年経過した後は、起訴して刑事裁判にかけることができません。証拠がなくなってしまう点も考慮すると、犯人に刑罰を科したいのであれば早めに動く必要があります。

特別背任罪の構成要件

特別背任罪は、以下の要件を満たすと成立します。①以外の要件は、通常の背任罪とほぼ変わりません。

①会社において法律上規定された立場にある

加害者が、取締役など会社法960条に挙げられている立場にあるのが前提です。具体的に誰が対象になるかは、次の項目で解説します。

②図利加害目的を有している

「自己・第三者の利益を図る目的」か「会社に損害を加える目的」を有している必要があります。会社のために行動をして、結果的に失敗した場合は該当しません。自己・第三者と会社のいずれの利益も図っていた場合には、どちらがメインかで判断します。

③任務に背く行為をした

会社から職務を任されていた者として、法的に期待された役割を果たさないことです。期待される行為のレベルは、法令、定款、内規、契約などから判断されます。典型的なのは、銀行の頭取が、回収できる見込みのない融資を決定するケースです。

④会社に財産上の損害を与えた

財産を失った場合に加えて、将来得られるはずであった利益を得られなくなった場合も含みます。法的に権利を有していても実際に権利行使が不可能なケースでは、経済的に損害を与えたといえます。

特別背任罪は未遂でも処罰対象です(会社法962条)。①~③を満たし、④だけ満たさない場合には未遂罪が成立します。

特別背任罪の対象者

特別背任罪の対象者(加害者になる人)は、会社法960条1項各号に定められています。

具体的には、会社において以下の立場にある人が対象です。

  • 発起人(1号)
  • 設立時取締役、設立時監査役(2号)
  • 取締役、会計参与、監査役、執行役(3号)
  • 仮処分命令により選任され、役員(取締役、監査役、執行役)の職務を代行している人(4号)
  • 役員が欠けたために会社法346条2項等により選任され、一時的に役員(取締役、会計参与、監査役、代表取締役、指名委員会等の委員、執行役、代表執行役)の職務を行っている人(5号)
  • 支配人(6号)
  • 事業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人(7号)
  • 検査役(8号)

これらの人が、会社の任務に背く行為をした場合には、特別背任罪が成立します。いずれも、会社において重要な役割を担う人です。

なお、条文に挙げられている地位になくても、共犯者として罰せられるケースもあります。

たとえば不正融資の相手方は、法律上は特別背任罪の主体ではありません。しかし、融資する側の銀行への背任行為であると認識したうえで、不正融資の相手方が積極的に融資実現のために加担したケースで、特別背任罪の共同正犯とされました(最高裁平成20年5月19日決定)。

特別背任罪と背任罪の違い

特別背任罪と背任罪の違いを表にまとめると、以下の通りです。

背任罪特別背任罪
行為者他人のために事務を処理する者(一般の従業員など)会社で重要な立場にある者(取締役など)
刑罰「5年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」「10年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」または「その両方」
公訴時効期間5年7年

刑罰に大きな違いがあります。なお、行為者以外の成立要件はほぼ同じです。

詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

参考記事:背任罪・特別背任罪とは?構成要件や横領罪との違いなど、事例付きで解説

特別背任罪にあたるケース

特別背任罪が成立する代表的なケースとしては、不正融資、不正取引、粉飾決算が挙げられます。

以下の4つの要件を満たすことを確認しながら、特別背任罪に該当するケースを解説します。

①会社において法律上規定された立場にある

②図利加害目的を有している

③任務に背く行為をした

④会社に財産上の損害を与えた

不正融資

金融機関による不正融資は典型的な事例です。

X銀行の頭取Aが、友人が経営するB社への融資を決定した事例。B社は倒産寸前で融資を回収できる見込みはほとんどなかった。AがB社への融資を決めたのは、友人を救うためである。結果的にB社は倒産し、融資は回収できなかった。

①Aは頭取であり、取締役です。

②Aが融資したのは、友人が経営するB社を立て直すためであり、第三者の利益を図る目的といえます。

③回収の見込みがまったくない相手への融資は、銀行の取締役として職務上許されないため、背任行為です。

④X銀行はB社から債権を回収できなくなっており、損害を受けています。

このケースでは、特別背任罪に該当するのは明らかです。

実際には、多少のリスクを負ってでも融資を決めるケースはあります。不正の意図がなく、純粋に会社の利益になると考えて融資をした場合には、特別背任罪は成立しません。

不正取引

架空請求など、不正取引が特別背任に該当するケースもあります。

Y社の取締役Cが、取引先のD社から依頼を受けて、架空の発注を繰り返した事例。D社はCに対して豪華な接待を行い、見返りとして架空の発注をしてY社から金銭を支払うように要求した。Cは要求に応じ、会社から与えられた権限を利用して架空の契約をY社とD社との間で締結し、D社に継続的に金銭を支払った。

①Cは、特別背任の主体になる取締役です。

②CはD社に便宜を図るとともに、自分は接待を受け続けようとしていたため、自己・第三者の利益を図る目的があります。

③実態のない契約を結ぶことは、Y社から任された職務に反する行為です。

④Y社には、不必要な出費を強いられ損害が生じています。

したがって、Cには特別背任罪が成立します。

架空請求のほかにも、取引に際してキックバックを受け取っていたケースなど、不正取引の形態は様々です。

粉飾決算

粉飾決算が特別背任に該当するケースもあります。

Z社が架空の売上を計上し、赤字なのに利益があるように装って、法律上できないはずの株主への配当(蛸配当)を出した事例。代表取締役社長のEは、赤字だと判明すると経営能力がないとみなされて面目が立たないと考え、粉飾決算の実行を決めた。

①EはZ社の代表取締役です。

②Eが粉飾決算をしたのは、社長としての面目を保つためでした。財産的な利益を目的としていなくても、面目維持の目的が図利加害目的に該当するとされています。

③不正な会計処理は法令上認められておらず、法令を遵守すべき取締役としては任務に背く行為といえます。

④配当ができる状況でないのに配当を株主に支払っており、会社から財産が流出している点が損害です。

したがって、Eは特別背任罪に問われます。

なお、会社の利益のために行っていて特別背任に該当しなくても、法令・定款に反して配当を出すことは会社法963条5項2号違反です。「5年以下の懲役」「500万円以下の罰金」「その両方」のいずれかが科されます。

業務上横領罪になるケース

特別背任罪と似た犯罪として、業務上横領罪があります。

業務上横領罪とは、業務上預かっている他人の財産を、自分の物にする犯罪です。役員などが会社の資金を使い込んでいたケースでは、業務上横領罪が成立します。法定刑は「10年以下の懲役」です。

背任と横領は、違いがわかりづらいかもしれません。判例上は、経済的な効果が会社に帰属する場合には背任、加害者に帰属する場合には横領と区別されています。

不正融資の際には、会社に経済的効果が帰属するため背任です。会社の金銭を使い込むときには、加害者本人に経済的な効果がもたらされるため、業務上横領罪となります。

特別背任罪で刑事告訴するには

特別背任罪は会社に大きな損害を与える悪質な犯罪であり、刑事告訴も可能です。

告訴をするには、証拠を揃えたうえで告訴状を作成し、警察に提出します。しかし、警察が受理してくれないケースは多いです。理由としては以下が挙げられます。

  • 犯罪にあたらない(と勘違いしている)
  • 証拠が足りない
  • 社内で解決して欲しい
  • 他の事件処理で忙しい

捜査をするのが警察の仕事である以上、いずれも不適切な理由です。しかし、告訴を受理してもらえなければ捜査の進展は期待できません。

告訴を希望している場合には、弁護士に相談するとスムーズです。証拠を確保するのが難しく、成立要件が複雑な特別背任罪では、弁護士に証拠収集や告訴状の作成を任せるのがよいでしょう。

刑事告発することも可能

特別背任の事実を知った際には、刑事告発も可能です。

刑事告発は、被害者ではない第三者が犯罪事実を捜査機関に申告し、犯人の処罰を求める意思を示すことです。告訴ができるのは被害者だけですが、告発は誰でもできます。

「親告罪」に該当する犯罪では、起訴するために被害者による告訴が不可欠です。特別背任罪は親告罪ではありませんので、第三者による告発でも構いません。

告発であっても告訴と同様に、警察から検察に事件が送られ、捜査を進めてもらえます。

ただし、告発もなかなか受理してもらえません。弁護士に依頼して告発状を作成してもらうようにしましょう。

特別背任罪に関するよくある質問

特別背任罪に関してよく受ける質問をまとめました。

特別背任罪は親告罪?

特別背任罪は親告罪ではありません。

親告罪とは、起訴して刑事裁判にかけるのに、被害者による告訴が必須となる犯罪です。名誉毀損罪や器物損壊罪などが親告罪に該当します。

特別背任罪は非親告罪です。告訴をしなくても警察・検察が捜査を進め、処罰がくだされる可能性があります。

もっとも、背任は密かに行われる犯罪であり、通常は捜査機関に発覚しづらいです。処罰を求めるのであれば、告訴するのがよいでしょう。

なお、告訴して捜査が進んだとしても、不起訴処分になる可能性があります。特に会社と加害者が示談したケースでは、不起訴になりやすいです。

特別背任罪は必ず実刑になる?

特別背任罪は重大な犯罪ですが、実刑判決になるとは限りません。

特別背任罪の法定刑は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。3年以下の懲役になれば、執行猶予がつく可能性があります。執行猶予がつけば、加害者が期間中に再度犯罪をして有罪判決を受けない限り、刑務所に入ることはありません。

実刑になるか執行猶予になるかは、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。

  • 会社が受けた損害額
  • 行為の態様(期間、回数など)
  • 悪質性(計画性、巧妙さ)
  • 動機
  • 加害者の立場
  • 被害弁償の有無・程度

実刑になるか執行猶予になるかはケースバイケースです。見通しを知りたければ、弁護士に相談するとよいでしょう。

まとめ

ここまで、特別背任罪について、構成要件、罰則、事例などについて解説してきました。

取締役など会社において重要な地位にある人が任務に背く行為をすれば、特別背任罪が成立します。通常の背任罪と比べて刑罰が重いです。例としては不正融資などが挙げられますが、成否が微妙で立証が困難なケースも多いです。

特別背任の被害に遭った会社関係者の方は、リード法律事務所までご相談ください。

当事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまで、告訴に関して徹底的にサポートいたします。

被害に遭って告訴すべきか悩んでいる、警察に取り合ってもらえず困っているといった方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

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