背任の被害にあったら

最終更新日:2023.07.03

背任罪・特別背任罪とは?構成要件や横領罪との違いなど、事例付きで解説

背任罪は、他人から職務を任された人が、その任務に背く行為をして職務を任せた人に損害を与える犯罪です。たとえば、銀行員が返済の見込みがないと知りつつ融資をする行為が、背任罪に該当します。会社の役員などが犯すと、特別背任罪が成立して刑が重くなります。

背任罪は横領罪と似た側面があり、区別が少し難しいです。日常生活で耳にする機会が少ない犯罪であり、イメージが湧きづらいかもしれません。

この記事では、背任罪・特別背任罪の構成要件や横領罪との違いなどについて、事例を交えて紹介しています。

背任罪・特別背任罪とは

背任罪は、他人から職務を任された人が、任務に背く行為をして職務を任せた人に損害を与える犯罪です(刑法247条)。背任罪を犯した人には「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。

会社の取締役などが背任行為をした場合には、より刑が重い特別背任罪が成立します(会社法960条)。特別背任罪の刑罰は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」「その両方」のいずれかです。

以下で、背任罪・特別背任罪の構成要件や両者の違いを詳しく解説します。

背任罪の構成要件

背任罪は刑法247条に定められています。

刑法247条他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

条文によると、背任罪が成立する要件は以下の4つです。

  • 「他人のためにその事務を処理する者」であった
  • 「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」(図利加害目的)があった
  • 「任務に背く行為」をした
  • 「本人に財産上の損害を加えた」

それぞれの要件について詳しく見ていきます。

「他人のためにその事務を処理する者」であった

背任罪の犯人になり得るのは、他の個人・法人から何らかの事務を任された人です。たとえば、会社から融資判断を任されている銀行員は「他人のためにその事務を処理する者」に該当します。

ただし「事務」は財産的なものに限るとされています。単純なデータ入力のみを任されているに過ぎないときには「事務」に該当しません。

また、「他人の」事務である必要があるため、プライベート上の売買契約に基づく代金支払い義務など、自己の事務を怠ったに過ぎないときにも背任罪は成立しません。民事上の債務不履行責任を負うだけです。

図利加害目的があった

「自己若しくは第三者の利益を図る目的」または「本人に損害を加える目的」があることも、背任罪が成立する要件です。

反対にいうと、職務を任せた本人(他人)のためにしたつもりであれば、結果として損害が生じても背任罪は成立しません。純粋に会社の利益になると信じてした判断であれば、たとえ間違っていたとしても、背任罪には問われないのです。

「利益」には、財産上の利益だけでなく、社会的信用や面目維持といったものも含まれます。

自己・第三者の利益と本人の利益をいずれも目的としていたときには、どちらが主な目的であったかで図利加害目的の有無が判断されます。

「任務に背く行為」をした

「任務に背く行為」(背任行為)とは、その事務を任された者として法的に期待される行いに反することです。どの程度の行為が期待されるかは法令、内規、契約など様々な要素から決定されます。

「任務に背く行為」に該当する典型例としては、銀行員が返済見込みがないと知りつつも、友人の会社に貸し付けをしたケースが挙げられます。

「本人に財産上の損害を加えた」

事務を委託した本人(他人)に財産上の損害があったことも、背任罪の成立要件です。財産が減少した場合だけでなく、本来得られるはずの財産が得られなかった場合も含みます。

不良貸付の場合、法律上は銀行から貸付先に返還を求める権利はあるものの、実際に回収はできないため経済的に見れば権利は無価値であり、損害が認められます。

なお、背任罪は未遂でも処罰対象です。本人に財産上の損害がない場合でも、背任未遂罪(刑法250条)が成立し得ます。

特別背任罪の構成要件

特別背任罪は、会社の役員など一定の権限がある人が背任行為をしたときに成立する犯罪です。

会社法960条に規定があります。

会社法960条1項柱書次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

特別背任罪の構成要件は、背任罪とほぼ同じです。

すなわち、

  • 図利加害目的
  • 任務に背く行為
  • 株式会社に財産上の損害を加えた

ことが要件となっています。

背任罪と異なるのは、犯人になり得る人が会社の役員などに限定されている点です。

たとえば、以下の人が背任行為をすると特別背任罪が成立し得ます。

  • 発起人
  • 設立時取締役、設立時監査役
  • 取締役、会計参与、監査役、執行役

特別背任罪の構成要件は背任罪と似ていますが、主体が異なると覚えておきましょう。

背任罪・特別背任罪の違い

背任罪と特別背任罪は、行為者以外にも、刑罰や公訴時効期間が異なります。

表にまとめると以下の通りです。

背任罪特別背任罪
行為者他人のために事務を処理する者会社役員など権限が強い者
刑罰5年以下の懲役または50万円以下の罰金10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれらの両方
公訴時効期間5年7年

背任罪と似ている罪

背任罪は横領罪・業務上横領罪や詐欺罪と似ている側面があります。特に横領罪・業務上横領罪とは重なっている部分が多く、区別が難しいケースも見受けられます。

横領罪とは、他人から管理を任された財物を自分の物にする犯罪です(刑法252条)。いわゆる着服をイメージするとわかりやすいでしょう。横領罪を犯すと「5年以下の懲役」が科されます。

業務上管理を任されていた財物を自分の物にすると業務上横領罪が成立し、「10年以下の懲役」と刑罰が重くなります。

業務上横領罪と背任罪の違い

横領罪・業務上横領罪と背任罪は、いずれも「他人から委託を受けた人が信頼を裏切る犯罪」です。

両者の違いは、まず、横領罪は「財物」への被害にしか成立しないのに対して、背任罪は「財産上の利益」を失わせた場合にも成立する点です。

お金や物が失われていないと、横領罪は成立しません。会社の権利が損なわれるなど「財産上の利益」に損害があったときには、背任罪の成否が問題になります。

財物を不正に流出させたケースにおいては、両者の区別が特に問題です。

判例においては、経済的な効果が会社に帰属する場合には背任、加害者に帰属する場合には横領という区別がなされています。

これによると、不正融資の場合には、会社が経済的損失を受ける一方で加害者自身に経済的利益は帰属しないため、背任になります。対して着服の場合には、財物が加害者自身のものになって経済的利益を受けるため、横領です。

法定刑も違いのひとつです。

横領・背任と業務上横領・特別背任では、それぞれ懲役の上限は5年、10年と同じですが、罰金の選択肢がある背任・特別背任の方が軽い罪と扱われます。

横領・背任のいずれの要件にも該当しそうなケースでは、より重い犯罪である横領の成否を先に検討します。横領罪の構成要件を満たすときには横領罪のみが成立し、背任罪は成立しません。したがって、まずは横領が成立するかを検討して、横領が成立しない場合に背任の成否を判断するという流れになります。

詐欺罪と背任罪の違い

詐欺罪は、他人をだまして財物を交付させる犯罪です。本人(会社)を欺く行為があり、本人がだまされて財物を渡したのであれば、詐欺罪となります。

不正融資では、会社から加害者に財物を交付させているわけではないので、詐欺罪には該当しません。

なお、詐欺罪は横領罪とは異なり、財産上の利益に対しても成立します。

詐欺罪と背任罪の区別が問題になるのは、他人の事務処理を任された人が、本人を欺いて財物や利益を交付させたケースです。たとえば、生命保険会社の外交員が、保険の対象になる人が健康であると偽って契約し、会社から報酬を得たケースがあります。判例においては、このケースでは詐欺罪のみが成立するとされました。

背任罪の事例

背任罪についてのイメージをつけていただくために、成立すると判断された事例をご紹介します。

背任罪事例①返済困難であるのに公務員が貸付を実行した事例

県の副知事らが、既に14億円余りの貸付を受けながら資金不足であった協業組合に対して、県議会の議決を経ずに追加で10億円余りの貸付を実行し、回収不能となった事例です(高松高裁平成17年7月12日判決)。

地方公共団体も背任罪の被害者になりえます。この事例では、不適切な公的融資によって県に損害を与えたとして、公務員が背任罪に問われました。公務員自身が利益を得ていないとしても、第三者の協業組合の利益のために不正な融資がなされて県に損害が生じているため、背任罪が問題になります。

被告人側は任務違背の認識や図利加害目的がないと主張しましたが、1年6月~2年2月の実刑判決を言い渡されています。

背任罪事例②二重に抵当権を設定した事例

Aが自己所有の不動産について、Bに対して根抵当権を設定したものの登記をせず、Cに対して根抵当権を設定して先に登記をした事例です(最高裁昭和31年12月7日判決)。

Aには抵当権の設定登記に協力する義務がありますが、これが背任罪の「他人の事務」に該当するかが問題となりました。Aは「自己の事務であり他人の事務ではないため、背任罪は成立しない」と主張しました。

判決では、登記に協力する義務は主としてBのために負っていると判断されています。したがって「他人の事務」にあたり、背任罪が成立するとの結論になりました。

特別背任罪の事例

続いて、特別背任罪の事例も紹介します。特別背任罪には、大企業が関係する有名な事例が数多くあります。

特別背任罪事例①拓銀特別背任事件

銀行の代表取締役頭取であった被告人が、実質的に倒産状態にある融資先企業グループ各社に対し、再建・整理計画もないのに赤字補てん資金を実質無担保で追加融資した事案です(最高裁平成21年11月9日決定)。

被告人は、融資が高度な経営判断に基づくものであることなどを理由に、背任行為がなかったと主張しました。

しかし裁判所は、銀行が融資する際には経営判断の余地は限定され、本件の事情のもとでは融資判断は合理性を欠いていると判断しました。結果として被告人には、懲役2年6月の実刑判決がくだされています。

たしかに経営にはリスクがつきものであり、経営者には方針決定に際して裁量が認められます。とはいえ、あまりに合理性を欠く判断は会社から期待された職務遂行とはいえず、特別背任罪が成立すると判断されるでしょう。

特別背任罪事例②カルロス・ゴーン事件

日産自動車の会長であった被告人が、私的な取引で評価損が生じた契約を会社に付け替えました。その後、自身の資産管理会社に契約を戻す際に信用保証をしてくれた知人に、謝礼として子会社から資金を送金したとされる事例です。

損失の付け替えや友人に対する謝礼が、会社に経済的な損害を与える背任行為に該当するとして、起訴されました。

一見すると、業務上横領罪に該当しそうにも思えます。しかし、損失の付け替えは契約上の権利という財産上の利益の問題であり、財物のみを対象にする横領には該当しません。友人に対する謝礼については、被告人ではなく会社に経済的効果が帰属するため特別背任罪に問われたと考えられます。

被告人は争う姿勢を見せていましたが、保釈中に海外へと逃亡し、裁判は進んでいません。

背任の疑いがあるときはリード法律事務所にご相談を

ここまで、背任罪・特別背任罪について、構成要件や横領罪との違いなどについて解説してきました。背任罪は成否が微妙で立証が困難なケースも見受けられ、刑事告訴がスムーズに受理されない可能性があります。

背任の被害が疑われるときには、リード法律事務所までご相談ください。当事務所では、被害者の方々からご依頼を受け、刑事告訴を数多く受理させてまいりました。弁護士をつければ、証拠収集や警察とのやりとりをお任せいただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

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