最終更新日:2023.12.15
従業員の違法キックバック・違法リベートは背任罪で刑事告訴できる?
「従業員が取引先から違法にキックバック(リベート)を受け取っていた」とお悩みでしょうか?
本来、キックバック・リベートは違法ではありません。もっとも、会社の知らないうちに従業員が受け取っていた場合には、背任罪や詐欺罪が成立し得ます。懲戒解雇や民事上の損害賠償請求だけでなく、刑事告訴も可能です。
この記事では、キックバック・リベートが背任罪や詐欺罪に該当するケースや、従業員を刑事告訴するメリットなどについて解説しています。従業員が不正を働いている疑いがある企業の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
違法キックバック・リベートとは
まずは、キックバック(リベート)の意味や違法性について解説します。
キックバック・リベートとは
キックバックとは、取引先に対して支払う報奨金、謝礼金です。一定の売上や取引など、定められた条件を満たした場合に、売り手(メーカーなど)から買い手(代理店、小売店など)に対して支払われます。販売促進などを目的とするものです。
たとえば「当社の商品を期間内に100個販売したら、売上の10%をキックバックする」といった取り決めに沿って支払われます。
商品を消費者に届ける代理店にインセンティブを与えて販売を促進してもらえば、メーカーにとっては売上増加が期待できるでしょう。代理店としても、条件を達成すれば報奨金を受け取れます。双方にとってメリットのある仕組みです。
「リベート」「バックマージン」「割戻し」などと呼ばれる場合もありますが、意味はほとんど変わりません。
キックバックは、事業者間の取引において一般的に行われています。会社間での取り決めに基づいて支払われる場合、通常は違法ではありません。
違法なキックバック・リベートとは
キックバック(リベート)は基本的に合法ですが、違法になる場合もあります。会社に黙って、従業員が個人的に取引先から金銭を受領しているようなケースです。
例としては、発注側と受注側の担当者が共謀して、本来は100万円分であるのに、受注側が120万円として見積書を作成するケースが挙げられます。上乗せされた20万円がキックバックとして担当者の懐に入っていれば、違法になります。発注側の会社は本来支払う必要のない20万円を余計に支払っており、損失を被っているためです。
このように、会社の了承を得ていないキックバックは、背任罪や詐欺罪に該当する可能性があります。
また、販売促進目的の通常のリベートであっても、他の取引先との関係を排除する態様であるなど、独占禁止法に抵触するケースもあります。
従業員が違法キックバックを受けとっていたら刑事告訴できる?
会社間で取り決めていないのに、従業員が取引先から無断でキックバックを受け取っていれば違法です。詐欺罪や背任罪が成立する場合があります。
違法キックバックの事実が明らかになれば、会社は当該従業員に対する懲戒処分はもちろん、民事上の損害賠償請求や刑事告訴も可能です。
以下で、キックバックが詐欺罪や背任罪・特別背任罪にあたるケースについて解説します。犯罪が成立するか、どの罪になるかが微妙なケースもあるので、判断の際には弁護士に相談するとよいでしょう。
詐欺罪にあたるケース
まずは、詐欺罪に該当する可能性があります。詐欺罪は、相手を騙して金銭等を交付させる犯罪です。
たとえば、製造業を営むX社の社員Aが、下請けのY社に対して、本来は1000万円のところ、1100万円で見積もりを出すように要求したケースで考えます。Aの目的は、X社がY社に余計に支払った100万円を、自分にキックバックさせることです。
AとY社が共謀して、Y社がX社に本来より高い1100万円を請求する行為は、詐欺罪における「欺」く行為です(刑法246条1項)。X社が騙されてY社に見積もり通り1100万円を支払えば「財物を交付させた」といえます。結果として、X社には本来支払う必要のなかった100万円分の損害が生じています。
したがって、AはY社と共謀してX社を騙したとして、詐欺罪に問われ得ます。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。会社が刑事告訴をすれば、被害金額によっては初犯でも実刑判決になる可能性があります。
背任罪にあたるケース
キックバック・リベートが背任罪に該当するケースもあります。背任罪は、他人(主に会社)から職務を任された人(従業員)が、任務に背いて会社に損害を与える犯罪です。
背任罪が成立し得る例としては、取引先への発注・入金について判断する権限のある従業員Aがリベートを受け取ったケースが挙げられます。たとえば、取引先が受注を獲得するために、Aにリベートの支払いを持ち掛け、水増しされた請求書を示してきた事例で考えましょう。
発注側の従業員Aの目的は、リベートを受け取るという「自己の利益を図る目的」です(刑法247条)。
また、Aは会社から取引先への発注・入金を任されているため「他人のためにその事務を処理する者」に該当します。水増しされていると知りつつ、実際に請求書通りに入金を行えば「任務に背く行為」をしているといえるでしょう。会社には、余計な支払いをしている分の「財産上の損害」が生じています。
したがって、Aには背任罪が成立すると考えられます。
背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。詐欺罪と同様に、会社が刑事告訴をすれば、被害金額によっては初犯でも実刑判決になる可能性があります。
背任罪の構成要件の詳細は、以下の記事をご覧ください。
参考記事:背任罪・特別背任罪とは?構成要件や横領罪との違いなど、事例付きで解説
懲戒解雇も可能
違法なリベートを受け取った従業員に対しては、社内規定に従って懲戒処分ができます。犯罪行為に該当するケースでは、懲戒解雇をしても妥当だと考えられます。
懲戒解雇ができる事案であっても、就業規則に沿って行わなければなりません。事実調査をして証拠を揃えたうえで、本人に事情聴取をして弁解の機会を与えるようにしてください。手続きを正しく踏んでいないと、効力を争われてしまうおそれがあります。
懲戒解雇のほかに、民事上の損害賠償請求も可能です。刑事告訴とあわせて、必要な措置を検討しましょう。
特別背任罪にあたるケース
背任行為をした人が以下の立場にある場合には、特別背任罪が成立し得ます(会社法960条)。
- 発起人
- 設立時取締役、設立時監査役
- 取締役、会計参与、監査役、執行役など
役員など会社において重大な役割を担っている場合には、背任をした際の責任が重くなります。他の要件は通常の背任罪とほぼ同じです。
特別背任罪の法定刑は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」であり、両方が科される場合もあります。加害者が取締役などであれば、会社に与える悪影響がより大きいです。刑事告訴を含めて特に厳しい対応が必要になるでしょう。
従業員の行為が背任罪にあたるケース
他にも、従業員の行為が背任罪に該当するケースはあります。背任罪が成立する例をご紹介します。
架空取引
実態のない架空取引を作り上げる場合があります。
たとえば、会社から与えられた権限を利用して取引先と架空の契約を締結し、自社が支払った金銭(の一部)を最終的に自分が受け取るケースです。水増し請求の事例と比べても、取引の存在すらない点で悪質といえます。
架空取引の中でも特に問題になりやすいのが「循環取引」と呼ばれる類型です。循環取引では商品が「A社→B社→C社→A社」のように循環し、最初の売主が最後の買主となります。売上の水増しなどが目的です。
たしかに売上は計上されるものの、それぞれが利益を上乗せして取引を行えば、最終的にA社には損失が生じます。会計上の不正であるのはもちろん、自社に損失を生じさせれば背任罪に問われる可能性があります。
勝手に値引きする
自社の商品を勝手に値引きする行為も背任罪に該当し得ます。
たとえば、従業員が親族の経営する会社に便宜を図るために、自社の商品を値引きして販売するケースです。勝手に値引きをすれば、会社が本来得られるはずであった利益を得られなくなってしまい、損失が生じます。第三者の利益を図るために、会社の任務に背いて損害を与えているため、背任罪が成立する可能性があります。
もっとも、自社の利益を図る目的であれば背任罪にはなりません。従業員が会社のためによかれと思って値引きを行っているケースもあるため、背任罪が成立するかには慎重な検討が必要です。
従業員を背任罪で刑事告訴するメリット
会社に隠れてキックバック・リベートを受領しているなど、従業員の行為が背任罪に該当する場合には、懲戒処分や民事上の損害賠償請求のほかに、刑事告訴が可能です。
刑事告訴をすれば、従業員に刑罰を科す道が開かれます。背任罪は、被害者である会社が犯罪事実を申告しなければ、警察や検察には判明しづらい犯罪です。被害額が大きいケースや加害者が役員で特別背任罪が成立するケースなど、刑事上の処分を求めたい場合には刑事告訴をしましょう。
刑罰を科せるだけでなく、告訴の事実を知った加害者が処罰されるのをおそれ、被害額の返還に積極的になるケースも多いです。
告訴をした場合、とりわけ被害金額が数百万円に上るケースだと、初犯であっても執行猶予がつかず、実刑の判決(刑務所に収監されること)となる可能性が高いです。加害者が、刑務所行きを免れるためには、被害者にお金を返還し示談をする他ありません。したがって、刑事告訴を行うと、加害者には、告訴をした時点で、刑務所に行くか、お金を返すかの二択を迫れることになります。
以上のような理由で、刑事告訴を行うと、加害者が刑罰を避けるために加害者がお金を返してくれるケースが多くあります。告訴をきっかけとして返還に応じてくれれば、訴訟等を起こす手間もがかかりません。
告訴には、刑事処分を求めるだけでなく、金銭的な解決につながるという大きなメリットがあるのです。被害額が大きくても、親族に借りるなどして金銭を工面する場合があります。刑事告訴の副次的効果として、被害を回復できる可能性が高まるといえます。
一般的には、告訴の主なメリットは以上の2点です。加えて、従業員による背任の場合には、以下の点が告訴するメリットとして挙げられます。
コンプライアンスを強化できる
従業員の不正行為に対して刑事告訴をすれば、コンプライアンスの強化につながります。
刑事告訴は、刑罰に結びつく可能性のある強力な方法です。実際に告訴があれば、他の従業員による同様の行為を抑止する効果が見込めます。キックバックの受領への認識が甘かった従業員の意識は変化するでしょう。
もちろん、研修などを通じてコンプライアンスを徹底するのも重要です。社内の例を反面教師にできれば、より効果的といえるでしょう。
背任防止の姿勢を社内外にアピールできる
告訴によって、社内だけでなく、社外にも不正防止の姿勢を示せます。
たしかに、社内で穏便に済ませて、世間に発覚しないようにする方法もあるでしょう。しかし、再発のリスクを上げるだけでなく、外部にリークされて結局明るみになる可能性もあります。厳しい措置をとらないと、結果的に「不正に甘い会社である」と社内外に認識されてしまうおそれがあるのです。
告訴により事実が知れ渡り会社のイメージが下がるリスクはありますが、積極的に再発防止の姿勢をアピールすれば、ダメージを最小限に抑えられます。後手後手に回っている印象を与えるよりは、はじめから刑事告訴をして捜査に協力し、背任行為を許さない姿勢を示す方が得策でしょう。
まとめ
ここまで、従業員がキックバック・リベートを受け取っていた場合に成立する犯罪や、刑事告訴するメリットなどについて解説してきました。
社員が会社に黙ってキックバック・リベートを受領していれば、詐欺罪、背任罪・特別背任罪などが成立する可能性があります。再発防止のためにも、刑事告訴も含めて厳しい措置を検討しましょう。
従業員が違法にキックバック・リベートを受領していた場合には、リード法律事務所までご相談ください。
背任罪の立証は難しく、告訴を警察に受理してもらえないケースが多いです。当事務所では、刑事事件の被害者の方々から依頼を受け、数多くの告訴を受理させてまいりました。犯罪が成立しそうか検討したうえで、証拠収集から告訴状の作成、警察とのやりとりまで、告訴に関して徹底的にサポートいたします。
従業員の背任行為を告訴すべきか悩んでいる、警察に取り合ってもらえず困っているといった方は、まずはお気軽にお問い合わせください。